15 ケーキが三角形
- 1 名前:15 ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:42
- 15 ケーキが三角形
- 2 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:42
- まだお昼前の平日、東横線渋谷駅は中々の混み具合だった。
止まっている特急電車の中には乗客がにょきにょき立っている。
きゅうぅってなるわけでもない微妙な密度が一番落ち着かない。
自分が揺れて人に当たったりしたら気まずいじゃないですか。
私も最近気を使うようになったんですから。
だって後輩もいるんだし、人から頼られるくらいにはなりたい。
でも、そういうのって案外難しいんだなって思う。
あんな大所帯グループにいるとかえって
距離感といえばいいか、そういうのにみんなが気を使う。
先輩は先輩らしく、そして後輩は後輩らしく(こっちの方が遥かに難しいけど)。
電車の出発ベルが鳴ったので、
――前にあさ美ちゃんと行ったけど、特急ならすぐや。
私は特急に乗った。
ほどなくして電車が車体を盛大に揺らしながら出発した。
でもね……後輩らしくなんてちょっと私、嫌なんだ。
私はもっと頼られたいんですよ。案外頼りになるねって言われたいんです。
愛ちゃん。今日は絵里に頼ってもいいんだよ。
何かあるんでしょ?悩み。
急にデートに誘うなんて、しかもちょっと離れた自由が丘だなんて
- 3 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:43
- あ〜、帰りてぇ。って許されないなぁ。
誘ったのはあたしのほうやし、絵里すっごいはしゃいでたし。
一足先に自由が丘に到着して駅の1階で絵里を待っていた。
待ち合わせの時間まではまだ1時間あったけど
はりきった絵里が何時にくるかわからんかったし
もし向こうが先に来ていたりしたら
何時であってもやっぱり「待たせてごめん」て言わなきゃならん。
今日はそれを避けときたかった。絵里の下に回るような発言はどうしても避けたかった。
やってあのコ、
油断しとったらどんどんお姉さんの貫禄つけてもうて
気がつくとあたしは自分の中に
絵里に寄りかかりたがっている自分を見つけていた
つらいとき
あの
どんな重さも打ち消してくれる笑顔と
どんなもやもやも晴らしてくれる声に
何度、泣きつきたくなったか。
やけどこっちが先輩なわけやし、
後輩にそんなふうに甘えたら、絶対自分ダメになってまう。
ほやから今日は
アドバンテージをつけておきたかった。お姉さんはお姉さんらしく。
ここなら
前にあさ美ちゃんと遊びに来たことある自由が丘なら
絵里が行ったことないと言ってた自由が丘なら
知ってる分だけ、こっちのペースでデートできるから。
- 4 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:43
- 「あー!早い!!」
改札の外で愛ちゃんがいた。
あごが高くなって得意げ。ムカつく顔をわざとつくってるっぽいのがまたムカつく。
「へっへ〜」
「もう、なんで40分も前にいるのぉ〜」
「そっちこそ」
良かった。
とりあえず、愛ちゃん元気そうだ。
「絵里、行くで」
は?
「どこへ?」
「自由が丘」
はぁ?
