32 とある夫婦の生活(くらし)

1 名前:32 とある夫婦の生活(くらし) 投稿日:2005/03/20(日) 22:26

32 とある夫婦の生活(くらし)
2 名前:32 とある夫婦の生活(くらし) 投稿日:2005/03/20(日) 22:27
 悔いが全くなかった、と言うと嘘になる。だけどあの時、私には他に
選択肢がなかった。
 物理的な話をすれば、本当にはあったんだと思う。むしろ周りの人た
ちからはそっちを勧められて、みんなそっちを選ぶものと決めつけてる
節があった。それも当然のことに違いない。だってあの頃、私たちのグ
ループは紛れもなく国民的アイドルで、それは当分揺るぎないことは予
測がついたから。
 生活に暇はなかった。旦那が忙しいせいもあって、憧れていた新婚生
活のようなものは一切なく、八ヵ月後には家族が増えた。
 夜鳴きはするし、熱は出すし、おしっこもうんちもした。その度に私
や主人はハラハラして、睡眠時間は削られてイライラして、募ったスト
レスで、恋愛と生活は別物というのは本当だったんだって思い知らされ
た。夫婦喧嘩は耐えなかった。
3 名前:32 とある夫婦の生活(くらし) 投稿日:2005/03/20(日) 22:28
 月日は流れ、夫の所属していたバンドは解散した。家庭に費やせる時
間は増えて、子供は三人になり、四六時中目を離せない時期は過ぎた。
手の空いた時間、私はテレビに出演や雑誌の取材、コラムに費やすよう
になった。
 それを本職にしているわけじゃない。だから、焦って仕事をつめ込む
必要もない。その程度には依頼があった。だから、ペースやバランスを
崩さないでいられるのだ。
 時々、思う。それは真夜中。目を覚ました私が上半身を起こし、隣で
眠っている夫を見おろしながら、ハッとして思う。元々私はこの人のバ
ンドのファンだったのだ。それはもう、コピーバンドを結成するくらい
に。その人が隣にいて、子供を三人も作っておきながら、そのことはと
ても不思議だった。
 そんな私の不思議をさとったのか、娘が目を覚ました。何が不安なの
か、めずらしくグズついた。のどが鳴り、呼吸もままならないけれど、
彼女は自分の意思で身体を動かし、汚らしく鼻水を流している。
 それをティッシュで拭い、抱きよせてあやしながら、その吐息を胸に
感じながら、私はふと、確信するのだった。
 やっぱりあの時、私には他に選択肢がなかった、と。
4 名前:32 とある夫婦の生活(くらし) 投稿日:2005/03/20(日) 22:28

おしまい
5 名前:32 とある夫婦の生活(くらし) 投稿日:2005/03/20(日) 22:28
 
6 名前:32 とある夫婦の生活(くらし) 投稿日:2005/03/20(日) 22:28
 
7 名前:32 とある夫婦の生活(くらし) 投稿日:2005/03/20(日) 22:28
 

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