19 二人ゴト。
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:03
- 「ふわぁ〜〜」
カーテンから漏れた朝の光が私を現実へと戻した。朝の目覚め特有の気だるさが私を包み込む。
伸びをしようと思ったがなんだか首が痛い。
寝違えたのかと思ったが、どうもその痛み方とは違うような気がした。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:04
-
首を何回か捻ってみる。やっぱり寝違えたのかな?
私は寝るまでずっと視線を注ぎ続けた、愛を見た。愛も起きていた。
こっちを見るとニコッと笑いかけてくれた。
「愛、お早う」
「愛ちゃん、おはよう。大丈夫?」
「気にしないで、ちょっと喉がおかしいだけだから。ご飯作るね」
「その前にだっこー」
「・・んもう〜」
私はむくっと立ち上がると愛を食卓まで運び、すぐに朝食の準備に取り掛かった。
パンを2枚取り出すと、冷蔵庫から出したジャムをたっぷり塗る。
お皿の上に乗せて、更にジュースをコップに注ぐ。あとは卵で小さなオムレツでも作ろうかな。
「めぐみぃ、時間かかるよー?」
「大丈夫ですからちゃんとお願いしますよ?」
「言うようになったなぁ」
思わず苦笑いをする。愛もきっとおんなじ顔をしてる。
愛のことなら何でも分かる。顔の一部分一部分も隈なく把握している。
私が笑えば愛も笑い、私が泣けば愛も泣く。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:05
-
椅子に座ってテレビを見ながら朝食をとる。
テレビではアナウンサーがニュースを読み上げていた。
パクッと一口食べてジュースを飲み込むと、私は愛に言った。
「今日もがんばろう」
「愛ちゃん、変なの」
愛はニコッと笑うと、小柄の身体を少し大袈裟にリアクションを取ってみせる。
こうやって共同生活をするようになってからどれくらい経っただろう。
きっかけはなんだったのか、それは思い出せないけど。
一人暮らしを始めた私と、その家に転がり込んできた愛。それから今まで、ずっと仲良しだった。
こういったら変だけど、のんつぁんとかーちゃんよりも双子みたいになっていた。
毎日が楽しい。楽屋で一人で本を読んでいたって家のことを考えると全然寂しくないし、頑張れる。
「そろそろ行くわ」
私は立ち上がり、愛を見た。愛はニコッと笑うと、言ってくれた。
「いってらっしゃい」
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:05
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- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:06
-
愛ちゃんの様子が最近おかしい。
それは誰の目から見ても明らかなことで、メンバー内でも少しだけ噂になっていた。
本を読んでいる。それはいつもと変わらない。
でもその表情にまず問題があった。
「・・・・・・・」
声を出しているわけではないけど、笑っている。というよりにやけている。
でも読んでいる本は全然笑うような本ではなく、純文学の本。
仕事のときだってそうだ。いつも以上にニコニコしているけど、
なんだか意識はどこか遠くへ行ってしまっているようで変な感じ。
違和感がすごかった。横を見るとまこっちゃんは心配そうにその様子を眺めていた。
「どうしたんだろうね?」
「分かんないよ。でも、聞けないよね」
愛ちゃんからはなんだか近寄るなオーラが出ているみたいで、私達は近寄れなかった。
前に一度だけあさ美ちゃんが話しかけたときも「なんでもあらへんよ?」って一蹴されてしまった。
でも、絶対なんか変だ。心配で、仕方がなかった。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:06
- ××××××××××××××
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:08
-
仕事はすごく順調に進んだ。
ここ最近は前よりも笑顔を造るのが上手くなった気がするし、写真を撮るとき
時間がかかっても笑顔でいられるようになった。これも全部愛のおかげ。
仕事が終わって帰る時、里沙ちゃんが話しかけてきた。
「遊びに行かない?」
「あ・・・ごめん」
ごめん、私は帰らなきゃならないんだ。今日も愛が待ってる。
里沙ちゃんは悲しそうな、何故か心配そうな顔で私の顔をじっと見てきた。
何かあったんだろうか。
「どうしてもダメ?」
しつこい、言いかけてやめた。
ここで、私はまだ二人暮しのことについて報告してなかったことを思い出す。
ちょうどいい機会だし言っておこう。私はおそらく満面の笑みで、言った。
「今愛と二人暮ししてるんだ」
「めぐ・・・みって・・・キッズの子?」
「あ、時間がない!ごめん、愛が待ってるから」
時計を見た。やばい、このままだとスーパーの特売に間に合わない。
私は駆け足で楽屋をあとにした。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:08
-
なんとか時間内特売に間に合うと、私は今日の晩御飯の材料を買い漁った。
ここに着くまでにカレーにしようということだけ決めていたから、
足りなさそうな野菜をかごの中に丁寧に置くと、ルーを探しにカートを転がした。
ルーがたくさん置いてあるコーナーにつくと、何種類か手に持って見比べる。
愛はどっちが好きだろうか。
甘口のカレーなんて買ったら、きっと怒るんだろう。
子ども扱いするな、とか言って。
私は中辛を選ぶとカーとの中に放り込んで、レジへと向かった。
2000円ばかしのお金を払うと、私はスーパーをあとにした。
愛が待っている。寄り道はこれ以上しちゃだめだ。
でも、愛なら許してくれるかも。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:09
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- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:10
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愛ちゃんがおかしいのは気のせいなんかじゃなかった。
でも愛ちゃんはなんで嘘なんかついたんだろう。
「ねぇ、今愛ちゃん」
「私行く!」
まこっちゃんの言葉を聞かずに、私は部屋を飛び出した。
気にならないわけがなかった。心配で仕方がなかった。
どうして最近一人でいる時間を一層増やしたんだろう。
どうして私達のことも避けているんだろう。
どうしてあんな嘘ついたんだろう。
村上愛ちゃんは今、Wのコンサートについて回っていて遠征中だから、
家で待っているはずなんてないのに、どうして。
愛ちゃんを追って、愛ちゃんと話して。止めなければいけない。
愛ちゃんがどこかへと行ってしまうのを。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:11
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愛ちゃんはスーパーに寄った。
私も常に5mくらいの間隔であとを追った。
愛ちゃんは野菜をいくつかかごの中に放り込むと、ルーが置いてあるコーナーまで
カートを転がしていく。
人の目も全く気にならないみたいで、堂々と顔を上げていた。
ルーのコーナーに着くと、愛ちゃんはそこで何故か甘口のカレーに手をかけた。
村上愛ちゃんは絶対にいない。それは揺るぎもない事実。
でも愛ちゃんが手に取ったのは甘口。どういうことだ?
