ハロプロ小説恐怖短編集 〜サザエの特別篇〜
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 02:16
- ハロプロ小説恐怖短編集 〜サザエの特別篇〜
- 2 名前:『エコタクシー』 投稿日:2006/11/06(月) 02:17
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第一話
『エコタクシー』
- 3 名前:『エコタクシー』 投稿日:2006/11/06(月) 02:18
- 久住小春がその建物から外に出た時には既に夜の十時をまわっていた。
十八歳未満は夜九時以降仕事はできないのが法律。
しかし着替えと平行してマネージャーから聞かされる仕事の打ち合わせは仕事にはならないらしい。
もしも夏休みの予定表のように一日の行動を帯グラフとして表に書き出したら、着替え一時間という不自然な時間ができてしまうのである。
久住は建物の裏口に立っている。
マネージャーが呼んだはずのタクシーが来ない。
他のメンバーの仕事を見なければならないためマネージャーはまだ建物の中にいるが、別に寂しくなどなかった。
一人でソロとして活動することはあっても一人きりになることは極端に少ない。
孤独な時間を欲する少女。
そんなことを頭に過ぎらせて、久住は自身を軽く嘲笑した。
待つこと五分ほど、一台のタクシーがやってきた。
運転手は久住を見つけるやいなや狭い道をスピードを上げて走ってくる。
タイヤの擦れる甲高い音がわずかに響いて、タクシーは止まった。
運転手は遅れてスイマセンと何度も頭を下げている。
久住はタクシーに乗り込んだ。
タクシー特有の匂いがした後気付いたことは、車内が少し汚いということだった。
汚い、というより、乱れている、という感じだった。
座席にかけられたレースはくしゃくしゃで、背もたれの一部は破けているようだった。
違和感を感じた瞬間、ドアが閉まった。
行き先を告げると、ホントにスイマセンねぇ、と働き盛りな年齢のオジサン運転手はまだ遅れたことを謝っている。
止まった時と同じくらいのタイヤの擦れ音をさせて、乱暴にタクシーは発進した。
- 4 名前:『エコタクシー』 投稿日:2006/11/06(月) 02:18
- 「いや〜汚くてすいませんねぇ」
「あっ、いえ」
運転手はまた謝りだした。今度は車内の乱れについてだった。
久住は携帯電話を取り出しメールをチェックし始めたが、運転手は前を向いたまままた喋りはじめた。
「前に乗ってた客がね、酔っ払ってたせいか少々乱暴な客でしてね。それでちょっとやられちゃいまして……」
「大変でしたね」
感情を上塗りしたぶつ切りの言葉で返答する久住だが運転手は気にしていない。
右ウインカーを出そうとする動作がやけに大きい。
「まぁワンメーターで降りられたんで助かったには助かったんですがねぇ……」
久住は苛立ってきていた。
運転手がいるとはいえある種の孤独な時間であるはずのタクシーの車内という時間を冒されている感じがしたからだ。
簡単に言えば、ウザかったのである。
返事はせず、運転手を見ると右ウインカーを戻す動作がやけに大きい。
「ワンメーターっていうのも本当は困りもんでしてね。それくらいなら歩いてほしいなぁなんて」
運転手は笑いながらそう言った。
面白いとか面白くないとか以前に、何故この人は私に話しかけてきているのだろう。久住は思った。
- 5 名前:『エコタクシー』 投稿日:2006/11/06(月) 02:19
- 交差点の信号で止まり、運転手は助手席の書類を片付け始めた。
何となく運転手に見られているような気がした久住は急いで携帯電話に視線を移した。
携帯電話の光で久住の顔が闇に浮かぶ。
紙の擦れる音はするが運転手の顔はこちらを向いているような気がする。
久住は顎が胸の辺りに付くのではないかというほど俯いた。
しかし、気味の悪い視線がこんな至近距離でまとわりついているかと思うと自然と鳥肌が立ってくる。
作業を終えた運転手は再び前方を向く。計ったかのように信号は青に変わった。
