03 ななつの言葉ひとつの手

1 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 09:50
ななつの言葉ひとつの手
2 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 09:50
初めて自転車に乗れた日のこととか、全然憶えてない。
だけど市井ちゃんが熱く語ってて、おかげでわたしに唾が
かかりまくったのは憶えている。
「何でもそう。上手く出来るようになりたかったら、
 出来るまで練習するしかない。自転車とかそうだったろ?
 転んで擦りむいて傷つくって、それでも乗ったから憶えた。
 今はもう、その時の傷の痛さなんか忘れちゃってるけどさ、
 その時に傷つくのを怖がってたら、今でも乗れてないんだ」
市井ちゃんはもうわたしを見てなかった。
こぶしなんか握りしめて独りの世界へ入り込んでで、わたしは
なるほどと頷くのがせいいっぱい。
最後にやっと市井ちゃんはわたしに視線を戻し、笑ってみせた。
「諦めたらそこで試合終了だよ、って言うだろ?」
3 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 09:52
地方に行く時とか、わたしは市井ちゃんと一緒の部屋に
なることが多かった。市井ちゃんがわたしの教育係って
こともあって、だけど市井ちゃんはたまには圭ちゃんと
同じ部屋にもなりたかったみたいで、そんな時わたしは
聞き分けの良いふりして、なっちや真里さんに部屋を
交換してもらった。今日もそうして、なっちとふたり。
「真希はさ、すごいよね。
 何て言うかさ、歌もダンスもすごく頑張ってるじゃん?
 タイムリミットまでには絶対憶えてくるしさ。
 なっちは上手くいかないとすぐ投げ出したくなるもん。
 うん、ほんと真希ってばすごいと思う」
ベッドの上、まくらを抱きしめながらなっちがにこにこと
天使の笑顔を浮かべていった。
「きっと市井ちゃんのおかげだよ」
そう答えるわたしはもしかして、耳まで赤いかも知れない。
4 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 09:53
大浴場へ行く途中、ホテルのロビーで真里さんに会った。
真里さんはそこからの帰りだったようで、その顔がぽっと
紅く染まっていた。
「あれ、真希どこに行ってたんだよぉ?
 お風呂誘おうと思ったら部屋に居ないんだもんなぁ」
「ちょっと散歩してたんです。
 しまったな、部屋でじっとしてれば良かった」
「露天風呂とライオンの口がすっごいよ。あんなん初めて。
 まだ混んでないから早く行っといで」
真里さんが高い声で笑う。そしてわたし達は別れた。
散歩に行っていた、というのは半分本当で半分嘘。わたしは
外だと暗くて目立たないのを良いことに、ホテルの脇で
ダンスの ステップを復習していた。自信がなかったから。
5 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 09:54
早起きして散歩。するつもりがやっぱりステップの練習。
上手く出来てるんだろうか?
そう考えながら身体を動かしていると、圭織が向こうから
来た。浴衣を着て長い髪を結わえて滑るように歩いてくる
その姿はとても素敵で、どきどきしちゃう。
「おはよ。真希早起きだね」
「圭織こそ。あの、あのさ、朝から悪いんだけど、
 ちょっとわたしのステップ見てもらっていいかな?」
圭織は嫌な顔ひとつ見せず、気持ちの良い早朝の時間を
わたしのために割いてくれた。
もっと大きく踏み出したほうが格好良くなるとか、腰から
回ると動きがシャープになるとか、たまにやって見せて
くれたりもする圭織。
「当日になってこんなこと訊いててごめんね」
「でも圭織、訊かないで済ませるのの千倍は良いと思う」
彼女のことを天然とか機械とか幽霊とか言う人は、彼女の
魅力の千分のいちも見れてないんだ。もったいない。
6 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 09:54
裕ちゃんが「いただきます」と言って、わたし達も
それに続く。日本の朝ご飯って感じのメニューが、早朝の
散歩と合わさって、いくらでもお腹に入りそう。
ご飯を美味しく食べられるということは、なんて幸せ
なんだろう、なんて思ったりしていたら。
「ご飯が美味しいとそれだけで幸せやな」
「やだ裕ちゃん、まるでお婆ちゃんじゃん」
真里さんのひとことで、わたし以外が笑った。
「ほら見てみぃ。真希はええ子やな。
 お前らと違ってうちを笑ったりせえへんもん」
ぴん、と来た。これは裕ちゃんの試練。
気の利いたこと言わなくちゃ。キノキイタコトイワナクチャ。
でもわたしと言えば、えへへ笑いを浮かべるだけ。
7 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 09:55
ライブ会場に向かうバスで、わたしの隣は圭ちゃんだった。
「真希、昨日のホテルどう思った?」
私は人差し指を口唇にあてる。今度こそ、と昨日をしっかり
振り返る。そうだ、真里さんの。
「大浴場がすごかった」
「どんな風に?」
「映画みたいにさ、ライオンの口からごぉーってお湯が
 出てたしさ、あと露天風呂に入ったら、空に都会じゃ
 考えられないくらい星がキラキラしててぱぁーっと
 広がっててさ、それがすごいなぁって思った」
圭ちゃんは満足そうに微笑むとわたしの耳元で、まぁ
合格かな、とささやいた。
「今日もそうだけど、わたし達はお客様なんだから、
 呼んでくれた相手や場所の良い所や、そこの売りを
 すぐに見つけて答えられなきゃいけない。
 難しいけど、もしそれが出来たらまた呼んでもらえて、
 しかも更なる歓迎を受けることが出来る」
圭ちゃんがウィンク。わたしはもどす振りなんかしてみたり。
8 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 09:56
開演が迫ってるわけでもないのに、わたし達がバスを駆け
降りるのは気持ちが高ぶっているから。普段着を脱ぎ捨て
煌めく衣装に着替えると、ステージから聞こえるざわめきを
背に、わたし達は円陣を組んだ。
問いかけてくれた人が手を差し伸べて、その上に
教えてくれた人が、誉めてくれた人が、ヒントをくれた人が、
見ててくれた人が、確かめてくれた人が。
手、手、次々と手を重ねていく。
そして最後。むっつの手の上にわたしも手を重ねた。
みんなに支えられてこの場所に居るわたし。ありがとう。
裕ちゃんが叫んだ。「がんばっていきまっ――」
「しょい!」ななつが、ひとつに。
9 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 09:58
love love love machine
10 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 09:58
love love love station
11 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 09:58
love love love factory
12 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 10:00
love love is so wonderful
13 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 10:03
dance dancing all of the night
14 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 10:04
15 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 10:04
16 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 10:04
17 名前:ななつの言葉ひとつの手 投稿日:2005/06/11(土) 10:04
love machine

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