笑えねぇよ!

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:03

笑えねぇよ!

2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:05
人がせっかく心地良く寝ていたのに甲高い電子音に睡眠を妨害された。
「・・・・・ん?もう・・行く時間?」
ベッドから上半身を起こすと大きく伸びをしてから未だに鳴り響いている目覚まし時計を止める。
頭を掻きながら時間を見ると今は夕方の4時で横になったのが確かお昼を少し過ぎてからだったから
ちょっと寝過ぎたなと思い少し後悔した。
私は寝て時間を潰すというのがあまり好きじゃなかった、でも今日は何だか眠気を抑えられなくて
つい軽く仮眠を取るつもりが思い切り眠ってしまったらしい。
途中で起きるつもりだったけれど一応寝てもいいように目覚ましをセットしておいたのは正解だった。
私は大きく体を上に伸ばしてから肩を何回か回すと今日8時からある番組収録の用意をするために立ち上がる。


そして欠伸を噛み殺してからまだ少し寝惚けた頭でクローゼットから適当に取った服を着る。
それから仕事用のバックを手に取って机に置いてある携帯をその中に入れようとしたけれど、
ふと思うことがあって携帯の側面にあるボタンを押す。
すると表の大画面の部分がスライドして滑るように上に上がる。
この携帯は開閉がスライド式になっていてまるで何とか戦隊が変身に使う機械みたい
だから結構気に入っていた。
私は手馴れた作業なので自分でも惚れ惚れするくらいの手早さでメールを打ち終えると
携帯を夕暮れの空に向けて送信ボタンを押した。


でも送ったメールはすぐに自分のところへ戻ってきた。
相手が使用範囲外にいるから届かずに戻ってくるらしい、私は分かっていたことなので
別に驚くこともなくただ日が傾いた蜜柑色の空を見つめていた。
「・・・・やっぱ遠いよなぁ、海外ってのは。」
そして軽く溜め息を吐き出すと誰に言うわけでも独り言を呟いてから携帯を閉じて
バッグにしまった。

3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:08
居間に行くと母親はいつものように軽食を作ってくれていた、そして私の姿に気がつくと
作業しながら顔だけこちらに向けて声を掛ける。
「ひとみ、おはよう。」
「うん・・・・・おはよ」
軽く朝の挨拶をしてからいつも父さんが座っている場所に腰を下ろし
既に置いてあるお新香を手で掴んで口に入れる。
それからつけてあったテレビを見ると飛行機事故が起きたらしく特別番組が組まれていた。


「何かあったの?」
と母親に訪ねようと後ろを向くとちょうどおにぎりを持ってこちらに来ていた。


「見れば分かるでしょ、飛行機事故だよ。」
「ふーん・・・・ねぇ、この飛行機ってさっき落ちたの?」
「みたいだねぇ。4時にテレビつけたときは最新情報みたいなこと言ったし、
でも時間が少し遅いせいかそんなに乗客はいなかったみたいだよ。」
母親は私の真向かいに座って状況を説明してくれた、私はそれを適当に聞きながら
手でお新香を摘んでいた。


「あまり死んだ人がいないなら良かったじゃん。」
「良いわけないでしょ!あんた人が死んでるんだよ!」
「じゃ、ご愁傷様でした。」
母親に怒られてさすがに自分でも言葉が過ぎたなと思い手を合わせて謝った。
でも正直この飛行機事故ことなんてどうでもよかった、そう思っているからあんな軽い言葉が
口から出たんだと思う。
知らない人が死んだっていうのはいまいち現実味がないし心に何も響くものがない。
冷たい人間だって言われればそうなのかもしれない、でもテレビでやってる事故は
いつだって私には他人事だった。
おにぎりを食べながら飽きてきたので違う番組に変えたけど当然のように
どれもこの久しぶりに日本で起きた飛行機事故のことばかりだった。
ただ唯一我らがテレビ東京だけが全く番組変更せず相変わらずアニメを放映していた。


