25 俺と彼女と彼女の関係

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:47

25 俺と彼女と彼女の関係
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:48
「あ、ミキティだ」
「うそっ、どれっ」

俺の一言で、ソファでうだうだと雑誌を見ていた亜弥が勢いよく起き上がった。
それは、まるで獲物を狙った動物のような速さで。

「・・・なんだ、違うじゃん」
「違わねーよ、安藤ミキティだよ」
「違う・・・たんじゃないもん」

プーッと膨れて、亜弥は再びソファに寝転ぶ。
テレビには、世界フィギュアで滑っている安藤選手の姿。

楽しそうに滑っている姿は、世界の舞台で戦っているようには見えない。
ツーッと軽々滑って、美しくジャンプ。
マジ、すげえ。

「ね、お前も見れば?すげえよ」
「いい」
「あっそ」

せっかく久しぶりに会えたのに、なんだよその態度。
あ〜、つまんない。

だいたいさぁ、俺って亜弥の何?
ずっと前から考えてる。

もう1年以上付き合ってるけど、亜弥の心の中にはいつも『たん』がいる。
「今日、『たん』がね・・・」
「明日は『たん』の誕生日なの」
「ここ、前に『たん』と来た」

会話に『たん』が出てこない日はない。

どうせアレだろ?
今日機嫌が良くないのも、どうせ『たん』と喧嘩したとかだろ?
久しぶりに会った彼氏といるよりも、『たん』の事が気になってるんだろ?

あ〜、おもしろくねえ。
なんで俺、彼女の女友達にヤキモチ妬いてんだよ。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:48
「ねえ、亜弥?」
「なに?」
「藤本さんってさぁ、どんな人?」

突然の俺の質問に、亜弥が怪訝な顔して起き上がる。

「なんで?」
「いや、なんとなく」

いつも気にはなっていた。
亜弥がそんなに大事に思っている人が、どんな人なのか。
でも、なんだか聞けずにいた。
・・・くやしいから。

「実はさ、今日、テレビ局で会ったんだ。偶然」
「うん、それで?」
「そしたら藤本さん、すっげー俺のこと睨むの」
「・・・」
「俺、嫌われてる?」
「ん〜・・・」
亜弥は考えるようにして、床に座ってる俺の隣に降りてきた。

「たんはねぇ・・・」
思い出すように話し始める亜弥の表情が、急に柔らかくなる。

「私のことが大好きなんです」
そう言うと、俺の顔を覗き込む。

「妬ける?」
「・・・妬けない」
「ふ〜ん・・・」

ニヤッと笑って俺を見る。

「それでね、私もたんのこと大好きなの」
「ふ〜ん」
「家族以外の人だと、一番好きなくらい」

ムッ、それはちょっと嫌かも。

「じゃあ、俺は?」
「ん〜、慶ちゃんは、パパ以外の男の人の中で一番好き」
「それって微妙じゃねえ?」
「そう?」

そう?って・・・。
おかしいだろ、それ。

「俺よりも藤本さんの方が好きってことだろ?」
「そうだよ。でも、たんは女の子だから慶ちゃんとは違うの。だから、いいの」

あー、そうですか。
トクベツなわけね、藤本さんは。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:49
「でもね、最近たんがおかしいの…」
そう言って、顔を曇らせる亜弥。

「おかしいって?」
「電話も出てくれないし、メールも返ってこないんだ」
「忙しいんじゃないの?」
俺の言葉に、ブンブンと大きく首を振る亜弥。

「今までだって忙しかったのにちゃんと返ってきたもん。電話だって着歴見たら電話くれたもん」
「喧嘩とか、した?」
「してないよ。最後にメール着たのは・・・」
パカッと携帯を開いてピピピといじる音がする。

「あ、あの日だ。写真出ちゃった日。あれ?でもこれ読んでないかも」

そう、あの日は大変だった。
数日前から出るのは聞いてたけど、いろんな人に色々言われたりして・・・。
事務所もバタバタしてたみたいだし、亜弥とも連絡取れなかったりして。

「あの日さ、いろんな人からメール来てもう大変だったの」
そう言いながら、亜弥がメールを目で追い始める。

俺もあの日は、メールも電話もガンガンかかってきた。
でも、電話もほとんど出なかったし、メールも適当に読み流してた。
あとで返信しようとか思っているうちに忘れたのだって何件かあるはず。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:49
「ん?ね、これ、どういう意味だと思う?」
そう言って携帯を俺に差し出す。

その画面には、
『もし、何かあっても仕事は辞めちゃダメだよ。
 美貴は、テレビで輝いてる亜弥ちゃんが大好きだったから』

「これって・・・さようならってこと?」
声を震わせて俺の腕をキュッと掴む、細い亜弥の指。

「まさか、考えすぎだろ」
「でも、過去形だよ?ねえ、どういうこと?」
「わかんないよ。お前、それっきり藤本さんに会ってないの?」
「だって、たん、モーニングさんのライブリハで・・・・・・」

