17 2004年のブラックジャック
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 22:36
- 2004年のブラックジャック
「バクハツマデアト20プン…。」
航海中の豪華客船・クイーンマコピー号内にそんな不吉な放送が響き渡る頃、
言い争いをしながら艦底を必死に駆けるふたつの影があった。
「ジャックが名乗ったりするからバレちゃったんですよ!」
「ブラックこそ隙間から出て来ねぇで。チャンスを逃すとこだったがし。」
「結局キングミキには逃げられましたよ?自爆装置まで作動しましたよ?」
「…生きて帰れたらもう絶対、パートナー解消やよ!このしゃくれ顎!」
「それはこっちの科白です!」
ブラックとジャックは走りながら器用に、ぷいっと顔を反らせた。
世界征服をたくらむ悪の組織ミキミキ団が今日クイーンマコピー号で集会を
行うとの情報を入手した国際警察は、凄腕の切札を送り込むことにした。
隙間が大好きで腹黒さからブラックと呼ばれるエリと、訛りが凄くて宝塚が
大好きなことからジャックと呼ばれるアイの、通称ブラックジャックを。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 22:37
- 「バクハツマデアト18プン…。」
艦内放送に重なってジャックの腕時計型無線機がピピッと鳴る。何だか嫌な
予感がしてブラックが眉間に皺を寄せる。
「こちらブラックジャック。」
「こちらマメガキ。首尾はどう?」
「まっ、まあまあやよ。」ジャックの声は上ずってしまう。
「まぁまぁって何なの。それよりプリンセス・サユって知ってるよね。」
「なんやの急に。知ってるやよ。あの黙った真顔が怖い姫様やろ?」
「そうそう通称エムの黙示録。乗ってんだって、その船に。」
聞き耳を立てていたブラックが驚きを表すジェスチャーをする。
「国際警察の面子にかけて救い出してね。それじゃ。マユゲビーム!」
通信がぶつっと途切れて、ふたりは顔を見合わせる。
「…とりあえずケンカは。」
「一時休戦、やよ。」
ふたりは拳をこつん、とぶつける。軽くウィンク、そしてあっかんべ。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 22:38
- 「バクハツマデアト16プン…。」
ふたりは船長室を目指して走る。ミキミキ団の戦闘員達も我先に救命艇へと
向かうばかりで、ブラックジャックには目もくれない。
「キングミキは絶対金づるになるプリンセスを連れて逃げようとする!」
「丁重に扱えてどこにでも行きやすい場所と言えば、船長室やよ!」
「せぇの!」
両開きの樹のドアを蹴り開ける。予想通りプリンセスが居た。そしてさらに
予想通りに、嫌がるプリンセスを連れて行こうとする、キングミキの手下も
居た。
「そこまでよ!プリンセス・サユから離れなさい!」
「…へぇ。自分達だけで逃げようとしないなんて立派たいね。」
悪党はプリンセスから手を離す。はねた髪を指でつまむ。そして微笑む。
「私の名はパワフル・レナ。そこらの戦闘員と一緒にすんじゃなかとよ。」
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 22:38
- 「バクハツマデアト14プン…。」
レナがガラスの爪を尖らせた。ブラックはプリンセスの盾になっている。
プリンセスはそんなブラックにぎゅっと抱きついている。ジャックは何だか
心がもやもやしてる。…何やろ、この不思議な感じ。唇を噛む。
「余裕だね。こっちに集中もせず、しかも武器なしで勝てるとよ?」
「勝てるがし。って言うかあっしの手の武器が見えんの?」
「ふぇっ?」
言われてレナが目を凝らすと、ジャックの右手にきらり輝きが見える。次の
瞬間、無数のダーツの矢のような何かがレナを服ごと壁に固定していた。
ご丁寧に髪のはねひとつひとつまで捕らえて。
「ふぇぇっ!」
ジャックの手に輝いていたのは、ガラスの棘。この腕前こそが凄腕の切札と
呼ばれ頼られる理由。
「なぜお前らがその技を…。」
「硝子の魔術師・ブラックジャック。憶えておくがし、何とかレナさん。」
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 22:39
- 「バクハツマデアト12プン…。」
騒がしい艦内放送にだいぶ耳も慣れてきた。
「プリンセス、もう大丈夫ですよ。」
ジャックがそうなだめてもプリンセスはいやいやと首を振るだけでブラック
から離れようとしない。ブラックも困ったような嬉しいような、笑顔。
「困っちゃいます。」
「あっしにはそうは見えんけどな!」ぷいっとふくれ歩き出すジャック。
「どこ行くの?トイレ?」
「いえ、こきませんけど!」
そう吐き捨てながらジャックはトイレに消えて行く。
「やっぱりトイレなんじゃない。なに怒ってんさ、変なの。」
「あぁもう!何やの、この気持ち」
自分でも解らないいらいらを抱えたジャックは用を足し手を洗ってる途中で
掃除用具入れロッカーがガタガタ揺れているのに気付いた。
「誰かおるの?」
開けると唇を尖らせた女の子が入っていて、ジャックはすぐまた閉めた。
「ちょっと助けてください!」
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 22:40
- 「バクハツマデアト10プン…。」
「助かりました。私はクイーンマコピー号の船長、コンコンと申します。」
ちょっとたぶたぶの袖をまくりながら嬉しそうに。
「なぁブラック。一般人がふたりおったら、救命艇での脱出は無理やろぉ。」
「そうですね。乗り場は戦闘員でごった返してるだろうし…。」
「サユは一般人じゃないの。プリンセスなの。可愛いの。」
「…やっぱり自爆装置を外すのがええかな?」
「あ、あの私、自爆装置がどこにあるか知ってます。聞いてください。」
「あるとしたら間違い無いないですね。」
