4 ジャングルジム

1 名前:4 ジャングルジム 投稿日:2004/11/13(土) 02:18
「すずめよりは高く飛べるよね?」
そう言って彼女は、大空へ高くジャンプした。
2 名前:4 ジャングルジム 投稿日:2004/11/13(土) 02:19
 
3 名前:4 ジャングルジム 投稿日:2004/11/13(土) 02:19
通りがかった公園のジャングルジム、ペンキの色は水色。
遠目からはそうでもなかったけど、近付いてみると
ところどころ剥げ落ちたペンキ。剥がれかけのペンキ。
一箇所指でつまんで折ってみたら、ペキッ、と小気味いい
音がして、隣の彼女が笑った。

「何いきなり笑ってんの」
「ハ、や、ペンキがペキッって、あは、ははは」

自分でもくだらないことがわかってたみたいで
それでも相当ツボに入ったのか
顔を伏せてなおも笑い続けようとする愛ちゃんに
ささやかな悲劇が待っていた。

「ぃだっ!」

ゴン、と鈍い音を立ててジャングルジムの横棒が
剥き出しの額にヒットしたのだった。

「……アホ」
4 名前:4 ジャングルジム 投稿日:2004/11/13(土) 02:20
「ったぁ〜……くっそ!」

今度は間抜けな自分にムカついたのか
それともやっぱり恥ずかしかったのか
彼女は目線の高さにあったくすんだ水色の一つに手をかけて
弾みをつけて飛び上がり、あっという間に天辺に
昇って行ってしまう。

その様子はちょうど頭上で渦を巻いたような形を成している
雲のせいで、ペンキの水色もそれに一役買っているのか、
空に向かって吸い込まれていくみたいに思えた。

気付いたら自分の体も空に向かって伸びている。



「おいでませ我が城へ!」
「いつのまにそうなったんだよ。ていうか愛ちゃん」
「里沙王子はあーしをここから連れ去りにきてくれたの?」
「妙な想像しないでよ!声作るなよ!話聞けよ!両手胸の前で組むなよ!」

うぉ、すげーマシンガン突っ込みや美貴ちゃん顔負け!

……コイツは。
今のは無視してやる。
5 名前:4 ジャングルジム 投稿日:2004/11/13(土) 02:21
 
6 名前:4 ジャングルジム 投稿日:2004/11/13(土) 02:21
「…天辺に来てみるとそんなに高くないね」

ジャングルジムって凹凸の凸みたいな形が一般的らしくて
この公園のもそのタイプ。
凸の天辺には先に昇った愛ちゃんが居て、
錆付いていてもしかしたら服に剥がれたペンキがつくかもとか
そういう想像は全然しなかったらしく、鉄棒に浅く腰掛けていた。

その一段低いところにある碁盤の目をした棒の一つに足をかけ、
愛ちゃんの肩を借りて支えにしていた私は、どれどれ、
と触れるか触れないかのところまで自分の顔を彼女の顔に近付けた。
同じ高さで見る為に。

「あー、そーだね」
「ちっさい時はものすご高く感じたのになあ。落ちたら
 絶対死ぬって思ってたよな」
「思ってた思ってた」

今ならこの高さから飛び降りても普通に着地できそう、
耳元で独り言なのか話し掛けてるのか曖昧なことを言う。
私は後者だと思った。

「いやーちょっと厳しいでしょ。危ないよ」
「…試してみよ!」
「ええっ?!」
「……二段くらい降りてそこから」
7 名前:4 ジャングルジム 投稿日:2004/11/13(土) 02:22
なんだよ、驚かすなよ全くもう。
それより里沙ちゃん、手離して。

……どうやら本当に飛び降りる気らしい。
私はすんなり手を離した。バランスを崩す。ふんばって、
愛ちゃんが腰掛けてた部分の鉄棒に手をかける。
ここを掴むのがわかってたんだろう。彼女は素早く
立ち上がって掴むスペースを空けてくれていた。

腰を屈めて無理な体勢で居たのを、足元確認しながら
重心かえて立て直して、顔を上げたら愛ちゃんは既に
ジャングルジムの外側に出ていて、一番上の横棒から頭だけ出ている。
顔はこっちを向いてて、目が合ったら悪戯っ子のように
歯を見せて笑ってた。

