01 通学鞄

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:40
01 通学鞄
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:40
「愛理も中学生なんだねーどうりでうちも歳をとった」
「だね」
「まだふたりとも高校生じゃん」

雑誌の撮影に向かうマネージャーの車の中で、愛理の新品の通学鞄がでん、と場所をとっている。
舞美とえりかの鞄はすでに潰してあって、スマートだ。それを見て、愛理が言う。

「いいなあ、私もそういう風にしようかな」
「手伝ってあげようか?」

愛理が呟くと、舞美が提案した。

「いいの?」
「もちろん」
「私も手伝うー」

わいわいと雑談を交わしていると、スタジオに車が到着して、三人は地上に降り立った。
愛理の鞄の中の教科書がガタゴトと音をたてる。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:41
4月中旬のからりと晴れた日だった。
日が長くなって放課後でも眩しい太陽に愛理が目を細める。
連休合わせのツアーがあるために4月はその準備で多忙だった。

「道具を準備しなきゃね」
「そうなの?」

舞美主導で計画が進んでいく。
身振り手振りを交えて話しながらスタジオの廊下を歩いた。

「愛理の家に行っていい? それが手っ取り早いや」
「そうだね」
「いいよー」

梅田さんお願いしまーす、とスタッフの声がしてえりかが撮影にはいる。

「舞美ちゃん、舞美ちゃん、どうせなら泊まりなよ」
「いいの?」
「うん。どうせ忙しくて家と学校と仕事の行ったりきたりでしょ?」
「そうだね」

舞美は頷いて了承した。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:41
舞美が撮影にはいり、えりかにも泊まらないか、と提案した。

「泊まるって、私と舞美が愛理んちに?」
「どう?」
「うん、いいけど……」

ちらりと撮影現場を見遣ってから、えりかも頷いた。
久々にメンバーが泊まりに来ることになって、愛理の心も今日の空のように晴れ渡った。
いつも多忙な両親。弟はいて、仲はいいがやはり同性とは違うものがある。
だから、二人の来訪を愛理は喜んだ。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:41
■ □

「やっぱり、私……舞美のことが好きだよ」
「ごめん……」

えりかの舞美への何度目かの告白。
愛理がいない控え室で、舞美は廊下に逃げ出した。
残された鞄を見て、ぽつねんとえりかが呟く。

「やっぱりだめか……」

でも、気持ちを伝えても舞美はえりかを避けたりはしなかった。
それだけは、救いだった。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:42

7 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:42
「わあ、すごーい」
「ざっとこんなもんだよ」

数日後の夕方、鈴木家。
愛理の通学鞄の厚さを見事に半分ほどにして、愛理、舞美、えりかははしゃいでいた。

「ありがとう」

愛理が礼を言うと、二人は微笑んだ。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:42
食事とお風呂を終え、パジャマに着替えて愛理の部屋でくつろぐ。

「カッパの着ぐるみまだ着てるんだね」
「いいじゃんかー」
「でもかわいいよ」

舞美がカッパの着ぐるみの帽子部分を愛理に被せる。
もーやめてよーと言いながら愛理は笑顔だ。

「舞美が一番かわいいよ」

舞美にのしかかりながら、えりかが言った。

「はいはい」

舞美はさらりと受け流す。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:43
「もう夜なのでぇ、消灯しまーす」
「了解ー」
「はいよ」

みっつ並べて敷かれた布団に寝転ぶ。
真ん中に舞美で、両端に残りの二人が掛け布団にもぐった。

連日の撮影やレッスンで疲れたのか、三人ともすぐに寝息を立てる。
小さな電灯だけが点いた室内で、すうすうと安らかだ。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:43
■ □

えり、ごめんね。
なんでだめかっていうと、うちは、愛理が好きだから。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:43

12 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:43
「……愛理」
「うん?」

舞美が愛理を揺すって起こす。
寝ぼけ眼をこすりながら愛理が半身を起こそうとするのを、舞美が制した。

「寝たままでいいからさ……ちょっと話聞いてくれる?」
「いいけど、なに?」
「うち……私の好きな人って誰か知ってる?」
「知らない。いるの?」
「うん」

口が渇くのを感じて、舞美は枕もとに用意してあった水を飲む。

「雑誌の質問でも、男の子だったら好きになってたメンバーっていうので答えた」
「え、メンバー?」
「そう、メンバー」

愛理はきょとんとする。

「クラスの男子とかじゃなくて……メンバーなの?」
「うん」
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:44
「待って、よくわかんない。だって」
「女の子でも好きなの」
「……そっか」

愛理はわりあいすぐに受け入れた。
でもその後の言葉は。

「私は、愛理が」「待って」
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:44
「それ以上は言っちゃダメ」

愛理が眉を下げて言う。
舞美は勢い込んで言おうとしていたところを止められて、戸惑った。

「言うだけ言わせてよ」
「ダメだよ……」

愛理が目元を擦った。

「え、泣いてる?」
「泣いてないよ」
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:44
「私だって、舞美ちゃんのこと。だけど、ダメじゃん、そんなの」
「だめじゃない。愛理は私のことどう思ってくれてるの?」
「言わない」
「でも……わかっちゃったよ」

沈黙が室内に広がり、なにも知らないえりかの寝息だけが聞こえる。

「好きになっちゃいけない人なんだよ、お互い」
「そんなの納得いかないよ」

しょうがないと言わんばかりの愛理に舞美が言う。

「じゃあ、仕方ないなぁ」

愛理がもぞもぞと動いて舞美の布団に移った。

「ぎゅー。はい、これで我慢して」
「えぇー」
「十分譲歩しました」
「なんで中学生なのにそんな難しい言葉知ってるかなあ」

一度、ぎゅっと抱きしめた後、ころころと転がって、愛理は自分の布団に戻った。

「おやすみ、舞美ちゃん」
「……おやすみ、愛理」

潰れた通学鞄。
それと同じように、舞美の心臓はぎゅうっと潰れたような気がした。
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:44
E
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:45
N
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/28(土) 22:45
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