実家からだとテレビ局まで少し時間がかかるのでお腹も満たしたし早めに出ようと思い
ゆっくりと腰を上げる。
そして玄関に向かうと母親も一緒になって見送るためについてきた、
私は靴を履き終えるとゆっくりと後ろに振り返る。
「じゃ、行くわ。」
「気をつけてね。今日帰り遅くなるの?」
「うん、多分何だかかんだで10時は回っちゃうかもしんない。」
「じゃ晩御飯どうする?」
「用意しても・・・・・あぁ、いいや。もしかしたら帰るのが面倒くさくなって
誰かの家に泊まるかもしんないし。もしいるようなら早めに電話するよ。」
「はい分かりました、それじゃ行ってらっしゃい。」
「へい。吉澤ひとみがんばりまーす」
と最後に片手を軽く上げてやる気なさそうに宣言すると私は家を後にした。



4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:09
それから駅前でタクシーを拾ってテレビ局の前に着いたのが6時を少し過ぎた頃だった。
いつもより道が込んでいたから遅れるかもと思ったけど予想していた通りの時間に着けたので、
局に着いて腕時計を見たとき思わず安堵の溜め息を漏らしてしまった。
リハが大体七時くらいから始まるとしても一時間くらいあれば十分準備できる。
それから警備員の人に軽く挨拶して中に入るともう数え切れないほど出ている番組なので
いつもの用意されているお馴染みの楽屋に向かう。




「おはよっス」
軽い挨拶と共に楽屋に一歩足を踏み入れた途端空気が張り詰めているような気がした。
それは直感的なもので特に何の根拠もなくただ漠然とそう思っただけだった。


でもドアを閉めて辺りをちゃんと見回すと自分の勘が正しかったことが分かった。
いつもおしゃべりして騒がしいはずの6期や小春は黙り込んでるし、高橋は普段から大人しいほうだけど
今日は化粧台の前に座って寝ているように頭を伏せている。
ガキさんは部屋の端にあるソファーに座り膝の上に両手を組んで項垂れたま全く動かない。
私はその異様な雰囲気に飲まれたのか自然と生唾を飲み込んで喉を鳴らした。
それからどれぐらい立ちつくしていたのか分からない、でも呆然とした様子に痺れを切らしたのか
座りもせず壁に寄り掛かっていたミキティーがこちらに向かってきた。



5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:12
「・・・・よっちゃん。」
いつも子どもみたいにはしゃいで無邪気に私に抱きついてくるのに今日は少し低い声で
顔もいつになく真面目だった。
一瞬もしかしてドッキリかと疑ったけどさすがに本番前にはしないだろうと思いすぐに考え直した。
でも番組収録自体が仕込みだとしたらその可能性もあるけどこの雰囲気は到底演技だとは思えなかった。


私は本当にどうしていいか分からなくて頬を掻きながら素直に今の心境を伝える。
「なんかあったの?マジで全然状況が飲み込めないんだけどさ。」
そう言うとミキティーは珍しく言葉に詰まって少しの間顔を俯いて黙り込んでいた。
いつもあまり物怖じせず誰にでも言いたい放題なのに今日はどうしたのかと思っていると
少し戸惑った様子で口を開いた。


「・・・・マコトが死んだ。」
その言葉は少し震えていたけれどやや釣り上がり気味の瞳は全く揺らいでなくて
ただ真っ直ぐ私を見つめている。


「ウソ・・・だろ?ちょ、ちょっと何言ってんだよミキティー。」
あまりに唐突に告げられたその言葉が理解できなくて肩を軽く小突いてから
わざと茶化すように言った。
これでミキティーが吹き出して笑ってくれることを願った。


「・・・・マジでウソだと思う?っうかさぁ、そんなタチの悪いこと言えるわけないじゃん!」
でも願いは叶わずミキティーは強く奥歯を噛み締めると珍しく私に食って掛かってきた。
冗談じゃないくらい分かっていた、ミキティーの目は真っ赤で目蓋が少し腫れているのを見れば
そんなの分かりきったことだった。
それでも私は茶化さずにはいられなかった。



