5 ヴァンプドリーム

1 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:19
「ふわぁ〜〜」
カーテンから漏れた朝の光が私を現実へと戻した。朝の目覚め特有の気だるさが私を包み込む。
伸びをしようと思ったがなんだか首が痛い。
寝違えたのかと思ったが、どうもその痛み方とは違うような気がした。
2 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:21
 私は未だぼんやりとした頭をぶるぶると振って、右の手で鈍痛のする首筋を何度かさする。
 すると、指の腹がその場所に何かを見つけた。
「んん?」
 でこでこと、小さなくぼみがふたつある。それはザクロの実ほどの大きさに私は感じた。
 にきびかと思ったけれど、それならばへこまずにぷつんと存在を主張するように出っ張っているはず。
 私はその部分が無性に気になり、それでも鏡などで確認もせずにただ指先でしきりにこすった。

 ……臭い。
 何の匂いだろう、これ。でも、知っている匂いだ。
 ようやく覚醒してきた脳みそをフル回転させる。
 ブランコ……鉄棒……ダンベル……そうだ、鉄の匂いだ。いや、鉄というよりこれは──
3 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:22
「血ぃ!?」
 私は慌ててこすっていた指先を見つめた。
 爪の先から第一関節にかけて、赤茶色の染みがついている。おお、これはまさしく血だ。
「なんだよもう、鏡、鏡……」
 離れたデスクの上の鏡を求め、私はベッドから一歩降りる。

 ぷにん。

 足の裏、弾力のあるマシュマロを踏んだような感触がした。それも、ほどよく温かい、人肌に近いぬくもりのあるマシュマロ。
 そしてそのマシュマロは突然、うめき声のようなものを発した。
「んおおおおう」
「うひぃ!」
 心臓が一瞬動きを止めて、口からぼろりと飛び出そうになった。
 落ち着け、美貴。
 私は胸に手を置いて、二度、大きく深呼吸をして荒れた鼓動を鎮ませた。
 ベッドの脇には、転がるようにして人が寝ていた。
4 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:23
 その人は、眠そうにもぞもぞと身じろいで、大きなあくびをする。
 まぶたを縁取るようにぎっしりと生えた長いまつげと、薄く開けているはずなのにだいぶ大きく見える目、そして顔にちらばるいくつものほくろが印象的な女の子だった。
 同い年くらいだろうか。
 それにしても覚えがない。
 不法侵入? 泥棒? しかし、そんなやつが標的の部屋で寝るか、普通。
5 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:24
 私はくせになったかのように、首筋を撫でた。
 薄い血の匂いが、再びふわっと鼻腔をくすぐる。
 その時、横になっていた女の子ががばっと勢いよく起き上がり、
「うおおお!? 血! 血だぁ! 血の匂いがするう!」
 と、寝起きのせいか少しかすれた声で言った。
 ぐりんぐりんと首を振り、そして呆然と彼女を見つめる私と視線が交わった。
 私を見つめる大きな大きな双眼は、まるで獲物を捕らえたそれのようだった。

「あ、あのぉ……」
 恐る恐る声をかけると、女の子はにへっと子供のように笑った。
「お腹すいちゃったんで、もう少しもらっても良いですか?」
「はあ?」
 もらうって一体何をだろう、だいたいいきなりなんなんだ、この子は。
 私は首をかしげる。
 すると女の子が、ベッドの縁に腰掛けた私に四つん這いで寄ってきて、そしてすくっと立ち上がる。
 あ、背大きいんだなと思った。
 膝に手をあてて中腰になった彼女は、その端正な顔を私の顔と同じ高さに持ってきた。
 私の両肩にぽんと手を添えるように置き、何をするんだろうと思ったその時、彼女の顔が私の首筋に埋まった。
6 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:25
「────!」
 私、びっくりして息を呑んだ。
 耳の近く、ぬるっという音がした気がした。
 首筋のくぼみの部分に、なにかが入った──いや、刺さった?
「う……うへあ……」
 気の抜けたような声しか出ない。
 はあはあと、犬のようなだらしのない呼吸しかできなくなる。
7 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:25
 ──吸われている。
 信じられないけど、血を吸われている。
 血だけじゃない。精力が、力が、血と一緒に流れて出ている。
 冗談じゃない。このままじゃ私、死んでしまう。
 まずいまずいまずいまずい!
 私は歯を食いしばり、彼女を突き倒した。
 彼女はしりもちをついて、そのまま後ろのワークチェアに後頭部をぶつけて悶絶していた。
「ぬあああ……いてえええ……。なにするんスかあ、別に全部もらおうとはしてないですよう」
「なにって……あんたこそなにするのよバカ!」
「血、もらってただけじゃないスか」
「なに当たり前みたいに言ってんだ! 首筋の傷もあんたの仕業でしょ!」
「ええ? 仕業? つーか、なに怒ってるんですか。今日のなつみさん、おかしいですよ」
8 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:26
 …………。
 今、なんて言った? こいつ。
 「なつみ」って言わなかったか?
 私、なつみじゃないぞ。私の名前は美貴だ。なつみは私の姉の名前だ。
 なつみ姉ちゃんと私は姉妹だから、まあ多少は似ているけれど……。
 まさかこのバカ……間違えてるとかじゃないよね。
9 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:27
「なつみさん、ひどいよ。よしこ、頭の後ろっかわにでっけーたんこぶできちゃったよう。いてえよお」
 私は、後頭部をさすりながら眉をゆがませる彼女の胸倉をぐっとつかみ、そして思いきり引き寄せた。
「……なつみ?」
「ふええ?」と彼女が情けない声を出して私を見る。
 少し開いた口の端から、血の筋が一本、すうっと顎へと伝った。彼女の血じゃない、私の血が。
「ねえ、ちゃんと見て、私は誰?」
「へ?」
 さっきとはまた別の、眉のゆがみ。彼女はいぶかしげに、私の顔を改めてまじまじと見つめた。
 目、鼻、口、頬、額、頭、そして再び目へと動く瞳を、私は追うように見た。
 彼女は一回、ぱちくりと瞬きをし、薄い唇をぽそぽそと小さく動かして言った。
10 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:28



