4 太陽は壊れやすい黄色

1 名前:4 太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/13(日) 00:18
4 太陽は壊れやすい黄色
2 名前:4 太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/13(日) 00:36
僕には子供のころの記憶がない。
いや、厳密に言うならないわけではない。無理矢理思い出せないこともない。

錆びたブランコが風に軋むような音。

割れたパイナップルの鮮やかな黄色。

あまったるい、何かが腐りゆく匂い。

思い出せるのは、この3つだけ。それから記憶のなかにある一番むかしの僕は、首が苦しいだけの詰め襟の学生服をきている。
僕は、気づくともう中学生だった。それは今からたった10年前のことで、記憶を失う前に過ごした時間のほうがまだ少し長い。

14歳の僕は、東京のトイレが共同で風呂もついてないようなアパートで一人で暮らしていた。
両親は、すでにいなかった。理由は今でも知らない。
僕はそのままそこで大人になり、24歳になった今暮らしている。風呂のある住宅に住むよりも、1日おきに銭湯に通うほうがよほど安くついた。
仕事場がある砧ファミリーパークからも近く、なかなか都合がよい。
3 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/13(日) 00:56
「ちーけった、おーらっせ、せ、せ」
「ち、よ、こ、れ、え、と」
「ちーけった、っせ、せ、」
「ぱいなつぷる」

威勢の良いリズミカルな声と、かんかんと非常階段を往来する音が聞こえる。
また、あいつらに違いない。僕は軽くため息を吐いて、重たい機材を片手にわざと足音を建てて階段を登った。
かさばる機械は、屋内の階段ではとても運べず、屋外に設置されたこの非常階段を使うしかない。

「あ」

僕の存在に気づいたのか、やつらは遊ぶのを止める。ぱたぱたと階段を駆け上がる複数の軽い足音。いまさら隠れてどうするつもりなんだろう。小学生だって彼女たちよりも、きっともっと賢いだろう。(もっとも僕は小学生の実態を知らないのだけど)

「ここ危ないから遊ぶなよなー」

目的の階の扉から屋内にはいるとき、僕は一応の礼儀として階上に声をかけた。
はーい、と3つぐらいの声が揃う。隠れたわりには素直だ。

1日がかりで数カ月分を一気に収録するその番組は、日曜正午という放送時間を差し引いても視聴率が悪く、なかなかスポンサーがつかなかった。それでも打ち切られないのは、いろいろ利害絡みの大人の事情やら思惑やらがあるらしいのだが、僕のような下っ端が知るところではない。
4 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/13(日) 01:43
僕にもわかっているのはアイドル相手の仕事は結構、ばかばかしくも信じられないことの連続で、周囲から思われるよりもぜんぜん華やかでもなければ(むしろみみっちいまでに貧乏くさいともいえる)、うらやましがられるようなことではないってことぐらい。
推理小説には見えない人間という用語が存在する。そこにいるのが当たり前の人間は、存在しないのだそうだ。例えば、市原悦子のような家政婦とか、制服姿のガードマンとか。彼らは被害者と関係のある「人間」とはみなされない。小説のなかにおいて彼らは信号機や選挙の公示ポスターと同じぐらい「もの」扱いされる、最初から除外される存在だ。彼女たちにとっての僕らがそうであるように。

「すみませーん、なんかおべんといっこ、足らないみたいなんですけど」
「はい?」

荷物を下ろして組み立て始めた僕に、容赦なく「仕事」が降り掛かる。本番まではあと15分。運んだ荷物は、彼女たちが食事を終えるまでに組み立てなくてはいけない。弁当ぐらい自分で探せ、とは僕らは決して言わない。そういって次の週から姿を見なくなったやつは何人もいる。なりたがるやつらが沢山いるからいつまでたっても薄給で粗悪な労働環境は改善されない。僕はなけなしの愛想を振りまいて「はいただいま」なんて返事をして、さっと賄い方のほうにいく。製作会社勤務ならまだしも、更にその下請けの会社の人間が言える我儘などはない。時間がないことも仕事を沢山抱えてることも言い訳にはならない。山積みされた仕出し弁当から運良くあまりを見つけて楽屋へとって返した。
5 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/13(日) 01:52


