40 悪魔の人形

1 名前:40 悪魔の人形 投稿日:2005/06/19(日) 23:56
40 悪魔の人形
2 名前:40 悪魔の人形 投稿日:2005/06/19(日) 23:57
ある日大学の帰り道で、人形を拾った。
薄汚れた、女の子の人形。
何を思ったのか、高橋愛その人形を抱き上げた。
ふっくら頬っぺに大きな瞳。
やけに人間に似たその人形を抱えて、高橋は帰路についた。

3 名前:40 悪魔の人形 投稿日:2005/06/19(日) 23:57

―――経過時間1日

高橋は朝食を食べていた。
いつもと変わらない、トーストとコーヒーを
いつもと変わらない、自分の部屋のダイニングで食す。
座った向かい側にあるテレビをぼんやりと眺めていた
高橋の視界に、一つ、昨日とは違った光景が納まった。
それは人形。
昨日帰路で拾った、女の子の人形。
汚れていたはずの全身は、洗浄により元の姿を取り戻していた。
すっと高橋が手を伸ばす。
人形の茶味が混じる髪の毛を、サラリと撫でた。
材料はなんだろう。
手触りがとても心地よい。
ふと、高橋は人形に微笑みかけ、視線をテレビに戻した。

人形の口角が微かに吊りあがる、その現象を、
高橋は気付かない。

4 名前:40 悪魔の人形 投稿日:2005/06/19(日) 23:57
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―――経過時間7日

最近身体がおかしい。
風邪という訳ではないのに、全身がだるかった。
医者に行っても特に異常は見当たらないといわれるのだが、
やはりだるいものはだるい。
それゆえに、高橋は今日、大学を休むことにした。
作ったお粥をひとさじ掬い、口に運ぶ。
それだけで、高橋はスプーンを食卓に置く。
ため息。
食欲まで無くなってきていた。
片付けもしないままに、高橋は寝室へと向かう。
ベッドに身を投げると、柔らかな反発が一度自分の身体を押し戻す。
ちらりと枕元を見た。
あれ、と。
首をかしげる高橋の視線の先には、あの人形。
目をこすってもう一度見てみる。
やはり、拾ってきたことよりも大きくなっているように見えた。
いよいよ危機感を感じ、高橋はそのまま眠りにつく。
30秒もしないうちに、睡魔が高橋を誘った。

人形の瞳がぎょろりと高橋を捉えたことを
高橋はどうしても気付かない。

5 名前:40 悪魔の人形 投稿日:2005/06/19(日) 23:58
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―――経過時間14日

全く身体が言うことを利かなくなってから、3日。
大学にたいした友達もいなかった高橋は、
一人寂しく自室のベッドで眠りについていていた。
正確にはただ寝転んでいるだけであり、
意識は現実に張り付いている。
もはや高橋の意思で動く部位はなくなっていた。

「そろそろですか」

耳元で小さな声が聞こえた。
眼球も動かせないので、それが誰であるかは確認できない。
しかし、不幸なのか幸いなのか。
相手側からわざわざその顔を確認させてくれた。

「気分はどうですか?」

表情を無に凍りつかせたまま、心中高橋は驚愕する。
それと同時に戦慄し恐怖した。

人形は高橋ほどの身長にまで成長し、高橋を覗き込んでいる。
動けない高橋は、この状況を理解できない。

6 名前:40 悪魔の人形 投稿日:2005/06/19(日) 23:58
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―――経過時間21日

紺野あさ美は、一つのゴミ袋を抱えている。
すれ違う人たちに社交辞令の挨拶を交わし、
規定のゴミ捨て場までやってきた。
そして、怪しい笑みを浮かべながら、それをどさりと放り投げる。
ゴミ袋ごしに、一つの小さな人形が透けて見えた。

だけど紺野は気にしない。
颯爽とその場を離れ、何処かへと向かう。
その何処かは、紺野にしか分からない。

7 名前:40 悪魔の人形 投稿日:2005/06/19(日) 23:59
『人の生気を吸い、人と成りえる。
 誰が呼んだか悪魔の人形。
 作ってしまった学者は恐怖し、それを廃棄処分した。
 しかし運よく生き残ってしまった、その人形は
 今復讐をはたしに向かう。
 何の関係も無い、一人の少女の生気をその身に取り入れて』

人形を拾ってしまったことがそこから既に歪みはじめていた。
高橋愛は、永劫の先、決してこれに気付くことはない。
8 名前:40 悪魔の人形 投稿日:2005/06/19(日) 23:59
オワリ

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