6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:13
「ごめん、ちょっとふざけすぎた。っうかなんで・・・その・・・・麻琴は・。」
私は死んだという単語を出すのに躊躇い他の言葉を探そうとしたけれど見つからなかった。
でも言おうとしたことは伝わったらしくミキティーが教えてくれる。
「飛行機事故だよ。夕方のテレビニュースでずっとやってたけど見てない?」
「いや、来る前に家で少しだけ見たよ。えっ、でも・・・・あれに麻琴が乗ってたってこと?」
「・・・・みたいだね。はぁ、こんなこと信じたくないけどさ」
それから互いに言葉に詰まり私は視線が合わないように少しだけ顔を横に向けた。



皮肉だなと思った、家で見たときはどうでもいいと思っていた飛行事故なのに
そこに麻琴が乗っていたと聞かされるなんて皮肉以外の何物でもない。
でも私は実感がないせいかあまり悲しいという気持ちはないし涙が溢れるような気配もない。
結構冷静でいられるもんだなと自分でも思ったけどその割には頭が全然回らなくて
この場に相応しい言葉を未だに探している。
だからこの重い沈黙は長く続くと思っていたのに意外にもそれはすぐに破られてしまった。



でも破ったのは私でもミキティーでもなくADさんだった。
乱暴に数回ドアを叩かれ返事も確認しないまま「リハーサル30分前です!」とだけ言って
足音はすぐに遠ざかっていった。
でもそう言われて誰一人として動く者はいなかった。


7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:17
皆の気持ちは分かるけどこのまま動かないわけにはいかない。
こんな姿で出たらスタッフや共演者の人達に対して失礼だし、それにテレビを見てるファンに
心配をかけるわけにはいかない。
「ほらっ、みんなメイクしないと時間なくなるぞ!っうかウチらはプロなんだよ?
辛いのは分かるけどそんな泣きっ面をファンのみんなに見せんの?」
私は演技して呆れたように深い溜め息を吐き出すと敢えていつもより冷めた言い方をした。
厳しいことを言っているのは承知の上だった、だけどリーダー職の悲しい定めというやつで
憎まれ役を買うのも仕事のうちだと思っている。


そして私の言葉を援護するようにミキティーが渋い顔をして口を開く。
「・・・・っうかさ、みんなキモいよ。鏡で自分の顔見てみな?そんな面でテレビに出る
覚悟があるなら別にそのままでもいいけどさ。」
相変わらず優しさが感じられない言葉だけどこれは彼女なりの激励の仕方なんだということを
私も含めて全員が分かってることだと思う。


その言葉に答えるように化粧台の前に頭を伏せていた高橋がゆっくりと体を起こすと
椅子を回転させて私達のほうに体を向ける。
「さてと・・・こんな顔じゃテレビになんて出れんしメイク直さんとあかんね」
不自然なくらい明るく高い声でそう言うと無理やり笑顔を作った。
「・・・・そうだね。っうか愛ちゃん目真っ赤だよ?」
「そういうガキさんやって真っ赤やから。」
そしていつの間にか立ち上がっていたガキさんが絡んで普段と変わらない会話を高橋と始める。
けれど互いに声は擦れているし目だってウサギのように真っ赤だった。
多分一番辛いはずの同期二人が無理して笑ってる姿に自然と胸が熱くなった。


「おら、6期と小春!時間ないんだからさっさとメイクしろよ。」
一方ミキティーはまだ落ち込んでいる4人の元に歩み寄ると順番にその頭を軽く叩いて
手荒いながらも励ましていた。
でもそれで少し吹っ切れたのか各自化粧台に向かいメイクを始める。
それから私達はいつもより手抜きのメイクをしてリハーサルのスタジオへ急いで向かった。


8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:18
それでも結果は散々だった。



やっぱり立ち直れてない子が多いせいか会話は途切れて変な間が空くばかりだったし、
泣いていたせいだけではないと思うけど声があまり出ていなかった。
そして終ってから滅多に言われたことがないんだけどプロデューサーから直々に怒られた、
というかダメ出しされてしまった。
暗いとかモーニング娘らしくないとか大体そんな感じの話だったと思う。
私は言い訳する気はなかったので適当な理由を言ってとりあえず頭を下げて何度も謝った。
それから楽屋に戻るとミキティーはひどく怒って少し暴れたけれどそれを何とか宥めて、
その日は心身的なことを考えて早めの解散になった。


