24 fork()

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:33
24 fork()
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:34
がんっ!

 ものすごい衝撃に驚いた私は、尻もちをついてしまった。
目の前には何も無い。それはもう見事なくらい。
恐る恐る手を伸ばしてみると、何かに触れた。
それはガラスだった。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:35
 私の顔はみるみる熱くなっていった。
ガラスの壁に激突するなんて、漫画やドラマの世界だと思っていたのに。
慌てて目撃者がいないか辺りを見回すと、石川さんが涙を流して笑っていた。
顔の熱はさらに上昇した。ガラスに激突したのを笑われたからではない。
石川さんがまっぱだったから。

「ちょっと石川さん。なんてカッコしてるんですかっ?」

がんっ!

 駆け寄ろうとした私に、再び衝撃が襲いかかる。
何とか踏ん張った私は、とまどいながらも掌で石川さんの身体を覆った。
そしてゆっくり前に進むと、やはりガラスに触れた。

 そのまま右へ右へ。ひらすら右に歩き続けると、すぐに2つの事が分かった。
1つはガラス張りの部屋に囲まれていること。
もう1つは私もまっぱになっていること。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:35
「ええっと、今日私は午前中は仕事で、午後から病院に行って・・・」

 こういう時は落ち着く事が大切だ。
私は今日の出来事を声に出して確認した。
病院といっても体調を崩している訳じゃなく、
事務所命令のカウンセリングで、今日で18回目。
初めは0歳。2回目は1歳。って感じで過去の記憶を辿っていく。

「受付を済ませして、診察室のドアをくぐって・・・」

 そしてガラスに激突した。

 最初にぶつかった所を正面とすると、右側に石川さんがいる。
それ以外はガラス越しの真っ白な世界だ。
真っ白な床なのか、真っ白な壁なのかは分からない。
放置された(した)石川さんがまだ泣いている。
さっきは涙を流すほど笑われたのではなく、
泣いていた石川さんを私が笑わせたのだ。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:36
「石川さーん。聞こえますかー?」

 大声で叫んだ私の声は、ガラスの部屋をスーパーボールのように飛びまわり、
時間差を付けて私の耳に飛び込んできた。
フラフラの私に対して、石川さんも何か叫んでいるが、まったく聞こえない。
でも唇を読むと、「聞こえない」と言ってるんだと思う。
ホントかな?たぶん本当だろう。

 私はガラスに向かってハーっと息を吹きかけた。白く曇ったガラスを指でなぞる。
乾燥しているのだろう。文字は直ぐに消えた。
私と石川さんは酷くテンポの悪いキャッチボールを繰り返した。

『コレ なん です か?』は私の文字。
『わから ない』と石川さん。
『カウン セリ ングに いった ハズ なのに』
『わたし も』

 石川さんも同じような状況らしい。

『うしろ だれ?』と私。
『まこと ねてる』と石川さん。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:37
 見えた訳ではなかった。ただなんとなくメンバー全員がここにいる。
そんな気がしたのだ。

『こわい』と石川さん。

 うーん。ここで一つの仮説を立ててみた。
っていうか早く気づけよって感じだけど、コレ・・・夢じゃない?
私はお約束通りほっぺを抓ってみた。うん、痛くない。
顔面をバシバシ。高見盛のように叩いてみたが全然痛くなかった。
そういえば激突した時も、衝撃は凄かったけど痛くはなかったなぁ。

 突然自虐行為に走った私を、怯えた様子で石川さんが見ていた。
気が狂ったと思われたかもしれない。

『アヒャ』

 本気でビビる石川さん。ちょっとかわいそうだ。

7 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:38
『これ ゆめ では?』

 書き終わると同時にほっぺを叩くジェスチャーをした。
ジェスチャーといっても痛くないだけで、普通のビンタだけど。
石川さんも理解したらしく、自分のほっぺを叩きはじめた。
痛くないことに気付いたのか、叩く強さはどんどん強くなっていく。
自分に往復ビンタを放つ石川さんに、私はビビッていた。
人の振り見て我が振り直せとはまさにこのこと。

