22 どんな未来が訪れても

1 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:23
「すずめよりは高く飛べるよね?」
そう言って彼女は、大空へ高くジャンプした。
2 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:23

3 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:24


まっしろなカーテン、まっしろなベッド、まっしろなシーツ、まっしろな壁。
神経質なほどに白い部屋の中で、黄ばんだ天井だけが、唯一のリアルだった。

瞼が重く、こめかみの辺りから後頭部にかけて痺れている。
鈍い思考に、今が夜であることしかわからない。
体を動かすたび、筋繊維のあちこちが切り裂かれているような痛みが走る。
不意に吐き気が込み上げ、わけもわからずに吐いた。
あるもの全て吐き出しても、胃は痙攣し続けている。
吐瀉物が、ベッドに黒く染みを作った。

口の中、そして一帯に薬の匂いが起ち込める。
4 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:24

5 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:25


「どうやら、目を覚ましましたね」
彼女は顔をあげた。目の前には白衣を着た女が、何やら書類をめくりながら突っ立っている。
「ここはどこ」
と言おうとして彼女は気づいた。声にならない。
「ここはDr.ゴトー研究所です。うん、意識はあるようですね。手術は成功しました。やりましたよ。むはは。」
女のことは気にせずに窓の向こうへ目を向ける。朝だった。彼女は思う。「すると、私は一晩じゅう苦しんでいたというのか?」
「そのとおりです」と女が言った。
6 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:25
「(研究所?手術・・・?なにも思い出せない・・・なにも出てこない。)」
「そうでしょう、そうでしょう。さっき脳のほうをアレしましたから。辛い記憶は全部ゲットアウト〜」
「(辛い記憶?)」
「あなたは自殺したんですよ。松浦さん。いや、サイボーグ001。」
女がにっこり笑ってそう言うのを、彼女はぼうぜんと聞いていた。
7 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:26
「覚えてませんね。生前のあなたはすてきなアイドルだったんです。マスコミからはアイドル・サイボーグと呼ばれていました。大人気。でもそんな生活に疲れたあなたはすっかりノイローゼだったんです。それである日飛び降りを。」
「(・・・あたしが、アイドル?)」
「マネージャーに発見されたあなたは、速やかに、それでいて秘密裏に病院に搬送されました。しかしその頃はすでに遅く手の打ちようがなかった!首から下はもうぐしゃぐしゃでした。事務所は相当焦ったことでしょう。人気アイドルに死なれては収益も落ち、それどころか管理責任を問われるおそれすらある。」
「(でも、なんで・・・助かったの?)」
「そこで我がDr.ゴトー研究所の出番ですよ。」
8 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:27
女はぱらぱらと紙をめくりながら、彼女のほうを一切見ないで喋りだした。
「我々は、昔から政府の裏の裏の裏の方とか、そういうデンジャラスな組織と色々つながりがありまして、知る人ぞ知る、と言いますか。研究内容は様々でしてね。例えば羊の頭に狼の体を付けたり。犬にアフロを付けたり。内臓をピンクに塗ってみたり。もちろん技術は確かですよ。なんせ長年、様々なアレを使って、いろいろアレな実験を繰り返して、もちろん人体実験とかもしてますけどね。不老不死だとか。クローンだとか。ロボトミーだとか。そういう単語がもう三度の飯より好きでして。むは。むははは。」
「(そんな話、いいから。)」
「あ、すいませんね。閑話休題、です。要するに、ですね。首から上が無事なら、首から下が無事な奴と繋ぎ合わせちゃえ!的な、コロンブスの卵とでも言いましょうか。」
「(・・・え?て、ことは?)」
「はい。松浦さん。おめでとうございます。あなたはサイボーグ001として生まれ変わったのですよ。」
9 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:27
いやあ、拒否反応出まくった時はどうしようかと思った。と言って女は得意げに笑った。ぐったりとベッドに倒れ込みながら彼女は思った。サイボーグって、何よ。
「ああ、サイボーグというのはですね。」
「(というか、さっきから心読まれてますよね。あたし。)」
「あ、はい。ちょっと今松浦さんの脳を直接アレさせていただいております。通信するため、と言いますか。松浦さんの声帯がアレしてますので今。あ、でも、今は言葉喋れないですけど。明日の朝には喋れるようになってますのでご安心を。つまり全快ですね。」