・・・なんか、嫌な予感。

「何かあってもって、まさか・・・・・・」
「え?」
怪訝そうに俺の顔を見る亜弥。

「藤本さんって、キレやすかったりする?」

それに、ナイフとか刃物の扱い上手かったりとか・・・。

「たんは、私がどんな我侭言ってもキレたことないよ。
 あ、でも、北海道にいた時、喧嘩してカッターで切ったとか切られたとか言ってたかも」

って、ヤバイじゃん、それ。
あの時の藤本さんの鋭い目つきが頭をよぎる。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:50
「でも、なんで?」
「いや、別に・・・」

もしあの時、俺が涼平に呼ばれなければどうなってたんだろう。
藤本さんの近くには、モー娘のメンバーいなかったみたいだし。
っていうか、タレントクロークにモー娘の名前あったか?

いや、でも、楽屋使わないことだってあるし・・・。

「どしたの?難しい顔しちゃって」
「いや、なんでもない・・・」

そうだよ、うん。
偶然、たまたま彼女はあそこにいただけだよ。
まさか、ねえ、アイドルやってる藤本さんが亜弥をめぐって俺を殺すとか・・・・・・ないよね?

「あー、やっぱりたん携帯切ってるぅ」
プーッと頬を膨らませて携帯画面を見つめる亜弥。

「ねえ、おなか空いちゃった」
と、渋々携帯を閉じてニャハッと笑うと立ち上がる。

「コンビニ、行こうよ」
「え、それってマズくない?」
「大丈夫だよぉ〜。それに、もう写真出ちゃったって事は公認ってことでしょ?」

そんなに気楽なもんで良いのかな?
俺は良いけど、亜弥は事務所から何か言われてないの?
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:51
「いいのいいの。行こっ」
さっさとコートを着て帽子を被ると、玄関へ俺を引っ張る。

仕方ないか。
たまにはコンビニ行くのも普通のカップルみたいで良いかな。

マンションからコンビニまで、歩いて5分。
すっかり暗くなっているから、人目もそれほど気にならない。

けど・・・なぜか視線を感じる。

亜弥はそんなこと気にもしていないみたいだけど、どこかで誰かが見ている。
カメラマンか?
いや、それならマンションから出てきたとこを撮るよね?
取り合えずコンビニに入っちゃえ。
さっさと買い物済ませて、部屋へ帰ろう。

雑誌コーナーで立ち読みしながら、チラッと外を探る。

・・・・・・藤本さん?

今、さっと隠れたのは、帽子を被った女の子らしき人影。
体の線も細そうだったし・・・。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:52
「どったの?」
カップ焼きそばとか飲み物をカゴに入れた亜弥が、不思議そうに俺を見る。
それには何も答えず、雑誌をカゴへ放り込む。

見間違えかもしれないし。
そうだ、見間違えだよ。
だって、ここに藤本さんがいるわけないじゃん。
そうだよ、考えすぎだよ、俺。

会計を済ませて、元来たマンションまでの道を戻る。
そっと後ろを見ても、藤本さんらしき人影はなさそう。

・・・勘違いか

そう、ホッと一息ついたとき―――

「お前さえいなければぁぁぁぁぁ!!!」

大きな声と共に大きな足音が近づいてくる。

ドンッ

大きな衝撃が体に走った。

ゆっくりと前に倒れこむ自分の体。
まるでスローモーションのようにゆっくり周りの景色まで見える。

びっくりした顔の亜弥。
落ちるコンビニの袋。
袋から転がり出るペットボトル。。
そして、近づいてくるアスファルトの地面。

ああ、本当にこういう時ってスローに見えるんだ・・・・・・。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:52
「イーヤァーーーー!!」

泣き声とも悲鳴ともつかない亜弥の声が、大きく響き渡る。

視界の隅に、地面に落ちる血のついたナイフが見える。
そして、バタバタと大きな足音が遠ざかっていく。

ああ、俺、藤本さんに刺されたのかな。
俺、まだ20年も生きてないのに・・・。
でも、結構いい人生だったかも。
好きだったアイドルとも付き合うことできたし。
歌もダンスもたくさんしたし。

「嫌ぁー!ね、目を開けてよー」
亜弥の悲鳴が段々と大きくなってるように感じる。

「ねー、たんっ。美貴たんっ」

え?
俺の名前じゃない?
美貴たんって・・・。

目をゆっくり開くと、俺の隣で倒れている藤本さん。
その藤本さんを抱きかかえるようにして泣いている亜弥。
藤本さんのお腹は真っ赤に染まっていて、亜弥の手も真っ赤だ。

あれ?俺、どこも痛くないかも。

「慶ちゃん、救急車呼んでっ。たんが死んじゃう!!!」
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:52


◇ ◇ ◇ ◇
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:53
綺麗に整備された夜の無い病院。
本来なら、静かに人気のないはずのロビーに押し寄せる、たくさんの報道陣。
病院内からスタッフが大声で「中へ入らないでください」と叫んでいるのが聞こえる。

