13 そこに残るモノは
- 1 名前:13 そこに残るモノは 投稿日:2004/06/21(月) 14:08
- 13 そこに残るモノは
- 2 名前:13 そこに残るモノは 投稿日:2004/06/21(月) 14:09
- なつみは圭織の脇になつみの氷コップを置いた。
胴部は乳白色と朱色、脚部は透明度の高い黄緑色からなっており、
その色彩の鮮やかさは見るものを魅了する。
窓脇に置かれ太陽光を透過したそれは
店に置かれていた時とはまた違った顔を覗かせる。
改めてなつみはその氷コップの美しさに酔った。
……でも、
「私には、こんな綺麗なものは必要ないよ……」
そう言い残し、なつみは圭織の元から立ち去った。
氷コップは、白い包帯の上に鮮やかなグリーンの影を映していた。
- 3 名前:13 そこに残るモノは 投稿日:2004/06/21(月) 14:11
- なつみは翌日、圭織が目覚めたと聞いて仕事が終わるとすぐに病院へ向かった。
これは自分に課せられた義務であり、罰だ。
それを忘れないために、砕けた圭織の氷コップの欠片を持ち歩いている。
そう考えても、いや、そう考えるほどになつみの足取りは重くなった。
どんな顔をして会えばいいというのだろう。
圭織の人生を台無しにした私が。
圭織はなつみにとって掛け替えの無い存在なのだ。
オリメンとして最も長くモーニング娘。であり続けた。
その圭織に嫌われるどころか、憎まれても何ら不思議の無い事をしてしまった。
なつみは圭織に嫌われるという事がとてつもなく恐ろしい。
空はなつみの心のもやを表すかのように曇っていた。
- 4 名前:13 そこに残るモノは 投稿日:2004/06/21(月) 14:12
- 病室の前に立つと、軽く深呼吸。
そして、努めて明るい声で、
「圭織〜、元気にしてる?」
圭織には私が事故の傷の事知ってるの、ばれないようにしなきゃ。
なつみがそう思ったのは、その方がお互いに良い結果をもたらすと思ったからだ。
いや、そう思うことにしている。
圭織はなつみの質問に微笑を持って答えた。
その笑みがひどく儚げに見え、なつみには圭織が、
抱きしめれば折れてしまうのではないかと思えるほどに弱々しく見えた。
そこにはなつみの訪問に対する喜びも含まれているように思え、
なつみの胸はチクリと痛んだ。
「で、首はどうなの?」
今初めて首に巻かれた包帯に気付いた振りをしつつ、
なつみは尋ねる。既に知ってしまっている事を。
圭織はゆっくりと首を振る。
- 5 名前:13 そこに残るモノは 投稿日:2004/06/21(月) 14:13
- 「何? どうしたの?」
なつみは白々しいと思いながらも、知らない振りをし、問いを重ねる。
演技をする度、なつみはなつみの中の何かが何か黒い物に覆われていく気がする。
罪悪感に、胸が押し潰されそうになる。
圭織は傍らにあった大学ノートを手に取ると、こう綴った。
”何か、声帯がやられてて、摘出したから、もう声出せないんだって”
「え……」
”大丈夫。なっちの気にすることじゃないよ”
呆然とした表情をしたなつみに気を使ったのだろう。
自分が最も辛いはずなのに。
「……」
なつみの眼からはただ、涙だけが流れた。
情けなかった。自分の事しか考えられない自分自身が。
- 6 名前:13 そこに残るモノは 投稿日:2004/06/21(月) 14:14
- 「ごめん、圭織。私にはもう圭織に会う資格なんて無いよね……」
そんなことない、とでも言いたげにかぶりを振る圭織。
「……知ってたんだ。圭織が、もう――」
言葉の途中で、引き寄せられた。
なつみが顔を上げるとそこには圭織の笑み。
なつみは何故か母親のことを思い出した。
弱々しく思えた先程と同じであるはずなのに、受ける印象は全く違った。
圭織の胸に顔を埋め泣きじゃくりながらも、
自分が謝りやすいように、声帯の事を知らない振りをした事を詫びた。
なつみの代わりに圭織が犠牲になった事を詫びた。
圭織の夢を奪ってしまった事を、詫びた。
- 7 名前:13 そこに残るモノは 投稿日:2004/06/21(月) 14:15
- 「……圭織は、強いね」
嗚咽も収まり、しばらくしてから顔を上げるとそう呟いた。
なつみは自分が圭織の立場だったらどうしただろうか、と考える。
決まってる。やり切れない思いを、圭織にぶつけてた。
なつみには圭織が自分を憎しみという矛で攻撃しない事を不思議に思った。
取りとめもなくそんな事を考えてる間、
病室には圭織のペンを走らせる音だけが在った。
”だって、なっちを恨んでもどうしようもないし、
そもそも自分でやった事だしね。
第一この上、友達まで失うなんて、さすがに耐えられないよ”
なつみがノートから顔を上げると、今度は圭織が涙していた。
動揺しながらも、なつみは圭織がしてくれたように優しく抱擁する。
圭織が泣いている間、自分の罪が許されていく気がした。
- 8 名前:13 そこに残るモノは 投稿日:2004/06/21(月) 14:15
- 圭織とやり取りしていると時間はあっという間に過ぎた。
もう大丈夫だ。
なつみは確信した。圭織との友情が壊れる事は無い、と。
もちろん圭織だって無理をしているだろう。
だがそれは時間が解決してくれるはずだ。
「圭織、もうこんな時間だから帰るね。時間があればまた来るから」
まだ心から微笑むことはできなかったが、
もう最初感じた黒い物は消え去っていた。
立ち去ろうとするなつみの袖を圭織が引っ張った。
そして顔を胴部がラッパみたいな形の氷コップの方に向け、指差す。
なつみには圭織が何を言いたいのかが分かった。
- 9 名前:13 そこに残るモノは 投稿日:2004/06/21(月) 14:16
- 「いいよ。確かに私が買ったほうだけど、
もともと圭織のために買いに行ったんだし」
それでも、まだ何か言いたそうな瞳に向けこう言った。
「じゃあアレだよ。事故でも壊れなかった、私たちの友情の証ってことで」
言った途端恥ずかしさで、顔が赤くなっていくのが分かった。
ちょっとクサかったかな。
蛍光灯の下で氷コップは昨日とはまた違う美しさを放っていた。
ポケットの欠片は、家に飾ることにしよう。
そう思い、なつみは微笑んだ。
- 10 名前:13 そこに残るモノは 投稿日:2004/06/21(月) 14:16
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- 11 名前:13 そこに残るモノは 投稿日:2004/06/21(月) 14:17
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- 12 名前:13 そこに残るモノは 投稿日:2004/06/21(月) 14:18
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- 13 名前:13 そこに残るモノは 投稿日:2004/06/21(月) 14:18
- な
- 14 名前:13 そこに残るモノは 投稿日:2004/06/21(月) 14:19
- が
- 15 名前:13 そこに残るモノは 投稿日:2004/06/21(月) 14:19
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