30 壁

1 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:09
2 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:10
「ミキティ、よろしくね」

「ミキティ? それが年上に対する呼び方か? 」

私がにらむと、加護は泣きそうな顔で震えだした。
何で私がこんなガキを先輩に持たなくちゃいけないんだ。
じょうだんじゃないよ。何を今さら。

「あいぼーん、ミキティ、アイス食べる? 」

「辻! おまえも口のきき方に気をつけなよ」

加護と双璧のガキ。辻にも釘をさしておかないと。
人のいない楽屋だから、これはちょうどいい。
5期メンは高橋あたりを脅かしておくとするか。
ロートルは放っておけば、そのうちいなくなる。
石川と吉澤にも、ちょっと話をしておかないとね。

「だとゴルァ! 」

うげっ! このガキの力はハンパじゃない!
そういえば、中澤さんを平気で殴るのが辻。
あの中澤さんを。あの中澤さんだよ。
いたたたたたた―――手首をきめられた。
3 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:11
「じょじょじょじょ―――じょうだんだよ。辻ちゃん」

ガキは手加減ってものを知らないから、このままじゃ手首を折られる。
ここはひとまず、じょうだんってことにしておこう。
こんなガキなんか、あとから脅かせばすむことだから。

「あははは―――ミキティのじょうだんって、じょうだんじゃないみたい」

ううう―――手首が痛い。このガキ、いつか弁当に毒盛ってやる。
まあ、辻はさておき、加護はかなりびびってたから、よしとするか。
辻には飯田っていうバックボーンがいるから、あまりヘタなことはできない。
その点、加護には、もう後藤っていうバックボーンもいなければ、
保田っていう保護者もいなくなるんだ。

「辻ちゃん、よろしくね。―――加護ちゃんも」

私ににらまれた加護は、目に涙をためて震えてる。
そうだ。震えればいい。これから楽しくなりそうだ。
4 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:11
 
5 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:12
 数枚のCDをリリースし、そこそこファンもできてきた。
すべてが順調だったのに、いきなりモー娘への加入発表。
私はソロで成功してたのに、こんな斜陽ユニットに入れられるとは。
モー娘のメンバーは、私を吸収した気でいるけど、
これは藤本美貴+モーニング娘。のコラボレーションだ。

「愛ちゃん、ちょっと」

ハロコンの楽屋は、いつもあわただしい。
私が廊下に呼びだすと、高橋は猿顔をしながらついてくる。
このエテ公を脅かせば、5期メン全員がびびることになるだろう。
ふーん、こんなのが、5期メンの筆頭なのか。

「ずいぶんと事務所に推されてるみたいじゃん。いい気になるんじゃないよ」

「テテテテテテテテテ、テッテケテー! テッテケテエエエエエエエエエー! 」

な、なんだこいつ! 日本語をしゃべれないのか?
いくら福井の郡部が田舎でも、標準語くらいは通じると思ったのに。
高橋は言葉が通じにくいって、ほんとうだったんだ。
これなら、まだアメリカ人の方がコミュニケーションとりやすい。
6 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:12
「どうしたの! 」

「愛ちゃん、どうしたの? 」

さくら組のうるさいのが来やがった。
モー娘の小姑・矢口と、補欠合格の紺野じゃないか。
吉澤あたりが来ると、ちょっと厄介だったけど、
この2人なら、まだ安心していられるか。

「テッテケテエエエエエエエエエー! 」

「紺野、通訳しな」

「理解不能です! 」

こんな特殊な言語なんか、一般人には理解できない。
つんく♂Pも、よくこんな外国人を採用したもんだ。
まだ、室蘭の偶蹄目ぐらいの方言ならいいけど、
こいつの言葉は、完全にちがう言語だからね。
7 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:14
「紺野、高橋をつれて行きな」

な、なんだ? このチビ、私にケンカ売ろうっての?
ケンカなら負けないよ。こう見えても私は―――

「気持ちは分かるけどさ。―――まあ、お手やわらかにね」

「えっ? 」

たしか、矢口ってサブリーダーだったよね。
私が高橋を脅かしたのは、誰が見ても分かる。
何だろう。ミニモニを高橋にとられちゃったから?
なんで私に何も言わない? 
8 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:14
 
