3 crazy quilt

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/05(日) 01:35
3 crazy quilt
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/05(日) 01:53
朝起きたら家の周りがキノコだらけになっていた。

そんじょそこらのキノコじゃなく、思わず見上げたくなるくらいの高さのキノコ。
何かどこかで爆発があって、そんでもって人がいっぱい死んで、町中をおびただしい量の菌類キノコ類が埋め尽くしたらしい。
テレビで肝臓の悪そうなおじさんがやけにハイテンションでその様子を伝えていたのだけれど、あまりに興奮しすぎたのかそのおじさんは白目をむいて倒れてしまった。
しばらくおまちください、のテロップが流れ、やがてじゃみじゃみになってしまった。砂嵐、というやつだ。
他のチャンネルもだいたいそんな感じだった。あー日本も終わってしもうたな、そんな言葉が口をついて出た。
きっと外に出れば都合よくガキさんあたりが生き残ってて、二人で大型商業施設なんかを探索したりするようなストーリーが待ってるんだろうけど、あたしはあえてそうしなかった。
ここは福井だからガキさんなんているはずないし、近くの商業施設なんて平屋建てのスーパーまるみ屋くらいしかない。
でも何かしないと話は進まないしちょうどおなかもすいてきたから、床に生えてたど派手な色のキノコを食べてみた。

頭の中がレインボー7になった。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/05(日) 02:06
夢を見た。

満月のきれいな夜だった。
あたしは外に立っていて、目の前にはれいながいた。

「あれ、れいな何してるの」
「ちょっと充電」

充電?
意味が分からないのでれいなのことをずっと見ていると、段々とれいなの体が光ってきて、ついには夜空の星さえ脇役にしてしまうかのような輝きに包まれだした。
あたしも真似をして瞳を閉じてみたけど、当たり前のように何も起きなかった。どうして、と目の前にいるれいなに問いかけると、気合が足りないのだと言う。
充電、なんて普通の人間にはできないことだ。確かにあたしも「愛ちゃん普通じゃないよね」とか失礼なことを言われるけど、その普通じゃないとは次元が違うようだ。
とにかく後輩のれいなにできてあたしにできなことなんかあるはずない、と思って頑張って力んでたら、ぷぅ、と可愛らしい音が出た。れいなが屁こきたい、屁こきたい、と壊れた機械のように連呼するので、恥ずかしくなって余計にぶぶぶと漏れてしまった。それは予想以上に多く、目の前がもくもくと曇り始めてしまった。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/05(日) 02:25
目の前の煙が晴れると、そこにはれいなではなくしげみがいた。
夢だから何でもありなのか、何でもありだから夢にしたいのか。それとももう死の世界に旅立ってしまったのだろうか。

「のうしげみ。あたしは、死んでしもたんやろか」

しげみはこくん、と小さく頷いた。何てことだろう。まさか死んでるとは思わなかった。自分で聞いておいて何だけど、まさか本当に死んでるなんて夢にも思わなかったのだ。
あたしにはまだやり残したことがたくさんある。こんなに早く死ぬわけにはいかないんだ。

「何でもいいからあたしを生き返らせるがし!魔法でも何でも使って!」
「魔法…うーん、お姉ちゃんの頼みなら使えないこともないけれど」
「え!」

あたしの中に残っていた「ここは夢だから何でもあり」的思考が魔法、なんて口走らせたのだけれど本当に使えるなんて。何でも言ってみるもんだなあ、そう思った。

「じゃあ早く、早く生き返らせて」
「神様におねだりすれば一日か二日はできるかも……」
「何や、一日か二日か」

ぬか喜びとはこのことだ。一日や二日じゃ京極夏彦の本を読むことすらできない。
とにかくあたしは死んでしまった。死んだらあたしは何になるんだろう。生まれ変わるんだったらもっと可愛らしい女の子に生まれ変わりたい。
黒目がくりくりとした、色白でまんまるの女の子になるんだ。そして深夜のレストランで人目も憚らずシュボッ、と…

目の前が真っ暗になって、意識がゆっくりと融けていった。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/05(日) 02:34
水の中。
音の無い世界。
唯一聞こえる音は、自分の呼吸音。

もちろん肩を叩いてくれるような誰かは存在しない。そんなことをされたら話があさっての方向に行ってしまう。
どこかへ、移動してるようだった。
どこかから、どこかへ。
その昔、世界は水で満たされていたという。ならば、想像のつかない世界のどこかから、別の想像のつかない世界のどこかへ移動する時、そこは水に包まれた世界であってもおかしくないのではないだろうか。
理屈っぽいのは天上の神様がうまい言い訳を思いつかない時だ、そんなことを考えながら目を閉じてみた。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/05(日) 02:47
女の子たちの声が聞こえる。

あたし今日ガラスになっちゃったえーまじで毎月のことだけどやんなっちゃうよねうんそうそう中二の保健体育の時にスライドで授業やったじゃん、あん時さ憂鬱だったよね男子がエロい目で見てきてさ

