10 愛しのレイナ

1 名前:愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:22
愛しのレイナ
2 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:23
 ドイツ軍の爆撃は、スターリングラードの街を火の海にした。
無差別爆撃の次は、メッサーシュミットによるピンポイント爆撃。
続いて大口径列車砲での、死人に鞭打つような砲撃。
そして、戦車部隊が突入して、最後に歩兵が占領するのだ。
これが有名なヒトラーの『電撃作戦』である。
こことモスクワが陥落すれば、ソ連は終わりと言っていい。
だからこそ、私は正規兵でもないのに、決死隊としてここに残された。

「マリー、朗報よぉ。ドイツ軍の戦車部隊は、郊外で立ち往生だってさぁ」

私と同じ非正規兵のリカ。両親をドイツ兵に殺され、敵を憎む気持ちは人一倍だ。
国家のためとか、殺された家族の復讐なんてのは詭弁にすぎない。
私だって、出来ればこんな戦場から逃げ出してしまいたかった。
しかし、ここから逃げようものなら、後方で遊んでる正規兵に殺される。
私達ウクライナ人は、ロシアに侵略されているのだ。

「戦車が来なけりゃ、歩兵がやって来るさ」

私達の仕事は、ドイツ兵を狙撃する事だ。
この旧家の屋根裏部屋に陣取り、あたりにドイツ兵の死体の山を築く。
それが、私とリカに要求された事だった。
私はスカーフを梁の上に敷き、7.62ミリ弾を並べる。
シモノフM1936に、ドイツ製のスコープをつけただけの狙撃銃。
アメリカから無償供与を受けたガーランドは、
みんなロシア兵が取り上げてしまった。
3 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:24
「うん?」

ここから見える窓に灯が燈った。
このあたりでは、比較的裕福な家のようだ。
まだ、あどけなさが残る少女が一人、
きっと日記でも書いているんだろう。
そういえば、昨日も同じ事をしていた。

「ナターシャ? イリーナ? テクラ?」

あの子の名前は何というんだろう。
小悪魔的な顔立ちは、私を酷く萌えさせた。
私はここを動けないが、ドイツ軍を撃退したあかつきには、
ガラス越しじゃなくて、直に顔を見せて貰うよ。

「・・・・・・レイナ」

そうだ。彼女の名前はレイナにしよう。
明日の朝にはドイツ軍がやって来る。
どうせ、先鋒はコザック兵に違いない。
ナチスはスターリンからの解放者なんかじゃない。
利用されてるだけだ。それに気づかない愚民。
4 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:24
「マリー、交代で寝ようよぉ」

そうだ。少しでも眠らないと。
もう、私達は三日もここにいる。
支給された三個の黒パンと水。
さっき食べた硬いパンが最後の食糧。
私は消毒用に持ってたウォッカを少しだけ飲んだ。

「判った。二時間経ったら起こしてね」

私は外套の上に毛布を羽織ると、シモノフを布で巻いて横になった。
梁を枕にすると、あの『レイナ』のいる窓が見える。
暖炉の火が赤々として、きっと快適な部屋なんだろう。
やがて、外気温が更に低下すると、窓ガラスが曇ってゆく。
・・・・・・おやすみ、レイナ。
5 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:25
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・!

「マリー、時間だよぉ」

もう二時間も経ったのか? 眼を瞑ったら二時間。
こんなに緊張してても、熟睡出来るもんなんだな。
スターリングラードには、非正規兵が二十万人。
その後方には、頼りにならないロシア兵が百万人もいた。
相手のドイツ軍は、私達の四倍の八十万人もいる。
どうせ私達は、ドイツ軍を一人でも少なくするための捨石。

「うん、交代しよう」

寒い。この屋根裏部屋は寒くて仕方ない。
『レイナ』は今頃、暖かな羽毛布団に入って寝ているだろう。
何の夢を観てるのかな? 恋の夢? 美味しいものの夢?
私の夢は・・・・・・私の夢は・・・・・・生きてウクライナに戻る事。
きっと、夢で終わるだろうね。・・・・・・たぶん。
6 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:25
「ふーっ、寒いな」

