7 しりあす・いんしでんと・あばうと・どらっぐ
- 1 名前:7 しりあす・いんしでんと・あばうと・どらっぐ 投稿日:2004/11/15(月) 00:08
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まっしろなカーテン、まっしろなベッド、まっしろなシーツ、まっしろな壁。
神経質なほどに白い部屋の中で、黄ばんだ天井だけが、唯一のリアルだった。
瞼が重く、こめかみの辺りから後頭部にかけて痺れている。
鈍い思考に、今が夜であることしかわからない。
体を動かすたび、筋繊維のあちこちが切り裂かれているような痛みが走る。
不意に吐き気が込み上げ、わけもわからずに吐いた。
あるもの全て吐き出しても、胃は痙攣し続けている。
吐瀉物が、ベッドに黒く染みを作った。
口の中、そして一帯に薬の匂いが起ち込める。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:08
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もう一度吐こうと思った。けれど意識して吐こうとすると、思いの他、右の目玉が転げ落ちた。
本来あるべき場所から開放された目玉は、コロコロリと転がってベッドの上で私を見つめる。
汚れたベッドにドロリとくぐもった眼球という取り合わせは、似つかわしく感じられた。
「……ロウ!」
ふいにそんな声が聞こえる。目玉が何か言ったような気がした。
私は目玉をマジマジと見つめてみる。なまずにうろこが無いのと同様に、目玉に口など無い。
しかし、それから声が発せられたような気がした。私は目玉をそっとつまみ上げる。
「……タロウ!」
今度は確実に目玉が何か言ったのだと分かった。しかし良く聞き取れなかった。
私は目玉を丁重にプルプルと振るってみる。無言。無反応。瞳孔が開いてゐる。
それならばと、床に叩きつけてみた。目玉は大音量で「オイミキタロウ!」と発した。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:09
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そこで理解した。なるほど私の名前は藤本美貴だ。確かにミキタロウかもしれない。
そしてあの声を発する目玉は私の右目だ。すなわち私のお父さんにあたる方に違いない。
私は慌てて床に乱暴に投げつけた目玉をそっと拾って、お茶碗の中に入れると、
急須で冷ました人肌程度のお湯をコポコポと掛けて差し上げた。
そして、涙を流しながら先程の非礼について詫びた。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:09
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「ごめんね、ごめんねお父さん、堪忍してね。美貴はね。怒ってたわけじゃないんだ。
世の中が悪いんだ。小泉が悪いんだよ。美貴はね別にお父さんのことが嫌いとか、
そんなんじゃないんだ。だけど、世の中が悪いんだ。仕方ないんだよ。
あのねでもお父さん良く聞いてね。つんく♂がね、美貴のことをセンターにしてくれるっていうんだ。
でもね、でもね、あのねのね。ごめんね。美貴はつんく♂なんかに処女を捧げる気は無いし、
でもそれがお父さんやお母さんに対する親不孝になるってことは十分承知してるんだ。
でもね、世間が悪いんだ。世の中が悪いんだ。つんく♂がね、実は道重のお兄さんだ。
とか、そんなことはどうでもいいんだけど、美貴は本当にすまないと思ってる。
だからね、だからね、許してほしいなぁって、お父さん、ねぇ、お父さん。
パパに似てる彼、連れて来てあげられなかったね。ごめんねお父さん。
釣り好きの人には悪い人ばかりって、お父さんいつも言ってたよね。うん、ごめんねごめんね」
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:09
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それでも目玉は何も言わない。いつものように「ふー、極楽じゃー」とも言ってくれない。
私の名前も呼んでくれない。私は事の重大さを改めて感じた。そして一層礼をつくして詫びた。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:10
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「父親を床に叩きつけるなど非礼中の非礼、不孝中の不孝、不忠中の不忠、三十分間二万五千円の過ち。
拙者、決してそのようなことを曖昧化させて済ませてしまうようには教育されておらん、
かくなる上は切腹。その後、拙者の首を市井に晒して頂きたい。それが世の情け。人の情け。
拙者の武士道。ザ・ソウル・オブ・ジャパン。インリン・オブ・ジョイトイ。
武士道と謂ふは死ぬことと見つけたり。さらばさらば。うぬぬぬ」
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:10
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丁度良い塩梅に目の前に結構な刃渡りのテカテカと輝くナイフがあった。
私はそれをギュッと握ると一気にわき腹に突き立てた。思わず声が漏れた。
