8 隣の女の子

1 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 22:53
8 隣の女の子
2 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 23:00
 
 小学校の同じクラスの隣の子。誰でも少なからずこういう記憶はある。
その隣の子を気に入ってたりすると、学校に行くのが楽しくて、学期の
過ぎるのがとても早かったりして。
3 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 23:01
 6年生のときに隣だった子は、鉄鋼屋の娘で、紺野という名前で、可
愛かった。理科の時間に電磁石をつくるという実験があって、席順から
紺野と同じ班だった俺は、紺野に電話して、電磁石の芯になる鉄の棒を
頼んだ。

「芯が太くて、短くて、エナメル線を巻けば巻くほど、強い磁石になり
ます」との先生の教えに従って、ハンバーガーみたいな形の電磁石を作
ろうとした俺は、紺野に、太くて短いやつな、と念を押し、自分は親の
車を出動させて、近隣の店のエナメル線を買い集めた。すっげーつええ
電磁石をつくりたかった。
4 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 23:03
 実験当日。紺野はきちんと鉄鋼を持ってきてくれた。家には廃材なん
てゴロゴロ転がってるだろうから余裕だったろう。俺はその鉄芯を借り、
頭で描いた設計図通りにエナメル線を巻きに巻いた。班は6人だったが、
ほとんど俺が一人で作業していた。俺には絶対の自信があった。「先生
のいう通りにちゃんと、ドンと太くて短い鉄の芯で、エナメル線も思い
きり巻いた。絶対最強」と。クラスで一番の電磁石が出来る、と信じてた。

 結果、うちの班の電磁石は、クリップ一つ吸い付けてくれなかった。
俺は焦ったけど、どうにもならない。失敗するなんて少しも思ってなか
った。今思えば、電圧が足りなかったんだと思う。乾電池の1.5Vで
はどうにもならない。うちの班の電磁石は、クラス最低になった。
5 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 23:06
 俺ら6年生は卒業し、町に一つしかない小学校から、目の前にある町
に一つの中学校に全員進み、建物が変わっただけでメンバーの変わらな
い中学校生活がはじまった。中学のことは別の機会にでも詳しく書くが、
今回触れることは、その鉄鋼屋の子、紺野と、俺は、中学では一度も同
じクラスにならなかったということだ。中学校で同じクラスにならない
=疎遠を意味し、俺たちはほとんど話さなくなった。長く話してないか
ら気まずい、という感情はなく、廊下で見かけても、あーいるな、ぐら
いの認識だった。中学3年間、ほとんど話さなかった。
6 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 23:07
 中学でサッカーばっかりやってた俺は、成績がそれほど良くなく、小
さい頃から家族の中でなんとなく行くルートになっていた、進学校の○
×高校へ行くのが難しい状況になっていた。焦った俺は、中学3年の夏、
塾に入る。その塾はうちの中学生の半分以上が通ってる塾で、普段あん
まり話さない他のクラスのやつとも交流した。

 そこで俺は、小6んときの隣の子、鉄鋼屋の娘、紺野が、実は頭が良
かったことを知る。いわゆるガリ勉タイプではなく、普通に勉強が出来
る子だった。きっと○×高校に行くんだろうなと思った。
7 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 23:09
 俺は塾の夏季講習で朝9時から夜9時まで勉強し、今まで空だった脳
みそに高校受験の知識を詰めに詰める。「今までやってなかったから吸
収が早いな、乾いたスポンジみたいなもんだ」と塾の先生に言われた。
スケジュール的にはしんどかった夏季講習もけっこう楽しく終わり、
秋が来て、俺は○×高校に行ける成績になっていた。

 だれていて、ほとんど勉強しなかった冬季講習が過ぎ、俺は○×高校
に合格した。頭の良かった隣の子、紺野は、入るのに特に勉強しなくて
もいいような、△△高校という普通の高校に行った。意外だったけど、
女の子だしそういうのもありなのかな、と思った。
8 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 23:10
 うちの町から高校へは路線バスで通学するのが一般的で、朝夕の時間
帯は死ぬほど高校生で混み合っていた。ある日の帰り、いつも通りだた
混みのバスに乗った。だいたいこういうクソ混む場合のバスというのは、
席が窓際に一列ずつで、立ち乗りのスペースが多く取ってあるものだけ
ど、2×2列のバスだった。学生の足ではなくあくまで町民(お年寄り)
の足だから、座席を多くしてあるのだ。
9 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 23:12
 一人しか通れない通路はアホほど込んでいて、人が一人降りるのも一
苦労といった状況。俺は押されて奥へと進まされ、バスの真ん中あたり
で落ちつく。だだ混みで通路はぎゅうぎゅうになってるといっても、
知らないやつが一人で座ってる席に相席するような文化圏ではない為、
2人掛けに一人で座ってるやつもいる。女ならなおさらだ。女が一人で
座ってる隣に、見知らぬ男がどかっと座るような慣習は存在していなかった。
10 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 23:13
 俺の目の前の高校生の女も、やっぱり一人で座っていた。そいつと目
が合う。鉄鋼屋の娘、紺野だった。俺は「座るぞ」と一言いい、紺野も
「うん」と返して自分の鞄をどけた。俺は、ぎゅうぎゅうの通路から、
紺野の隣の席におさまった。
11 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 23:14
 俺は、すっげー混んでるよな、とか言い、紺野は、そうだねー、と返す。
「ひさしぶりやな」
「うん」
「どう、勉強してんの?」
「あんまりしてない」
「ま、でもお前やったら別に勉強せんでも1番やろ」
「でもね、こないだ2番だったよー」
「へえー! そうなんや。意外におるもんやな」
 会話止まって。俺、
「大学行かんの?」
「うん」
「今からでも大学目指そうぜ、もったいない」
 俺らはその時、高校二年生だった。
「ううん、やらない」
 紺野は笑ってた。
12 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 23:16
 停留所に着いて俺はバスを降り、窓の向こうに座ってる紺野に手を振る。
紺野も少し手を振った。バスは走り去っていって、俺は自転車に乗って家
に帰った。それほど暑くはない、夏休み前の一日だった。
13 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 23:17
P.S.
 俺は、紺野のことを名前でなく、お前、と呼んでいた。
 紺野は俺のことを、あんた、と呼んでいた。
 俺はその、ちょっと古っぽい言いかたの、あんた、というのが好きだった。
 紺野が今何をしてるのか、俺は知らない。
 
14 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 23:17
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15 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 23:18
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16 名前:8 隣の女の子 投稿日:2005/03/13(日) 23:18
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