寒さには慣れてるとはいえ、こんな時期に暖房もない場所で夜明かしするとは。
昨年のクリスマスは、家族で温かい食事を食べたっけ。
ロシアに占領されて祖父母が殺され、ナチスに占領されて父母が殺された。
そして今、私は初めて抵抗をする立場になったのである。
人一倍、背の低い私と、胸が大きいだけのリカは、
難民施設で有無を言わさず狙撃兵の訓練に就かされた。
銃の癖さえつかめば、狙撃なんて難しいものじゃない。

 初めて人を撃ったのは、脱走したアルメニア兵の銃殺だった。
別にどうってことはない。私は彼の心臓を狙って撃っただけ。
殺人がどうのこうの言ってられるのは、平和な時だけなんだ。
私達に選択の余地なんかは無かった。
赤軍に反抗的な態度をとれば、レイプされた挙句に殺される。
私はこれまで、何十人ものそういった女性を見てきた。
私の目的は生きること。だから、私は何も考えないことにした。

「うっ! ・・・・・・なんだ。味方か」

灯火管制された街の中を、数人の非正規兵達が歩いていった。
彼等はまだ子供だった。粗末な銃は帝政ロシア時代から使われているもの。
操作不良も日常茶飯事で、まともに撃てるシロモノじゃなかった。
これが共産主義国家の現実。全員が等しく貧乏になった。
7 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:26
「またパトロール?」

そんなに何度もパトロールしなくても・・・・・・。
違う! これは長靴の足音。ドイツ兵だ。
私はリカを揺り起こし、シモノフを構えた。
まだ、東の空は明るくなっていない。
きっとドイツ軍は、日の出とともにやってくるんだろう。
そのための偵察部隊を送り込んできたんだ。

「マリー、どうするのぉ? 撃つのぉ?」

私は舌を鳴らしながら指を振った。
相手は斥候なんだから、こんなところで狙撃すれば、
数十発の砲弾が落ちてくるだろう。
ここは、やり過ごすに限る。
少しでも長く生きているためには。

「あれは斥候。明るくなってからにしよう」

なぜ、ドイツ軍自慢の戦車部隊が立ち往生してるのか。
それは簡単なことだ。この寒さでエンジンオイルが固まったんだろう。
かつて、ナポレオンがロシアで惨敗したのは、この寒さを甘くみたからだ。
勤勉なドイツ人でも、他山の石という言葉を知らないようだ。
8 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:27
 東の空が明るくなって、ようやく視界がきくようになると、
レイナが窓を開けて外を覗いている。
冷たい風を浴び、彼女は寒そうに震えてガラス窓を閉めた。
そうだ。あまり顔なんて出さない方がいい。
これから、ここは戦場になるんだから。

「マリー、来たみたいよぉ」

八百メートルくらい西の道路を、建物に隠れながらドイツ兵がやって来る。
それにしても、妙に動きが悪い。いったい何があったんだろう。
私はスコープで、ノロノロと動くドイツ兵を観察してみた。

「なるほど、足が凍傷になったんだね」

この季節、あんな長靴なんて履くから、凍傷になってしまうんだ。
ウールの靴下を何重にも履かないと、どんな靴でもやられてしまう。
ドイツ人は、もう少し頭がいいと思ってたのに。

「リカ、通信手を撃ちな。オイラは指揮官を撃つ」

一発目は外せない。定石通りに指揮官と通信手を殺せば、
敵の兵力は半減したと言っていいだろう。
次に機関銃手を殺せば、後は烏合の衆にすぎない。
出来ればこの銃で、グーデリアン上級大将を撃ちたかったが、
こんな前線にまで来ることはないだろう。
9 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:28
「あいつが指揮官だな? もう少し引きつけよう」

狙撃というのは面白いもので、誰にでも得意な距離というものがある。
私にとっては、それが四百五十メートルという距離だった。
この距離だと、右斜め上十センチを狙えば、目玉にも命中させられる。
それが、この銃の癖であり、私の癖でもあった。

