16.機嫌無敵なデイズ

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 01:32
「すずめよりは高く飛べるよね?」
そう言って彼女は、大空へ高くジャンプした。
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 01:33
だけど、直ぐに地面に着地した。
「んふふーん、んふふ」
「何がそんなに楽しいの?」
「わかんない? だって空飛んだんだよ? 絵里、空飛んじゃった!」
絵里の笑顔は何時も不気味だ。可愛くてふにゃふにゃしてて潰れそうでいて、殴りたくて不気味だ。
街中でも関係ない。例えここが戦場であろうと道場であろうと教室であろうと教会であろうと番組中であろうと、
せっかくの休日じゃなくても、買い物帰りじゃなくても、どこでもいつでも不気味で殴りたい。
「ただ段差飛び越えただけじゃん」
「違うよさゆ! 見てなかったの? 空まで行って雲にタッチして流れ星に乗って降りてきたじゃん!」
今度は私の肩を掴んで揺らしながら熱弁する。と、思ったら今度は腕に抱きつき頬に顔を寄せる。
今日はすんごい寒かったから少し暖かくなった。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 01:34

「絵里ねー…ふふっ。あ、さゆ誰にも言わない? 誰にも言わないって約束する?」
口を尖らせながら言うから唇ひっぱって、ひっぱって伸ばして放してパチンってやろうかと思った。
「言う」
「えぇー言わないでよぉー誰にも言わないで!」
堪忍してって、絵里が手を合わせてお願いする。
「言う。絶対に言うよ」
唇つまんで引っ張ろうとしたら、絵里が喜びそうな気がしたから止めた。
「じゃあ言わないもん! 教えてあげない、さゆには一生教えてあげないから」
絵里が腕組んで、そっぽ向いた。
「なにを?」
「あのね、絵里ね、超能力者なの!」
今度は目を輝かせて、こっち向いた。
「なにできんの?」
「なんでも出来るよ、空も飛べるしぃー心も読めるしぃー…あとね、世界で一番絵里が可愛いしね!」
この口ぶるヤローめ。絵里は口ぶるヤローだ。いっつでも唇トがらしてる口ぶるヤロー。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 01:38
「いいこいいこ。じゃあね、いいこと教えてあげるよ。
 昨日ね、藤本さんの心読んだの。そしたらね、何考えてたと思う?」
「なんだろ…さゆのことぉ?」
私も唇とがらして、人差し指あてて、首をちょっこっと曲げて、そんなことしながら言ってみた。可愛い!

「違う」

絵里の顔から感情が消えた。たまに絵里は世の中の絶望とか失望とか憎しみとか怒りとか、
そういう感覚が全て封じ込められたような、それでいて時が止まったような、つまり感情の消えた顔をする。
そして決まって、即座に顔を潰して笑う。あぁ不気味。殴りたい。

「あのね、藤本さんね……ぷぷぷぷーアハハハハハっ!」
電線見たらすずめが鳴き合ってた。あれ? すずめって電線とまるっけ? カラスだけじゃないっけ?
あ、鳩もとまるかな。私は東京になれてしまったんだと思ったら少し寂しくて、少し大人になった気がした。
「ねぇねぇさゆきいてんの!? 絵里が今しゃべってんだよ?」
「うん、聞いてるよ。絵里って心からアホだよね」
「違う違う─(また感情失くした!)─あのね、藤本さん焼肉にネギのってて、
 それをどうするかずっと悩んで──ぷははははっ!」
惜しいなぁ。悩んで“る”まで、あとちょっとなのに限界きちゃった。そういえば、すずめって…あれ?
ウンチするの? あーアイドルがウンチなんて言ったらマズイのかなーじゃあウンコ。ウンコするのかなー。
鳩とかいっぱいするよねー…あ。あれフンって言うのかな。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 01:39
あ、ダメだ。
何時もは少し現実逃避してる間に絵里はこっちの世界に戻ってきてくれるのに、まだお腹抱えて笑ってる。
「ねぇ絵里。さゆ、もうおウチ帰りたい」
「ハハハハハ……ふぅーふぅー……うん?」
「もう、ちかれた。家で寝る」
「じゃあ家で帰っかぁ……ぷっ…ははははっ! 『で』とか言っちゃった! 『で』とか言っちゃあはははは!」
「…もういいもん」
すずめはもう電線にとまってなかった。あ、電線音頭って歌が昔あったらしい。テレビでやってた。
あ!? あの歌にすずめ出てくるじゃん! じゃあ電線にすずめとまっててもおかしくないじゃん!
良かったーさゆ間違ってなかったんだ。やっぱりさゆって可愛い──んぐぅ。
「さゆぅ…絵里を置いてくな!」
絵里が私のマフラーひっぱってる。しかもそれを腕に巻きつけてだんだん接近してくる。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 01:40
「やめてよ! このマフラー石川さんにもらったんだから!」
「あぁー!!! さゆは絵里よりも石川さんの方が大切なんだ! 好きなんだ! 今それが明かされた!」
「ピンクなのに! マフラーピンクだから可愛いのにぃ!」
「もういやぁー! さゆなんてピンクに埋まってブスになっちゃえ!」

うん?

「ばぁーかばぁーか! さゆのばぁーかっ!」
「絵里、今なんて言ったの?」
「ばぁーかばぁーか! しそーのーろぉー!!!」

うんぎゃーうんぎゃーうるさいからアゴつかんで黙らせた。

「痛いっ! なにすんの!」
「今なんて言ったのっ!」
「ばぁーか!って言ったの!」
「違う! もっと前!」
「ブス!」
「それだぁ!──あっ!?」

気付いたら絵里は鼻血を出していた。絵里は垂れてくる血を呆然と手で受け止めていた。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 01:42
「ご、ごめんね絵里! 痛かった?…よね?」
「……もう帰る! さゆなんて石川さんの黒い…………ねぇねぇさゆあれ見た!? 石川さんの時代劇のやつ!」
「見た見た! あれ何色? あれ何っていう色なの!?」
「わかんないわかんない! でもさぁーあれはヤバいよねーだって…ぷはぁーっ!」
「ダメだよ絵里、先輩だよ!」
「アハハハハハハっ! ダメダメさゆのせい! さゆのせいだっての!!!」

絵里は鼻血を出しながら笑った。血がボタボタ地面に垂れてるのに大声出して笑ってるから綺麗だった。
そんな絵里を少し可愛いと思っちゃった、さゆみんなのだ。

8 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 01:43
LOVELY
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 01:43
LOVELY
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/21(日) 01:44
WAY

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