31 さゆとさとやの照れ隠し
- 1 名前:31 さゆとさとやの照れ隠し 投稿日:2005/03/20(日) 22:19
- 31 さゆとさとやの照れ隠し
- 2 名前:31 さゆとさとやの照れ隠し 投稿日:2005/03/20(日) 22:20
- お留守番しててねと、二人のお母さんが言い残して出て行った部屋には、さゆみと聡也君が残されました。
聡也君は、さゆみの従兄弟のお姉さんの息子です。
今年で5歳になります。
赤ちゃんの頃に会ったことがあるだけで、聡也君が物心がついてから、さゆみと会うのは初めてでした。
さゆみにはお兄ちゃんがいるし、小学校も中学校も周りに男の子はいました。
けれども、こんな小さな子を前にしたのは初めてでした。
それでも、お姉ちゃんだから、さゆみは聡也君の面倒をちゃんと見ようと思います。
「聡也君」
いつもの10倍は可愛い笑顔で、さゆみは呼びかけます。
今の私、すっごくかわいいと、さゆみは自分で思いました。
- 3 名前:31 さゆとさとやの照れ隠し 投稿日:2005/03/20(日) 22:21
- でも、聡也君はブスッとした顔で黙っています。
一人っ子の聡也君は、大きな女の人なんて、幼稚園の先生かお母さんくらいしか免疫がありません。
ましてや、知らないお家に、知らない人と残されたのです。
普段人見知りしない子でも、人見知りをして当然です。
けれども、さゆみの頭は、私がかわいすぎるから、照れてるに違いないのと、まったく別のことを考えていました。
再度呼びかけます。
今度はいつもの5倍くらいの可愛さに、本人は抑えたつもりでした。
それでも、やっぱり一番可愛いことには変わりないと、本人は思っていました。
「ブス」
聡也君の口からでたのは、その言葉でした。
その言葉はさゆみの耳に、激しいエコーを伴いながら入っていきました。
頭に響くその声が消えていくのと入れ替わるように、さゆみの目からはたくさんの涙があふれてきました。
「さゆは、かわいいもん」
涙声で叫ぶさゆみに、聡也君はとっても驚きました。
- 4 名前:31 さゆとさとやの照れ隠し 投稿日:2005/03/20(日) 22:21
- ◇
「ごめんなさい」
「さゆは、ブスじゃないもん。一番かわいいもん」
10分経っても、まだしゃくりあげているさゆみに、聡也君も泣きそうな顔になりながらも、ただただ謝って、さゆみの頭をナデナデしていた。
「さゆ、かわいい?」
「え……」
答えに詰まる間にも、じっと聡也君を見上げるさゆみの目に、涙が溜まっていく。
「かわいい?」
再度たずねるさゆみに、聡也君は少しドキッとしました。
「か、かわいい」
「本当?」
「う、うん」
「やった。やっぱりさゆはかわいいの」
両手を頭の上でピースする、通称うさちゃんピースをしながらピョンピョン跳ね回るさゆみ。
聡也君は、そんなさゆみの姿を見て、心が少しきゅっとなって、でも温かくて、少し不思議な気分になりました。
- 5 名前:31 さゆとさとやの照れ隠し 投稿日:2005/03/20(日) 22:22
- ◇
「ねぇねぇ聡也君、おままごとしようか?」
そうです、お母さんが帰ってくるまではまだまだ時間はあります。
さゆみは、その間聡也君の面倒を見ようと心に誓っていたのです。
そこでさゆみは、自分が子どもの頃にやっていたことを思い出して、聡也君に提案してみました。
しかし、聡也君は男の子です。
おままごとよりも、怪獣ごっこはキャッチボールの方が面白いに決まっています。
けれども、聡也君は「うん」と言いました。
それは、聡也君がさゆみにもう泣かれたくはないからです。
それに、「わぁ、やろうやろう」といって喜んでくれるさゆみの笑顔を見ていたら、聡也君はお母さんに誉められたとき以上にうれしくなったからです。
「僕、お父さん。さゆお姉ちゃんはお母さん」
聡也君が提案します。
お母さんと言った時に、なぜか聡也君はドキッとしました。
だけど、そんな聡也君の思いとは裏腹に、さゆは言います。
「さゆ、お姫様なの」
「お姫様?」
聡也君は自分の知っている知識を総動員して、お姫様というものを想像します。
金色の髪飾りと、フリフリの白いドレス。
笑顔のさゆみの顔をそれに当てはめると、聡也君の顔は真っ赤になりました。
- 6 名前:31 さゆとさとやの照れ隠し 投稿日:2005/03/20(日) 22:22
- 「じゃ、じゃあ僕、王子様やる」
お姫様の相手役といえば、王子様に決まっています。
王子様に立候補した聡也君の心臓は、バクバクと鼓動を早めました。
それでも、さゆみはまたまたそんなことを知る由もありません。
「王子様は、白馬に乗って、身長180cm以上で、及川さんより格好よくて、強くて、やさしい人じゃないといけないの」