「そ、そろそろ撃つわよぉ」

まだ五百メートルあったが、リカは待てないようだ。
別に四百五十メートルも五百メートルも変わらない。
ターゲットの肩を狙えば、心臓に命中させられる。
私とリカは呼吸を合わせ、徐々に照準を絞り込んでゆく。
そして、息を吐きつつ止め、無造作に引き金をひいた。

「ヒット!」

敵の指揮官は、双眼鏡を握りしめたまま、大の字に転がった。
横を見ると、リカの撃った通信手も、倒れたまま動かない。
次は機関銃手・・・・・・いたいた。MG42を構えてる。
どこから撃ったか判らないだろ? ここだっての!

「さすがマリー。機関銃手もやっつけたよぉ」

これだけ部屋の奥から撃てば、マズルフラッシュを見られることもない。
私はマガジンを外し、三発だけ補充して再び装着した。
銃弾のローダーもないから、マガジンには手で押しこまないといけない。
十五発入りのマガジンに、私の力では七発しか押しこめなかった。
10 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:29
「無線機が壊れたから、伝令が援軍を呼びに行くのか・・・・・・」

スターリングラードなんて、そんなに大きな都市じゃない。
この道路だけでも、ドイツ軍は数万人の兵力を投入出来る。
それを私達が阻止するのだ。シベリアの部隊が来るまで。

 赤い腕章をつけた非正規兵の少年達が、
果敢にもドイツ軍に向かってゆく。
戦闘理論も知らない子供達は、次々に射殺されていった。
別に可哀想だとか、憐れだとかは感じない。
これが戦争。これがロシア人のやり方だから。
顔面を血に染めて即死した少年は、
まだ大麦の刈り入れも出来ないくらいの年齢だった。

「マリー、本隊が来たよぉ」

どいつもこいつも、胸にコザック兵のプレートをつけてる。
遊牧民であるコザック人は、とても勇敢な民族だ。
同じソ連人。そんな事を言って懐柔するのはロシア人だけ。
私達ウクライナ人にとっては、コザック人など外人にすぎない。

「リカ、指揮官と通信手は任せたよ」

これだけの大人数になれば、ロケット砲くらい持ってるだろう。
そうした奴を撃たないと、一発くらっておしまいだ。
中にはスコープをつけたKar98kを持っている兵もいる。
眼には眼を、狙撃兵には狙撃兵を。という安易な発想からだろう。
11 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:29
「ジワジワ進んで来るよぉ」

敵も馬鹿じゃない。私達が嫌な攻め方をしてくる。
数を頼りに突撃してくれた方が、どれだけ楽か。
こっちは、フルオートが出来るシモノフだから、
片っ端から撃ってやる事が出来たのだが。

「リカ、接近させちゃ駄目だよ」

百メートル以内に接近させなければ、
ロケット砲による脅威は皆無と言っていい。
私はとりあえず、機関銃手を片っ端から撃って行った。

「あ、当たりをつけてきたみたいよぉ」

私達のマズルフラッシュが見えないから、
ドイツ軍は下の階に銃弾を集中させていた。
時折、流れ弾がこの屋根裏部屋にも飛びこんでくる。
こんなに視界の悪い場所から狙撃しているなんて、
いったい誰が思うだろう。

「ん?」

レイナだ。危ないから窓に近づくんじゃない。
彼女からは見えないだろうが、私の方を見ている。
シモノフの銃声が、こっちから聞こえるからだろう。
少し寄った眼で、私の方を凝視している。
可愛い顔をしているな。レイナは。
12 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:30
「マ、マリー! ハーフトラックよぉ!」

そんなに慌てるなっての。間違ってもハーフトラックを撃つなよ。
それで居場所が限定されちまうからな。私に任せておけ。
荷台の兵士が担いでいるのは、ラケッテン・パンツァー・ブクセ43か。
八十八ミリ口径の対戦車ロケット砲。ドイツ版バズーカって奴だ。
こいつは射程が百五十メートルあるから、早目に潰した方がいい。