9 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:14
 何が悲しくて、こんな曲を覚えなきゃいけないんだろう。
しかも、こんなガキどもといっしょにされて。
私は無からのスタートじゃない。私はアイドルの藤本美貴だ。
このガキどもにあるのは可能性。私は実績を持ってる。
気に入らない。何でひとくくりにされて6期メンなんだ。

「藤本さん、クロスのタイミングですけど」

こいつは田中っていったな。
ほかの2人よりマシな顔をしてる。
ふてぶてしい態度も気に入った。
こいつから懐柔してやるかな。

「ふえ〜、遅くなったべさ」

「おはようございます! 」

何で室蘭の偶蹄目が? こいつ、今日はヴォイトレじゃなかったか?
私たちにつきあう暇なんて、ないはずなんだけどね。

「安倍さん、何しに来たんですか? 」

「練習に決まってるべさ。もう1週間しかないんだよ」

1週間後の埼玉スーパーアリーナ。
ここが私のモー娘としての初公演になる。
くだらない。じつにくだらない。
10 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:15
「さあ、藤本もやるべさ」

ふーん、さすがはモー娘の顔として、一斉を風靡しただけあるな。
鈍くさい体のわりに、なかなかいい動きをするじゃない。
さすがの私でも、この16ビートはむずかしいよ。

「ふー、さすが藤本だべね。でも、ターンが少し遅れてる」

偶蹄目はダンスが苦手だったっけ?
これの、どこが苦手なワケ?
すごいレベルだ。これがプロってこと?

「なっちも、いまだにダンスが苦手。でも、がんばれば、このくらいはできるっしょ」

偶蹄目はお世辞にも上手いとは思わない。
でも、それなりの存在感ある動きになってる。
プロ根性じゃ、誰にも負けないって思ってたのに。
すごい。すごすぎる。これがモー娘なのか?
11 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:16
「藤本はシャッフルしか経験ないだろうけど、大人数のときは息を合わせるんだべさ」

「息を合わせる? 」

そんなの、わかんねーよ。
私はこれまで、ぜんぶひとりでやってきた。
会場の全員が私を見てる。
そんな緊張感に包まれてきたんだ。

「まず、その見えない壁をなんとかしなきゃね」

壁? ちがう。これは私のポリシーなんだ。
私はモー娘に吸収されたんじゃない。
私はモー娘と融合するために選ばれたんだ。
必要なのは調和じゃなくて進化じゃないか。
12 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:16
「動きの方は、こんな感じでいいかもしれないね」

夏婆にはマジで泣かされた。
でも、そのおかげで、私はプロとしてやっていられる。
アイドルに必要なのは、根性と努力しかない。
美貌なんかは二の次。女はいくらでも変身できる。
感受性は強すぎると、5階からダイブすることになるし、
そこそこ、図太い神経も要求された。

「そやね。問題は自己紹介のコメントやけどな」

私とモー娘をコラボレーションさせた張本人のつんく♂P。
私には、かつての後藤真希と同じだけの期待がされてるはずだ。
集客、ビジュアルそして歌を引っぱる歌唱力。
このステージは、私のモー娘加入記念ではなく、
藤本美貴withモーニング娘。の記念すべき誕生の瞬間だ。

「藤本、何や? そのコメントは」

「えっ? 」

「つけあがんなや! このアホ! 」

ど、どうしたっていうの?
私に何か悪いところがあったというのだろうか。
私は自分で考えた自己紹介のコメントを言ってみただけだが。
13 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:17
「ジャーマネ! 藤本のコメントを考えさせえ! 」

私は別室に移され、そこでマネージャーとコメントを考えさせられることに。
分からない。つんく♂Pは、私のコメントの、どこが気に入らないんだろう。
こんなの面倒くさい。だいたい、何で私がモー娘なんかに―――

「あははは―――藤本、おはよう」

「保田さん」

ハロプロの中じゃ、中澤さんの次に苦手な保田。
たしかに温厚で、誰からも信頼されてる人だが、
あの大きな目でにらまれると、動けなくなっちゃう。
プッチでブチキレ、後藤と吉澤がびびったくらいだ。
怒らせたら、マジでこわいんだろうな。

「苦労してるみたいじゃん。でも、いい経験になるよ」

「これでも、人並みの苦労は、してきたつもりですけどね」

「うーん、叱ったらいいのかな。励ましたらいいのかな」

保田は壁によりかかると、腕を組んで考えだした。
この人は、たまに分からないことをする。
まあ、電信柱(飯田)よりはまともだが。
14 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:18
「あたしたちが娘。に入ったころは、ものすごく高い壁があったんだよ」

「オリメンとの確執。それは知ってます」

「その壁は、あたしたちだけでも、オリメンだけでも壊せなかったの」

「だから」保田が言った。「藤本も壁を壊そうよ」
こいつ、何のことを言ってるんだ? 
私は殻に閉じこもってるワケじゃない。
何かを勘違いしてるんじゃないの?

