02 戦場のキッズたち

1 名前:02 戦場のキッズたち 投稿日:2007/04/29(日) 00:27
02 戦場のキッズたち
2 名前:02 戦場のキッズたち 投稿日:2007/04/29(日) 00:28
もう何時間、このジャングルの中で身を潜めているのだろう。
恐怖はなかった。けれど、早く殺してほしいとも思わなかった。
空を見上げようとすれば深い闇と葉の陰に遮られ、何も見えやしない。
3 名前:02 戦場のキッズたち 投稿日:2007/04/29(日) 00:29
血で血を洗う争い、とはきっとこういう状態のことを言うのだろうと思った。
いったい何人の仲間たちが死んでいったのか。数えるのも億劫だった。
こんなバカらしいことする必要なんてないよと言ってくれたちなこも、泣き
じゃくってみんなを困らせていたりーも、一緒にこの島を出ようねと誓った
みやも、りーをずっと慰めてたまぁもくまいちょーももういない。
そして私の手。共にキッズと呼ばれた仲間たちを手にかけてきたのは否定で
きない事実であり、その手は真っ赤に染まっていた。

殺らなければ、殺られる。
合言葉にも似た強迫観念は、極限状態に追い込まれた私にとって唯一の免罪
符だった。泣き叫ぶ子にも命乞いをする子にも捨て身で向かってくる子にも
例外なく鉛の弾をぶち込んでいった。許してくれなんて思ってもいない。
ただ相手が体液や臓器を撒き散らして倒れた後は、底知れない空しさが身を
襲った。
4 名前:02 戦場のキッズたち 投稿日:2007/04/29(日) 00:30
つんくさんが私たちを南海の孤島に連れて行ったのは先週のこと。マスコミ
には極秘裏に進められた計画の内容を聞かされた私たちは驚愕する。

「ここでお前らには殺しあってもらうで」

まるで昔流行った映画のよう。
でも、つんくさんが黒いスーツのおじさんたちに頼んで持ってきた銃器類の
入った鞄はその言葉にリアリティを与えていた。何でですか、何のためにこ
んなことしなきゃいけないんですか。与えられたキャプテンという立場から
か、佐紀ちゃんがそんなことを言いながら真っ赤な血と脳漿を砂浜にばら撒
いた。

「俺なあ、もうポッシボーやらギャルルのプロデュースで忙しいねん」

まるで要らなくなったおもちゃを見るような目つきに、誰もが返す言葉を失
う。ベリーズ工房とキュートに分かれて殺しあうことは既に決定事項なのだ、
誰もがそう思わざるを得なかった。

「どっちか生き残ったグループがおったら、またプロデュースしたるわ」

彼が最後に残した言葉よりも、彼が身につけていた安物の香水の匂いに吐き
気がした。
5 名前:02 戦場のキッズたち 投稿日:2007/04/29(日) 00:31
東京ではまだ春が来たことさえ実感できないのに、私たちが置き去りにされ
た離れ小島には強烈な夏が居座っていた。必要最低限分以下の水と食料、そ
れに熱帯の過酷な気候・・・平和ボケした典型的な日本の子供だった私たちを、
一夜にして血に飢えた殺人者に豹変させるには十分な要素だった。
それからはもう、ドミノが倒れるように悲劇的なことしか起こらなかった。
ベリーズとキュート、お互いがお互いを殺し合い、ついには私と舞美ちゃん
を除いて全員が涅槃へと旅立っていった。

がさ、がさ。
熱帯植物の葉が擦れる音。
私は手元にあったウヅィサブマシンガンを構え音のしたほうに連射する。
手ごたえはまったくなく、代わりに枯れた細い声が聞こえてくる。
6 名前:02 戦場のキッズたち 投稿日:2007/04/29(日) 00:32
「桃子ちゃん」

「なに? 命乞いなら無駄だよ」

「明日の朝、みんながつんくさんに集められた砂浜で決着をつけよう」

決着。その言葉の意味するところはどちらかの死。
けれど私たちにとって死など大した意味など持ち得るはずもなく。

「いいね。そうしよっか」

「じゃ、明日の日の出に。あの砂場で」

「わかった」

それっきり、何も聞こえてこなかった。
これで最後。私が死のうが、舞美ちゃんが死のうが。
まるでつまらない映画を延々と見させられた果てのエンドロールを見て
いるかのような気分だった。
7 名前:02 戦場のキッズたち 投稿日:2007/04/29(日) 00:33
周りの闇が薄れ始めた頃、ゆっくりと目的の砂浜まで、歩いてゆく。
食料らしい食料はここ数日まったく口にしていないはずなのに、足取りは
軽かった。
果たして、ジャングルが途切れて見晴らしが良くなった視界の先に、舞美
ちゃんは立っていた。まるで見えない糸で持ち上げられたように、彼女の
右手がすうっと上がる。手には、彼女の小さな手には似つかわしくないサ
バイバルナイフが握られている。私はウヅィを構え、彼女が射程圏に入る
場所まで、歩く。徐々にそのスピードを、速めながら。
刹那、舞美が走り出した。照準を合わせ、目の前の標的を蜂の巣にすべく
引き金に手をあけた。でもそれより早く、舞美ちゃんが懐から取り出した
何かが投げられ、私の視界を塞ぐ。

腐った、果実?!

極限にまで熟れたそれは刺激臭と腐った汁で目の機能を奪う。やけくそ気
味にウズィを連射するも銃弾は空しく砂に埋もれていった。そして。
息も、できなかった。腎臓を深く抉られたようだけどそんなことはもはや
あまり意味がないことだった。銃口をぴったりと寄り添ったそれにあてが
うと、残りの銃弾全てを彼女にめり込ませた。水分を含んだ何かが砂浜に
倒れる音がする。私か舞美の、または両方の、音。
全てが、終わった。
8 名前:02 戦場のキッズたち 投稿日:2007/04/29(日) 00:33
「おめでとう、イェイ!」

場に相応しくない、間の抜けた声がする。
誰がそこにいたのか、確かめるまでもない。

「嗣永、さすがやなあ。ほんなら、勝者はベリーズに決定・・・てかお前も死
にかけやん。こらドローやな」

最初からそれを想定していたかのような、笑い声。
けれども、どっちが勝つかなんて、興味もなければこだわりもなかった。
ただ、みんなでこの南の島から帰りたかっただけなのに。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

喉の奥から声を絞り上げながら、つんくさんのいるであろう場所に向かって
ゆく。彼の位置は、安物の香水が教えてくれる。そして。
私は懐から中国製の木柄式手榴弾を取り出す。こんなものは、一瞬にして生
きた証を消し飛ばすようなものは、仲間には使いたくなかったから。

「ちょ、おま、やめんかい!!!!!!!」

「がんばっていきまーーーーーっしょい!!!!!!!!!!」

閃光と凄まじい爆裂音が、体を包み込む。
私は自分が消滅する感触を感じながら、朝焼けの中、無になっていった。
9 名前:02 戦場のキッズたち 投稿日:2007/04/29(日) 00:34
終わり
10 名前:02 戦場のキッズたち 投稿日:2007/04/29(日) 00:35
11 名前:02 戦場のキッズたち 投稿日:2007/04/29(日) 00:35

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