10 いいんかい

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:44
10 いいんかい
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:45
『℃-uteのみんなを委員会でたとえると、何委員になりますか』

 よくあるタイプの質問メールに、ええ、なんだろなんだろ、と全員がざわめいた。

 ハロープロジェクトのラジオ番組の収録前だった。
 普段は、リーダーの矢島舞美と梅田えりかの(年令だけは)お姉さんコンビで
 まわしている番組に、今日は、℃-ute全員が出演する。
 コンサートツアー終了を記念した、スペシャル企画なのだ。

 ラジオブースには、総勢7人のメンバーがぎゅうぎゅう詰め。
 息苦しさはスペースの問題というより、女の子たちのかしましさのせいだろう。
 番組の打ち合わせが休憩となり、気をつかったのか逃げたのかは定かでないが、
 プロデューサーが席をはずした合間のおしゃべりの最中だった。

 テーブルに置きっぱなしになっていた進行表に載っていた、最初の質問メールを
 読み上げたのは、有原栞菜だった。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:45
「℃-uteのみんなを委員会でたとえると、何委員になりますか」
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:45
「前にどっかのラジオでもさ、この質問、あったよね」

 舞美がいうと、あったあったと口々にみんなが話しだす。

「あのあれ、公開録音」
「この番組だったよね?」
「ほんとだ、質問カブってるじゃん」
「あ、でもでも。あれは、たとえるとかじゃなくって、みんなは学校で何係を
 していますか、じゃなかったっけ」
「そうだっけ?」
「そうそうそう。で、委員会も出てきてさ」
「じゃあちがうね。これは、実際してるかじゃなくて、おたがいが何委員の
 イメージですか、っていう質問だもん」

 とんとん、とテーブルの用紙をたたいて、中島早貴は舌っ足らずながら、
 しっかりと指摘した。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:46
 ははあ、とメンバーは考えこんだ。
 すぐに、岡井千聖がにやにやと口を開いた。

「ちさと、ひとりもう思いついたんだけど」
「体育委員でしょ」
「それたぶん全員おんなじだから」
「えー誰々だれぇ? とか言って」

 とぼけた本人の顔を全員が指さした。

「舞美」「舞美ちゃん」

 揃った声にみんなが笑い、当の舞美もまんざらではなさそうだ。
 自他ともに認める運動神経の持ち主で、ハロプロ屈指のアスリート。

「舞美ちゃんはもうこれ決定だね」
「ていうか、あんま勝手にここでしゃべっちゃって大丈夫?
 収録んとき、みんな言うことなくなっちゃうよ」
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:46
 いさめる舞美を無視して、えりかがはしゃぐ。

「ねね、最近『脳みそ筋肉』ってテレビでやってたんだけど、舞美のことだよね?
 あたし絶対、舞美のことだと思った。ていうか舞美のための言葉だと思った。
 舞美のために誰かが考えてくれたのかと思った」

「え、意味わかんない。脳みそが筋肉?」
「ていうか、脳みそって何でできてるの?」

 千聖と最年少の萩原舞のコンビが首をかしげた。
 それまでおとなしく聞いていてた鈴木愛理が口を挟む。

「脳みそはあれなんじゃないの、やっぱ。味噌だよ」
「キモいんですけどー」
「だって脳『みそ』でしょ? きっと味噌っぽいんだよ」

「ちがう愛理。あのね、お母さんに教えてもらったの。
 体鍛えすぎて、脳みそが筋肉でできてるくらい熱いっていうか、こう熱血!
 みたいな、体育会系! 筋肉バカ! みたいな人のことなんだって。
 だから、舞美」
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:47
 舞美がみんなの顔を見わたした。

「ちょと待って。ヒドくない? この人ヒドくない?」
「ひどーい」
「えー、でもあってない?」
「舞美ちゃん『石油係』にゆわれたくないよねー」

 という栞菜の言葉に、みんながどっとうけた。
 だいぶ以前のラジオでの『みんなは学校で何係をしていますか』という質問に、
『代表委員』『図書委員』『保険委員』など、それなりの委員をあげたメンバー
 たちの中でただひとり。
 梅田えりかの『石油係』と『やかん係』は、いまだにメンバーの語りぐさだった。
 ちなみに『石油係』は教室のストーブに足す石油を管理する係、『やかん係』は
 給食のお茶を管理する係なんだとか。