久住は友人からのメールに思考と視線を縛りつけようとしていると突然耳を劈く大きな音がした。
驚いた久住は辺りを見回すが特に何も無い。
ただ運転手が前のめりになって前の車を睨み、再びクラクションを鳴らしていた。
「……ったく早く出ろよったくよぉ……」
運転手は久住に語りかける時よりも高い声で呟いた。
素っ頓狂でもなく、諧謔さを含んだものでもなく、興奮してそうなったというよりか、何かを溜め込んでいるかのような声だった。
前の車が動き出し、タクシーも動き始めた。
「ほんっと嫌ですよねぇああいう車。ちゃんと信号見てろってって感じですよね」
「ああ、はい……」
「あっ、さっきはクラクションすいませんね。つい鳴っちゃって」
「いえ」
前の車が左折したのを見計らってタクシーは急にスピードを上げた。
- 6 名前:『エコタクシー』 投稿日:2006/11/06(月) 02:19
- 「いやーこんなことお客さんに言うかどうか迷ったんですけどね」
運転手が指でハンドルを叩きながら言った。
手袋をしているせいで音はほとんどしていないが結構力が入っているように久住には見えた。
「お客さんを乗せる前のお客さんが結構乱暴だったってお話しましたよね? 実はそのお客のせいで私自身、少し苛立っちゃってて……」
自嘲で色づけた笑いを含ませながら運転手は言った。
久住にとっては迷惑な話だったが、そんなことよりもっと不可解な感覚を久住は覚えていた。
運転手は深く息を吸い込むと、吐き出すと同時にゆっくりブレーキを踏み込んだ。
「そのせいで運転まで荒れちゃって、ほんとスイマセン」
「あぁ、いえ……」
久住は携帯電話を閉じていた。
タクシーに乗り込んでから何となく感じていた違和感にとりつかれてしまったのだった。
何がおかしいのかはわからないが、何かがおかしい。
法定速度を守るタクシーはどんどん追い抜かされていく。
「それにあとほら……あ〜お客さん若いから興味ないかな?」
「え?」
「知ってますかね? ガソリン代が上がってるっていう話」
「あ、あぁ……はい」
チラッとテレビで見た程度なので詳しくは知らないが、若いからバカにされた気がしたのではいと答えてみた久住。
- 7 名前:『エコタクシー』 投稿日:2006/11/06(月) 02:19
- 斜め後ろから見える運転手の口元が笑ったように久住には見えた。
どういう意味なのかはわからない。
「いやぁこういう仕事してますとね、もう一円でも上がってるとホントに辛いんですよ」
「はぁ……」
「一円ってせこいなって思いますか?」
久住はこの密室に漂う居心地の悪さの原因が今の一言でわかった気がした。
運転手は自分の愚痴を聞いてもらいたいわけでも、若い女の子と会話で盛り上がりたいわけでも、
ましてや久住のファンで恥ずかしながらでもとにかく話しかけたいというわけでもないようだった。
なんというか、会話で自分を見ている、様な感じがしていた。
「……い、いえ」
「ハッハッハッ……まぁ一円でも我々にとっては重要なんですよ」
深い笑い皺を作って運転手は笑った。
暗い車内を順番に見下ろす街路灯。
久住は時の流れを光の流れでしか感じることができないでいた。
皮膚感覚ではもう既に自分がここにいないような感覚さえ覚えていた。
- 8 名前:『エコタクシー』 投稿日:2006/11/06(月) 02:20
- 「それにしてもこんな時間までお仕事だったんですか? お若いのに大変でしょう」
「あ、はぁ……いえ……」
「お若い女性が遊びもせずに仕事を頑張る……いいですねぇ」
また赤信号で止まったが運転手は前を向いたままだった。
久住は運転手の言葉に少しだけ反論したかったのだが、なにせ得体の知れないこの状態が気持ち悪く
できるだけ関わらないようにしている方がマシだと思い閉口を保った。
運転手はバックミラーにわずかに映る久住を遠くを見るような目で見た後、再び視線を前に戻した。
「今日はそうでもなかったですけど、明日は天気いいらしいですよ」
信号が青に変わり、先頭で止まっていたタクシーは急発進した。
体を乱暴を揺らされた久住に対してなのか、運転手は鼻で短く笑った。
