37 美の極致
- 1 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:21
- 37 美の極致
- 2 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:21
- 石川梨華の悩みの種といえばやはり、地黒なその肌であった。
黒いとは言ってもやや褐色といった程度で、実際気にする程ではない。
しかし、人の言葉を真に受け易く後々まで引き摺るタイプの石川は、
吉澤ひとみに「うわ黒っ!」と嘲笑されたり、矢口真里に「黒いから!」と蔑まれたりする度、
人知れず心を痛めていた。
- 3 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:22
- 白くなりたい! 綺麗になりたい!
自分を馬鹿にしてきた人間を見返してやりたい一心で、洗顔に化粧品、サプリメントにエステ等、
少しでも効果が有りそうなものは片っ端から試してみたが、成果は得られず終いだった。
所詮は叶わぬ夢なのか。打ちひしがれ消沈した日々を送っていた、ある日の事である。
- 4 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:23
- 帰宅した石川がマンションのエントランスで郵便物を確認すると、
ポストには新聞と数枚のダイレクトメールの他に、小さなビニールの包みが一つ入っていた。
表面にはここ数ヶ月間慣れ親しんだ「美白」を謳った文句が
「白く透き通った張りのある肌に」と印刷されていて、中には三センチ程の容器が収まっている。
化粧水のサンプルらしかった。
- 5 名前::37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:23
- 部屋に戻ってシャワーを浴び、就寝前、石川は鏡台の前に座っていた。
手には先程の包みがある。開封して逆さにすると、化粧水と使用説明書が出てきた。
二つ折りの説明書を広げ、目を通す。
『おやすみ前に、二、三滴を掌に伸ばし、まんべんなくお肌に塗りこんでください。
白く透き通った、張りのあるお肌をつくります。続けて一週間お試しください。
お肌に異常があるとき、お肌に合わないときにはご使用をおやめください。』
- 6 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:24
- 石川は説明通りに化粧水を掌に伸ばし、顔全体にそれを塗りこんでいった。
石川は手を動かしながら考えていた。最初から期待はしていない。
今までやってきた事も全て無駄だった。この行為は結局の所、気休めに過ぎないのだと。
塗り終わった後、鏡の中の自分を少しの間見詰めてから、石川はベッドへ向かった。
- 7 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:25
- 目覚めると、真っ先に鏡の前に立った。期待はしていないと言いながら、
やはり変にドキドキしてしまう自分がいる。
鏡に映る自分の顔色は、心なしか明るくなったようだった。その日、石川は一日上機嫌だった。
- 8 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:25
- 石川があの化粧水を使い始めてから五日が経過した。
石川の肌は日毎にその白さ、透明感、張りを増し、説明書にあった一週間を待つまでもなかった。
あるスタジオでの歌番組の収録の合間、自動販売機で飲み物を買っていた石川は、
廊下の角から近付いてくる矢口と吉澤の声に気付き、とっさに販売機の陰に身を隠した。
二人は石川の噂をしているらしかった。
- 9 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:26
- 「最近さー、梨華ちゃんやけに白くなったよね。なんか肌もピチピチって感じじゃん? おいら羨ましいよ」
「ホントですよ。どうしちゃったんですかね? あの白さ、その子ばりですよ」
「そりゃ言い過ぎだって! てゆーか古いから! キャハハハハ」
石川は内心狂喜した。ついこの間まで物笑いの種だった自分が今や羨望の的となっている。
この事実は石川を興奮させずにはおかなかった。
- 10 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:27
- 夜、いつもの様に石川は鏡台に向かっていた。
空になりかけた容器の他にもう一つ、袋に入った物が目の前に置かれている。
今日また同じ物がポストに入っていたのだった。
石川は自分を美しくしてくれるこの化粧水に感謝しながら、丹念に顔に塗りこんでいった。
- 11 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:28
- それから更に五日後のことである。ハロモニの収録中、石川が自分の出番のため席を立つと、
楽屋に残っていた矢口と吉澤はその背中を見ながら囁き合った。
「ね、梨華ちゃんちょっと白過ぎじゃない?
このまま透明になって消えちゃいそうってゆーか、綺麗を通り越して気味悪いよ」
「ですよねー。なんか表情も固いし、お面でも被ってるみたいですよ」
- 12 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:28
- 午前二時を少し過ぎた頃、石川は苛々しながら鏡台に向かっていた。
あの化粧水を使い始めてから、石川は以前とは比較にならない、驚くほど白い肌を手に入れた。
使う度に輝きを増す肌に、石川は至上の喜びを感じていた。
しかし、ここ数日効果が実感できない。これまでは朝になれば何かしら変化が見られたが、
今は全く変わらない様に見える。だが、効果が無い訳ではなかった。
それまでがあまりにも順調過ぎただけだった。
劇的な効き目を当然のものと思いこんでしまったが為、いつしか感覚が麻痺してしまっていたのだ。
- 13 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:29
- 石川は今や、「美」という名の怪物に魂を奪われていた。
白く! もっと白く! 誰よりも美しく! もっともっともっともっともっともっと……
石川は残っていた化粧水を全て使い、何度も何度もその顔に塗りこんでいった。
- 14 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:30
- 「キャアアアァァァァ」
翌朝、鏡の中の己を見て石川は絶叫し、そのまま卒倒した。
極限まで白さを追求した肌は硝子の如く透き通り、彼女の内側を晒していた。
極限まで張りを追求し硝子の如く硬化した肌は、倒れた衝撃で粉々になって飛び散った。
それらが朝日に照らされてキラキラと輝く様は、この上なく美しかった。
- 15 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:31
- 終
- 16 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:31
- パ
- 17 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:32
- リ
- 18 名前:37 美の極致 投稿日:2004/06/27(日) 22:32
- ン
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