「あ、今は春だから。ストーブついてないから『やかん係』なんじゃない?」

と、舞美がまぜっかえすとえりかは首を振る。

「ううん。高校はいったから、今はちがくて――」
「委員ってほかなにあったっけ。体育、美化、図書、保健、代表……」
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:47
 えりかの言葉を聞いていない舞が、係をあげながら指をおる。
 早貴もそこに加わった。

「文化祭とかの実行委員もあるよね。あ、これちさと。お祭り好きだし」
「愛理はあれだね。音楽委員」

 スルーされたことをものともせず、えりかが口を挟む。

「え、高校生ってそんな委員あるの?」
「ないけど。あったら愛理かなって」
「それ意味ないじゃーん」
「あと何あった?」
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:49
「風紀委員」


□    □    □   


ぽつりとつぶやいて、早貴は、すぐにしまったと思った。

なのに。

「あー、風紀委員か、誰だろ」
「あんまそんな厳しいイメージの人、いないもんね」
「風紀委員って厳しい?」
「ウチのがっこの風紀委員、超うっさいよ」

 みなは、ごくごく普通に、会話を進めてゆく。

 あれ、と早貴は思った。みんなはそういうイメージでもないのかなって。
 それとももう、忘れちゃってる? そんなわけない。

 早貴は何かを話す感じではもうなくなってしまって、あいまいに笑いながら
 うなずいていた。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:49
 ――風紀委員。

 口にした自分の言葉。

 ――風紀委員ってさ、あのこっぽいよね。

 口にできない言葉。

 だけど、思ったのは自分だけみたい。
 だったら、口から外にださなければいい。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:49
 早貴はぼんやりとみんなを見ていた。
 さっきまでその渦中にいたのに、急にその場から自分がちがうところに
 置かれたみたいな気がする。同じ場所なのに、自分だけ白黒みたい。

 飲みこむことにはまだ慣れない。ちょっと気持ち悪い。
 でも、なんとか平気。平気じゃないと、やってけないし。

「トイレ行ってくる」

 つぶやいて、早貴は立ち上がった。行ってらっしゃーい、と手を振るメンバー。
 舞が立ち上がった。

「マイも行く」
「ん、いこ」

 ひとりで行きたい気もしたけど、早貴は舞の手を引いた。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:50
 二人で廊下を歩く。
 なんだかうまく話しだせない。
 早貴が黙っていると、舞が早貴の手をひょいひょい、と引いた。

「何?」
「あのね、マイ、風紀委員はメグだと思うんだけど」

 舞はにこおっと笑った。

 早貴は一瞬ぽかんとしたあと。
 舞の手を強くにぎった。

「早貴もそう思った、実は。絶対風紀委員っぽいよね。メグ」

 久しぶりに口からだした名前は、出してみると意外なくらいすんなりと
 響いた。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:50
「ほんと? やった」
「風紀委員なのに風紀乱しちゃって、みたいな」
「ふえ?」
「あ、なんでもないなんでもない。メグ、昔はときどき怖かったもんね」
「怖くないよ。メグやさしかったよ」
「ええ。じゃ、なんで風紀委員」
「スーツすごい似合うから」
「なにその理由」

 話しながら、早貴は自分の心がだんだん軽くなっていくのを感じていた。

 気持ち悪さに慣れはしても、飲みこむことは好きじゃない。
 吐きだす方が、ずっといいんだ。

 今度もし、ほかの誰かが言いたい言葉を飲みこもうとしていたら、それに
 気づいてあげられたら。
 見えないところでそっと、その言葉を受け止めてあげたい、そう思った。

 舞がしてくれたように。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:51
「ねえ、お腹へったね」

 早貴の考えを知ってか知らずか、舞はぐいーんと手をあげると、にっこり
 笑って歯を見せた。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:51
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:51
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 23:52

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