9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:20
「あっ、お母さん?今終った。今日は色々あってちょっと早く上がれたんだ。」
私は一人タクシー待ちをしているとき不意にご飯のことで家に電話することを思い出して
携帯を取り出し自宅にかけた。
「今日はどうするの?このまま帰ってくるの?」
「今日は・・・・ちょっと帰んないわ。何かそういう気分じゃないんだよね、ゴメン。」
「別にいいわよ、ひとみの好きにしなさい。」
「ありがと。明日はちゃんと帰るからさ、そんじゃおやすみなさい。」
さっきまで家に帰る気だったのに何だか急に今日は一人でいたいと思った。
母親が麻琴のことを知って気を遣ってくれたのかは不明だけど、何も言わないで外泊を許してくれるのが
今はとても有り難かった。


電話を終えたところでちょうどタクシーが私の前に止まった。
自動が開いて中に乗り込むとすぐにおじさんが行き先を聞いてくる、私はさっきまで帰る気だったので
どこになんて考えてもいなかったので少し言葉に詰まった。
「えっと・・・・・あぁ、じゃぁ近くのカプセルホテルまでお願いします。」
「なら裏通りに何軒かあるけど物騒だから少し駅から離れるけど表通りにあるところでいいかい?」
見た目無愛想なおじさんだけど女の私に気を遣ってか明るくて人通りの多いところにある
カプセルホテルを勧めてくれた。
「それでお願いします。」
と断る理由は何もなかったのでその親切を快く受けることにした。


10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:25
そして駅から少し離れていると言っていたけどそれから大体5分くらいして
タクシーはすぐにカプセルホテルの前に到着した。
私はお礼を言ってから降りるとすぐにホテルの中に入ってシングルの部屋を取った。
それから部屋に入るととりあえず上着を脱ぎラフな格好になってからとりあえずベッドに横になる。
別に大して疲れてはいなかったけど立っていられないというか妙な脱力感に囚われた。
けれど動かないと余計に辛気臭い気持ちになってくるので私は気分を変えたくて勢い良く体を起こすと
テレビでも見ようと思いリモコンを手に取る。
でもニュースであの飛行機事故のことをやっているのかと思うと電源ボタンを押すことができなかった。
私は軽く溜め息を吐き出してからリモコンをテレビの横に置く、そして寝ることもできず
テレビも見れないのでただ部屋を彷徨うことしかできなかった。


そのとき不意に携帯で暇を潰そうと思いつき自分の名案を独り言で褒めながらバックから取り出す。
スライドさせて開くとメールが来ているという通知があって大体予想はついていたけど見てみると
やっぱりメンバーからだった。
皆悲しくて悔しくて意味が分からなくて胸が痛くて苦しくて、だから誰かに相談というか
話を聞いてもらいたいんだと思う。
私は受け止めるのが嫌だというよりはあまりに突然すぎて現実味がないせいか未だに理解できなくて
もどかしいという思いが胸を占めている。


にしてもこういうとき頼りにされているのは素直に嬉しかった、けれど返信するには
相当の時間がかかりそうだなと思い深い溜め息を吐き出した。
時計を見ると9時40分だから今から打てば12時にくらいには寝れるだろうと思い、
一人ずつちゃんと文を読んでとりあえず励ましのメールを送った。
事が事なので慎重に書いては読み直して消して書いての繰り返しだった、それから最後のミキティーに返信して
部屋の壁掛け時計を見ると12時半になろうとしていた。
私はようやく事を終えると神経を使いすぎたせいか急に疲れと眠気が襲ってきて
携帯を手にしたままベッドへ倒れこんだ。




11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:28
「はぁ・・・・やべぇ、超がんばった。」
大の字に寝転ぶと本当に自分で自分を褒めてあげたい気分で満足げに呟いた。


