27 ガラス玉遊び
- 1 名前:27 ガラス玉遊び 投稿日:2004/06/26(土) 21:55
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小学校での3者面談。教師の男は成績表やらメモをみながら少女の
学校での生活について語る。それに耳を傾ける母親と、先生の言葉に
時々照れたりふてくされたりする少女。教師は最後にこう確認する。
「では、ほかに何か聞いておきたいことはありますか?」
これはおきまりの文句であるから、教師は「ありません」という答えを
期待していたのだが、母親は少女を教室の外に出しこう言い始めた。
「じつは最近あの子が変な遊びをするんです。」
「ほう、変な遊びですか。」
教師は少女の学校での様子を思い出す。特に妙な様子はなかったはずだ。
「ええ、そうなんです。なんかどこかでもらってきたガラス玉に名前を付けて遊んでるんです。」
「ガラス玉ですか。」
「ええ。」
「で、それがなにか問題でも?」
「いや、問題というわけでもないんですが。やたらとガラス玉に執着するものですから。」
「ああ。でも子どもなんてそんなものですよ。」
そう教師の男は言ったものの、やはり少し気になったのかこう続けた。
「しかし、そんなに心配なら本人に聞いてみましょうか。」
- 2 名前:27 ガラス玉遊び 投稿日:2004/06/26(土) 21:56
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「うん。いま持ってるよ。」
と、少女。持ち運んでいるとは知らなかった母親はすこし驚いた表情だ。教師は問う。
「名前つけてるんだって?」
「うん。」
「なんて名前なの?」
「えっとね、ええと、『かおり』でしょ、『まり』でしょ、『りか』に、『ひとみ』に……」
「ちょ、ちょっと待って、いくつ持ってるの?!」
顔を見合わせる母親と教師。
「えっとね。いくつだっけ?ええっと、ええっと……」
そういって少女は机の上にガラス玉をひろげ出す。ころころと机を転がって
教師の側でひとつが机からダイブしようとしていた。教師は慌てたがガラス玉は
床に落ちた。
「おっと!ああ、よかった割れなかった。」
「大丈夫だよ、先生。そのガラス玉はある日とつぜん割れたりするけど、それくらいじゃ割れないんだから。」
「え?突然割れるの?」
「うん。こないだ、『なつみ』が割れたんだよ。とつぜん。ほら、おうちでハンバーグが出た日。」
ハッ、とする母親。
「それじゃあ、あの日落ち込んでたのはガラス玉が割れたせいだったの?」
「うん、『なつみ』がね。『なつみ』ははじめから持ってたやつだから……」
「まあ、てっきり、男の子にでもいじめられたのかと思ってたのに。」
「ううん、違うよ。」
- 3 名前:27 ガラス玉遊び 投稿日:2004/06/26(土) 21:56
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「ねぇ、ガラス玉はどこで集めてくるの?」と、教師。
「あのね。となりのお兄ちゃんにもらうの。ラムネに入ってるやつ。あ、そうだ。いま『なつみ』も持ってるよ。見る?」
そういうと、少女はカバンからティッシュのに包まれたなにかを取り出す。割れたガラス玉だ。
「これがね、『なつみ』。」
「あ、これ割れてるよ。危ないからお母さんに捨ててもらいなさい。」
「ええ、でも割れても『なつみ』だもん。やだよ。」
少女はふくれっ面をする。母親は少し困った顔だ。教師はとにかくこの子の考えていることを聞くことが
大事だと考えた。
「それじゃあねぇ。『なつみ』ちゃんはなんで割れちゃったのかな?」
「えっとね。『なつみ』はね……うーんとね……わかんない。」
「先生はねぇ、あなたがガラス玉をカバンに入れて運んでるから、ガラス玉どうしとか、
ほかのものにぶつかって割れるんだと思うよ。」
「あ!そうかも。」
そういうと、少女は慌ててカバンの中にまだ残っていたらしいガラス玉を確認する。
「ああ!2つも割れてる!」と、気落ちした様子の少女。
「その子たちはなんて名前なの?」と、教師は声をかける。
「あのね、『あいぼん』と『のぞみ』。ダブルでこわれちゃった。」
その時母親はとても嫌な顔をした。
- 4 名前:27 ガラス玉遊び 投稿日:2004/06/26(土) 21:57
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遊びをやめさせたいのか、母親は言う。
「ね、ガラス玉は危ないから。そんな遊びはやめなさい。」
「ええ。でも……」
「でもじゃないでしょ。あなたがガラス玉を壊したんだから。」
「ええ。違うよ……」
「違わないわよ。あなたが集めなかったら、ガラス玉はちゃんと工場にもどって再利用されるのよ。」
「ええ。でも……」
「でもあなたが集めなかったらガラス玉たちは平和に暮らしてたんじゃない?あなたはガラス玉が割れて悲しいとか
言っているけど、本当に悲しいのはガラス玉じゃないの?あなたがガラス玉の人生を狂わせたのよ。どうせ、全部
割ってしまったら、部屋のどこかに忘れておきっぱなしにするんだから。ね、だからこんな遊びはやめなさい。」
少女は下を向いていた。教師は、「本当に悲しいのはガラス玉だ」なんてのは子供だましだなとは思ったが、
黙っていた。
教室の時計がカチリと動いて、次の親子の時間が来てこの親子は教室を出ていった。
少女がガラス玉を諦めたかどうかは知らない。
おわり
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