「集中しないとな」

私はハーフトラックの運転席を狙っていた。
運転席には幅一センチ、長さ二十センチの覗き穴がついてる。
ここから銃弾を撃ちこめば、運転士は即死するに違いない。
しかし、動く標的は狙いづらいものだ。

「マリー! ロケット砲が狙ってるぅ!」
「うるせーな! だったらロケットを狙えばいいだろーが!」

ハーフトラックが二百メートルまで接近した時、
私は息を吐きつつ止め、運転席の覗き穴を狙って撃った。
軽く火花が散ったものの、私が放った銃弾は、
どうやら運転席に飛び込んで行ったらしい。
13 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:30
「何だよ。まだロケットを・・・・・・」

私はリカを見て驚いた。眉間に一発受けて死んでいたからである。
この状態では狙撃されたのではなく、流れ弾が当たってしまったのだろう。
死とは何の前触れもなく、いきなり訪れるものだ。
この十九歳の少女は、運に見放されたとしか思えない。

「是非もなしか・・・・・・」

運転士が死んで制御を失ったハーフトラックは、
街灯をなぎ倒して、石の家屋に激突した。
その反動でロケット砲を担いだ兵士が投げ出される。
慌ててハーフトラックの陰に隠れようとする兵士の頭を、
私はロケット砲とともに、確実に吹き飛ばしていた。
14 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:31
 膠着状態が続き、私はリカの遺品を調べる事にした。
銃弾が倍になったのは、とても頼もしい事だったが、
四つの眼が二つになったのは、とても大きな損失である。
私はリカのシモノフからマガジンを抜き、梁の上に置いた。

「早く夜にならないかな」

夜になれば、その寒さから、ドイツ軍の潤滑油は固まってしまう。
ここから顔を出しても、銃撃される心配は無いだろう。
夜になりさえすれば、朝まで生きていられる。
それはレイナも知っているようで、夕闇が迫る頃になると、
とてもリラックスした表情に変わってゆく。

「レイナ・・・・・・可愛いな」

・・・・・・?
おかしい。何でレイナは避難しなかったんだ?
ドイツ軍が攻めてきているというのに。
スターリングラードの北東には、難民キャンプがある。
ほとんどの市民は、そこに避難してるはずだ。
ガラス越しの彼女は、どこか悲しそうな顔をしていた。

「ううっ、寒い」

今晩は一段と冷え込む。氷点下三十度以下になっているだろう。
私はリカの外套を脱がし、彼女が使っていた毛布も使った。
新聞紙まで毛布の中に入れ、即席の断熱材にする。
水筒に入れた水は凍ってしまうから、抱いているしかない。
私はウォッカを一口飲み、共産主義を賛美する本の山の上に転がった。
15 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:31
「明日がオイラの命日かな?」

丸一日かけて前進出来なかったのだから、
ドイツ軍は明日の朝から猛攻を始めるだろう。
それこそ、全ての建物を破壊し、全ての敵を殺すに違いない。
その地獄の中で、私はいつまで生きていられるのか。
戦いは地獄。逃げても地獄だった。
早々に死んだリカは、かえって幸せだったのかもしれない。
打倒共産主義を掲げたナチスは、ある意味、私にとっての正義だった。
しかし、ゲルマン人至上主義を力説しているので、
ドイツが勝ってもロシアと変わらない。
弱小民族は支配され、差別され続けるのが常だった。

「ドイツ人が書いたものを教科書にしてるのにね」

月明かりの中、私は『資本論』を引っ張り出して放り投げた。
別に死ぬ事が怖いとは思わない。死は誰にだって訪れる。
でも、まだ二十一歳という年齢で死んでしまうというのは、
やはり残念でたまらなかった。
戦争さえなければ、私も結婚して子供を産み、
幸せな家庭を築いていたのかもしれない。
子供くらい産みたかったな。女だもん。
16 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:32
 翌朝、私は爆発音で眼が覚めた。
ドイツ軍が片っ端から建物を爆破してる。
邪魔な建物を破壊し、ここを八十八ミリ砲で撃つ気だろう。
私はシモノフを構え、建物に火薬を仕掛ける工兵を狙った。