それからあることを思いつき私は頭を掻きながら軽く溜め息をつくと寝たまま手を上げて携帯を操作する、
そしてメールで『元気してる?頑張ってんの?』とだけ打って麻琴に送る。
でも返ってこないのを知りながら送るなんて笑えるくらい馬鹿な行為だなと思って一人苦笑した。
それからすぐに着メロが鳴って送ったメールは当然のように戻ってくる。
けれど戻ってきた自分の文章を見たらなぜか急に胸が締め付けられて目頭が熱くなった。


「メールくらい返せよ・・・・・麻琴。」
でもそう呟いた後に吐き出した息は微かに震えていて私は携帯を強く握り締めると
感情の波が治まるのを待った。

12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:31
それから2日後の告別式に娘全員と出られるハローの子達だけで参列することになった。
火葬はさすがに親族だけということになっていた、でもいくら仲の良い私達だって
さすがにそこまで参加させてと言う気はない。
ファンは泣きながら麻琴の名前を叫んでいるし、娘のメンバーはそれぞれ泣き崩れていたり
抱き合って互いを支えていた。


私も保田さんや中澤さんに軽く声を掛けられたけど大丈夫だと軽く笑って答えた。
別に泣くのを我慢しているわけでもないし強がってもしていない、確かに胸がざわついて
不安定な感じではあるけど自分を取り乱したりする程でもない。
でも事故のこと知ってから2日経った今、笑顔でピースしてる麻琴の遺影を見ても
私はまだ実感がわかなかった。
そんな複雑な心境のまま娘代表でお焼香や棺に花を手向けた。
そのときまるで私だけを置き去りにして時間が過ぎているみたいだなと思った。



式の最後にご両親のご挨拶があってすすり泣く声が響く中で棺が運び出されていく、そして走り出すと同時に
大きなクラクションが鳴らされる。
それは普段車から発せられるものと大して違いはないはずなのにその天まで響き渡るような
深みのある高音はとても気高く誇りに満ちている気がした。


13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:34
そして日が過ぎるのは早いもので麻琴の死からもうすぐ一ヶ月が経とうとしている。



「・・・・よっちゃん。」
「おっ、ミキティーじゃん。どうかした?」
窓辺に椅子を持ってきて一人で空を眺めているとどこか遠慮がちに
ミキティーが声を掛けてくる。


「いや、別に特に用はないんだけどさ。」
「何それ。っうか用がないのに声かけてくんなんて珍しいじゃん。」
「えっ、あぁ・・・・なんっうかさ、この頃よっちゃんが空ばっか見てるから。」
なぜか困ったような顔をしているミキティーが不思議だったけれど言われたのが事実だったので
特に否定もせずに誤魔化すように苦笑した。
いつから始めたのかは分からないけれど私は暇があると空ばかり眺めるようになっていた。


私は上手く笑える自信がなかったので半分演技で笑顔を作ると、
「それってジェラシーってやつ?ははっ、ミキティー空に焼きもちやくなよぉ。」
笑いながらそう言うと抱き寄せるためにミキティーの腰に手を伸ばす。
でも今まで嬉しそうな顔して抱きしめられていたのに今日は腰を引いて拒否された。


「よっちゃん、本当はまだ・・・・・」
「おはようございまーす!!」
深刻そうな顔してミキティーが話し出そうとしたのと同時に楽屋のドアが勢い良く開けられて
小春が中に飛び込んできた。
というか正直入ってきたのが小春だと分かるまで少しの時間がかかった。
あの腰まであった綺麗な黒髪はもう肩までしかなくて色も派手な金髪に染まっていたから。

14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:36
楽屋には小春以外の全員が集合していたので皆の視線は自然とその髪に釘付けになった。
そして予想通りというべきなのかミキティーが溜め息交じりの口調で突っかかる。
「っうかなんでいきなり染めてんの?まして金髪だし。」
「えへへ、イメチェンですよぉ。似合いませんか?」
「うん、すんごく似合わない。」
相変わらず小春はどんなことを言われても笑顔でミキティーが不機嫌顔で素っ気なく言っても
平然と言葉を返している。
やっぱりこの子は根性が座ってるなとこういうとき改めて思ってしまう。