ふと懐かしい匂いをかいだ。いやになるほどあまったるい臭い。適切な温度に調節されているはずの部屋で、ひやりとした感触を感じて振り返った。

パイナップル。

ごつごつとした硬い表皮に、とげっとしたでこぼこ。毒々しいほどとがった緑。果物屋の店先でほのぼのと並べられていそうなその果物は、その場所にあってはなぜか、人さえも殺せそうな凶器に見えた。


6 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/13(日) 23:58
「おべんと、ありました?」

背後から声をかけられて、ばねのように振り替えると、すっきりとした印象の少女がそこにいた。

真っ白なランニングシャツ。
黄色い太陽。
ひまわり。
なのはな。
もんんしろちょう。
陽に灼けた肌に真っ白な歯の、子ども。

「あ。あぁ。ほら」
「もらってってもいいてすか?」

そこには、子どもがいた。狭っ苦しい廊下にいたはずの僕は、どこか山の中にいた。かすかに、鳥のさえずりが聞こえる。
僕はのろのろと弁当を少女に差し出した。少女はかすかに笑って、鼻にかかったような声で礼を言った。聞き覚えのある声だ。間違えようのない低い鼻声。その声の持ち主は成人式を迎えたばかりで、つまり、目の前の少女のものではないはずだった。
少女はぱっと僕の手から弁当を取り上げると、さっと背中を向けて走り出した。どういうことだ? よろけた肩がなにかにぶつかって、風景はさぁっと鮮やかな原色から色あせた灰色へと変わった。僕は砧のスタジオの中にいた。
7 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/14(月) 00:16
僕は呆然と少女の後ろ姿を見送った。あれは誰だっただろう? ハロプロキッズの子、ではない。大体今日の撮影は予定していない。あの声は、藤本美貴以外ありえない。ありえないけど、あの姿こそがありえない。だけど今このフロアにいるのは、モーニング娘。でしかあり得なかった。
混乱する僕を、少女は振り返って笑った。

「まだ、思い出さないの?」

嘲るように言った少女は、キッズの夏焼雅よりもまだ低く見えた。いくら藤本美貴が身長が低いとは言っても、そこまで低くはない。

「何を」
「とてもだいじなこと」
「心あたり、ないんだけど」
「そうなの? それはきっと、ご両親も悲しむでしょうね」

嘲るように、ではなく、今度は見間違えようもない嘲りを滲ませて言うと、少女はさっと楽屋の扉に身体をもぐり込ませた。少女の頭には白い色で髪の毛が見える構造のヘルメットがあった。
どこからともなくパイナップルの強い匂いがした。
8 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/14(月) 00:38
番組は滞りなく撮影が進む。問題のパイナップルは、ぶらさげゲームに使われた。ディレクターの身ぶり手ぶりにしたがって、なるべく面白くなるように紐を動かす。田中れいなの罵る声が面白くてかなり笑ってしまったら、すっかり僕にはロリコンというレッテルが貼られていた。
笑ったのは、10も年下の少女に罵られる、「モノ」扱い以下の僕の人生に対してだったんだけれども、別にどっちでもいい話なので、とくに否定はしなかった。

番組終了後、不要となったパイナップルは僕のものとなった。立派な社会人のはずなのに食費にもこと欠く有り様だったのでありがたく頂戴した。ぽんと空中に放り投げてキャッチする。果実はずっしりと重たい。どうやって食べればいいのか、よくわからなかった。包丁でスライスできたんだっけ? そんなことさえ僕は知らないのだ。

