33 夢見るピジョン
- 1 名前:33 夢見るピジョン 投稿日:2004/06/27(日) 20:37
- 33 夢見るピジョン
- 2 名前:33 夢見るピジョン 投稿日:2004/06/27(日) 20:38
- バン、という鈍い音が楽屋に響き渡り、めいめいに待ち時間を過ごしていた彼女達は一斉にその方向に視線を投げた。
何かが窓にぶつかったらしい。磨かれたガラスのちょうど真ん中辺りだけが白く濁っている。
突然のことに、賑やかだった室内は一気に静まり返った。
石でも投げつけられたのかもしれない。ビルの2階に位置する部屋の窓にものをぶつけるのなんて訳のないことだ。
それぞれ顔を見合わせていると、そこはかとなく漂う緊張感をうち破るように道重が口を開いた。
「鳥です。鳥が」
「鳥?」
首をかしげるメンバー達の注目を受けながら、道重は勢いよく件の窓を開けた。
程よく冷やされた空気の中に、梅雨特有の湿っぽい熱が忍び込む。
太陽はぬるく、風は緩い。
窓から身を乗り出した道重のけばけばしい紫色の衣装がひらひら揺れる。
- 3 名前:33 夢見るピジョン 投稿日:2004/06/27(日) 20:39
- 「ほら、あそこ」
そう指差す道重に従って、みんながかわるがわる覗き込むと、
確かにグレーの羽が芝生敷きの地面に広がっているのが見えた。
結構高い。
ビルの裏手に人通りはなく、コンクリートで囲まれたボイラー室と寂れた自転車置き場があるだけだ。
「死んでる?」「わかんない」としばらく心配そうに様子を窺っていたが、灰色の影が動く気配は全くない。
「わたし、ちょっと見てきます」
窓から離れた道重は、部屋の真ん中で怯えたように右往左往している石川の横をすり抜けて、
廊下へと飛び出していった。
- 4 名前:33 夢見るピジョン 投稿日:2004/06/27(日) 20:39
- 「で、何で連れて来るのー」
「だって、かわいそうじゃないですか」
楽屋に駆け戻った道重の両手に横たわるものを見て、石川はソファの陰へ身を隠した。
半泣きで文句を言う彼女を尻目に、道重は手の中のそれを大事そうにパイプ椅子の上に置いた。
小さな鳩は気を失っているようだ。
怪我をしているようには見えないが、どこか折れているかもしれない。
中途半端にたたまれた羽が余計痛ましく思える。
- 5 名前:33 夢見るピジョン 投稿日:2004/06/27(日) 20:40
- 「生きてるの?」
「生きてるよ。動いてるもん」
心外だ、とでも言うように道重が手を拭きながら頬を膨らませた。
物珍しげに小鳩を眺めていた娘。達だったが、収録の用意が整ったらしい。
マネージャーがドアをノックして、その旨を告げる。
鳩はまだ気づかない。どうしようかとしばらく悩んでいたが、
気がついて怪我がなかったら勝手に飛んでいくだろう、ということで、
楽屋の窓を少し開け放しておくことにした。
鳩を横たえたまま、彼女達はぞろぞろとスタジオに向かう。
「ガラス、見えなかったのかもね」
「ね」
足早に楽屋から離れる石川の後ろで、誰かが呟いた。
- 6 名前:33 夢見るピジョン 投稿日:2004/06/27(日) 20:40
- スタッフの怒号が飛び交う中、ひしめき合いながら輪を作る。
定例の気合の掛け声。焼けつくようなライト。伝わってくる、メンバーの心地よい緊張感。
4年間ですっかり肌に馴染んだ空気。
立ち位置に着いた石川は目をつぶり、ゆっくり息を吐いた。
あの鳩はきっと助かる。
ガラスにぶつかり気絶した今も、夢の中で晴れた空の続きを飛んでいるのだろう、どうせ。
目を覚ませば、また空高く舞い上がれるに違いない。
右手を頬に添え、カメラを見据える。
イントロのカウントを待ちながら、石川はマイクを握り直した。
- 7 名前:33 夢見るピジョン 投稿日:2004/06/27(日) 20:40
- V
- 8 名前:33 夢見るピジョン 投稿日:2004/06/27(日) 20:41
- v
- 9 名前:33 夢見るピジョン 投稿日:2004/06/27(日) 20:41
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