『いたく ない でしょ』と私

石川さんは首を横に振った。
『でも なんか きもち いい』

えっ?いや。ちょっと。
まあ私の夢だし、石川さんは普通の感覚なのだろうか?
といってもアレを普通の感覚と呼ぶには抵抗があるけど。
それとも目の前の石川さんは私が創ったイメージで、石川さんのイメージはMで…

『うそ』

やられた。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:39
 何はともあれ夢だと分かってしまえば怖いものはない。
欲を言えばもっと楽しい夢なら良かったけど。
でもコントロールは出来るかもしれない。
目を閉じゆっくりと呼吸を繰り返し、臍下丹田に力を込めた。
イメージするのは空を飛ぶ自分。

眉間の皺はどんどん深くなっていったが、浮いている感じはしない。
薄目で確認しても私の足は床についたままだ。
やり方が悪いのか、そういうものなのか。
夢の中でも人生ままならないものだ。

『ねます』

 最後にそう書き残すと、丸まって目を閉じた。
空を飛ぶのも良いが、多忙を極める私達にとっては睡眠も魅力的だ。
夢の中で寝る。なんだか贅沢な気分になった。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:39
−−−
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:40
 どれくらい眠っていただろうか。
私は時間を調べる術の無いガラス張りの部屋で目を覚ました。
現実ではほんの一瞬かもしれないが、たっぷりと睡眠をとった気がする。
かといって寝すぎ特有のダルさもない。実に清々しい目覚めだ。

 石川さんはいるかな?
振り向いた先に石川さんの姿はなかった。
かわりに愛ちゃんが気持ちよさそうに寝ている。
夢の中の出来事だから驚くことでもないが、無意識のうちに

       愛ちゃん > 石川さん

と念じていたのかもしれない。だとしたら石川さんごめんなさい。
別に苦手という訳じゃなくて・・・愛ちゃんは同じ桜組だし。

 納得した私は、これから先の事について考えることにした。
(私、又は愛ちゃんの)目が覚めるまでの、時間の潰し方についてだ。
普段はプライベートな時間が欲しくてしょうがない私(達)だが、
いざ有り余る時間を手にすると、意外と持て余してしまう。
まあこの状況のせいでもあるのだけど。

11 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:41
 ふと私は天井を見上げた。
とはいえ全てがガラスで出来ているので、天井があるのかどうかは分からない。
ここは長い円柱のような部屋だ。

 私は両側の壁に手を伸ばした。そんなに広くはない。
肘を曲げたまま壁に手が付いた。その状態でぐっと力を入れ、両足も壁に付けた。
そして手を上に伸ばす。筋肉番付とかSASUKEの1シーンのようにグイグイ登っていった。
たっぷり寝たおかげか調子はすごくいい。

 1分くらい登った所で下を見ると、愛ちゃんはかなり小さくなっていた。
でもそれ以外は変化がない。私は視線を上へと戻した。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:42
 愛ちゃんの姿は見えなくなったが、天井も見えない。
頂上にはカリン様でも待っているのだろうか?
疲れは無いが、退屈してきたのも事実だ。

「♪なーみをじゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ掻き分けて」

 ちょっぴり期待して歌い始めた私は、いつも通りの声に少しがっかりした。
あいかわらず夢の中でも現実も厳しい。
それでも退屈はしのげるし、迷惑もかけていない。

「♪ひょーたんじーまはどーこへゆーくー♪ぼくらをのーせてどーこーへゆーくー」

 しばらくすると辺りは冷たくなって来た。
ガラスの表面は薄っすら曇りはじめている。
これから先は集中して行かなければならない。
私は滑らないようグッと力を入れた。でもその前に

『こんの』

 何の記念って訳じゃないけど、書き込んでみた。
石川さんと『話した』のを思い出したからかもしれない。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:43
 登るペースはガクッと落ちた。一歩一歩慎重に登っていく。
痛くはないんだろうけど、この高さから落ちるのはかなり怖い。
落ちてきた私に驚く愛ちゃんも見てみたい気はするけど。
(きっとモーたいデビュー以上の驚き様だろう)