「人さえ殺せそうね」

ぎくっとして、放り投げた果実をとり損ねた。果実はリノリウム貼りの床のぶつかって放射円状に散らばって砕けた。甘ったるい匂いが鼻孔を刺激した。こんなこと前にもあったような気がする。ちっちゃな手が砕け散った黄色い塊をつまみあげた。声だけ藤本美貴のあの少女だった。

「食べる?」
「いや」

首を振ると、少女は不思議そうに首を傾けて、その塊を自分の口元にもっていった。しゃりっと果肉を食む音がして、唇から透明な果汁が垂れた。べたべたしそうだ、とあのときも思った。
9 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/14(月) 02:54
一面のパイナップルだった。猛烈な勢いで割られたあとだ。畳一面にぶちまけられていた。
ぎぃっぎぃっとブランコが揺れる音がした。死角で、なにかが揺れていた。顔をあげるのがいやだった。真っ赤に染まった爪先が見えた。いくつもいくつも並んで揺れていた。大きいのと、小さいのと。みんないってしまった。僕をおいていってしまった。

「食べる?」

少女は自分が食べかけたカケラを再び差し出した。
ちょうど今、彼女がしているように、あのパインナップルを差し出した手があった。僕は、あのときはどうしたんだっけ?

「葡萄酒はメシアの血、パンはメシアの肉」

口が勝手に動いた。少女は満足そうに笑った。僕は首を振った。思い出した。思い出したくなかった。

「キリストにでもなったつもりか?」
「そんなつもりはないけど、そう思われても仕方ないかもね。事実だし」

少女は笑った。10年前と同じ顔だった。「モノ」扱いから「共犯者」扱いになっても、同じぐらいあまり気分のよいものではなかった。
10 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/14(月) 03:06
夏だった。空は真っ青に澄んでいて、太陽は割れたパイナップルのように黄色かった。パイナップルの頭ににょっきり生えてる草みたいな硬くて緑々した当時の僕らの身長ほどもある雑草の向うに、真っ黒なプロテクターで身をかためた男たちがぞろぞろと列をなして聖堂のほうに向かっていくのが見えた。彼らは皆顔をマスクで覆っていた。マスクの両側には太いノズルが取り付けられていて、まるでスターウォーズみたいだった。
数人の男たちが鳥篭を高く掲げていた。中には見たことのない小鳥がいた。もっとも僕が知ってる小鳥といえば雀と十姉妹とインコぐらいなものだったのだけど。
世紀末にはまだ数年早かったのだけど、僕らは知っていた。かれらこそが黙示録が言うところの恐怖の大王の下僕なのだと。僕達はずっと神様の子どもたちとして、かれらと戦うために集められ、育てられていた。(今から思えばそれはただの誘拐で、プロテクターをつけた男たちこそ、警察だか自衛隊だか機動隊だか、誘拐された僕らに向けられた最後にして最大の救いの手だったんだろうけれども)

僕らは聖堂とは逆の方向に走った。聖堂はただの飾りだった。僕らの組織の実態はそこにはなかった。聖堂には大人たちしかいない。
瞑想所。全国から誘拐された子どもが集められ、能力を無限に引き出すという瞑想機械を付けて暮らしていた。僕らはみんなそれを付けて暮らしていた。断続的に神経を刺激する電気に晒されて、奇妙な能力を開発させた子どももいた。僕もその一人だった。そういう子どもたちは「神の子どもたち」と呼ばれていた。トランス状態になった子どものなかには譫妄のようなうわごとを口走る者もいて、大人たちはいちいちそれを真に受けた。僕らの組織は子ども一人の言葉に振り回されていたのだ。

