07 アスファルトに裸足で
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 21:13
- 07 アスファルトに裸足で
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 21:16
- 四番手の梅田が小さな川の真ん中あたりに来た時、少し大きめの石に躓いて、
片方のサンダルがポロッと脱げてしまった。
「あぁ〜!」
三番手だった矢島が後ろを振り向くと、川の流れにのって遠ざかるビーチサンダル、
それを指差して叫んでいる梅田の姿があった。
矢島はとっさにサンダルを拾おうと体を捻ったが、そこから一歩踏み出すと
思っていた以上に川底が深く、水の流れも速い。膝の辺りまで水に浸かったまま、
動けなくなってしまった。
「あああああサンダルがああああ舞美行かないでって死んじゃうってえええええ」
「死なないって大丈夫だって! ああでもサンダルー」
とっくに川を渡りきっていた岡井と萩原が、向こう岸で腹を抱えて爆笑している。
「ちょいと邪魔ですよ、お二人さん」
「はいはいもう無理だから行くケロ〜」
五、六番手だった鈴木と中島は、『かえるのうた』を輪唱しながら矢島と梅田を
追い越していった。
最後の七番手、有原だけはまだ川を渡る前で岸にいて、なぜかしゃがみこんで小石を
見ている、と対岸にいる萩原は不思議に思ったが、実は肩を震わせて笑いを堪えて
いるのだ、と岡井は気付いていた。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 21:17
- 「そこの二人ー! さっさと渡んなよー」
岸に着いた中島が、まだ川の真ん中で呆然としている年長二人に声をかける。
サンダルはもうずいぶんと下流に流されて、姿が見えなくなっていた。
「ちょっとちょっとどうしようどうしよう!?」
「……もういっそそっちも流しちゃったら」
矢島は深く考えずにそう呟いたが、梅田は気が動転していて、言われた通りに
もう片方の足をひょいと放ってしまった。サンダルはあっさり水面へ飛んでいった。
矢島の耳に、両岸から悲喜こもごもの叫びが聞こえた。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 21:18
- 有原が笑いを治めて川を渡ってくるのに数分かかった。
その間に年長二人は対岸へたどり着き、そこでとんでもない過ちを犯したことに
気付いた梅田が矢島にさんざん文句をたれていたが、鈴木があくびをかみ殺しながら、
おぶってもらえば、と助け舟を出したことで、この事件は収束へと向かった。
ロケバスに戻れば、なんとかなるだろう。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 21:19
- バスへの帰り道、矢島と、彼女に背負われた梅田は最後尾を歩いていて、
残りの五人は遊歩道一杯横一列に広がり、お喋りをしながらのろのろと進んでいる。
岡井はその左端を歩いていたが、隣の誰かに突然腕を掴まれた。
振り返ると、萩原がじっとこちらを見詰めている。
「……なに見てんだよ」
「疲れた」
列の中央を歩いていた鈴木と中島は、先ほどの梅田と矢島のやり取りをどこかで
見たことがあると言い合い、たどり着いたのが『ロミオとジュリエット』だった。
鈴木は苦しそうな顔で腕を前に伸ばし、野太い声で叫ぶ。
「ジュリエーッ、ジュ〜リ〜エーッ!!」
中島がそれにのった。
「ロメオォォォーッ」
二人だけのミュージカルの観客は誰も居ない。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 21:21
- 「なんとかならなかったら舞美のサンダル借りるから」
「はいはい、いいよ」
「いいのほんとに? 舞美裸足になっちゃうんだよ?」
「楽しそうじゃん裸足」
「えーうそマジで? なんかそれはそれで悔しいんですけど」
「楽しいと思うよー」
メンバーの中でひときわ大きな有原の耳に、矢島の言葉が届いた。
有原は少し考えてから、立ち止まってサンダルを脱ぎ、アスファルトの遊歩道を
数歩歩いてみる。
最初は熱く感じたが、アスファルトの地面は硬いようで柔らかいようで、
やっぱり硬い。
新鮮で奇妙な感覚だった。
「なにしてんの?」
中島が気付いて声をかけると、有原は
「……結構楽しいかも」
と言って顔をほころばせた。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 21:22
- 森林公園の広場で待機していた撮影スタッフが、腕時計で時間を確認する。
三十分の自由時間も、そろそろ終わりに近づいていた。
先ほど℃-uteのメンバーが消えていった、森の奥へと続く遊歩道へ目を向けると、
タイミングよく彼女達がこちらへ歩いてくるところだった。
が、少し様子がおかしい。
梅田が矢島に、萩原が岡井に背負われていた。
怪我でもしたのかと背筋に冷たいものが走ったが、近づいてくるにつれ表情も
わかるようになると、どうやらそうではないらしい。
笑い声も聞こえるし、とても楽しそうだ。
一行は、さながら疎開児童か一家七人大家族のようにぞろぞろとこちらへ向かってくる。
なぜか矢島以外全員、裸足で歩いていて、両手にサンダルをぶらさげていた。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 21:23
- おわり
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 21:23
- ケ
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/07(月) 21:23
- ロ
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