「ん?」

 掌に登り始めた頃のグリップ感が戻った。
曇っていない(水滴の無い)部分が突如現れたのだ。
そしてそれは私の手にピタリと重なっていた。

 スピードが戻ったのはいいが、新たな不安が生まれた。
私は同じ所をぐるぐる回っているのではないか?
私と同じ大きさの手形は上へ上へと続いていた。
でも『こんの』の文字は見当たらない。
『こんの』の文字を見逃さないよう注意しながら登る。

         本当に?

 足跡に足を、手形に手を合わせて登る私は、
"登らされている"という表現が当てはまる気がした。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:43
 そして私は天井にたどり着いた。
"天井"というよりは"栓"だ。押せば抜けそうな栓。
両足を踏ん張り、拳でガンガンた叩くと、徐々に緩くなっていく。
"栓"はやがて"蓋"に名前を変え、私は背中で"蓋"を押し出す為、体を入れ替えたその時

『コンノ』

 文字が目に飛び込んでくるのと同時に、呆気なく蓋は取れた。

 『コンノ』の文字を訝しみながらも、私は首が動く範囲で周囲を見回した。
ガラス越しに見てきた様子とほとんど違いは無い。

 さらに身体を持ち上げ、ガラスの淵に腰掛けると、唯一と言っていい相違点に気付いた。
あんなに世界に溶け込んでいたガラスが、はっきりと見分けられる。
目の前にはガラスの筒が並んでいた。
一番手前は愛ちゃん。その奥にも誰かがいるハズだ。

「また紺野さんですか?」

 突然頭上から声が聞こえた。見上げた先には空しかない。
腕の良い左官さんに整えられたような、むらの無い曇り空。
ただ声には聞き覚えがあった。カウンセリングの先生の声だ。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:44
「自分で栓を外すなんて、元気がいいなあ。」

 相変わらず先生の顔は見えない。
しかし次の瞬間空が歪み、一部が落下してきた。私をめがけて。
慌てて筒の中に隠れようとしたが、間に合わなかった。
私は今、深い闇に身を委ねている。

「今度は成功です。」

 身体に自由が戻った。まぶたの隙間からは、光も差し込んでいる。
でも怖くて目を開ける事が出来ない。

「ふむ・・・ええやん。」

 つんくさんの声だ。

「どこからどう見ても紺野や。」
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:45
 私は意を決して、ゆっくりと目を開いた。
目の前には私。黒い鏡に映る私。
鏡の中の私は怯えているようで、それでいて喜んでいるような不気味な視線を送っていた。
全身の毛が逆立つような感覚に襲われ、慌てて目線を逸らす。

「ではこれで進めます。」
「きゃっ!」

 再び自由は奪われようとしてた。
徐々に視界も遮られていく。
鏡は遠ざかる。
鏡だと思っていたものは眼球だった。
さらに遠ざかる。
覗き穴のように狭くぼやけた視界から、つんくさんが私を見ていた。
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:45
 非現実的な出来事。非現実的な感覚。夢としか言いようが無い。
しかし『コンノ』を見た時から、心の奥ではアラームが鳴り続けていた。
時間が経つ毎に大きく。力強く。これは現実だと私に告げる。
もう認めてしまいそうだ。でも認めてしまったら・・・

 自由が戻った時、私はガラスの部屋にいた。
前の部屋の数倍は広く、何かの液体で満たされている。
苦しくは無い。ゆっくり沈んで行くと隣に石川さんの顔が見えた。
そして肩、胸と景色は流れる。石川さんは私の3倍程の大きさに成長していた。
私に気付いた石川さんは、ガラスの表面を指でなぞり始める。
文字は残らない。私は沈みながら石川さんの指先を見つめ続けた。
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:46
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:46
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/26(土) 13:46
『ア ッ プ (ry

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