16 時計の音

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:32


チクタクチクタク
チクタクチクタクチクタク
チクタクチクタクチクタクチクタク


時計の音だけがこだまする
真っ白な箱の中のような部屋
窓はないけど 一つだけトビラがある
首を回して 少し見上げたところには古ぼけた時計が一つ
大体1mぐらいの距離をあけて 向かい合わせに置かれたイス
そこに腰掛ける 私とアナタ
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:33


チクタクチクタク
チクタクチクタクチクタク
チクタクチクタクチクタクチクタク


さて どうしようか
あのトビラを抜ければ、ここから出られるだろうか

ぼーっと思考だけを巡らせてみるが 動き回る気は起きない

「何考えてる?」

不意に思考を止められたのが なんとなくイラッときた

「・・・別に、何も。」
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:34


チクタクチクタク
チクタクチクタクチクタク


耳障りすぎる 時計の音

うるさいなぁ
これからどうするか考えてるから ちょっと静かにしてほしいんだけど

「ねぇ。」
「なんですか?」

時計だけじゃなく 目の前のこの人も どうにかならないものだろうか

「何考えてたの?」
「だから何も考えてないですって。」
「嘘だ。」
「はぁ?」
「今、ちょっとイライラしてたじゃん。」
「なんでそう思うんですか?」
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:35


「いや、なんとなく。」

表情一つ変えずにそう言ってのける彼女


「へぇ・・・。」

図星を突かれて内心ではイスから転げ落ちてた私


5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:36
言い返すことはできなかった
何も言えずに 私はただぼーっと床を見つめた







変わらない世界

ふたたび聴覚が働き始める
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:36


チクタクチクタク
チクタクチクタクチクタク


あ そういえばさっきまでこの音消えてたな
なんでだろう

「あのさぁ。」
「はい。」
「ちょっと暇だね。」
「・・・そう、ですね。」

私がそう答えると 彼女は何故か嬉しそうに笑った

なんだ 可愛いじゃん
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:36


チクタクチクタク


さて これからどうしようかな
別にトビラはあるんだし 出て行けば良いんだけど
どうもそれは違う気がする
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:37


チクタクチクタク


「ちょっと提案なんだけど」
「はい、どうそ。」
「ちょっとさ、じゃんけんでもしない?」
「じゃんけん、ですか?」
「うん。だってつまんないもん。」
「だからってなんでじゃんけん・・・」

私の話を聞いているのかいないのか
じゃーんけーん・・・と 楽しそうに声を弾ませる彼女

「ほぃ!」

慌てて出した私の手は 何故かややこしいチョキだった

「っあ〜!負けたぁ!」

そんな本気で悔しがらなくてもいいのに
特に何か景品があるわけでもないんだし
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:43
「ちょっと今後出しっぽかったよね!?もっかいやろ!もっかい!!」

なんと自分勝手な人なんだろう
またも私の意見など聞かずに じゃーんけーん・・・と意気込んでいる

「っほい!!」

今度は後出しだなんて言わせない
バッチリのタイミングで出した手は グー
ちなみに彼女はチョキだ

「・・・じゃんけん強いねぇ。」
「そうでもないですけど。」
「でも2連勝じゃん。」

たったの2回で 強いとか弱いとかわかるものなのだろうか
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:45
その後も彼女に言われるがままにじゃんけんを続けたけど 全て私の勝ちだった
特に強いわけじゃないのに
彼女が弱すぎるんだろうか

「いつまでやるんですか?」

私が呆れたようにそう聞くと 彼女は一瞬真剣な顔をした・・・ような気がした

「・・・いいよ じゃあ次で最後。」

一瞬 私の後方 斜め上らへんを見上げた後 静かに呟いた

何を確認したんだろう

気になったけど 聞かなかったし 確認もしなかった
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:45
「最後はルールつけようよ。」
「ルール?」
「私が負けたら、私はもう何も言わない。」
「・・・。」
「でも、私が勝ったら――」



彼女の言う“ルール”に 肯定の意味で 私は無言で頷いた



「いくよ?」
「うん。」
「じゃーんけーん・・・」

さっきまで全勝だったんだ
負けるハズがないと どこかで思い込んでいたような気がする

私はグーで

アナタは・・・



12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:46
「え、ちょ、それアリですかぁ!?」
「誰も無しだなんて言ってないもん。」
「でもズルイ!!」
「へへ、私の勝ち〜。」

本当に嬉しそうにはにかむ彼女
それはさっきの“ルール”があるから?

そう思っても いいのかな

「後ろ、見てごらん。」
「え・・・?」

言われるがままに 体をひねって後ろを見る



「時計が・・・」


時計が止まってる


13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:46
「良かったね」

してやったりという表情でそういう彼女を見て 私はハッとした
この人に負けっぱなしだったということに この時ようやく気付いた

「・・・あ〜・・・私の負けです。・・・参りましたぁ〜。」

半ばヤケ気味にそう言って 私はイスから立ち上がった
そして “ルール”に従うことを決めた私は 彼女に手を差し出した

「わかればよろしい。」

愛ちゃんは楽しそうに笑って 少し前に鉄砲を作ってみせたばかりの左手で私の右手を握った
グイ とそのまま私を引っ張るようにトビラまで歩き 振り返る

「行くよ、絵里。」
「うん。」

愛ちゃんがトビラを開けた瞬間 体が暖かい光に包まれた
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:47



時計はまた ゆっくりと 静かに 動き始めていた




15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:47


16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:47


17 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/07(火) 02:52


終わり

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