――あれから3時間以上経って、やっと事情聴取やらお説教から解放された。

「なんか、大騒ぎになっちゃったね」
力なく笑う藤本さん。

まだ、点滴とかが付いていて痛々しいけど・・・よかった。
傷は思ったよりも深くなく、数針縫った程度で済んだらしい。

「ほんと、ありがとうございました」

いくら頭をさげても足りないくらいだ。
女の子に助けてもらうなんて情けないけど。

さっき刑事さんから報告があったけど、犯人は亜弥の熱狂的なファンだったらしい。
あの写真誌を見て、逆上した・・・とのこと。
そして、たまたまあそこにいた藤本さんが助けてくれた。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:53
「たん、大丈夫?痛くない?」
亜弥は心配そうに藤本さんの手を握って見つめている。

「大丈夫だよ。ほら、彼氏が見てるから」
苦笑して、握られた手を離そうとする藤本さん。
それを気にせず離そうともしない亜弥。

「たん、ほんとに痛くない?」
「大丈夫だってば」
「ほんとにほんと?」
「ほんとにほんとにほんとだから」

そんな二人の会話に少し愛を感じてしまう。
でも、嫌じゃない。
なんか、仲良し姉妹って感じだなー。

「ねえ、どうして連絡くれなかったの?」
「あー、携帯ね、壊れちゃったんだ。で、めんどくさくって新しいの買ってないの」
「なーんだぁ、どうして言ってくれなかったのぉ?心配しちゃったよぉ」
と、まるで彼氏に甘えるかの様な亜弥。
藤本さんは、やれやれと諦め顔。

なーんだ、結局、亜弥の早とちりだったのか。
よかったじゃん、嫌われたわけじゃなくて。
きっと、「何があっても〜」も、深い意味はなかったんだろうね。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:54
「あ、藤本さん」
「ん?」
亜弥を見つめる目が、俺の方へ向く。
それと一緒に俺を見る亜弥。

「なんであの場所にいたんですか?」
「え?・・・ああ」
フッと目を細める藤本さん。

「たんのマンション、あそこの傍なんだよねー?」
藤本さんより早く答える亜弥。

「コンビニ行こうとしたらキミと亜弥ちゃんが見えたから。行くのやめたの」
「なんで?たんも来れば良かったのにぃ」
「んー、なんか友達が彼氏といるとこって恥ずかしいじゃん?」

だから、俺を見て帰ろうとしたのか。納得。

「じゃあ、どうして昼間、俺のこと睨んだんですか?」
「え?美貴、睨んでないよ?」
「ほら、昼間、テレビ局で」

え?という顔で、考える藤本さん。
とぼけてるというよりも、本当にわからないっぽい。

「たん、目つき悪いからねぇ〜」
茶化すようにニャハハと笑う亜弥。

「睨んでないけど、見てたよ。あ、亜弥ちゃんのカレシだぁって。
 でもさ、ちゃんと話したことないから、話しかけるべきなのか迷ってたんだ」

あー、ホントに睨んでなかったんだ。
ってことは、かなり目つき悪いよ、藤本さん。
亜弥といる今は、こんなに優しい目をしているのにね。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:54
「なーんだ、じゃあ、俺のこと刺そうとか思ってたわけじゃないんだぁ」
「はぁ!?」
「ちょ、何言ってるの、慶ちゃん?」
「いや、あの睨みは、マジ怖かったから」

あ〜、よかった。
だいたい、いくら仲良しだからって、その彼氏刺したりしないよね。
ましてや女の子同士だし。

ほら俺ってもともとあややファンじゃん?
あややとミキティっていったら、ファンの間じゃ相当噂になってたし。
俺も亜弥と付き合っていながら、気になってたわけだし。

あ〜、ちょっと残念だけど、嬉しいや。

「あのー、ちょっといいですか?一人でなんだか楽しそうですけど」

突き刺さる視線。
それは、あの時よりも数倍恐ろしい目つき。

「それって、美貴が人殺しそうなほど怖いってこと?」
「えっと、いやー・・・はい」
「マジ、殺すよ?」

ニヤッと微笑む藤本さん。

いや、ほんと、ごめんなさい。
マジ怖いです。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:54

◇ ◇ ◇ ◇
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:55
結局、藤本さんが刺したのは俺じゃなくって、犯人だった。
藤本さんは刺された後、亜弥を守ろうとして犯人のどこかを刺したらしい。
その血痕が犯人逮捕へとつながったということだ。

これからは藤本さんを見習って、亜弥を守れる男になろう。
もし、亜弥を泣かせるようなことがあったら、本当に俺、殺されちゃうから。

だってあの時、亜弥に聞こえないように藤本さんは俺に耳打ちしたんだ。

「亜弥ちゃん泣かせたら、美貴、マジでキミを殺すよ?」って・・・。

17 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:55

Fin
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:55



19 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 13:55




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