27 悲しみの断頭台
- 1 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/22(月) 23:53
- 27 悲しみの断頭台
- 2 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/22(月) 23:54
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「ふわぁ〜〜」
カーテンから漏れた朝の光が私を現実へと戻した。
朝の目覚め特有の気だるさが私を包み込む。
伸びをしようと思ったがなんだか首が痛い。
寝違えたのかと思ったが、どうもその痛みとは違うような気がした。
- 3 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/22(月) 23:56
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でも、私がいるのは部屋でも何でもなくて、寒空の中。
カーテンに見えたのは目の前の誰かの白い服だった。
「えり、起きた?」
「え、さゆ? なに、ここはどこ?」
意識がはっきりしないままそんなことを口走る私に、さゆは懐から
有り得ないくらいに大きな鏡(24インチ・特注)を取り出して私に
見せてくれた。
そこに映ったのは、壁の穴から顔を出している間抜けな私の姿
だった。
- 4 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/22(月) 23:57
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「なっ、なにこれ!」
慌てて首を引き抜こうとして、壁に後頭部を思いきりぶつけた。
「い、いったーい!!」
ぶつけた部分を手で押さえようにも、首から下が壁の向こう側な
のでできない。
「あはは、馬鹿だなあえりは」
そんな私を指差し笑うさゆを睨みつけ、
「どういうことなのか説明してよ!」
と詰め寄った。
- 5 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/22(月) 23:58
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さゆの話によるとこうだ。
昨日の夜、さゆの家に遊びに行った私は、ベランダで見つけた
かわいい子猫を追ってここまでやって来た。で、この壁のところ
まで追い詰めたんだけど、子猫は壁に空いた小さな穴をすり抜け
て逃げてしまった。私はそれを追いかけようして同じく穴に突入、
当然のことながら頭のところでつっかえたんだけどそこで私の隙
間に挟まる悦びが開花。頑張って壁の向こうに顔を出したまでは
よかったけど、力尽きてここで寝てしまったという。
「って言うか、何で止めてくれなかったの!?」
するとさゆは、にっこり微笑んで言った。
「だって、面白そうだったんだもの」
思わず、涙が出そうになった。
- 6 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/22(月) 23:59
- さて、いつまでもこんなところで壁と同化してる暇はない。この状
態は確かに隙間好きには魅力的だけど、このままじゃ仕事もでき
ない。それに近所の子供たちが私の額に「中」の文字を書いてし
まうかもしれないし、変な人が私に気付いて「こっち来るかも…」
って状況にもなりかねないのだ。
「さゆー、なんとかしてー」
するとさゆはわかってますよと言わんばかりに頷き、こう宣言した。
「集まれ! えりを助ける機能たち!」
かーらーりーおー、ってそれあややのCMじゃん。そう突っ込みた
かったけど、さゆの機嫌を損ねるとこのまま人間モニュメントにな
りかねないので、我慢した。
- 7 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/23(火) 00:00
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数分後、さゆが連れてきたのはあまり頼りになるとは言えない面々
だった。
「リーダーのつじのぞみとっ」
「サブリーダーのかごあい」
「「二人合わせて、だぶるゆーでぇーす!」」
「あーしも合わせて、とりぷるゆー!」
(辻加護、無視)
「あれ、そんなとこから顔出して。何かの遊び?」
- 8 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/23(火) 00:00
- 辻さん加護さん、それに高橋さん紺野さんの4人。
しばらく4人はさゆの話を聞いていたけど、何を思ったのか私の
前に一列に並び始めた。
「えり、この中の誰に助けてもらいたい?」
さゆが私の顔の前にしゃがんで、そんなことを聞いてきた。
「いや、あの助けてくれるんだったら誰でも…」
「だ・れ・に、助けてもらいたい?」
何だ、この高圧的な態度は。
私はさゆの暗黒面をはじめて垣間見た気がしたけど、緊急事態に
つき、コメントは避けた。
「じゃ、こんのさ…」
「はい、辻加護さんね」
「いや、じゃなくてこん…」
「こういう時は一番可能性の低い選択肢を選ぶの」
「…辻加護さんで」
一瞬、さゆの瞳の中に野生の虎を見たような気がした私は、渋々
辻加護さんを選ぶことにした。
- 9 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/23(火) 00:01
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彼女たちはお約束通り、まったく役に立たなかった。
「足から引っ張ったほうがいいって」
「そんなことないって、頭から引っ張ったほうが」
「アホやなあ、絶対足やって」
「むか。亀井ちゃんはあいぼんみたいにハゲじゃないから、絶対
足からは抜けません」
「な、何やて! 亀井ちゃんはお胸がのんみたいにペッタンコと
違うから胸がつっかえて頭からじゃ絶対抜けへんわ!!」
壁を挟んで二人は、どうでもいいことを口論し始めたのだった。
「あの、そんなことより早く私を…」
ついには壁を挟むようにして、両側から私を綱引きする始末。