「食べないの?」

少女は唇を無造作に袖口で拭った。僕は受け取らなかった。
揺れる足のなかには、僕の肉親のものもあった。彼女は僕に畑に出てしばらく戻ってこれない用事を言いつけていた。ひどい裏切りだった。
11 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/19(土) 17:01
僕らの教団は自分と他人の区別をつけなかった。全部が巨大な「われら」だった。全員でひとつの生き物だった。教団にはいるためにはまず色々と修行して寄進して徳を積んでから、雑多な条件をクリアして初めて聖餐をともにする機会に恵まれる。全員がで同じものを分け合って食べて、それで初めてようやく教徒として認められるのだ。あのとき、警察が未成年者略取の疑いで強制捜査に踏み切ったあのときの聖餐はパイナップルだった。あそこで何があったのか、僕は知らない。黒い人の群れを見て瞑想所に戻った僕が見たものは、天井からぶらさがる無数の足だった。あれほど沢山の素足をいっぺんに見たのは最初で最後だった。足はゆっくりとしたリズムで全体でひとつの生き物のように揺れていた。イソギンチャクみたいだった。沢山のブランコがきしむような音がした。
残っていたのは僕と、9歳だった彼女の2人だけだった。重力がさかしまになった部屋のなかで、彼女一人だけが床に立っていた。彼女は僕を見ると、不思議そうに首を傾けた。そして言った。

「世界はまだ終わってないの?」

児童誘拐の“被害者”として保護された僕らの名前はマスコミに発表されることはなかった。僕はしばらく施設で暮らし、すぐに昔住んでいた家に戻った。ニュースを見た全国の人が集めた生き残った二人の“犯罪被害者”のための寄付金は、弁護士の人を通して僕の手にわたった。そのころには僕はもうすべてを綺麗さっぱり忘れて、疑問に思うことさえなかった。ブランコとパイナップル。僕の過去はこれで充分だった。
12 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/19(土) 18:09
明白なのは、彼女が集団自殺事件に深く関わっていること。それを知っているのが僕一人だということ。明白でないのは、

砕けたパイナップルの透明な果汁が彼女の腕をつたって、床に滴った。てんてんと床に散る。この廊下には僕ら二人しかいない。

「けっこうさがしちゃったな」
「どうして?」
「何に対する、どうして?」
「どうやって、ここに?」
「知ってるでしょ? 美貴のちから」

少女の姿が二重にゆがんで見えた。過去の彼女の姿と現在の彼女の姿がかぶってみえた。記憶にある芸能人の彼女は、すらりと長い脚をしたやや痩せぎみの完璧なスタイルの持ち主だったが、目の前の彼女はそうでもなかった。彼女の持っている能力は『幻』と呼ばれていた。ありもしないものを沢山の人間に見せることができる、とされていた能力だったが、実際は少し違った。正確に言うなら『記憶操作』。現時点で幻を見せるのではなく、過去に幻を見たという記憶を与えるのだ。ありもしない起こらなかった奇跡を、彼女が先に予言していたという記憶を周囲にばらまいて、彼女は教団の中心的な存在になっていった。そこには怜悧な計算などはなく、あったのは注目を浴びたいという子供らしい願望だった、のだろうと思う。ゴム底の運動靴がパイナップルの果汁を踏んで、ねばついたキュッという音を立てた。
『藤本美貴』という芸能人の記憶は、どこから僕にあったのだろう?
たぶんそれは、今ここで作られた記憶に違いない。オーディションにも合格せず途中でなにげなくアイドルグループに編入させられる、という記憶は、いかにも急拵えで植え付けやすい+αだった。今日ここで作られた記憶なのか、もっと前からの記憶なのか、それさえも判然としないが、理想的なスタイルを持っている彼女は植え付けられた記憶と考えてもよいかもしれない。

「なんで、いまさら?」
「世界はまだ救われていない。でしょ?」
「終わってない、って言った」

彼女は表情のない顔で僕を見た。

「あのとき、世界はまだ終わってない、と言った」
「同じだよ。終わらせるのも救うのも」
「で、どうして僕が必要?」
13 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/19(土) 19:19
「死ななかったからかな、たぶん」
「今度は、どうする気?」
「紅白、かな?」
「歌手の夢だね」
「そうだね」