「明日、お仕事の方は?」
「えっ?」
「明日もお仕事があるんですか?」
「……えぇ、まあ」
「あー惜しいなぁ。明日みたいな日は絶好の散歩日和なんですけどねぇ」
運転手はアクセルを踏み込みながら前傾すると、フロントガラスについてしまいそうになるほど顔を接近させて空を見上げた。
ん〜いい天気だ、と漆黒の夜空を見て呟く運転手。
初老に足を踏み入れようとしている年齢であろう男のとる行動ではないと久住は思った。
ただ、そんな行動に疑問や怪訝を感じるよりも、何よりも雰囲気の奇怪さが気持ち悪くてしかたがなかった。
意図がまるでわからない。
- 9 名前:『エコタクシー』 投稿日:2006/11/06(月) 02:20
- 料金メーターはとっくに四桁に突入している。
数字の増えるテンポがやたらと速く感じるのはタクシーのスピードが速いのか、
それとも早く時間が過ぎてしまえばいいのにと思っている自らのせいなのか。久住は思った。
いずれにしても幾度かタクシーで帰っている経験から察するに、もうそろそろ着きそうなことはたしかだった。
「いや〜ホントに今日はスイマセンでしたねぇ」
運転手は再び謝りだした。
もうすぐ到着することは運転手も知っているからなのだろうが、一体何に対して謝っているのか久住にはわからない。
減速もままならぬ状態で左に曲がると、あとは真っ直ぐ行くだけで着いてしまう。
見慣れた道を見て久住は安堵を感じていた。
しかし体の芯まで侵食された不快感はそう簡単に拭えない。
「こんな状態でお客さん乗せちゃって、運転荒かったでしょう? ほんとスイマセンね」
「あ、いえ」
「もうここで止めちゃいましょうこれ」
運転手は料金メーターのボタンを押した。
なにやらメーターが動き出し音が鳴ると、「支払」の表示に変わった。3860。
せっかくの行為に対してもなんだが、大して安くしてくれたわけでもないな。久住は思った。
二メーター分くらい走ってタクシーは減速を始めた。
久住は財布を取り出す。
左ウインカーを出して道路脇にタクシーは止まった。
四千円を出しておつりはもらわないでさっさと降りてしまおうと思っていた久住に、
運転手は今までも申し訳無さそうな雰囲気や気さくそうな笑顔も無く淡々と言った。
「3860グラムになります」
- 10 名前:『エコタクシー』 投稿日:2006/11/06(月) 02:20
- 四枚のお札を持った久住の右手が止まった。
聞き間違えようってった聞き間違えられないくらいハッキリと運転手は言ったのだ。
グラム、と。
「……え?」
「3860グラムになります」
振り向いた運転手の顔は一切の感情を持っていなかった。
全く思考が働かない久住は震える手を前に出し、四千円を差し出した。
柿色の薄暗い車内灯に影を塗られた運転手の顔が、笑みを浮かべた。
「3860グラムになります」
声は全く変わらず平坦なままだった。
体を久住の方に向きかえる為なのか運転手はゴソゴソと動き出した。
何か言わなければならないと直感した久住だが、その言葉は既に車内の空気に飲み込まれていた。
「お客さん、ちょっといいですか?」
運転手はクシャクシャになるほど強く握られたお札を持った久住の右手の手首を掴んだ。
体が強張り腕を引こうとした久住だがびくともしない。
運転手も右手で掴んでいたので、抜刀するような感じでくすみの腕を引っ張った。
久住の右腕が全て前列に引っ張られた。
- 11 名前:『エコタクシー』 投稿日:2006/11/06(月) 02:21
- 「ん〜……この辺かな?」
運転手は久住の腕を好きに引っ張ったり緩めたりしていたがようやく止まった。
冷や汗だとか寒気だとか鳥肌だとかが一切無い。体が恐怖を感じてくれない。
悪寒だけが体全体に広がり感覚を奪っていく。
運転手は座席で隠れていた左腕を狭い車内で振り上げた。
「よいしょ!」
短く威勢のよい声を上げて運転手は左手を久住の右腕に振り下ろした。
左手に握られた、車内灯に鋭く光る手ごろなナタ。
久住の右腕上腕の方に限りなく近い部分にナタが入ると、そのまま速度を落とすことなく右腕を通り過ぎていった。
