Metal body heroine

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 23:48
Metal body heroine
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 23:49
「だからさ、ごとー。世界は滅びるんだよ。」
そういって、いちーちゃんは寂しそうに笑ったね。

機械のカラダ。
死にかけてたごとーに、それをくれたことは感謝してるよ。
けどさ。
いちーちゃんがしようとしていることはまちがってると、思ったんだ。
そういったら、また寂しそうに笑ったね。
「わかってないなー、ごとーは」って言ってさ。
うん、わからなかったよ。
だからさ、ごとーはいちーちゃんの組織から逃げたんだ。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 23:49
セイギノミカタ。

そーいうのになるつもりはなかったけど。
ごとーのしたのは、昔テレビでみた、そーいうひとたちのしたのとよく似ていたんだ。
いちーちゃんの組織が送り込んだ、ごとーとよく似た人たちと戦って、倒す。
それはとても、つらくて恐くて、悲しいことだったよ。
ヒーローさんたちはつらくなかったのかな。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 23:50
ごとーは、やっぱり思ったよ。
いちーちゃんは間違ってるって。
ごとーを逃がしてくれて、助けてくれた村田さんや紺野。
ごとーを恐がらずに遊んでくれた梨華ちゃんやさいとーさん。
いちーちゃんが滅ぼそうとする世界は、そういう人たちが住んでいる世界で。
いちーちゃんの目指す世界は、そういう人たちが楽しく過ごせる世界だとは思えないから。
ワガママだと言われても、ごとーは、そう思うよ。
この前あった時、そう言ったら、またいちーちゃんは寂しそうに笑ったね。
「わかってないなー、ごとーは」って。
わからないよ。
わからないから。

ごとーは、今からいちーちゃんを殴りに行くんだ。

今からいちーちゃんを倒しに行くんだ。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 23:51
「ちがうよ、いちーちゃん。世界はもっときれいで、楽しいんだよ。」
そういって、後藤は笑った。
治療不可能な病に侵されたカラダを、我が組織の技術でサイボーグ化した彼女にはじめて会ったときのことだ。
病に夢と未来を奪われて、家族も友人も失ったはずの後藤の笑顔は、底抜けに明るかった。
この私、市井が、一瞬その言葉を信じそうになるほどに。

だが、私はその言葉を信じることはできない。
某国の独裁者が支配のためにつくりあげた巨大な電子演算装置。
独裁者が滅びた後も動き続けたそれの膨大なメモリーから生まれた存在。
機械の中から生まれたデータ生命が、この私、市井紗耶香だ。
昔からみてきた世界は、どこまでも醜く、人間はどこまでもあさましい。
この世界を滅ぼし、増えすぎた彼らを減らし、効率よく支配するのは――正しいことなのだ。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 23:52
後藤は、あまりに幼いゆえにそれに気づかないだけのこと。
彼女が組織から逃げたと聞いたときも、そう思った。
「しかたないなー、ごとーは」と。

時間は膨大にあった。
ゆっくりと、進めればよかった。
だからこそ。
見てごらん後藤。
あんたや、あんたのセンパイたちがどれだけ頑張って、
「秘密結社」や
「軍団」や
「教団」や
「財団」や
「組織」
を滅ぼしたとしても。
確実に世界は滅亡に向かっている。
私の、市井帝国の計画は着実に進行していたはずだ。。
彼女ひとりの抵抗など、なにほどのことでもなかったのだ。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 23:52
なのに。

私が彼女にこだわったのは何故なのだろう。
結果、戦力の逐次投入という愚を犯した私の組織は、大きな打撃を受けた。
藤本や吉澤といった幹部たちすらも、後藤に倒され、今、私自身が後藤の挑戦を受けることになっている。

私が、この市井紗耶香が、彼女にこだわったのはなぜなのだろう。
それは、まさか―――
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 23:53
破壊音。
思考が、途切れる。
「ひさしぶり。いちーちゃん。」
壊れた壁の中から煙とともに現れる影。

黒いレザースーツに身を包んだ髪の毛の長い女。
首には赤いマフラー。

「…ひさしぶり、ごとー。相変わらず乱暴だね。」
「こうでもしなきゃ、入れなかったからね。」
バチィッ。
後藤の拳から火花が飛んでいる。
確か――強化スタンガンが仕込んであるんだったか。
藤本がそれで倒されたことからしても、スタンガンとも言えるかも怪しい強力なものなのだろう。
後藤と一緒に脱出し、その後私の組織が殺した村田とかいう科学者が作ったと聞いた。
惜しい人材を無くしたものだ。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 23:53
「…紺野から聞いてるよ。いちーちゃんはデータ生命だから、そのカラダを倒しても無駄だってことを。だからいちーちゃんの今のカラダを倒したら、ここのコンピュータごとぶっ潰すからね。」
「外部との接続は、アヤカとかいうインターポール捜査官が切断しているんだろ?知ってるよ。」
「さすが、いちーちゃんだ。」
にっこり笑って、後藤は身構える。

相変わらず、底抜けに明るい笑顔だ。

「いちーちゃん、もうごとーは迷わないよ。――いちーちゃんを、倒す。」
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 23:54
相変わらずわかってないな。ごとー。

現在私が宿っている、この機械のカラダを椅子から立ち上がらせる。
「もう、ごとーが私を倒したとしても、世界は滅びるんだよ。もっとも、倒されるつもりも、ないけどね。」
身構える。
カラダから立ち上るオーラがうなり声をあげる。
轟。
なるほど、さすが我が組織が最後の力でつくりあげたカラダだ。
「――いくよ。ごとー、世界を滅ぼすために。」
そう言って私は、地面を蹴った。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 23:55
「ちがうよ、いちーちゃん。世界はもっときれいで、楽しいんだよ。」
あの日、機械のカラダで、どうしてあんなにきれいに明るく、彼女は笑えたのか。
同じ笑顔で、ごとーはいま私の拳を受け止めていた。

「…ちがうよ、いちーちゃん。世界は、滅ぼさない。だって、みんながいるから。
いちーちゃんも、ごとーも、みんながいるから。」
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 23:55


「――だから、世界は滅びない。」

13 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 23:56
         

           ――fin.

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