「人違いでした」

11 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:29
 ……ありえない。
 がっくりを肩を落とすと、彼女は申し訳なさそうに私を見た。
「あのう、コンタクト付け忘れちゃってて……血、吸っちゃってごめんなさい」
「いや、その、てゆーか、血を吸うってあんた何者なわけ?」
「あ、ヴァンパイアのヨシザワです」
「……」
 私がおかしいのか、それともこの世界がたったの一晩で変わってしまったのか。
 ヴァンパイアって、こんな普通にいるものなんですか?
 血を吸われたことは事実。首筋に謎の穴が空いていることも、目で見て確認はしていないけど、これもきっと事実。
 そして私の目の前に、一人のヴァンパイア・ガール。

 ……なにかがおかしい。
 私も、この世界も何かおかしいけど、私はこの感じを知っている。
12 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:30
「大丈夫ですか? あの、寝てた時にも勝手にいただいちゃいまして、その、ごめんなさい」
「いや、その、てゆーか、ヴァンパイアについて、詳しく」
「え? 詳しくって?」
「なんでもいいから教えろ」
「──ええっと、ヴァンパイアは血を食らう生き物でえ、この世にヴァンパイアが誕生したのが……いつだったかなあ、すっげー昔でえ、人間とヴァンパイアが共存を始めたのが、えっと……」
「共存っ!?」
 私は思わず声を荒げた。

 待て。
 ほら、やっぱりおかしいぞ。
 いつそれを始めたのか聞きそびれたけれど、共存してたなんて、そんなの知らないし。
13 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:30
 時空がゆがんでいる?
 一晩普通に寝ていたと思いきや、実は何日も何年もずっと寝ていたとか?
 そしてその間に共存を始めた?

 ……違う。そんなんじゃない。
 私は知っているんだ、この不可思議な感覚を。
 思い出せ……思い出せ……思い出せええぇ……。
14 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:31





「ふわぁ〜〜」
 カーテンから漏れた朝の光が私を現実へと戻した。朝の目覚め特有の気だるさが私を包み込む。
 寝癖のついた頭をぱりぱりとかきながら、体を半分起こした。
 焦点の合わない目でしばらくぼうっとしていると、さっきまで脳みそが見ていたであろう、ぼやけたフィルターのかかったような、少し淡い色の映像がフラッシュバックした。

 ああ、そうだ。
 夢だ。夢だったんだ、あれは。
 あの、覚醒したと思ってもどこかふわふわと浮かんでいるような不思議な感覚。
 なんだ、夢か。なんだなんだ。
 そうだよね、ヴァンパイアなんているはずないじゃん。
15 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:31
 あー、変な夢見たな、と私は小さなあくびを漏らした。
 伸びをしようと思ったがなんだか首が痛い。
 寝違えたのかと思ったが、どうもその痛み方とは違うような気がした。
 首筋をさする。
 でこでこと、小さなくぼみがふたつある。それはザクロの実ほどの大きさに私は感じた。
16 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:32
从VvV)(^〜^0)
17 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:32
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18 名前:5 ヴァンプドリーム 投稿日:2004/11/13(土) 04:33
Σ从VoV)〜^0 )カプッ

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