22 飛行機雲

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/10(金) 00:11
22 飛行機雲
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/10(金) 00:12
かなわないから憧れているのか。
憧れているからかなわないと思うのか。

それはたぶん、にわとりが先かたまごが先かみたいに、永遠に答えの出ないもの。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/10(金) 00:12
春のコンサートツアーに向けてのダンスレッスンの休憩時間。
あたしはぼんやりとそんなことを考えていた。

「まこっちゃん、なんボーっとしとると?」
「んー、ちょっとねー」

話しかけてきたのは、ちょっと生意気だけどかわいい後輩。
娘。に入ってからかなりの年月が過ぎ、いつの間にか吉澤さんの次にキャリアが長くなって
いたたあたし達。
教えてくれる人も叱ってくれる人もフォローしてくれる人もいない。
逆にそれをやらなければならない立場にある。

石川さんが卒業して久住ちゃんが正式に合流してから、早いものでもうすぐ一年が経とうと
している。
変化がウリの娘。にしては珍しく卒業も加入もない、ある意味で平和な一年。
今の娘。を引っ張っているのは、間違いなくリーダーの吉澤さんとサブリーダーの藤本さん。

そして。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/10(金) 00:12
「久住、そこ腕のフリが違うよ」

休憩中にも関わらず熱心に久住ちゃんにアドバイスをしている愛ちゃん。
その横では久住ちゃんの教育係を務める重さんが、ものすごい真剣な顔をして愛ちゃんの
一挙手一投足を見つめている。

娘。の中では、歌やダンスでは愛ちゃんに右に出る者はいない。
それは自他共に認めている事実。
独特の歌声で存在感を放つ藤本さんも、最近急成長を遂げてハロコンでもかなり中心的
ポジションにいたれいなも、愛ちゃんと比べると足りない部分があるように思う。

『久住』と呼ぶ愛ちゃん。
『久住ちゃん』としか呼べないあたし。
そんな些細なことが引っかかるのは、たぶんずっと抱えているコンプレックスのせい。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/10(金) 00:13
スタートはほとんど一緒だった。
ううん、どちらかと言えばあたしの方が一歩リードしていたように思う。
愛ちゃんは歌もダントツにうまかったしダンスも綺麗だったけど、なんていうか暗くて
垢抜けない感じだった。
あたしは歌もダンスもダントツに出来たわけじゃないけど、とにかく元気に明るく、
ひたすら強気な姿を見せ続けた。
それは娘。に入ってからも同じ。
5期としてのデビュー曲で一番目立つポジションを貰ったのはあたしだった。
それなのに、いつの間にかその立場は逆転していた。

愛ちゃんがセンターに近付いていくにつれ、あたしの低位置は後列となり、いつしか同じ
土壌で競うことを諦めるようになった。
お笑い担当と言われコントで変なメイクをして、それはそれで楽しかったし自分の役割
なんだって気持ちはあったけど、やっぱりあの場所への憧れはずっと持ち続けているんだ。

そう、今でも、ずっと。

「はい、休憩終わりー」

つかの間の休憩時間を久住ちゃんの指導に費やした愛ちゃんには、一体何が見えているの
だろう。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/10(金) 00:14
春ツアーのリハーサルも中盤を迎えたある日。
ガッタスがあったり、それぞれのユニットでの個別レッスンがあったりで、レッスン場で
珍しく愛ちゃんと二人きりになった。
メンバーが揃うまでは自主レッスン。

今回のツアーでソロステージがある愛ちゃんは、目の前で何度も何度もダンスの練習を
している。
あたしはただその姿に見とれている。
こんなふうに愛ちゃんの練習している姿をきちんと見るのは久しぶりだった。
シングル曲だったこの歌をセンターで歌った愛ちゃん。
グループの中心で歌う姿も堂々としたものだったけれど、こうして一人で歌っているのを
見ると、あの頃よりもさらに成長しているように思える。
眩し過ぎて苦しくなる。

ああ、やばい。

目頭がブワーっと熱くなるのを感じて、窓際に移動して腰を下ろす。
小さな窓から見上げた空は厭味なくらい綺麗な青空。
東京にしては珍しいなあなんて思っていると、それまで流れていた音楽が止まったことに
気付いた。
隣にはいつの間にか愛ちゃんが座っていた。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/10(金) 00:14
「いい天気」
「…うん」
「まことー」
「んー?」
「あーし、最近よく思うんやけど」
「なにー?」
「人間てすごくない?クロマニヨン人でアウストラロピテクスだったんだよ?」
「…うん」
「中臣鎌足になりたい。中大兄皇子はカッコ良いんだけどね、奥さんがい過ぎ」
「…うん」
「あーし、まことのダンスが好きやよ」
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/10(金) 00:14
それまでの話と変わることのない口調とテンポで吐き出された言葉。
思わず愛ちゃんの顔を見ると、いつも通りの猿顔で笑っていた。
キラキラと眩しい笑顔だけど、よく見ると目の下にはクマが出来ている。
それは、輝きを増していく愛ちゃんの努力の証。

ああ、まったく。
そんなこと言われたらこっちにだって伝えたい言葉は山ほどあるんだ。

「あたしも、愛ちゃ…」
「あー!飛行機!」
「…………うん」

しょうがないなあ。
あたしは立ち上がって愛ちゃんに手を差し伸べる。

「なーにサボってるんですかあ!練習練習!」
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/10(金) 00:15
かなわないから憧れているのか。
憧れているからかなわないと思うのか。

それはたぶん、にわとりが先かたまごが先かみたいにどうでもいいこと。

大事なのは順番じゃなくて産まれてきたという事実であるように、あたしにとって大事
なのは『高橋愛』に憧れているという曲げようのない事実なんだ。
そのことを認めた時、長年探していた答えを見つけたような気がした。

あたしはずっと昔から『高橋愛』に憧れているし、かなわないと思っている。
だけど同時に、心の底から負けたくないとも思っている。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/10(金) 00:15
愛ちゃんが見つけた飛行機は一本の綺麗な線を描いて、青空の向こうへと飛んでいった。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/10(金) 00:15
おしまい
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/10(金) 00:15
 
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/10(金) 00:16
 
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/10(金) 00:16
 

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