「うん、機関室やよ。小さい爆弾でも誘爆を起こして船を沈められるがし。」
ぼーっとしたプリンセスと必死に役に立とうとする船長を置いてけぼりに
話は進む。結局、ジャックが独りで機関室に向かう事になった。
「ブラック。残り05分になってもあっしが帰らなかったら、解っとるね?」
真顔で語るジャックにブラックもこくん、と頷きだけを返した。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 22:40
- 「バクハツマデアト08プン…。」
鉄の手すりを滑るように降りて行くジャック。あっと言う間に機関室へ。
機械の出す騒音と蒸気熱をかき分けて進むと、やがて壁に取り付けられた
爆弾を発見した。
「見つけたけど…あっしには外せない。」
爆弾の真管に繋がる02本のコードには、それぞれ桜と乙女のマークが入って
いる。間違えた線を切ったらドカンとなる仕組みって訳やな。
瞬間、迷う。汗が流れる。そして決めた。ジャックは爆弾をそのままに今
来た道を引き返すべく走り出した。
船長室ではジャックの帰って来る足跡を聞き逃さないように、ブラックが
プリンセスがコンコンが、じっと聞き耳を立てて居た。待つしか出来ない。
汗が流れる。01分01秒がやけに長く感じる。
「あっ。」
やがて聞こえた。でもジャックの足音じゃない。上から聞こえる。だんだん
大きくなる。空気を切り裂く音。聞き覚えある音。
「ブラックさん、どうしました?」コンコンは泣きそうな顔をしている。
「これって…。」
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 22:41
- 「バクハツマデアト06プン…。」
その放送と同時にドアが開かれる。ジャックが駆け込んで来た。
「ブラックごめん!自爆装置外せんかった!救命艇を奪うしかねぇ!」
そう叫ぶジャンクにブラックは、人差し指を唇に当てるジェスチャー。
「甲板からヘリコプターの音がする。これってキングミキを。」
「迎えに来たんや!まだ脱出してない。ヘリコプターを奪えば助かる!」
「もしかしたら自爆装置を止めるスイッチなんかも持ってたりして!」
ブラックとジャックが笑顔になる。ハイタッチなんかもしちゃう。
「行こう!甲板」
運動神経が切断されてるプリンセスと船長を連れて甲板に行くと、まさに
キングミキが脱出すべくヘリコプターに乗り込もうとしていた。
「ちょっと待つやよ、キングミキ!」
「ブラックジャック!あんた達まだ居たの?」
「こっちにしてみればそっちこそまだ居たのって感じですけどね。」
風は凪ぎ波は立たず、空には星が瞬いている。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 22:42
- 「バクハツマデアト04プン…。」
ジャックの両手がきらめく。ガラスの棘がキングミキに向かって撃つと
キングミキも両手を輝かせる。カシャカシャンと高音が響き、ジャックの
放った棘はすべて撃ち落とされた。同じ、棘に。
「そんな…。」
ジャックの顔が青くなり、キングミキが笑う。
「硝子の魔術師は自分だけだと思わないでね。あ、それと。」
もう一度キングミキの手が輝いた。
「プリンセスを連れて来てくれてアリガトウ、ねっ!」
一本の棘が風を切って飛ぶ。呆然とするプリンセス。突き飛ばすブラック。
棘は吸い込まれるようにブラックの胸へと消えた。
ゆっくりと崩れ落ちるブラックの体が、スローモーションでジャックの
瞳に映る。理解できない。そして心が切り裂かれたように、痛い。
「ブラック!」
ジャックは駆け寄って手を取る。切れ切れの息の合間を縫って、かすかに
ブラックの唇が動き出す。
「ケンカばっかりしてて私、嫌われてたよね。でも実は私、ジャックを。」
「そんな事ねえから!無理せんでええ!」
「あいしてゆ…。」
ブラックの体ががくん、と重くなった。あの心の痛みの意味にも気付いた。
ねぇジャック、あっしもおめぇが好きやったみたい。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 22:43
- 「バクハツマデアト02プン…。」
うずくまるジャックの背中にキングミキの声。
「泣かせる話だこと。せっかくだから後を追ったら?」
ゆっくりとジャックが振り返った。涙に濡れた瞳は、怒りに燃えている。
しかしガラスの棘をいくら放っても、すべてキングに落とされてしまう。
「無理よ。ジャックじゃキングに勝てないの。」
じりじりと圧されてるのが解る。このままじゃ自分だけじゃなく船長も
プリンセスも救えない。ブラックの行動が無駄になってしまう。
「どうしたらキングに勝てる…?」
ジャックが呟いたのと同時だった。風を切る音がして、キングがどさりと
倒れた。振り返ったジャックの視線の先には、右手を伸ばしたブラック。
「キングに勝つには無敵の役ブラックジャックしかない、よね。」
ジャックはキングへ駆け寄り、胸からボタンのついた装置を探し出すと、
祈るような気持ちで、押した。コンコンとプリンセスは瞳を閉じている。
しかし時間が過ぎても爆発は起きなかった。…すべて、終った。
「ブラック。もう助からんかと思うたやよ。」
「神様がまだ死ぬなって言ってるみたい。」
広げた衿から姿を見せるのは、ひび割れたガラスのペンダント。隙間から
ジャックの笑顔が覗いてる。
「これのお陰でハートまでは届かなかったのね。」
「やっぱりあっしのパートナーはおめぇしかいねぇがし!だいずぎー!」
ジャックが泣きながらブラックを抱きしめる。ブラックはジャックの頭に
そっと手を添え、いいこいいこした。
2004年のブラックジャック 終
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/23(水) 22:43
-
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