7 Communication Breakdown
- 1 名前: 7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:11
- 7 Communication Breakdown
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/06/20(日) 01:13
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「・・・よし、これでOK、と。
さゆ、ショーケースの蓋、取って。あとは元通りにしてロックするだけ。思ってたより簡単だったよね。」
「まだ。最後まで気を抜いちゃダメ。ここを出る時、センサーに引っ掛かったりしたら全て台無しなんだから。」
「分かってるよ。あたしはそんなマヌケじゃありません。」
額に汗を浮かべるさゆみとは対照的に、少し笑顔を見せた絵里は、
赤外線センサーを可視できるスコープを装着すると、最後の作業に取り掛かった。
二人とも全身黒ずくめの衣装で、手には薄い革の手袋をしている。
目から下はマスクで覆われており、気温が高い中、呼吸をするたびに自身の体温も上がるような気がする。
真っ暗な中で、遠くに非常口の場所を知らせる緑色の明かりがぼんやりと灯っている。
口にくわえたペンライトの光が妙に眩しい。
絵里はさゆみから受け取った分厚いガラスの蓋を、慎重にショーケースの上に被せていった。
- 3 名前:7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:14
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深夜の東京国立近代美術館。
この四月から半年間、『移民の星』と呼ばれる85カラットのレッドダイヤモンドが展示されている。
1965年に南アフリカで発見されたそれは、世界的な権威であるGIA鑑定チームにより
『この世で最も美しく、完成度の高いダイヤモンド』の称号を受けた。
紆余曲折あって現在はイギリス王室の所有物であるが、今回ようやく日本で初公開される事になった。
亀井絵里と道重さゆみによってコンピューターシステムを改竄されたセキュリティルームでは、
四人の警備員が詰めているが、二人の侵入者があった事すら把握していない。
一時間前からモニターに映し出されている映像は、昨夜の同時刻のものであり、何も、誰も、映っていない。
ここの近くに借りたアジトから、電波でとばしたVTRが延々と流れているだけである。
全部で60台近い防犯カメラが設置されているが、今、行われている事実に気付く者は誰もいない。
絵里とさゆみがセンサーの網にかかって、非常ベルを鳴らさない限りは、その状態が続くと思われる。
二時間おきに警備員が見回りに出る時間まで、あと30分。時はゆっくりと流れていった。
- 4 名前:7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:14
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- 5 名前:7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:15
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「じゃあ、乾杯!」
「かんぱーい!」
「それにしても、うまくいったよね。」
「もう、完璧。まさかアレがガラス玉にすり替わってるなんて、誰も思わないよ。」
「それ考えると、なんか笑える。明日からは皆、入場料払ってガラス玉を見に行く訳だから。」
絵里とさゆみの二人は、目の前にある『移民の星』を見つめながら、笑い声を上げた。
そつなく仕事をこなし、二人で住んでいる部屋に帰ってきたのが小一時間前。
心身共に疲れ切っていた絵里とさゆみは、時間をかけて熱いシャワーを浴びた。
いつもなら、ふざけて身体を触りあったりするのだが、今日に限って、二人は黙々と汗を流し身体を洗う。
風呂からあがって、ようやく全ての緊張から解き放たれ、裸のままビールで乾杯をした。
「ねぇ、えり。コレ、いくらくらいで売れるの?」
「時価1000万ドルって聞いた事があるんだけど、明らかに盗品だし、
地下組織のバイヤーに叩かれるだろうから、2〜3億くらいじゃないの?」
「それでも1人1億か。やるじゃん、当分遊んで暮らせるね。」
さゆみは嬉しそうに笑い、ドサッと音を立ててソファーにもたれ掛かった。
- 6 名前:7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:15
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「でもさ、入り口のロックシステム、よく解読出来たよね? あれ、128ビットでしょ?」
「へへ。けど、えりのアイディアがあって初めて現実になった訳だから。」
「実際60台のカメラを盗撮録画するのは大変だったけどね。
それに、ぶっちゃけ、あたしのアイディアじゃないし。」
「は? じゃ誰のアイディア?」
「後藤さんに聞いたの。」
「マジで?」
「うん。」
「・・・実はあたしも。」
「何が?」
「SSLを解読して、それを破ったのは・・・保田さんなんだよね・・・」
「マ、マジで!?」
「何よ、突然大きい声出して。ビックリするじゃない。」
さゆみの抗議を無視した絵里は、慌てて机の引き出しから専用ルーペを取り出すと、
『移民の星』を掴み取り、ライトに透かして見た。
- 7 名前:7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:16
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「も・・・もしかして・・・」
絵里の悪い予感は見事に的中する。
ラウンドブリリアントカットされた、その『移民の星』は赤く色付けされたガラスだった。
無色のダイヤモンドなら、絵里もさゆみも気付いたかもしれない。
ただ、それが世界的にも数少ないレッドダイヤモンドだったため、肉眼では判別出来なかった。
「やられた・・・。さゆ、遊んでなんて暮らせないよ・・・」
「・・・もしかして・・・それもガラス玉?」
「そうみたいね。」
「・・・マジ!? ・・・あたし達、あれだけの危険を冒して、ガラス玉の交換をしただけ!?」
突然甲高くなったさゆみの声に、絵里は無言で頷いた。
「けど、これだけインクルージョンのないクラリティーを持つガラス玉って逆に凄い。」
「・・・えり、あたし達が向こうに置いてきたガラス玉ちゃんと見なかったの?