「えー、ダメですかぁ?」
と小春は体を反転させてミキティー以外のメンバーに感想を求める。

「うーんとねぇ、ちょっと微妙だねぇ。」
「ちょっと愛ちゃん!そんなはっきり言ったら小春ちゃんが可哀想でしょうが!」
「でもいきなり金髪にするなんて勇気があると思うの。」
「うん、確かに。れいなもさすがに金髪には染められんちゃね。」
各自思い思いの感想を勝手に言っていたけれどあまり好感は持たれてないのは分かった。
そして久しぶりに少し前まで当たり前だったあの明るく騒がしい楽屋に戻ったような気がした。

15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:41
でも今まで考え込んで黙っていた様子の亀井が顎に手をやりながら口を開く。
「ねぇ、その髪型ってまこっちゃんぽっくない?」
その他愛もないような言葉が発せられた瞬間明らかに場の空気が変わった。


「絵里!・・・・・もうっバカ!」
「えっ?あっ、あっ、あぁ!ごめんなさい!!」
意外と頭の切れる重さんが注意したけど言ってしまったことを今更誤魔化せるはずもなく、
亀井は初め何が何だか分かってない様子だったけれどすぐに事に気がついたらしく
慌てて謝ると口元を手で押さえる。
さっきまで華があって楽しげだった楽屋はその一言で深く落ち込んでしまった。
告別式に出た日から誰もが麻琴の話をしないようにしていた、それは誰が決めたわけでもなく
いつの間にかできた暗黙のルールだった。



私はゆっくりと椅子から腰を上げると思い切り自己嫌悪に陥っている亀井の肩を軽く叩き、
「あんま気にすんな。別に悪いこと言ったわけじゃないんだからさ。」
きっと真面目に言うと逆効果だなと思ったのでなるべく明るい口調で軽く励ました。


それから小春に近寄ると幼い頃父親にしてもらったように金髪に染まった髪に手を置き乱暴に撫でる。
「あははっ、せっかくセットしてもらったのにぃ。」
と小春は文句を言いながらも撫でてもらえるのが嬉しいのか首を竦めて私にじゃれついてくる。


「ねぇ、小春はどうして急に髪染めたの?」
「えっ?理由ですか?えっと・・・・笑ってくれるかなって思って。」
体を少し離してから金髪にした理由を聞くと全く意味が分からない答えが返ってきて
私は思わず顔を顰めてしまった。
この子の言動はたまに理解できないときがあるけどそれは年の問題だけではないと思う。

16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:54
「何だよそれ。まぁ、小春はミラクルだからなぁ。」
溜め息混じりにそう言いながら意味不明なのは別に今に始まったことでないので
それ以上深くは追求せず自分を納得させた。


「そうですよ?小春はミラクルですから!」
小春は私の顔を少し見上げると満面笑みで大きく頷きながら自慢げに言った。
その笑顔を見たら突然眩暈に襲われ平衡感覚を失った私はその場に跪いて項垂れる。
顔立ちが全く違うなのにそのとき小春に麻琴が重なって見えた、そして私はようやくさっき言っていた
髪を染めた理由の意味が分かった。


「えっ?あっ!わぁ!えっと、あの・・・・大丈夫ですか吉澤さん?」
最初は突然私がしゃがみ込んだことに動揺していたけれど小春はすぐに小首を傾げて
心配そうに顔を覗き込んでくる。


カプセルホテルに泊まったときのようにまた目頭が熱くなって胸の奥が痛いくらい締め付けられる、
そして様々な感情が湧き上がってくるけれど今度は止められそうになかった。
「・・・わらえ・・・・ねぇよ・・・・・笑えるわけないじゃんか。」
私は震えた声で噛み締めるように呟くと小春の背中に手を回し少し乱暴に抱き寄せてから
声を上げて泣いた。


17 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:55

18 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:55

19 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 22:56


(0´〜`)<本当に笑えない話でゴメンね



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