ここ、自由が丘だよ。
「何ぽけっとしとる、ひょっとこみたいな顔して」
うるさいオラウータン。
私が口を開きかけると愛ちゃんはすっと背中を見せて歩き出してしまった。
ナイスヒット&アウェイ……じゃなくて。
- 5 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:43
- 自由が丘、お洒落な店が点在する
小さな通りが何本もあった。
愛ちゃんはそのうちの一つに入って先にすいすい行ってしまう。
「ね、ねぇ待って!」
私は小走りになって愛ちゃんに追いつく。
すると愛ちゃんは
すっとまた、一歩前へ。
一歩つめては一歩離され
また一歩つめては一歩離され、
そんな感じで通りの最後まで行ってしまった。
あーあ、せっかく自由が丘まで来たってのに
ショッピングどころじゃない。
「もう、何で先に行っちゃうの!?」
「おなかすかん?」
「え?」
「その先においしいケーキあるから、急いだほうがええで」
「そ、そうなんだ」
何も、急ぐことなんてないと思うけど……
わからない人。おいてくでー、と高らかに笑いかけてくる。
どうやら愛ちゃんの悩みは
相当厄介なものらしい。
- 6 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:44
- さっきから愛ちゃんは急いでなんかいない。
むしろ、頻繁に立ち止まる。
私がちゃんとついてくるか不安で不安で仕方ない、とでもいうように。
それなのに私が追いつくと、さっと前に立つ。なんか意地張ってるみたい。
それから、今日は訛りが半端じゃない。
こういうときの愛ちゃんはテンパっている。
今日は会ったときからこんな感じだった。
まるで、告白したいのに告白できない乙女チック。
きっと
何か私に含むところがあるに違いない。
なのに愛ちゃんは、怖がっていて言い出せないのだ。
よろしい。
亀井絵里、愛する先輩のために
あなたの秘密を見つけてあげようじゃないか。
私は決意して前を見ると、
先に行き過ぎた愛ちゃんが、しかし止まるのも不自然で
必死に速度を落としているところだった。
本当に手の焼ける人だ。嬉しいくらいに
- 7 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:44
- 地下に入っていく入り口までやって来た。
「わー、こんな入り口知らなかったら通り過ぎてそう」
「ここ、前に来たとき発見してな」
絵里にペースを持ってかれることなく
ここまで来ることができた。まずは上出来。
「入るの、勇気がいったでしょう?」
「いった?何が」
言葉の意味がわからんかった。
「言わない?勇気がいった」
「へぇ〜。でも勇気なんていらんよ。ただの喫茶店」
「だって地下の店がどうなってるかわからないじゃん」
「わからんからって誰かが気づいてあげなきゃかわいそう」
「何それ?変なの」
「いいから行くで」
あたしは先に階段を一歩下りる。
「あ!」
声がしたので立ち止まると
絵里に手首をつかまれた。
「待ってよぉ」
- 8 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:44
- 階段は狭く2人並んで降りることはできなかった。
「なぁ、手が後ろに回って怖いんやけど」
「ダメです。離さないから」
「この階段急やからあぶないて」
「いいの!」
さっき「おいてく」と言ったのを根にもたれたらしい。
「愛ちゃん落ちたら、絵里が受け止めてあげる」
「絵里上やん。どうやって受け止める!」
「いいの!揚げ足取らない!」
……絵里。これは揚げ足やないで。
とかふざけてるうちに下まで無事に到着した。
ドアをカランと入った入り口スペースもやはり狭い。
「手ぇ離せ」
絵里がそれでも手を離してくれんかったから
あたしの手は背中をぐるり変な格好になってもうた。
「あ、愛ちゃん今日のオススメはいちごショートだって」
ショートケーキか……。
- 9 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:45
- ショートケーキ好きなんやけどなぁ。
「なぁ絵里」
「手は席に行ったら離してあげる」
「ほうやのうて」
「え?」
「ケーキのイチゴってどうやったらうまく切れると思う?」
……。
沈黙……か。そうだよね。
「どうしたの?突然」
「いや、なんでもない」
「その声はなんでもなくない」
「声は普通やって」
「ふぅん」
絵里がちょっと不機嫌な声を出した。
そして背中で手がパッと離されて
腕がぶらんってなった。
なんか
悲しくなった。
- 10 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:45
- 手を離したのは本当は
愛ちゃんの顔を前から見たくなったからだったけど
入り口はやっぱりせまかった。愛ちゃんはやっぱり遠かった。
角度的に斜め後ろから眺めるのが精一杯。
斜め後ろから見た愛ちゃんは
ドキってなるくらいきれいで、なんか脆そうだった。
ちょっと目線を落とすと、まつげがひらり。
唇は小さく結んだままの愛ちゃん。
「絵里はショートケーキ食べます」
「お、おう。あたしも」
反応が敏感だ。かまをかけてみたつもりだったけど
明らかに愛ちゃんの心の中では「事件」がおきている。
傍から見たら何てことない話であったとしても
この先輩は一人で大きく抱えて悩んでしまう。今回は
ショートケーキが「事件」を解くキーワードらしい。
「そういやぁさ、愛ちゃんってモンブランも嫌いだったよね」
「『も』て何?ショートケーキは好きやって」
「栗だって好きでしょう?」
「ほうやけど、ケーキに乗ってるとなんかムカつくんですよ」
愛ちゃん声が低くなった。
私は、ちょっと目を落として考えた。
……ケーキの上に何かが乗ってる。
- 11 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:45
- 席についてケーキを2つ
私が注文してすぐに沈黙になってしまう。
愛ちゃんは目を落としたまま、何も言ってこない。
愛ちゃんを乗せるような話題を探すも、結局思いつかずに
無為な時間だけが流れてようやく、
ケーキが運ばれてきた。
愛ちゃんはフォークの先でイチゴをころころさせている。
「ねぇ、食べないの?」
「ん……」
仕方がないので私はイチゴをフォークで刺して食べた。
「わ、おいしいよ!」
「なーんでイチゴだけ食べる!
