31 ごみの分別
- 1 名前:_ 投稿日:2004/06/27(日) 13:29
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31 ごみの分別
- 2 名前:_ 投稿日:2004/06/27(日) 13:30
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日曜日
休日出勤したのに上司に怒られ、そのまま帰る気にならなくて一人で居酒屋に入った。
めったに飲まないのにどんどん飲んだ。
月曜日
目が覚めるとよっすぃという子に腕枕されていた。
一緒に暮らすことになった。
- 3 名前:_ 投稿日:2004/06/27(日) 13:31
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「えっと、それじゃあ、お仕事行ってくるね」
二日酔いで頭が痛むもののあわただしく支度をして、なんとかいつもの時間に玄関に立つ。
のんびりとコーヒーをすすっていたよっすぃが振り返った。
「あ、いってらっしゃーい、なっち」
笑顔で手を振られた。
「へ? なっち?」
あたしは初めての呼ばれ方に驚く。
しかしよっすぃはまた一口コーヒーをすすってから
「ん? 安倍なつみさんなんでしょ。だからなっち。かわいいじゃん」
ぷりちーふりちー、そう言いながら食パンをかじる。
「なっちか……」
ふふ、なんだか以前からそう呼ばれているみたいにしっくりきた。
「悪くないかな」
「悪くないどころじゃないって。なんてーの、なっち天使って感じ?」
「ちょっ、なに恥ずかしいこと言ってんだべ」
あたしは瞬間に赤くなり、最近はすっかり抜けていた方言が出てしまった。
恥ずかしさに思わず顔を隠すが、
部屋を出てすぐの集積所で捨てるつもりのごみ袋を手にしていたのに気付いて慌てて下ろした。
- 4 名前:_ 投稿日:2004/06/27(日) 13:32
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「じゃ、じゃあ、よっすぃは名前なんていうのさ」
恥ずかしさを振り払って聞く。
するとよっすぃはぽかんとして、そんな質問が来るとは考えてもいないみたいだった。
「え? だからよっすぃだけど。もしくはよしことか、それか……そうだな、よっちゃんさん?」
「いや、聞かれても。て、そうじゃなくてっ」
ごみ袋は床に下ろした。
「なくて?」
「本当の名前はなんてーのって聞いてるべさ」
あたしがムキになっているのに対して、よっすぃは落ち着いたものだ。
「んん、名前?」
ずずっとコーヒーを飲みきった。
「そう、なんて言うの?」
「いいじゃん、そういうの別に。なっちとよっすぃでさ」
「でも、名前くらい……」
「ダメかなあ?」
これ以上ないという笑顔で尋ねられる。
あたしはそれに動転して、
「あっ、そろそろ行かなくちゃ」と関係ないことを言ってしまった。
よっすぃはまた笑う。
「いってらっしゃい、なっち」
「いってきます、よっすぃ」
あたしは四日分の生ごみを持って部屋を出た。
- 5 名前:_ 投稿日:2004/06/27(日) 13:34
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火曜日
玄関の蛍光灯をよっすぃが交換してくれた。
「すごいねー、なっち全然届かないよ」
あたしは作業するよっすぃを見上げる。
「いや、あたしだってこうして台使ってるから。別に背ぇ高くもないでしょ」
かしん、という音がして、新しい蛍光灯が金具にはまった。
おおー、あたしはぱちぱちと拍手した。
「なっちなんてその台使ってもまったく届かないから」
「そうなの?」
「うん、だから気になってたんだけど放っておいたんだよね、これ」
見上げているだけでも首が痛くなってしまう。
よっ、外した蛍光灯を手によっすぃが台から降りた。
「じゃあ、あたしがいてよかったでしょ」
「うん、ありがと、よっすぃ」
- 6 名前:_ 投稿日:2004/06/27(日) 13:34
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水曜日
外した蛍光灯をプラスチック容器とかと一緒に捨てて仕事に行った。
木曜日
寝坊してしまい慌てて三日分の生ごみとともに家を出た。
金曜日
仕事に行こうとしたらよっすぃに呼び止められた。
「いってらっしゃい」
キスをされる。
「ふえ?」
あたしはまぬけな声を出してそれを受けた。
満員電車の中で思い出してニヤニヤしていたら痴漢に間違われた。
- 7 名前:_ 投稿日:2004/06/27(日) 13:36
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土曜日
「よっすぃ、今日はビデオ見ようよ。友達が貸してくれたDVDがあるんだー。すっごい面白いんだって」
二人で朝食をとっているときに話しかけた。
「ああ、ゴメンなっち」
「ん、なあに?」
「今日ちょっと帰らなきゃならないから、一緒に見れないや」
コーヒーを飲みながらよっすぃは言う。
「ゴメンね」
あまり申し訳なく思っているようでもなかったが、
「ああ、うん、いいよ。よっすぃも用事くらいあるよね」
他に言えることもなくあたしは受け入れた。
「今日はごみの日?」
いつもよりテキパキと食べ終えたよっすぃが聞く。