一瞬間があって、久住の腕から鮮血が噴き出した。
「いやあああああああああぁぁぁぁああぁぁああぁああああああーーーー!!!!!」
「3860グラムちょうどお預かりいたします」
運転手は慣れた手つきで久住の右腕を新聞紙で包み助手席に置いた。
久住の右肩から流れ出る血は久住のジーパンに垂れ、自分のものだった生暖かい体温を感じた。
筆舌に尽くしがたい激痛は叫ぶ力を奪う。
「……うっ……んぐ……うぅうう……」
タクシーの扉が開いた。
異様な空気と血生臭さが先に外に流れて出ていく。
- 12 名前:『エコタクシー』 投稿日:2006/11/06(月) 02:21
- 久住は傷口を押さえようとするがぬめぬめした肉とぬるい液体の感触、
そして傍若無人に体内を走る肩からの激痛。
運転手はハンドルに手をかけ腕を伸ばし背もたれによしかかっていて、久住には無関心とばかりにあくびをしている。
「……ううぅ……ひぃ……ぐぇ」
突然の激痛とショック、そして異様さに吐き気まで出てきた久住。
涙も鼻水もよだれも垂らして内から噴き出す恐怖を吐き出そうとするがそんなことでは間に合わない。
久住はうめき声をあげながら倒れるようにしてタクシーから出た。
運転手はそれを確認して自動ドアを閉じると、ドアが久住の右肩の傷口にかすった。
「ああぐああぁあぎゃあああぁぁーーーーーー!!!」」
獣のような叫び声をあげる久住をサイドミラーで見てニヤッと笑う運転手。
久住を乗せた時のようにタイヤを擦る音を響かせながら急発進して走り去っていった。
- 13 名前:『エコタクシー』 投稿日:2006/11/06(月) 02:21
- 渋滞するほどではないにしても流れの激しい大通り。
一台のタクシーが左にウインカーを出して道路脇に止まった。
間もなくして運転手がタクシーから降りてきた。
左手に持っているのは既に色の失せた久住の右腕。
「これだけあれば結構走れるだろ」
口角を上げながら独り言。
通り過ぎていく車の運転手は誰一人として人間の腕を手に持った運転手を気にしていない。
タクシーの運転手は車の後部に回り、開きかけのガソリンタンクの蓋を開けた。
「まぁさっきよりか少しはマシに走るだろ」
運転手は久住の右腕をガソリンタンクに押し込んだ。
指の骨が折れる音がしたが気にせず全て押し込むと乱暴に蓋を閉めた。
急ぐ様子もなしに運転席に戻りエンジンをかける。
エンジンは、素直にかかった。
- 14 名前:『エコタクシー』 投稿日:2006/11/06(月) 02:22
- 『エコタクシー』 end
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 02:22
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- 16 名前:『DOOR』 投稿日:2006/11/06(月) 02:23
-
第二話
『DOOR』
- 17 名前:『DOOR』 投稿日:2006/11/06(月) 02:24
- どうしよう……。
取っ手のとれたトロフィーはさておいて、このドアの傷は……。
久住小春は困っていた。
父親の書斎を色々詮索していたら何かの大会で優勝したらしい大きなトロフィーが本棚の上から落ちてしまったのだ。
トロフィーは書斎のドアにかすって落ち、取っ手がとれた。
迷惑を被ったドアには熊の一振りよろしく、大きな傷がついていたのだった。
あ〜すごい傷だよぅ……。
トロフィーは瞬間接着剤で何とかなる。
問題はドアだった。
トロフィーの破片を拾いながら大声で一階にいる母親に大きな音の言い訳をしている。靴下がフローリングに滑って転んじゃった。
どうしようかなぁ何とかならないかなぁ……。
とりあえず瞬間接着剤だけでも買いに行かなきゃ。
久住小春は近くのホームセンターに出かけた。
瞬間接着剤だけならコンビニでもいいのだが、ホームセンターならもしかしたらあのドアの傷を何とかできるものがあるかもしれないと思ったからだ。
店中を見回りあるものを見つけた。
ドアの傷隠し……。
こんなクレヨンみたいなので大丈夫かな?