ケーキと一緒に食べるからおいしいのに」
お、乗ってきた。ちょっと意地張ってみよう。
「絵里はケーキを上から食べるんです」
「えー。それやとスポンジだけの時ができてまうで。
もそもそになる」
「平気だよ。気にしなきゃ」
「でも、それやとクリームだけの時ができてまうで。
あまったるい」
「平気なの!」
- 12 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:45
- なんとなく空気戻せたかな、と思ったそのとき
愛ちゃんのケーキの上からイチゴがころり。
「あー!」
しかも勢い余って皿から飛び出てしまった。
「ほらぁ、もう早く食べないからだよー」
まぁお店のテーブルそんなに汚くはないから
頑張れば食べられるかもしれない。ってか3秒ルール!
私はひょいとイチゴをつかんで愛ちゃんのお皿にのせた。
「あうー」
愛ちゃんはテーブルに突っ伏してへばっていた。
「はい、大丈夫だから!拾ったから食べな」
「うーー、おねえちゃ〜ん」
……。
うっわ。お姉ちゃん呼ばれちゃった。
私は照れくさくて顔中が弛緩してしまった。
愛ちゃん顔が真っ赤になる。かわいい。
- 13 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:46
- と思ったらなんと
愛ちゃんはカバンをあわててつかんで立ち上がって
「え?ちょっと……」
そのまま走ってお店を出て行ってしまった。
「なによ……」
私はしばらく呆然としてしまった。
「お姉ちゃん」がまずかったらしいけど、
べつに私はそりゃ照れたけど、悪くはなかった。
だけど
それは愛ちゃんの中では新たな事件の勃発だったようだ。
二次災害というべきか。
「追いかけなきゃ」
お金を払ってお店を出て
さっき手をつないで降りてきた急な階段を駆け上っていった。
- 14 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:46
-
「だーかーら、そんなに気にすることじゃないって!」
「ガキさんひとごとだからそんなのんきに言えるんだよ」
もう
何なんですか。
久々のオフでめずらしく昼まで寝ちゃったと思ったら
いきなり電話で「どーしよー」と、愛ちゃんの声が聞こえてきたのだ。
まずは落ち着かせて状況を話すように言うと
愛ちゃんはベチャベチャと早口でそれまでにあったことを説明した。
「お姉ちゃんって呼んだだけなんでしょ?」
「やって絵里、イチゴ拾うんやもん」
「はぁ?もうね大丈夫だから。愛ちゃん言ってることいつも変だから」
亀のやつも慣れてるはず。平気でしょう。
「なんで変とかいうの?あたし本気で困ってるのに」
あ、あー。声が本気で哀しがってる。
- 15 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:46
- 「なんでガキさん真剣に考えてくれんの?」
「あのね愛ちゃん、落ち着け。落ち着きなさい」
「やってーせっかくケーキ教えてあげようと思ったのに
あたし食べないで出てきちゃったんだよ」
そういやイチゴとか言ってたな。
「愛ちゃん」
「ん?」
「ショートケーキって前に話してたやつ?」
「そう、それ思い出してもうて、もう普通でいられんかった」
ああ、なるほど。それでテンパったってわけか。
「うー、絵里に呆れられたー。あたしもう仕事できん」
おいおい……
「愛ちゃん。亀、別に平気だよ?」
「ほぇ、何が」
「うーんと、なんて言ったらいいかなぁ」
私は携帯を持ち替えてソファにひじをついた。
- 16 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:47
- 「その、亀ってさ。あんま意識してないよ。ていうか」
「?」
だめだ。説明になってない。落ち着け自分!愛ちゃんと一緒にテンパってどうする。
ひじをはなして身体を起こした。
「愛ちゃんはいっつも先輩後輩とか気にしすぎるんだよ。
お姉ちゃんって思わず呼んじゃったってことはさ、愛ちゃん」
受話器の向こうで愛ちゃんは沈黙してる。
私は
一つ頭をかいて言った。
「亀に甘えてみたいんじゃないの?