「待てよ」

馬車の荷台には、山のような火薬が積んである。
しかし、この火薬は雷管がないと爆発しない。
いくら銃弾を打ち込んでも、爆発しないのである。
ただし、少しばかりのウィークポイントはあった。

「あいつの胸ポケットが気になるな」

火薬の積み下ろしを指揮する将校の胸が、
異様に膨らんでいるではないか。
私の勘が正しければ、あれはウォッカに違いない。

「やってみるか」

私はフルオートで将校の胸を撃った。
案の定、胸のウォッカが飛び散り、火薬の上に降り注いだ。
私はマガジンを替え、今度は火薬を撃ってみる。
火薬の山に、薄っすらと炎が見えた直後、
凄まじい爆発が起こり、私は衝撃波で床に叩きつけられた。
17 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:33
「いたたたたた・・・・・・大成功だけど」

火薬の種類にもよるが、高純度のアルコールで発火する。
そんな事を誰かから聞いて、私は憶えていた。
横にあるリカの死体は、冷凍されて霜がついている。
こうなったら、もう人間というより『物』だった。

「すげー! クレーターが出来てる」

五百メートルも離れているというのに、
ここまでドイツ兵のヘルメットが飛ばされてきた。
近くにいたドイツ兵は、ほぼ消滅してしまったようだ。

「いよいよ弾切れだな」

私は残りの銃弾をマガジンに押しこむが、たったの五発しかなかった。
数十人、いや数百人を道連れに出来たものの、殺せる人数は、あと5人だけ。
この憎い狙撃兵を、ドイツ軍は死に物狂いで殺しにくるだろう。
最後の一発は、私が死ぬための銃弾。苦しまずに死ねるためのもの。

「アハハハハ・・・・・・レイナ、とうとう死ぬ時が来たみたい」

ガラス窓の向こうのレイナは、私を見つめてニッコリと笑った。
そんなはずはない! こっちはほとんど真っ暗だから、レイナからは見えない。
なのに、彼女は私と視線が合って、ニッコリ笑ったのだ。
うっ! ブチキレた敵が、突撃を始めやがった。
18 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:34
「四人だけ道連れだね。イケ面だけ撃とうっと」

私はイケ面を探し、次々に四人を射殺した。
そして、靴を脱いでシモノフを逆さに持つ。
最後の一発で私は自分の心臓を撃ち抜くのだ。
私は銃身を掴み、足の指を引き金にかけた。

「レイナ、さようなら」

私が引き金を引こうとした時、驚いた事にレイナが窓を開けた。
そして、彼女は泳ぐように、私の方へとやってくる。
私には何が何だか判らなかった。

「マリー、いよいよ最期ですね。私はこの時を待っていました」
「レ、レイナ! あんた、いったい何者なの?」

レイナは微笑みながら、驚いた私を見つめている。
そして、リカの使っていたシモノフを取り、私に手渡した。
それがどういった意味なのか、私には判らなかった。

「その銃弾は不発です。こっちのチャンバーに一発だけ入っています」
「・・・・・・死神?」
「それは死を恐れる人の言葉ですよ。私は死亡者案内人」

そうか! それでレイナは、私をずっと見ていたんだ。
こんな戦場で避難しなかった理由が、ようやっと判った。
それにしても、死後の世界があるとは思わなかったな。
19 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:34
「オイラ、いっぱい人を殺しちゃったから、地獄へ行くんだろうね」
「それは、マリー自身が決める事でしょう?」
「ふーん、そうなんだ」
「もう、ドイツ兵がやって来ますよ」

レイプされて殺されるなんて、私は御免だ。
それじゃ、その死後の世界ってのに行くとするか。
私はリカの持っていたシモノフに持ち換え、
静かに引き金をひいた。
頼んだよ。・・・・・・レイナ。



〈END〉
20 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:35
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21 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:35
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22 名前:10 愛しのレイナ 投稿日:2004/06/20(日) 21:35
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