聡也君は5歳です。
及川光博より格好いいかは別にして、白馬なんて絵本でしか見たことがありませんし、身長もさゆみの半分ほどしかありません。
「だから、聡也君は召使いなの」
訳もわからないままにショックを受けている聡也君に、さゆみはそう言い放ちました。
- 7 名前:31 さゆとさとやの照れ隠し 投稿日:2005/03/20(日) 22:23
- ◇
「うーん、さゆ、肩こっちゃった」
「は、はい」
哀れな召使い聡也君は、さゆみお姫様の肩を叩く破目になりました。
いつもお父さんに肩を叩いてあげている聡也君にとっては、肩たたきは得意なことです。
さゆみが喜んでくれるようにと、一生懸命叩きました。
しかし、またここでも聡也君に悲劇が起こります。
さゆみとお父さんでは体が違いすぎるのです。
だから、いつもどおり叩くと、さゆみにとってはすごく痛いのです。
案の定、さゆみからは「痛い」という言葉が連呼され、聡也君はパニックに陥ります。
「もう、叩くのはいいから、揉んで欲しいの」
「揉む?」
聡也君の知らない単語が出てきました。
肩を揉むという行為が、どういうことをさすのか、聡也君は全く知りませんでした。
「こうやるの」
さゆみは聡也君の後ろに回りこんで肩を揉みます。
だけど、聡也君は肩をこっていないので、いくらさゆみが揉んであげても何も感じません。
だから、さゆみは少しずつ力を強くしていきました。
- 8 名前:31 さゆとさとやの照れ隠し 投稿日:2005/03/20(日) 22:24
- 「痛いよ」
ついに、聡也君はさゆみの元から離れました。
けれども、さゆみは不服だったのか、もう一度聡也君を引き寄せ、逃げないように後ろから抱きつきます。
さゆみのいい香りが、聡也君を包みます。
それと共に、聡也君は背中にやわらかい感触を感じました。
それが何であるか、聡也君は知っています。
でも、お母さんのそれと違ってすごくドキドキしました。
ドキドキはどんどん早くなって、大きくなって、顔は真っ赤になります。
背中は汗でびっしょりになり、何もわからなくなってきます。
さゆみは、動きを止めた聡也君の肩を揉みます。
ギュッギュと握る力が、痛いとは感じなくなり、次第に気持ちよくなって来ました。
非常にまずいです。
聡也君は、若干5歳にして、早くもそれに目覚めようとしているのです。
このまま大人になれば、聡也君は、一生鞭に打たれて過ごすことになるかもしれません。
けれども、それを止めたのは、のぼせた聡也君の鼻から垂れた、一筋の赤い液体でした。
- 9 名前:31 さゆとさとやの照れ隠し 投稿日:2005/03/20(日) 22:24
- ◇
「ごめんね、さゆみちゃん。聡也が迷惑かけちゃって」
「いえいえ」
先ほどとは違う、少し大人ぶったさゆみの声。
聡也君は、なぜかすごく寂しくなりました。
「また遊ぼうね」
差し出された手を、聡也君はためらいました。
これでお別れというのが、聡也君にはすごく悲しかったのです。
「ほら、聡也、お姉ちゃんに挨拶しなさい」
「聡也君、どうしたの?」
お母さんに背中を押され、さゆみに顔を覗き込まれ、顔を真っ赤にさせた聡也君。
ギュッと一度目をつぶると、大きな声で言いました。
「ぼ、僕、王子様になるから。それで。さゆお姉ちゃんと結婚するから」
お母さんたちは、目を丸くしました。
でも、さゆみだけは笑って、「うん」と言ってくれました。
それから、聡也君の頬に、さゆみはキスをしました。
- 10 名前:31 さゆとさとやの照れ隠し 投稿日:2005/03/20(日) 22:25
- ◇
それから、聡也君は、自分の持っている木馬をクレヨンで白く塗って、毎日牛乳を飲み、及川光博の出ている富豪刑事を欠かさず見ようと夕日に誓ったのです。
だけど、木馬を塗っているところを、お母さんに見つかり「お祖母ちゃんに買ってもらったものに、何してるの」と怒られ。
牛乳を飲むとお腹をこわす聡也君は、結局牛乳を飲むことができず。
富豪刑事は既に最終回を迎えていましたとさ。
聡也君がさゆみの王子様となる日は、来るのでしょうか?
- 11 名前:31 さゆとさとやの照れ隠し 投稿日:2005/03/20(日) 22:25
- おしまい。
- 12 名前:31 さゆとさとやの照れ隠し 投稿日:2005/03/20(日) 22:26
- 从*・ 。.・从<さゆはかわいいの
- 13 名前:31 さゆとさとやの照れ隠し 投稿日:2005/03/20(日) 22:26
- 从*・ 。.・从<さゆはお姫様なの
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