これまでずっと先輩らしくーって構えてたのに無理がきたんだよ。
愛ちゃんのそういう部分、亀は平気だと思うな」
この説得は上出来だったかも。と思ったら
「向こうが平気でもこっちがいかんのー」
だー!もう……
- 17 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:47
- 「もー!何でそう強がるかな。
素直になればいいの!亀にごめんって言って正直に話せよ!」
「そんなことできんて」
「ううぅ」
この方向での説得は手詰まりだ。
私は手を変えた。
「愛ちゃん、亀にケーキ食べて喜んで欲しかったんでしょ?」
「……うん」
「このままでいいの?台無しだよ。
あんた年上なんだから、ちゃんと謝って仕切りなおしなさいよ」
「年上なんだから」。そういうと意地っ張りモードの愛ちゃんは言ったとおりにする。
「…そうやね」
「はい、結論出た出た。今から亀探して、どっか別のお店に入んな」
「はーい」
電話を切った。「年上」。やっぱこだわってるんだよなー。
私は思わず、不満の独り言。
「私も亀と同い年なんだけど……」
- 18 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:47
- するとまた、携帯が鳴った。今度は何よ……
「ガキさぁ〜ん。どーしよー」
「おお、亀か?」
どいつもこいつも……
「なんかね、絵里がイチゴ拾ったら愛ちゃん怒っちゃって」
「はいはい、話は聞いてるから。大丈夫だから」
「なんか今日のオススメがショートケーキだって言ったとき
急に愛ちゃんテンションさがっちゃったんだよ。わけわかんなくて……」
「あー亀は聞いたことないんだ」
「何が?」
「知りたい?」
「知りたい」
これ、話しちゃっていいのかな?
後で愛ちゃんに怒られたりして。
ま、いっか。
私が怒られりゃ済む話だ。
- 19 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:47
- 「愛ちゃん家、妹いるでしょ?
小さい頃ね、両親がいなくて二人だけだった日があったんだって。
冷蔵庫の中にはショートケーキが一つあった」
「ショートケーキ……」
「そう。妹と半分こして食べようと思ったんだって。
だけどケーキの上のイチゴが上手く切れない。
ケーキごとぐしゃぐしゃにしちゃうんじゃないかって怖かったみたいでね」
「……愛ちゃんらしい」
亀がため息と一緒にそう言った。
「だから愛ちゃんはイチゴの所をよけてケーキを切った。
お皿の上には、イチゴつきのケーキとイチゴなしのケーキ」
「じゃあ、そのイチゴを」
「妹にあげた」
「やっぱり」
「本当は自分もイチゴを食べたかったんだと思うよ。
だけど自分はお姉ちゃんだから、妹にあげないといけない。
そのとき愛ちゃんは、自分の気持ちを抑えて姉らしく振舞ったわけだ」
自分の欲求は押さえつけて、姉として、我慢することを選択した。
「何?そんなことにこだわってたの?」
亀は呆れていた。
- 20 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:48
- 「私も思うよ。本当にどうでもいいこと気にしすぎる。
でも愛ちゃんは、ずっとそういう風に生きてきたんだよ。
自分の妹みたいなコを見ると、自分を犠牲にしてでも
何かしてあげたくなっちゃうんだろうね」
愛ちゃんの中の欲求は満たされないまま。
それでも頑張って意地張って辛くない振りをして
「亀にやさしくされて、これまで溜め込んでた気持ちが溢れたんでしょ。
やっぱり愛ちゃんだって、だれかに甘えたりしたいんだよ」
「そう、なのかな?」
「おお、そうだって。自信持て!」
愛ちゃんのそばにいるのは、今は亀の仕事だ。私に果たせることじゃない。
「今の愛ちゃんにとって、亀は寄りかかれるポジションなんだよ」
「そっか……ガキさん」
「何?」
「ありがと」
「どういたしまして」
電話が切れた。
まーったく困った二人だ。似たもの同士。
愛ちゃんの隣は、あのコがふさわしいのかもしれない。