愛ちゃんは口元を僅かに緩めると棚にそれをしまって、他のルーを取り直してレジへと向かった。
行動が読めない。
愛ちゃんはスーパーを出てからも何故か幸せそうな顔だった。
今にもスキップしちゃうんじゃないかって感じが後ろからも手にとるように分かる。
早足で、人ゴミの中愛ちゃんを追うのは大変だった。
愛ちゃん・・・一体どうしちゃったの?
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:11
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- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:12
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エレベーターのランプは階の上昇を告げる。
もうすぐ、会える。
私は嬉しくなってまたにやけてしまった。愛はこんな私の顔を見てどう思うんだろう。
気づくとエレベーターはとっくに到着していて、私は急いで外へと出た。
部屋は階段のすぐ横、一番近い部屋。
鍵を取り出して開けると、ドアに手をかける。そのときだった。
「里沙ちゃん!?なんでい」
私の言うことを全く聞かずに、里沙ちゃんは私を押しのけて家の中へと入っていく。
鬼気迫る表情に驚いてしまった。
「どうしたん?」
聞いても里沙ちゃんは何も返してはこない。
靴を脱いで走ると、しきりにおーい、と誰かを呼ぶように連呼していた。
「里沙ちゃん変やよ」
居間までスーパーの袋を持って歩く。
台所にそれを置くと、走り回る里沙ちゃんに聞いた。
「いきなり来て走り回って、騒がしいのう」
「誰もいないじゃない!」
何を言い出すのかと思えば。
里沙ちゃんはどうしてこうどこか抜けているんだろう。
年下だし、仕方がないのかな。私は指差した。愛を。
「ほら、いる」
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:13
-
でも里沙ちゃんは私のことをすごい眼で見て何も言わなかった。
どうして、ここにいるのに。
指を指しても分からないなんて、どこまで間抜けなんだろう。
里沙ちゃんは真剣な表情でじーっと目を凝らしてみた。でも分からなかったらしい。
部屋の奥へと歩き出すと見当違いの方向へと行ってしまった。
私は里沙ちゃんの名を呼ぶと、今一度指を指した。
「ほら、ここ」
「これ・・・」
「え?」
里沙ちゃんの身体は震えていた。
口をパクパクと開いたり閉じたりして、愛のことを指差して、
こう言い放った。
「これ・・・ただの鏡じゃん」
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:14
-
「は?」
なに言ってるんだろう、この娘は。
私の親友になんて言い草だ。鏡だなんて。物扱いしないでほしい。
そりゃ私とは双子みたいにそっくりだけど。
「なに言ってんの?彼女が愛だよ」
「・・・目を覚ましなよ、愛ちゃん」
私には彼女しかいないんだ。
彼女のことなら何でも分かる。顔の一部分一部分も隈なく把握している。
私が笑えば愛も笑い、私が泣けば愛もなく。
彼女がいないと私はダメなんだ。
「こんなもの」
里沙ちゃんが持ち上げた途端、愛は姿を消してしまった。
「やめて!!!」
私から愛を奪わないで。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:15
-
パリンッ!!
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:16
-
愛は大きな音を立てて散った。
私のたった一人の、本当に心から好きだった友達を。
悲しかった。もう帰らない愛のことが、悲しくかった。
そして、憎かった。里沙ちゃんが。たった一人の友達を奪った、里沙ちゃんが。
「あああああ!!!」
気がついたら身体は勝手に動いていた。体が一人歩きする。
里沙ちゃんは私の行動に驚いて、身動き一つ取れなかった。
私は愛の一部を拾い上げると、バックブローのように思い切り腕を振った。
「ひっ」
里沙ちゃんの悲鳴は声帯を破壊された事で途絶えた。
呆然と立ちすくむ里沙ちゃん。
その喉元から溢れ出る血がシャワーのように私に降りかかった。
私はそれを全身で受け止めた。視界のほとんどが紅く染まってゆく。
―――愛・・・あなたの手で仇をとったよ。
里沙ちゃんはすぐに無防備に倒れ、フローリングの床に頭を打ち付けた。
眼は開いているけど、その眼から命の灯火は感じられない。
「愛・・・今行くから」
私は真っ赤に姿を変えた愛を喉元に翳した。
―――今、逢いに行くよ。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:16
- 私が足に力を失い、崩れ落ちるまでそう時間は要らなかった。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:16
- 川*’ー’) (*’ー’ 川
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:17
- 川*’ー’)
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 16:17
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