そこで意識が無くなった。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:11
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- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:11
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目覚めると目の前に心配そうな可笑しそうな辻の顔があった。
「あ、ミキティ起きた。オハヨ」
「うん、おはよう」
口を動かすと、何故か右の鼻の穴がズキズキと痛んだ。筋肉痛もまだ残っていた。
ぼんやりと辻を見つめている内に、素直な疑問が浮かんで来たので、それを口にしてみる。
「なんで辻ちゃんがここにいるの?」
「うぅん、えぇと、それはね……」
辻は何か後ろめたいことでもあるかのようにモジモジしていると思ったら、
急にペコンと頭を下げた。
「ごめんなさい!」
私には一体何がごめんなさいなのか良く分からない。私の寝ている間に何かしたのか。
するとこの右の鼻の穴の痛みは辻のせいか。私の鼻の穴に指でも突っ込んで、
ビリッと鼻の穴を裂けさせちゃったりしたのか。いや、指ではなくて西瓜によるものなのか。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:12
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「何が?」
「昨日ミキティのジュースにこれ入れたの」
そうして辻が差し出したのは白い粉。白い粉。白い粉といえば小麦粉。
いやいや片栗粉かもしれへん。とか大阪弁になったりして。
私はそのあまりにも懐かしい粉末を見て、多少動揺していた。
「これってアレだよね、アレ、大きな声では言えないけど」
「ののも良くわかんないんだけど、つんく♂さんが『疲れたときはこれや』って」
辻の申し訳なさそうに語る様子を見て、ふつふつと怒りを感じた。
私はあの糞ジジイとか思いながら、辻に話を続けるように促した。
「ミキティがなんかすごい筋肉痛で辛いよーって言ってたから、親切のつもりで入れたんだけど、
そしたら、夜中に急にミキティの居る部屋の方からブツブツ聞こえて来て、
変なのって思ったけど、でっかい寝言だなーと思って、そのままうつらうつらしてたら、
今度はなんかウッて大きい声が聞こえて、ちょっと心配になってミキティの部屋に行ったら」
辻は何か面白いことを思い出したのか、少し笑顔になって言った。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:12
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「ミキティが鼻の穴にボラギノール突き刺して、床に倒れてたの」
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:12
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- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:13
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「ちょっと、つんく♂さん、辻に変なもん渡したでしょ」
「な、何言うんねん藤本、いきなり何のことや」
「だから、『疲れたときにはこれや』とか言って辻に変なもん渡しだろ、っつてんだよ!」
「あ、あれか。あれはちゃんとした栄養剤やで。今風に言うとサプリメントや」
「バレバレの嘘つんくじゃねーよ!証拠は挙がってんだよ!」
「分からん奴やな、あれはホンマにちゃんとした栄養剤や、疲れがとれるんや、
俺もあれをいつも愛用しとるんや、絶対変なもんちゃうわ」
「じゃあ証拠見せてみろよ」
「分かった分かった、そう凄まんでくれや、怖いでお前、えーと、あったあった、
これや、この箱や、見てみい、この箱にしっかりと……ぅん?」
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:13
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「……すまん、辻には間違えてバイアグラ渡してしもうたみたいや」
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:13
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お薬は用法を守って正しく使わなければいけないな、と私は思った。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:14
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おわり
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:14
- ぺっ
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/15(月) 00:14
- ぱっ
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