「ちくしょー。もうあの二人には関わってやらないぞ」
私は誰も聞いてない強がりを言って
胸に広がるむなしさに気付かぬ振りをしてソファから立ち上がった。
- 21 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:48
-
電話を切ると私はまずコンビニで買い物をして
愛ちゃんを探し回った。
電話をしてもよかったけど向こうがどんな状態かわからないで
いきなり電話するのは避けたかった。
自由が丘は広くはない。
いくつかの通りを小走りに愛ちゃんを探していった。
変わった古着屋を過ぎた。
お洒落なカフェも走って過ぎた。
アクセサリショップのショーウィンドウも通り過ぎた。
この町、面白いんだな。
私は息を切らしながら、今度またここに来たいと思った。
今度は二人で一緒に来よう。二人で計画立てて来よう。
もう町のはずれという小さな角にきたとき
愛ちゃんを見つけた。向こうもこっちを探してたみたいだ。
「おう、絵里さがしたで。まったく……」
まだ強がってる。
本当に、この人は……
- 22 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:48
- 私は袋の中から箱を取り出した。
プラスチックの箱は中が見えた。
「ショートケーキ」
「そう、さっき愛ちゃん食べてなかったから。
コンビニのだからグレードは落ちまくってるけど」
そしてもう一つ。
袋の中から果物ナイフを取り出した。
「コンビニで売ってるナイフって高いんだね。初めて買った」
私は道端にしゃがみこんでケーキの蓋を開ける。
「絵里?」
私は手を引いて愛ちゃんも座らせる。
私は蓋を裏返しにして、その上にイチゴをつまんで乗せた。
「ケーキのイチゴを上手に切る方法」
- 23 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:48
- ケーキから一旦降ろしたイチゴを半分に切る。
その後、ケーキも半分にしてイチゴを乗せなおした。
「はい半分ずつ。こうやって切るんだよ。知らなかったの?」
「絵里……」
見ると愛ちゃんは顔をくしゃくしゃにしていた。
「な、泣いてるの?」
「ごめんなー」
私が頭をなでてやると、どうにか涙はこらえて愛ちゃんは笑った。
「愛ちゃん、食べよう」
「うん」
そうして二人、しゃがみこんだままケーキを手づかみで頬張った。
通行人からはとっても変な目で見られちゃったけど、まぁ……
「これはこれでおいしいね」
「今度はまたおいしい店教えてやる」
「絶対だよ。また連れてってよね」
「おう!」
- 24 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:49
- 愛ちゃんの秘密を探ろうとやって来た自由が丘。
私のチャレンジは、半ば成功、半ば失敗といったところか。
結局ガキさん頼っちゃったし……。
でも
これからは愛ちゃんのこと直接いろいろ聞いてやろう。
「なぁ絵里」
「何?」
「ナイフ買う金で、ケーキ2個買えたんやないの?」
「バカ!」
もう、愛ちゃんって人は……
「じゃあ残ってるの返してよ!
自分で買ってきて!」
「ええ〜なんでいじわるする!」
「もう知らない!!」
そのとき愛ちゃんが携帯を取り出して見た。
「お、ガキさんからや」
「何て?」
「『バカップルめ』って」
ガキさんありがとう。バカップルのデートはきっとこんな感じで
またどっかで行われていることでしょう。
「いいよねー」
「おう!」
- 25 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:49
-
おわり
- 26 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:49
-
- 27 名前:ケーキが三角形 投稿日:2006/03/06(月) 23:49
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