しかし手段はこれしかない。
久住小春は瞬間接着剤とドアの傷隠しを買い家に戻った。
- 18 名前:『DOOR』 投稿日:2006/11/06(月) 02:25
- 途中コンビニによってお菓子を買い、母親に出かけた言い訳として見せる。
当然ホームセンターの袋は見せないまま二階へと上がった。
自室にコンビニを袋を放ってすぐさま父親の書斎。
まずはドアから。
十二色あるクレヨンの中から一番ドアに近い色を取り出し、傷の輪郭を軽くなぞってみた。
輪郭が一回り小さく見える。
そしてその中を斜めに塗っていく。
時が逆行しているかのように久住小春は感じた。
すごい! 傷が消えた!
傷を塗り終えた頃にはもはや傷がどこにあったのかわからない状態だった。
手で触ってみても違和感はない。
久住小春は嬉しくなってドア中を隅々まで点検し、自分がつけたわけでもない小さな傷をわざわざ塗りつぶしていった。
すごいすごい!
下からローラー作戦でドアを点検していき、ついにドアは新品と化した。
簡単でしかも目の前ですぐに結果がわかる傷隠しに久住小春は上気してたが、トロフィーのことも忘れてはいけない。
クレヨンを元に戻しトロフィーの修復に取り掛かる。
こちらはそう簡単にいかなかったが、一時間近くで見事修復し終えた。
やったぁ! これで絶対バレないぞ。
久住小春はトロフィーを元の位置に戻すことも忘れ自室に戻っていった。
- 19 名前:『DOOR』 投稿日:2006/11/06(月) 02:26
- 自室のドアは父親の書斎のドアより少し明るい色をしている。
半分ほど減ったクレヨンの二つ横、久住小春は自室のドアの色に似たクレヨンを手にとった。
工程は先ほどと一緒。
見る見るうちにキレイになっていくドアを見て自然と笑みがこぼれる。
ホントにすごい!
こんなに簡単にキレーになっちゃったぁ。
久住小春はふと自身の右手を見た。
今日学校で机にぶつけた時にできた傷を見つけた。
ふと名案が浮かぶ。
そう。この流れ。このノリ。この手元にある十二色。
傷隠せるのかなぁ?
久住小春は一番色の明るいクレヨンを左手にとると右手の傷を塗り始めた。
やや固いクレヨンの感触はイタくすぐったい。
クレヨンを離すと、傷はきれいに消えていた。
瞳を輝かせる久住小春。
そのまま右腕にあるほくろを塗ってみた。きれいに消えた。
キャッキャッと喜ぶ久住小春。
思春期でお年頃。気になる所はたくさんある。クレヨンもたっぷりある。
久住小春は服を脱いで下着姿になると、右手にクレヨン左手に手鏡を持って部屋の中央に座った。
すごいすごい!
クレヨンはどんどん減っていった。
- 20 名前:『DOOR』 投稿日:2006/11/06(月) 02:27
- 「小春ぅ! 夕食だよ〜!」
一階で叫ぶ母親の声は二階はおろか玄関のドアを開けようとした父親にさえ聞こえていた。
しかし久住小春の返事はない。
母親は帰っていた父親にただいまと言うともう一度久住小春を呼んだ。
「小春! 小春〜!」
無音。
母親と父親は顔を見合わせ首を傾げる。
一言二言会話をして母親は台所に、父親は二階へ上がった。
そして父親は久住小春の部屋の前に立つときれいになったドアを三回ノックして言った。
「小春、何やってんだ。もう夕食だぞ」
返事はない。
父親はワイシャツのボタンをはずす手を止めてもう一度ノックすると、言った。
「夕食だぞ何してるんだ。入るぞ」
成長する娘を見てなんとなく入りづらくなった部屋だが、今は大義名分がある。
父親はそんなことを考えながら久住小春の部屋のドアを開けた。
部屋の電気はついている。
少し埃をかぶった蛍光灯の下。
乳白色に淡く光る小さなドアが一枚横たわっていた。
- 21 名前:『DOOR』 投稿日:2006/11/06(月) 02:27
- 『DOOR』end
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 02:28
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- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 02:28
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- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/06(月) 02:29
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