38 泣かないで、愛してる。
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:40
- 38 泣かないで、愛してる。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:41
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窓の向こうは、梅雨の空。
今日もどんよりとした、重たっくるしい1日になりそうで。
あたしは窓に手をあてたまま、ため息をつく。
傍らには、梨華ちゃんがむき出しの肩を布団から出して熟睡中。
風邪ひくよ、と本人には絶対聞こえない微かな声で言ってみる。
穏やかな風景。
目覚めるにはまだ少し早い、生ぬるい朝。
あたしはそっとそこにいたづら書きをした。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:42
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いつからだろう。
梨華ちゃんの心があたしにないと気付いたのは。
彼女は、あたしの隣りでにっこり微笑む。
よっすぃー、と甘い声であたしの名を呼ぶ。
愛しそうに、あたしに触れる。
だけど。
時々、遠くを見る。
遠い目をして、何か見えないものを見ようとするように。
あたしは、彼女があたしのものだと思いたくて
梨華ちゃん、梨華ちゃん、と彼女を呼ぶ。
けれど、普段はしつこいくらいにあたしに擦り寄ってくる彼女は
そんな時に限って無反応になる。
まるで、目も耳も、全ての感覚を遮断したように。
ただ一心に、あらぬ方向を見つめてる。
その遠くを見る瞳を、あたしは見ないように目を伏せた。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:42
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それでも、あたしは臆病で。
梨華ちゃんに何も言えずにいた。
彼女は変わらずにあたしに愛の言葉を伝え、あたしに身を寄せてきたから。
見えない振りをした。
知らない振りをした。
そう。
あたしが知らない振りをすれば。
そうすれば、あたしたちはずっとここでこうしていられる。
そう解かっていたから。
あたしは、彼女を手放す気はさらさらなかった。
だからあたしたちがラブラブなカップルで、何も心配ないように振舞った。
それから少しして、梨華ちゃんが倒れた。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:44
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よしこは何もしらないから。
ごっちんに言われてムカっとした。
「なんだよそれ」
そう言って彼女の肩に手を置くと、彼女もまた
「はあ?知らないから知らないって言ってんでしょっ」
と返してきた。
売り言葉に買い言葉。
「そんな調子じゃ、梨華ちゃんが後藤と寝たことも知らないよね?」
あたしに肩を掴まれて、しかし面白そうにごっちんが言う。
ふっと鼻で笑って。
「はあ!?」
あたしの声が静まりかえった廊下に響く。
「ほら、だから言ったんだよ。よしこは何も知らないって」
無言で立ち尽くすあたしの手を肩から払い、勝ち誇ったようにごっちんが続ける。
「まあ、心配しないで。昔のことだよ。続いてる訳じゃないし。ちょっとした弾みって奴?」
そう言って、ソファから立ち上がったごっちんは廊下の非常灯に横顔を
照らされ、酷く大人びて見えた。
あたしと同い年とは思えない。
何か言おうとあたしが口を開けかけた時
「こら、うるさいよ。ここ病院なんだから」
飯田さんが中から出てきた。
すると、ごっちんがあたしに耳打ちする。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:45
- 「カオリンもだよ」
そして
「梨華ちゃんの様子どうですか?」
と飯田さんの方に寄っていく。
カオリンもだよ…。
どういう意味だろうか。
飯田さんも……。
「ん、過労だってさ。点滴して休めば大丈夫だって。ご両親来るまで
私が付いてるから、あんたたちはもう帰りな」
「梨華ちゃんにちょっとも会えないの?」
抗議するごっちんの背を、あたしはぼんやりと見つめる。
なんだか世界がぼやけて、まるであたしとみんなとの間に何か挟んでいるように感じる。
ごっちんをなだめすかして、飯田さんがこっちにやってくる。
「ほら、吉澤も後藤と一緒に。ね、また明日来な」
あたしたちの背を押す。
あたしは言われるまま、やはりぼんやりとごっちんと歩き出す。
けれど病院を出たところでふと我に返り、元来た道を引き返した。
「よしこーーー?」