「え? ああ、えっと、今日はビンとか缶とか、資源ごみの日かな」
冷蔵庫の脇に貼った紙(転入したときに区役所でもらった)を指し示す。
「まあ、なっちは缶詰とかうまく開けられなくて買わないからビンの日だね」
「へぇ」
よっすぃはそれを眺めてから
「じゃあ、それあたしが出すよ」と言った。
「え? いいよ、そんなことしなくて。これ食べたらなっちが出してくるから」
「いいからいいから。なっち折角のお休みなんだから、それくらいあたしがするから。ついでだしね」
そう言ってよっすぃはこの一週間にほぼ一人で飲んだ酒瓶を
――彼女はフルーツワインが好みらしい、あたしも透明なボトルの中で揺れるあの桃やラ・フランスの色合いが好きだ――
袋にまとめてこの部屋を出、そのままどこかへ帰っていった。
この日よっすぃは戻らなかったのでDVDは一人で見た。
- 8 名前:_ 投稿日:2004/06/27(日) 13:37
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日曜日
両手に荷物いっぱいのショッピングから帰るとよっすぃがいた。
「ただいま」
「おかえんなさい」
応えてくれる声があった。
ドアの前では疲れ果てていたはずなのに、たくさん料理を作ってしまった。
「やっぱり、なっちの料理はすげーうまいね」
よっすぃはそう言ってくれたが、ちょっと引っかかるところもあった。
食後(二人でお皿を洗った)、買ってきたものの包装を外して、あたしのプチ・ファッションショーを開いた。
「ええぞ、ねえちゃん」
時々、よっすぃはおっさん臭い歓声を上げた。
散らかした箱や、袋を片付ける。
「しかし、たくさん買ったねえ」
よっすぃは包装紙をかき集めた。
「久しぶりにたくさん買っちゃった……」
「へぇ、いつもこんなわけじゃないのね?」
「安月給で、んなわけないでしょうが」
あたしは紙袋を折り目に沿ってきちんと畳んでいった。
「ふうん、じゃ、またなんで今日はこんなに買ったのさ?」
ん、くっ、箱に残った切れ端を、懸命になって取ろうとしている。
「なんでって……」
あたしは手を止めた。
「臨時収入でもあったの?」
それから、テープの付いた小さな紙片をあたしに示しながら、
「おし、取れたっ」
笑ってみせる。
ぱん、あたしはそれを払っていた。
それからとても小さな声で、よっすぃのせいに決まってるっしょ、と呟いて彼女を押し倒した。
月曜日
折角まとめた包装紙や紙袋はまた散らかり破れ、空き箱はどれも潰れてしまっていた。
生ごみを捨てるついでにそれらも捨てた。
- 9 名前:_ 投稿日:2004/06/27(日) 13:38
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四月
九回の生ごみと四回の燃えないごみを出し、四回よっすぃが帰っていった。
五月
ゴールデンウィークに三日ほど二人で温泉に行った。
「ふへぇ、極楽極楽」
手ぬぐいを頭に乗せたよっすぃがうっとりと言う。
「だから、おっさん臭いよ、よっすぃ」
「いいじゃん、気持ちいいんだからさ。ほれ、娘っ子、近うよれ」
「いやぁ、エロ親父だ」
ばしゃばしゃとお湯をかけた。
するとガハハと笑う口にまともに入って、よっすぃはひどくむせた。
「なっち、ひどいよ」
泣きそうな顔がすごく可愛らしかったのとお詫びとして、
夕食は仲居さんに下がってもらってあたしがずっとお酌してあげた。
旅行は水曜日の朝ごみを捨てながら出発し金曜日の夜に帰宅したため、
この月は八回の生ごみ、四回の燃えないごみ。
よっすぃは五回帰る。
- 10 名前:_ 投稿日:2004/06/27(日) 13:40
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六月
八回の生ごみ、五回の燃えないごみ。酒瓶は四回捨ててもらうがだんだん出す量が減った。
- 11 名前:_ 投稿日:2004/06/27(日) 13:40
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七月
月曜日
四回生ごみ(四日分)を持って仕事に出る。
水曜日
四回洗剤の容器や惣菜の器を捨てた。
木曜日
四回生ごみ(三日分)を捨てる。
日曜日
夏休み中の同僚の担当でトラブルが出て代わりに休日出勤を一回。
- 12 名前:_ 投稿日:2004/06/27(日) 13:41
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今日
空のボトルが二本、キッチンの隅でかすかにほこりを被っている。
- 13 名前:_ 投稿日:2004/06/27(日) 13:42
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おわり
- 14 名前:_ 投稿日:2004/06/27(日) 13:44
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牛乳パックは水ですすいでハサミで切って
- 15 名前:_ 投稿日:2004/06/27(日) 13:46
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お近くのスーパーなどにある回収ボックスへお願いします
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