実際これから彼女はほんの一瞬だけ子供に還るつもりだろう。
8 名前:4 ジャングルジム 投稿日:2004/11/13(土) 02:22
「すずめよりは高く飛べるよね?」
そう言って彼女は、大空へ高くジャンプした。
9 名前:4 ジャングルジム 投稿日:2004/11/13(土) 02:23
ここからじゃ良く見えないけど、
トン、と、小学生の時よく耳にした乾いた土とスニーカーが
叩き合う懐かしい音が聞こえたから、無事着地できたんだと思う。

「楽しかったかー?」
「楽しかったー」

相変わらずジャングルジムの影に隠れて愛ちゃんの姿は
見えないけど、テンション高くなると急に子供還りする
やたら甲高い声で返事してきたから本音だとわかった。

「でもさぁ」
「ん?」
「実際すずめってどんくらい高いとこまで飛べるんやろ」

里沙ちゃん知ってる?
足元から尋ねられる。

「知らないけど、今の愛ちゃんより高く飛べるのは間違いない」
「そんなんわかっとるわい」

じゃあ聞くなよ、どんな答えを期待してたんだ。
聞いたところで彼女の期待通りの答えを返せるわけが
無くて、何かしら言い返されるのは充分わかりきったことだ。

「でも楽しかったで」
「よかったね」
「うん」
10 名前:4 ジャングルジム 投稿日:2004/11/13(土) 02:23
11 名前:4 ジャングルジム 投稿日:2004/11/13(土) 02:24
「ガキィー、いつまでそこに居るんじゃー!」
「はぁ?!」

ふと気が付くと地面に降り立った愛ちゃんはここからでも
姿が確認できるくらい遠くに居てそこから
からかうように叫んでいる。

一瞬で頭に来て、それこそ飛び降りてとっ捕まえて
やろうかという考えが過ぎったけど、意に反して私の
四肢は臆病で用心深くゆっくりジャングルジムから降りた。
愛ちゃんみたいに飛び降りたところで
愛ちゃんと同じ気持ちになれないことも
充分わかりきっていたから。

それがほんの少し寂しく感じることもわかりきっていて、
こんな風に思うのは
ついこの間誕生日を迎えてしまったことが一つの原因かな、
なんて醒めたことを思う自分を発見する。

十五歳の私だったら
もしかしたら同じように飛び降りていたかもしれないね。
12 名前:4 ジャングルジム 投稿日:2004/11/13(土) 02:24
…だけど追いかけるくらいの若々しさ、いやひょっとしてこれが
馬鹿馬鹿しさ?はまだ全然持て余してるぞ。

私は地面に降り立つとすぐさま愛ちゃん目掛けて
ダッシュした。

「コラぁ、待たんかい!」
「うおっ、こっち来る!逃っげろ〜!」

コイツ明らかに人をおちょくって楽しんでるな、
そう思ったが走り出した体はまるでそれを待ち望んでいたかのように
速度を上げていく。

愛ちゃんの足の速さだと捕まりっこ無いのに、それだって
わかりきっていたことの一つなのに、私は追いかけるのを
止めなかった。

追いかけっこは公園を出てすぐの交差点で赤信号に
捕まるまで続いた。

歩行者信号が点滅してブレーキをかけた愛ちゃんにやっと追いついて、
もう逃がすまいと多少乱暴に掴んだ腕の感触と、
勢い振り向いた時の愛ちゃんのビックリ顔と、そのすぐ後の

「アッハ、捕まっちゃった!」

という無防備な笑顔がやけに印象的で、腹の立つほど清清しく、
私は

「ガキはどっちだよ!帰り道は反対側!」

と憎まれ口を叩きながら愛ちゃんの手を引いて来た道を戻った。
13 名前: 投稿日:2004/11/13(土) 02:25
14 名前: 投稿日:2004/11/13(土) 02:25
川*´ー`)=3
15 名前: 投稿日:2004/11/13(土) 02:26
ノlc|;-e-)|l =3

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