さっきまで言いあいをしていたとは思えないごっちんの優しくも間抜けな声が背後でした。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:46
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病室の中。
部屋に灯りは点いてなく。
月明かりだけが照らしていた。
窓際にある白いベッドに上身を起こした状態の梨華ちゃん。
傍らには点滴が置いてあり。
そこから伸びるチューブが痛々しく彼女の細い腕に繋がれている。
梨華ちゃん、そう声を掛けようとして。
その時、私の立つ方のカーテンの向こうから飯田さんが現れた。
室内が暗くて、彼女がいることが今まで解からなかった。
一瞬躊躇していると、飯田さんは
「かわいそうに…」
と呟いて、身体を梨華ちゃんのベッドに寄せて。
そっと彼女の唇に自らの唇を寄せた。
何が起こったかわからなかったけど。
梨華ちゃんがキスの前も後も、変わらずに遠い目をして
窓の外を見ていたことだけは記憶している。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:46
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翌日には梨華ちゃんは退院して。
あたしの待つ彼女の部屋に帰ってきた。
あたしはやはり何も聞かず。
そんなあたしに、ちょっと無理しちゃったかな、って彼女は笑って言って。
それだけだった。
そしてまた、日常に戻った。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:47
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今日の仕事も終わり、梨華ちゃんの部屋に帰る。
梨華ちゃんの方が今日は仕事が少なくて。
テーブルの上には多分スーパーで買ったであろうお惣菜を並べた夕飯と
「ちょっと寝ます。帰ったら起こしてください。一緒に食べましょう」
というメモが置いてあった。
寝室を覗くと、今朝と変わらぬ様子で梨華ちゃんがベッドに横たわっていた。
違うのは、今度はちゃんと衣類を身に付けてること。
あたしはやはり今朝あたしがいた梨華ちゃんの隣りのスペースに腰掛ける。
彼女の髪を優しく撫でて。
そしてふと、朝したようにカーテンに手を伸ばしてめくり外を見る。
するとそこには。
朝、あたしが書いたいたづら書きが残っていた。
とても簡単だけど、それはあたしと梨華ちゃんの似顔絵。
(#´▽`)´〜`0)
だけど。
梅雨の湿気で、それは
(#T▽T)´〜`0)
こんな感じになっていた。
なんであたしの顔だけ変わらないで、梨華ちゃんのだけ泣いてるのさ。
あたしは窓硝子に突っ込む。
そして、傍らに眠る梨華ちゃんを見る。
泣いてない。
泣いてないよね、梨華ちゃん。
あたしはそっと彼女の閉ざされた瞼に触れる。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:48
- 静かだった。
しんと静まり帰った世界に、あたしと梨華ちゃんしかいない。
あれからずっと、ごっちんに衝撃の片鱗を告げられてからずっと、
世界は硝子に包まれたようで。
あたしを世界と隔離するように、硝子が全てを覆いつくし。
だけど。
梨華ちゃんがいてくれるなら。
梨華ちゃんといる為なら。
それでもいいと思った。
例え、梨華ちゃんが硝子の外を見つめて遠い目をしても。
硝子の外で、何をしていようと。
それでも、あたしの腕の中にいてくれれば。
だから、梨華ちゃん。
あたし、何があったかなんて聞かないよ。
体調不良の理由も。
他の子のことも。
硝子の外のことは、何も気にしない。
だから、梨華ちゃん。
泣かないで、愛してる。
ずっとここにいよう。
硝子で隔離された、あたしだけの楽園。
あたしはこの恋に生きる、そう誓った夜。
ただ窓硝子に描いた梨華ちゃんだけが悲しそうに泣いていた。
そんな夜。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:50
-
〜END
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:51
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Don’t cry ,
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/27(日) 22:52
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I love you baby .
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