勿論、彼女は歌手になって紅白に出演する、なんてことは言ってない。日本で一番視聴率の高い番組出演中に自分の能力を使う、と言ってるのだ。

「あのとき結局、なにをしたの? なにがしたかったの?」

結局溜息を吐いて、僕は一番聞きたかったことを聞いた。

「あのとき美貴、ワイドショーを見たんだけど。教団のこと。覚えてる?」
「全然」
「結局全部ワイドショーから始まったのね。最初のコーナー名はたしか『奇跡を起こす子供たち』。美貴たちのことが取材されて、どれだけ不思議なちからを持ってるのかって全国にオンエアされた。信仰の力で超能力がもてるって、すごくいい宣伝になったんだよね。覚えてない?」
「悪いけど」
「まぁいいけど。そんで視聴者から警察に通報があったわけ。番組に映った子供のうちの一人が、近所で行方不明になった子供に似てる、ってね。そっから教団の疑惑を追及するって大騒ぎになってさ」
「それであの突入?」
「そ。美貴ワイドショーのカウントダウンを見た。それから起こることなんか簡単に想像できたし、で、そのイメージをそのままみんなに配ったのね。そしたら」
「勝手にみんな自殺した?」
「勝手になのかな? あのなかにご両親がいたんだって? お気の毒さま。でも、美貴のせいじゃないもの。あの日、警察が来ることはみんな知ってたわ。さんざんテレビで言ってたもの」

それはそうなのだろう。僕は、母に言われて、瞑想所を出た。あのとき確実に母は瞑想所で何かとても良くないことが起きることを察知していたのだ。超能力がなくても分かる簡単なことは沢山ある。だけど僕を一人残して死んだ母の気持ちは分からない。超能力があっても分からないことは沢山ある。

「また人が死ぬのかな?」
「死ぬ人は結局、心が弱いのよ」

藤本美貴は人差し指を1本立てて、空を指した。“発動”。強い『幻』の能力を使おうとしていた。“何”を見せるつもりなのか疑問を抱く間もなく僕は反射的に左腕を突き出した。回転させるようにして彼女の掲げられた腕を巻き込む。ぎょっとした彼女の額を左の掌で軽く“押した”。『忘却』。10年前に自分に使ったのが最後の、僕の能力だった。
14 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/19(土) 19:33
スタジオでは、そのまま宗教ソングといっても通りそうな呪文のような歌が流れていた。イーグルスとかいう耳馴染みのない球団の応援歌だそうだ。彼女の印象的な鼻声はいくつもの曲でメインコーラスとして使われていた。あれからひとつ、紅白歌合戦が過ぎたが、別になにも起こらなかった。藤本美貴はすっかりグループのなかの一員として馴染み、体型をゆるく鈍くしていっていた。いつのまにか増えていたメンバーを不審に思う人間もいない。彼女の能力は、彼女がすっかりその能力のことを忘れ果ててはいても、完璧に機能していた。

「ちーけった、おーらっせ、せ、せ」
「ぐーみ」
「ちーけった、っせ、っせ」
「ち、よ、こ、れ、え、と」

相変わらずあいつらは非常階段で遊んでいる。

「こーら、あぶないっつっただろー」

僕は重たい機材を抱えながら、そちらの方向も見ないで声を張り上げた。少しの間静まった。休み休み機材を手によろよろと亀の歩みを続けてると、またすぐ再開される遊び。

「ぱ、い、な、つ、ぷ、る!」

鼻にかかった声が聞こえた。あいつら、は、一人増えてるようだった。非常階段から見上げた空には真っ白な太陽が輝いていた。砕けたパイナップルの色とはずいぶん違うなと思いながら、僕はまた階段を上りはじめた。
15 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/19(土) 19:33
-了-
16 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/19(土) 19:33
 
17 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/19(土) 19:34
18 名前:4太陽は壊れやすい黄色 投稿日:2005/03/19(土) 19:34

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