「(・・・そう言えば頭になんかコードが・・・)」
「あ、それ、触っちゃダメですよ。取ったらもうアレですから。」
10 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:27
「(・・・で、サイボーグってなんなの。)」
「サイボーグと言ってもですね。別に変わりはないんですよ。50メートルを5秒で走れるとか、空を飛べるとか、変身するとか、そういうことは一切なくてですね。体のほうも出来るだけ元の松浦さん・ボディに近いデザインですし、それもほとんど人体です。普通人とそんなに変わりはないんですよ・・・。ただ。」
「(ただ?)」
「・・・それはまあお楽しみということで。」
「(は?)」
「あんまり大声で言える言葉じゃないんでね。」
「(あんまり大声じゃ言えない部分の話なの?)」
「はい。その、あんまり大声じゃ言えない部分を、あんまり大声じゃ言えない風に改造させて頂きました・・・まあ、アイドルはほら、そういうことしないから。」
「(そういうこと・・・)」
「しかし、将来、結婚したら、旦那さんびっくりするだろうなあ・・・なんせ・・・むはは。」
11 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:28
「(・・・それで、あたしはどうなるの。)」
「明日の朝からお仕事に復帰していただきます。ただ、言っときますけど、実・・・もとい、手術の件はもうトップ・シークレットですから。バレたら何とか団体から、我々、二秒で潰されますので。」
「(そっか・・・守れるかな。)」
「大丈夫です。このDr.ゴトー研究所最大にして最高の発明薬『キオクノン』さえあれば。」
「(・・・それは、なんなの。)」
「簡単です。一錠飲むだけで脳のナンタラ皮質とナンタラ中枢が全部死滅して記憶が全部消えます。」
「(全部消す必要は)」
「さあ飲んでください。口あーん。あーんって。」
「(その前にさ、せめて違う体にならないの?モデルさんとまでは言わなくても。せめて普通の体に。)」
12 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:29
「またですか。」
「(また?またって、何よ。)」
「いやあ実はこれもう10回目くらいなんですよね。松浦さんが起きて、私が説明するの。」
「(・・・はあ?)」
「最初はね、普通の女の子の体だったんです。そうしたら松浦さんが『もっとスタイルいい方がいい』って。それで次はどっかの読者モデルを攫っ・・・もとい、丁重にお連れして、アレさせていただいたんです。そしたら松浦さん、『乳首はピンク色のほうが』」
「(絶対嘘。嘘。この人嘘ついてる。)」
「・・・で、九回目に断られた時。私たちも考えました。特に松浦さんはアイドル。事務所からは死ぬほど経費をもらっております。しかも前払い。むはは。で、だったらただ治すんじゃつまんないし、アイドル・サイボーグってくらいなんだから、ほんとにサイボーグにしちゃえー(笑)てきなノリでした。あれは防ぎようがなかった・・・言うなれば、事故。」
「(何。この女。頭悪い。ぜったい頭悪い。)」
「おおっと聞こえましたよ。はい電流〜カチッ」
「(ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・。)」
13 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:30

「というわけでですね、事務所からもせっつかれてますし。もう実験・・・もとい、手術はこれでおしまいです。さあ後は帰るだけ。飲んでください。『キオクノン』」
「(やだ。絶対飲まない。なんかムカついてきた。この事実を世間に暴露してやる。)」
「ダメです。ほら、歯開いて。いい子ですから。」
「(夢。これは夢。悪い夢なの。)」
「しょうがありませんねえ。こうなったらもう仕方ない、Dr.ゴトー研究所に代々伝わるあの技。『灰皿ラリアット』を使うしかないですね。」
「(何も聞こえない。聞こえないの。)」
「では、参ります。うっ、はっ

14 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:31

15 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:31


「ふわぁ〜〜」
カーテンから漏れた朝の光が彼女を現実へと戻した。朝の目覚め特有の気だるさが包み込む。
伸びをしようと思ったがなんだか首が痛い。
寝違えたのかと思ったが、どうもその痛み方とは違うような気がした。

16 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:31

17 名前:22 どんな未来が訪れても 投稿日:2004/11/22(月) 03:32
end

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