意味がわからなかった。ガラスになる、って何だろう。毎月のことで保健体育で習うのは別のことだろう、と思わず言いたくなったけれど姿の見えない相手にそんな下らないことをいうつもりはなかった。そのまま押し黙って話を聞いていると、突然激しい硝子の破壊音が聞こえてきた。

まけられないのれす、ほかほかハンバーグのために。はぁはぁせいこうしちゃったね。バクハツマデアト20プン……この世の中には二種類の人間がいる。だってびいだまがなくなっちゃったんだもの。

いくつもの声が混じり、どたばたという足音が耳に響く。違う違う、明日はガラスになるだ明日はガラスになる。バカ、それは最後の誕生日だ。ディレクターみたいな人がADの頭を小突くような鈍い音が聞こえ、そして闇が晴れた。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/05(日) 03:01
あたしを待ち受けていたのは、血のように赤い空だった。
高層ビル群のシルエットが、フェンス越しにうっすらと見える。赤に覆われたそれは、まるで空に突き立てられたナイフのようだった。

「待ってたよ、タカハシアイ」

声をかけてきたのは、もちろん亜弥ちゃんじゃない。
黒くて、ひらべったい何かだった。それが夕陽に照らされて、辛うじて人の形を保っていた。

「あんた、誰や」
「きみの知ってる誰かでもあるし、きみの知らない誰かかもしれない」
「わけわからん」

あたしが目の前の人物の言葉の意味不明さに匙を投げようとした時。それはただの黒いぺらぺらだったはずなのに。わずかに笑みをみせたような気がした。

「何がおかしい?」
「いや、もう君は知ってるはずだろう。そう思ってね」

あたしは何も知らない。数々の世界を通り抜けてもなお、どうして自分自身がこんな目にあっているのかわからない。この先歌う機械や開かない踏切、暗闇を走り抜けるバスの中を通り抜けたとしても何を学ぶことができると言うのだろうか。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/05(日) 03:12
風が強い。夕焼けから吹き込んでくる風が、あたしの髪を、そして目の前のぺらぺらを靡かせる。

「今きみは、色々な可能性を秘めた世界に身を置いている。その気になれば世界を救う英雄にだってなれるし、悲劇のヒロインにもなれる」

黒いぺらぺらが、身を翻して言う。

「可能性」
「そう。可能性によっていくつも生み出されるきみ。何人ものタカハシアイ」

平行世界、という単語を思い出す。昔読んだ本が、そんなことを題材にしていた気がする。

「人がひらめいた数だけタカハシアイは生み出される。その中の一人が、きみだ」
「あたしが?」
「たくさんの世界。そのひとつひとつに存在する、無数のタカハシアイ。きみはその中のたったひとつに過ぎないんだ」

そんなことを急に言われても、と思う。いきなり自分がオリジナルではないことを宣言されて、いったいどんな反応を示せばいいというのだろう。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/05(日) 03:21
「要するに、だ」

段々と声が小さくなってきているのは、風が強いせいだろうか。それとも物語が終わりに近づいているせいだろうか。

「きみは、無数に存在するタカハシアイの存在を思いながら、生きていればいい。自分はオリジナルだ、という考え方は世間を知らない傲慢な人間の考え方に過ぎない」
「そんな」
「ただ、思うだけでいい。それだけで、きみ以外のタカハシアイは救われる。この世の無数のタカハシアイがそれを願えば、タカハシアイ全員が救われる」

黒いぺらぺらは、満足したようにほどけていって、やがてすっかり赤い空に消えていってしまった。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/05(日) 03:29
そして屋上には誰もいなくなった。
フェンス越しの夕陽が、ぺらぺらのいなくなった辺りのコンクリートを赤く染めていた。

ぺらぺらが言っていたことが本当のことかどうかはわからない。今だって、あたしが「タカハシアイ」だと胸を張って宣言したいくらいの気持ちでいる。
だけど、本当に無数のタカハシアイが存在していると言うのなら。
彼女たち全員が同じ思いを抱くのは、世界が平和でありますように、という願いと同じくらい果てしなく、遠い。でもそれと同時に思うだけなら誰にだってできるのでは、という気持ちになる。
ならばあたしもそう思おう。ことの真偽はそれほど重要じゃない。簡単なことならやればいい。ただそれだけのように思えた。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/05(日) 03:39
こうしてる今も、新しいタカハシアイが生まれている。
彼女は彼女だけの世界を与えられ、そして物語をつくってゆく。そんなタカハシアイがあたしを含め無数のタカハシアイを思ってくれる。そう考えるとなかなか悪くない想像だった。

さてあたしは。
これからどこへ流されてゆくのだろうか。石川さんと吉澤さんの名前をもじった変なテーマソングが流れる世界だけは嫌だな、と思ったけれどそればかりは「神のみぞ知る」なのだろう。
瞼の力を、少しずつ緩める。赤い夕陽はだんだんと小さくなり、やがて一本の線のようになって消えていった。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/05(日) 03:40
オマージュ
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/05(日) 03:41
リスペクト
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/05(日) 03:41
ぬっち

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