「あいぼんには絶対負けない!」
「のんには負けへん!」
「いたっ! 痛いです痛いです! って言うか引っ張るのやめろ
このマナカナもどきが!!」
体から怪しげな何かの折れる音が数回鳴ったあと、二人は固く握手
を交わし、どこかへ行ってしまった。
- 10 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/23(火) 00:13
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このままでは壁から脱出する前にどうにかなってしまいそうだ。
私は今度こそ、紺野さんを指名しようとさゆにそのことを伝えようと
した。しかし。
「亀井ちゃん、あーしが助けてあげるから」
いや、高橋さんには声かけてないですから。
「おばあちゃんが、指輪が抜けなくなった時はこうするのが一番やっ
て言ってたの思い出したわ」
いや、私と指輪を一緒にしないでください。て言うか空気読めよこの
肛門フェイス。そう心の中で毒づく私の頭に冷たい感触が。
「こうやって頭ぬるぬるにしたら、抜けるやろ」
あろうことか、高橋さんは私の頭にハーバルエッセンス(750円・
税別)を垂らし、がしがしと泡立てはじめていた。
- 11 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/23(火) 00:14
-
「がしがし、がしがし」
「yes! yes!」
「がしがし、がしがし」
「yes! yes!」
しばらく私の頭をいじっていた高橋さんだが、泡立ちに満足したのか
今度は足から私を引っ張り始めた。だけど。
「あれ、何かひっかかっとるわ」
「痛た、あごが、あごが!」
そうなのだ。あまりにも存在感のある私のあごが、つっかえ棒みたい
になって穴から顔が抜けるのを阻止していたのだ。
「ありゃ、もうええわ」
ついには初登場のうたばんの時のように、高橋さんは私を放っておい
てどこかへ行ってしまった。
- 12 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/23(火) 00:25
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今度こそ、というよりもう選択肢は一つしかない。
娘。いちの頭脳を誇る紺野さんならきっと私を助ける秘策があるに違
いない。私はうるうるした目で、そう紺野さんに訴えかけようとした。
だが。
「あー、このやきいもおいひい」
「おいしいね、紺野さん」
おいオメエラ、人がこんなことになってる時に何イモ食って和んでん
だよ! お前らは死ね、豆腐の角に頭ぶつけて死ね!
思わず心の内にダークえりが目覚めそうになったその時、下ぶくれ、
いや紺野さんの顔が急に真剣になった。
「構え!」
いつの間に紺野さんは空手着に着替えていて、正拳突きの構えをとっ
ていた。まさか、この壁を叩き壊す気じゃ…そんなことしたら、崩れ
た壁の下敷きになって、それもいいかも、じゃなくて死んじゃう!?
「はああああああっ!!!!!」
「や、やめてぇーーーー」
私の頭上で凄い音がしたかと思うと、目の前が真っ白になって…
- 13 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/23(火) 00:37
-
……
- 14 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/23(火) 00:38
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「いやー、どうなることかと思っちゃった。瓦礫に押しつぶされて体
ボロボロだけど」
結果から言えば、私は助かった。でも、首を引っ張られ過ぎてムチウチ
症気味だし、頭なんてガビガビだし、おまけに崩れた瓦礫のせいで体の
いろんな場所が痛いけど、とにかく助かったものは助かったのだ。
「よかったね、えり」
私の隣でにっこりと笑うさゆ。
それにしても、どうしても腑に落ちないことが一つ。私が目覚めてから
さゆに聞いた話。まったくそんなことをした記憶がないのだ。それを思
い切ってさゆに問いただすと、とんでもない答えが返ってきた。
「実はね、ほんとはえりが寝てる時にさゆがここまで運んで、穴にえり
を嵌め込んだの」
- 15 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/23(火) 00:39
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そうか、道理で記憶がないと思ったら…っておい!
「何でわざわざそんなことを…」
「あのね、さゆ、えりの役に立ちたかったの」
返答次第ではガチンコバトルもやぶさかではないと思ってた私だけど、
さゆのその一言で力が抜けてしまった。
「そっか、そうなんだ」
「ねえ。さゆ、役に立った?」
私は少し考え込む振りをしてから、こう言った。
「うん。ありがとう、さゆ」
それから私たちは、仲良く手をつないで帰った。それにしても、何か大
事なことを忘れてるような…ま、いっか。めでたしめでたし、ってこと
で。
- 16 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/23(火) 00:43
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何で誰も助けてくれんっちゃ。
向こうのほうでさゆたちの声が聞こえたような気がしたと。
て言うか何であたし、こんなとこに挟まっとるたい?
そうか、れいな、「はぶられいな」っちゃもんね。
…寂しいばい。孤独ばい。
- 17 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/23(火) 00:44
- お
- 18 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/23(火) 00:44
- わ
- 19 名前:27 悲しみの断頭台 投稿日:2004/11/23(火) 00:45
- り
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