アレも怖いくらいにインクルージョンがなかったよ。」
「・・・それって、どういう事なんだろう?」
「あたしに分かる訳ないじゃん。」
さゆみはふてくされた様に顔を背けた。
- 8 名前:7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:17
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「それより、なんでコレがガラスって分かったの?」
「だって、128ビットの暗号を解読してるのに、そう簡単に人に譲らないよ。
もしさゆが自分で攻略したとして、他人に言いふらす?」
「・・・絶対に言わない。」
「でしょ? 後藤さんのだって、凄いアイディアなのに、
何故それを自分で実行しなかったんだろう、って思ってたもん。」
「・・・そう言われれば、そうだね。」
「・・・なんでだろう?」
暫くうなだれていた絵里が、突然小さい声で呟く。
「・・・何が?」
「なんで、保田さんと後藤さんは、アレをパクった後、あたし達を陥れるような事をしたんだろう?」
「・・・分からない。」
「さゆが、最後にあの二人に会ったのは、いつ?」
「一週間くらい前かな?」
「あたしもそれくらいだ。・・・って事は、『移民の星』を手に入れた二人は今頃、高飛びか・・・」
全身の力が抜けた絵里は、蹲ったまま頭を抱えた。
- 9 名前:7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:18
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- 10 名前:7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:18
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「ねぇ、カヲリ、また例のガラス玉制作依頼のメールが来てるよ。」
「そう。プロキシ辿った?」
「楽勝で。依頼主は吉澤ひとみと藤本美貴。」
「・・・また、あそこの連中? ・・・ったく、バカばっかりだね。」
「私達が作ったイミテーションがぐるぐる回ってるなんて、思ってもみないでしょうね。」
「最初は誰だっけ? 中澤裕子と矢口真里?」
「で、その次が保田圭と後藤真希。逮捕された二人を挟んで、亀井と道重。」
「ハハハ。どうなってんだろう、あの組織は。・・・ってゆうか逮捕された二人って辻と加護だっけ?」
「そう。あの二人は特別だよ。全くのノープランで突っ込んでいったんだから。」
石川梨華はおどけた調子で飯田圭織の向かいに座り、足を高く組んだ。
- 11 名前:7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:19
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「ところで、なんで皆、二人組なんだろうね?」
「そりゃ、決まってるじゃない。美術館に忍び込んで、ダイヤをすり替えるのは一人じゃ無理だし
人数が多くなると、成功した時の分け前が減るからでしょ?」
「分け前? 成功もなにも、本物の『移民の星』はウチらが持ってるんだから。」
圭織は大声で笑って、梨華にシャンパンを注いでから、自分のグラスも満たす。
「・・・カヲリ、今回の依頼を最後に、暫くゆっくりしない?」
「何? まさか引退するの?」
「しないよ。」
グラスに口をつけた梨華はニッコリと笑った。
「引退なんて勿体無いじゃない。あのシナリオを考えついてから、
キレイに赤いガラス玉を一個作れば、それが300万で売れるんだから。
ただ、ここのところ働き詰めだったし、二人でヴァケーションを楽しもうよ。」
「そっか。そうだね。南の島でも行って、パァーッと派手に遊ぶか?」
程よく冷えたドンペリニオンを圭織は一気に飲み干す。そのあと梨華の顔を見て、またゆっくりと微笑んだ。
- 12 名前:7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:19
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おわり。
- 13 名前:7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:21
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- 14 名前:7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:21
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- 15 名前:7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:21
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- 16 名前:7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:22
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- 17 名前:7 Communication Breakdown 投稿日:2004/06/20(日) 01:22
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