「保田さん、美貴は殻なんて閉じてません。これが藤本美貴です」

「殻じゃないよ。藤本にあるのは壁だもん」

「壁なんて、どこにあるんですか? 美貴には見えない」

「見ようとしないと見えないよ。これはガラスの壁だから」

そんなもの、あるわけない。そんなもの、あるわけない。
そんなもの、あるわけない。そんなもの、あるわけない。
そんなもの、あるわけない。そんなもの、あるわけない。
そんなもの―――
15 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:18
 
16 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:18
 コンサ当日、私は昼前に小屋(会場)入りした。
初めての場所だけど、中に入っちゃえば横アリと変わらない。
無機質な壁。壁―――私は壁を持ってるんだろうか。
3人のガキどもは、緊張で胃が痛くなってるみたいだ。
そりゃ、私だって緊張するけど、人前に立つのには慣れた。

「おはようございます! 」

にわかに楽屋が騒がしくなる。どうやら、モー娘たちが到着したらしい。
まずは、保田と加護、続いて5期メンの高橋、紺野、新垣。
石川と辻、吉澤と小川、安倍と矢口、そしてリーダーの飯田。

「おはよう。―――藤本、ちょっといいかな」

さすがに電信柱はでかい。
公表身長は168センチだけど、
ほんとうは172センチもあるらしい。
宇宙の力とかで、少しだけ背を縮めてるそうだ。

「はい、なんですか? 」

「ふーん、まだあるんだね。ガラスの壁」

ガラスの壁? 保田と同じことを言った。
そういえば、室蘭の偶蹄目も同じことを言ってた。
あの矢口が怒らなかったのは、壁が見えてたから?
分からない。私には分からない。
17 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:19
「プライドが壁になってるのかな? でも、ガラスだから壊すのは簡単だよ」

「プライドなんかじゃありません! 私のポリシーです! 」

「ポリシー? それとはちがうみたいだね」

飯田は優しい笑顔で、私を抱きしめた。
すると、何かが私の中で音をたてはじめる。
それは、何かが軋む、とても嫌な音。

「えっ? 」

「ほら、もう指でつつけば壊れるよ」

それは走光性をもった昆虫が、水銀灯に集まるような感覚。
光に近づかないと、ものすごく不安で気持ちが悪い。

「こ、これって―――」

「いきなり壊すこともないか。もうだいじょうぶだからね」

気がつくと、保田と安倍、矢口も周りにいた。
みんな、とっても嬉しそうな笑顔をしてる。
それは、まるで生まれたばかりの赤ちゃんを見てるみたい。
そんな笑顔を見てると、私は溢れるものをこらえられなくなった。
18 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:20
「あたしも圭織に壁を壊してもらったんだよ」

「ミキティ、モーニング娘。にようこそだべさっ! 」

「何かあったら、オイラに相談しろよ」

「はい! よろしくおねがいします! 」

私の中で何かが変わった。
それは未練を残すこともあったけど、
このまま行った方がいいみたい。
私にとって、その方が気持ちいいから。
なんか、ノドがかわいちゃったな。

「さあ、楽屋に入ろ。ちょっと狭いって思うかもしれないけどね」

楽屋に入ると、加護と目が合った。
そんなに怖がらないでよ。私が悪かったから。
どこかで羨ましかったのかもしれない。
こんなに多くの仲間と、喜怒哀楽を共有できて。

「加護ちゃん、飲み物でも買いに行こうよ」

「うん! 」




―――――お―――――――わ―――――――り―――――
19 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:21
11と12
20 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:21
の間に
21 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:22
空欄1レス
22 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:23
入れ
23 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:23
忘れ
24 名前:30 壁 投稿日:2004/06/27(日) 13:23

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