わたしの生徒手帳
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 17:42
- わたしの生徒手帳
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 17:42
- 新潟から東京の中学校に転校した小春ちゃんが、学校の制服のままで今日の仕事に来た。
何の変哲も無い紺色のブレザー。
「おはようございます!」
「おはよー、それこっちの学校の制服なんだ」
「そうですー」
「わたしも中学ブレザーだったなあ」
「紺野さんもですか?」
「うん」
もっとも、わたしも彼女と同じように転校したから、制服変わってしまいましたけどね。
楽屋の長テーブルとパイプ椅子。隅っこに座っていた私は、それらをざっと眺めてふと、
今日の楽屋ってこれから学校の委員会するみたい、と思う。
じゃがりこをポリポリしながら何となく小春ちゃんを見ていたら、私の隣に来て、テーブルに
重そうな鞄をドンと置き、立ったままブレザーの胸ポケットをごそごそ。
取り出したのは手の平サイズの、何かの冊子みたいだった。
「あれ、ケースどこやったっけ」
「ケース?」
「生徒手帳のです。今日新しい学校の貰ったんです」
おお、なるほどなるほどですよ。
わたしは思わず懐かしくなって、小春ちゃんにお願いしてその真新しい生徒手帳を見せて
もらった。
一ページ目に校章、次に校訓、その次に校歌。
何もかもが懐かしくて、わあわあ言いながらざっと読み終って顔を上げると、右手に手帳の
ケースを持った小春ちゃんがニコニコして立っていた。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 17:43
- 「あっ、ごめんね。はい」
何となく、卒業証書渡すみたいに、両手で厳かに持って手帳を小春ちゃんに返す。
「はぁい」
とのんびりした返事をして彼女はそれを受け取り、その時漸くパイプ椅子に腰を降ろした。
ガチャン、と大きな音を立てながら。
間延びした返事のわりに、動作がびっくりするほど大きいんだよね。
わたしは再びじゃがりこをポリポリしながら何となく小春ちゃんを見た。
さっき椅子に座った時とはうって変わって、慎重に慎重に、生徒手帳を茶色のケースに
収めている。表紙の部分を、ケースの内側のぴっちりしたビニール部分に息を詰めながら
スライドさせていた。それが終わると、ぷはぁ、と大きく息を吐いて。
最初は新品だからそうやって大事に大事にってやるけど、
だんだんボロボロになっちゃうんだよねえ……と心の中でだけ思う。
かくして手帳とケースは仲良く一体になり、小春ちゃんはそれを両手に持って、
「できたー」
と可愛い声で言った。
あんまり嬉しそうだったので、おめでとー、とつい言ってしまった。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 17:43
- 「あっ!」
「どうしたの?」
「まだ、まだでした!」
「まだ?何が?」
尋ねると鞄の中に顔を突っ込みそうな勢いで探りながら、お守りおまもり、と呟いている。
「お守り、あ、そっか手帳に入れるんだ」
わたしも中学の時そうやって、生徒手帳に色々なものを挟んでいたのを思い出す。
小春ちゃんの歳でもそういうのってやってるんだ。
なんだか嬉しい。
鞄の中からは、ピンク色の可愛いがま口が出てきた。玩具屋さんで売ってるような感じの。
ぱかっと開けて、覗き込んで、右手の人差し指と中指だけ突っ込んで、持ち上げた。
ニ本の指に挟まれて出てきたのは、なんと五百円玉。
「それがお守りなの?」
「そうです」
お守りって言うから、どこかの神社のが出てくると思っていたのに、お金なんだ。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 17:44
- 「これ小学校二年生の時からずっと持ってるんですよ!」
「そんなに前から?」
「お母さんが何かあった時はこれ使うんだよって持たせてくれたの、
ずっと大事にしてるんです」
「あー、二年生で五百円って大金だったよね」
「そうだから勿体無くて使えなくて、それに何かあった時のためにって、結局何も
無かったから。一回お母さんに返したんだけど、小春が持ってて良いって」
「それからお守りになったんだ。ていうかちゃんと使わないで持ってるのがすごいねぇ」
「だってバレたらお母さんに怒られちゃうし」
言いながら小春ちゃんは早速閉じたばかりの生徒手帳を開き、表紙裏側の、袋状になっている
ビニールケースの中に五百円玉を挟もうとする。
もともとこんなものを挟むために出来ているわけじゃないから、ちょっと無理矢理押し込んで、
ビニールの部分がピッチピチだ。
「これで小春の生徒手帳は完成!」
それでも彼女は手帳を顔の前にかざして、とても満足そうだった。
わたしも、家に帰ったら自分の生徒手帳を探してみようかな……
小春ちゃんみたいにお金は挟んでないと思うけど(あったらそれはそれで超ラッキーです。
昔の自分にありがとうです!)友達から貰った手紙とか、色々大事な思い出を見つけられる
ような気がした。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 17:44
- ☆
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 17:44
- その夜、わたしは自分の予想通り、机の奥から古くなってくすんだ手帳と、小さく折り畳んで
挟んであった手紙を発見した。
五期としてデビューが決まった時に貰った、友達からのお祝いの手紙(授業で貰ったプリントの
切れ端に書いてあって、シャープの文字が薄くなっていたけど辛うじて読むことが出来た)と、
転校が決まった時手帳のメモ欄に書いてもらった、みんなからの別れのメッセージと再会。
読んでいるうちに思い出した。
そういえば、こっちに来たばかりの頃はホームシックにかかって、よくこれとか他に貰った
手紙を引っ張り出してしんみりしたっけ……
いつの間にか読まなくなっていたんだ。
「成長したもんだ」
地元に帰ったら何とかして友達と会うことが出来るけれど、この時はそんな風には思えなくて、
永遠の別れのように思っていた。
今思えばちょっとお馬鹿さんだけど、実際、手帳にメッセージを書いてくれた人たちの半分にも
会えていない。
「……みんな今どうしてるんだろう」
もしかして知らないのは東京に居る自分だけ、っていうことも、あるかもしれない。
そう思うと、急に切なく、悲しくなった。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 17:45
- 五分後。
ただでさえボロボロだった手帳の一ページをふやけさせてしまったので、
慌ててまた机の奥の方にしまう。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 17:45
-
「また、会おうね」
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 17:46
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鼻を啜りながら抽斗を閉める時、
なんとなくそんな言葉が口をついて出た。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 17:46
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- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 17:46
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- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 17:46
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