8 フェリスホイールでカウンセルを
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:18
- フェリスホイールでカウンセルを
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:18
- 緩やかに景色が下がっていく。向かいにはさゆが居た。
「わぁ」
さゆは窓の外を眺めて笑みを浮かべる。可愛いな、と
思った。顔も、その仕種も、あたしは持ってないし、出来ない。
「あぁ、どきどきしてきた。愛ちゃん平気?」
「全然平気」
さゆがまた笑った。そして地上から見上げてるえりの
しかめっ面がはっきりと見えなくなったところで。
「さゆ、悩みでもあんの?」
あたしから切り出した。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:19
- うきうきの外でのお仕事。
晴れ渡った空はジェットコースター向きで、まさに
絶好の絶叫日和だった。
もともと遊園地が好きなあたしは今日のロケが楽しみ
だったんだけど、えりとさゆは憂鬱そうな顔をして来た。
「うわーきっついな。最大落差40m」
「最大傾斜も70度って書いてあるよ」
それでも仲良しなふたりを先輩としてにこにこ見守ってた
あたし。オレンジのつなぎで腕なんか組みながら。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:20
- 何語で宣伝してんの?ってくらいに悲鳴だらけのえりが
ジェットコースターからふらふらで降りて来てロケ終了。
ちょっとだけ時間余ってるから、遊んで良いよ。
そうスタッフさんに言われてよーし乗ろうと意気込むあたしの
ポニーテールが後ろから引っ張られる。さゆだった。
「お姉ちゃん。ちょっと一緒に観覧車に乗って」
「え?」
なんだか真剣なさゆの、その早口にちょっと押され
ながらも「えりと乗らんでええの?」と言うと、さゆは
こくん、と言葉無く頷いた。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:20
- さゆは黙ったまま、左手の人差し指を唇にあてた。
その仕種がちょっと大人びて見えて、どきりとして、
そしてそんなポーズを持ち合わせてない自分に
ちょっと淋しくなった。あたしもう19なのに。
「お姉ちゃん。あの」
とか思ってたらさゆが切り出した。気がつけばもうすぐ
てっぺんだった。
「あのね」「ちょっと待って」「えっ?」「言っとくけど」
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:21
- 「キスはしねぇよ」
「えーさゆみは愛ちゃんとならしても良いですよぅ」
さゆはあはははと瞳を細めて、両手をゆるく組む。
色々な顔を持ってるさゆが、何だかとてもずるく見えた。
「さゆみは、あの、絵里のことが好きなんですけど」
つなぎを着てても可愛いなんて。
あたしがさゆと同じ歳の頃には、さゆのような魅力を
何ひとつ持ち合わせていなかった気がする――って
ちょっと待った。今何て言った?
「えっ?」
「さゆみ、絵里のことが好きなんですけど」
「えっ?」
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:21
- 「でも、そういう好きじゃないんですよ」さゆが身振りを
添えて否定する。「あくまで友達として、なんです」
「あぁぁ。あんまり驚かさんでよ」
「でも絵里は、こう。違う気が、するんですよ」
がくん、と揺れた。さっきまで上がってたゴンドラは
だんだんと下がっている。あぁ。てっぺんに居たと
過ぎてから気づいた。
「絵里はなんか、さゆみの事を」眉間に皺。「男の子を
好きになるように好きなんじゃないかって」
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:21
- なんか凄いんですよ絵里からのメールに返信すると
また返事が来てまた返すとまた来るんですよ絵里から
来たんだから絵里が受け取って終わらせれば良い
のに他にも雑誌とか見ながら何気なくあこれ可愛い
とか言うと次仕事場で会った時とかにちゃんと調べて
くれててあそれはもちろん嬉しいんですけど――
さゆの言葉が洪水のように溢れた。あたしが口を挟む
隙もなく続きそして最後。
「お姉ちゃんからそれとなく確かめてもらえません?」
次の瞬間、ゴンドラのドアが開いて、係員さんがはい
降りてくださーいと言った。景色、ほとんど見なかった。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:21
- やけに真顔なえりにさゆ借りちゃってごめんねと言う
間もなく、えりに腕を掴まれてあたしはそのまままた
観覧車に乗せられた。しかもさっきまであたしとさゆが
乗ってたゴンドラ。呆然とするあたしと呆然としてるさゆ。
係員さんは陽気にあらいってらっしゃーいだって。
今度こそジェットコースターに乗ろうと思ってたのに。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:22
- 緩やかに景色が下がっていく。向かいにはえり。
残されたさゆのふくれっ面がぼやけだしたあたり。
「愛ちゃんにぃ、お願いしたいことがあるんです」
ちろと一度唇を舐めてから、えりが切り出した。
「あの」「ちょっと待って」「えっ?」「言っとくけど」
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:22
- 「キスはしねぇよ」
「しませんよぉーまぁ愛ちゃんならしても良い気しますけど」
八重歯を覗かせてえりがころころと笑う。短めの髪を
左手で持ち上げ、耳にかけた。
似たような反応のふたり。可愛さの質は違うけど、その
根底は同じ気がする。ときどき見せる、年齢以上に
大人びた顔つきと仕種が。
「さゆのことなんですけど」
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:24
- 「絵里はぁさゆのこと好きなんです。あ、でも」言った
直後に逆接。「そういう好きじゃないですったら。もー
そんな変な顔しないでくださいよぉ」
普通のつもりだったんだけど、どんな変な顔してたかな?
あたし。
「でもさゆは、なんか。なぁんか絵里のことをまるで」
困ったような顔のえり。うわぁぁぁ。今すごくぴん、と
来た。頭ん中、びしっ、て繋がった感じ。
「男の子を好きになるように好き?」
「そう!そんな気がするんです」
がくん、と揺れてしまった、と思った。てっぺんに居た
と、また過ぎてから気づいた。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:24
- だってさゆからのメールに返信するとまた返事が来て
返すとまた来るんですよさゆから送って来たんだから
さゆが受け取って終わらせれば良いのに他にも雑誌とか
見ながら何気なくあこれ美味しそーとか言うと――
えりの言葉が滝のように降り注いだ。あたしはえりに
耳を寄せる仕種に見せかけてそっと横を向く。
晴れ渡った空。今度こそ景色を見てやるんだから。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:24
- おわり
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:24
-
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 12:25
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