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31 子供はキスは禁止です。

1 名前:31 子供はキスは禁止です。 投稿日:2003年11月09日(日)21時43分35秒
31 子供はキスは禁止です。
2 名前:31 子供はキスは禁止です。 投稿日:2003年11月09日(日)21時45分32秒
「あいぼん。ドロップいる?」
いつもの土手の道を歩きながら、ののが訊いてきた。
「ああ、一個もらうわ。」
本当は最近すこし太り気味やから、甘い物は遠慮しておきたいところやけど、ののの好意を無下に断るちゅうのも友達甲斐が無いもんな。

ガチャガチャと金属の缶を逆さに振って、ののが手のひらの上に幾つかのドロップを広げた。おはじきを広げてみたいに色とりどりのドロップがののの手の上にある。
「何味がいい?」
「そうやな〜。今日の気分はレモン味やから黄色!!」
ののの手から白い粉をふいたレモンドロップをつまみ取って口の中に入れる。甘酸っぱい味が口の中に広がった。

ののもグレープのやつを口に放りこんで、残りのドロップを缶の中に戻した。
しばらく二人とも舌の上でドロップを転がしながら、無口のまま歩いていた。
今日は通常の時間割が変更になって、午後は視聴覚教室にみんなが集められて、特別授業があったからいつもより一時間ぐらい早く学校が終わった。太陽はまだ高い位置にあって、ポカポカいいお天気や。
3 名前:31 子供はキスは禁止です。 投稿日:2003年11月09日(日)21時47分33秒
「なあ、のの。」
「なんれすか?」
ほっぺたをドロップで膨らませてののが答える。まったく、ののはいつも屈託無いなぁ。もうちょっと大人っぽくなったほうがええで。

「今日な。みんな視聴覚室に集められてビデオ見せられたやんか。」

「うんうん。見たれすね。ひとつの花の中には雄しべと雌しべがあって、わたし達の体も同じですっていう話れすね。」

「ののはどう思った?」

「どうって、何がれすか?」
ののが明らかに戸惑いの調子が混じった声で反問してきた。
ののの目が微かに曇る。

「例えば、うちのラブちゃんは雌やろ。」
うちはわざとののを見ないで、明後日の方向に向かって独り言みたいにして言う。
ラブちゃんは加護が飼っている『犬』の名前や。コマーシャルで人気の出たのと同じ種類なんやで。目がいつもウルウルしてメッチャ可愛い。
「で、ののんちのマロンは雄やんか。雄と雌は『結婚』できるんやろ?」
マロンはののが飼っている『犬』の名前だ。飼い主に似たのか食べては寝てのグウタラな『犬』。
そこで、うちは少し言い淀んだ。
次の言葉がなかなか出て来ない。でも思い切って吐き出した。
「・・・・うちとののとは『結婚』出来るんやろか?」

ののは困ったような泣きそうな顔をした。
うちの胸の中にモヤモヤとした黒い固まりが沸き上がる。
「わたし達、まだ子供だし『結婚』なんて早いよ。」
ののにしてみたら精一杯の反論だったのやろう。

『結婚』出来るかと訊いているのに、子供だから駄目というのは答えになってなくて、上手くはぐらかされたような気がしたが、うちらはしばらく互いに黙ったまま歩いていた。
4 名前:31 子供はキスは禁止です。 投稿日:2003年11月09日(日)21時50分42秒
土手の道はどこまでも真っ直ぐで、お日様は青い空の天球の中で午後の日差しを放っている。道端には名前の分からない黄色い花がたくさん咲いているのが目に付いた。

話の切っ掛けが欲しくて、とにかく何か言わんとあかん、そんな気分やった。
「あのな、のの知っとるか?」
久しぶりに喋ったので、のどに声が絡みつく感じやった。

「なになに?」
「あのな、花には雄しべと雌しべが同んなじ所にあるやろ。植物っていうのは『シユウドウタイ』って言うやで。雄と雌がひとつになってるやって。」
うちは乱暴に足下の黄色い花をむしった。切り口からビックリするくらいに濃厚な草の匂いがした。命の匂いだと思った。

「ふーん。『シユウドウタイ』かぁ。あいぼんは難しいことを知っているんれすね。」
茶化して皮肉で言っているのかと思ったら、本気で感心しているみたいや。
そんな、ののの素直な部分が大好きやで。
口に出しては、よう言えんけどな。

「じゃあ、あいぼんとののも『シユウドウタイ』かな?」
ののが嬉しそうな顔をして、うちの顔を見た。
好物のジャーキーを目の前にしたラブちゃんみたいな顔しとる。

「・・・そうや。うちらは『シユウドウタイ』やろ。」
(だから大人になったら、ののと結婚できるんや。)という言葉は飲み込んだ。
そんな日が本当に来るとええな。

5 名前:31 子供はキスは禁止です。 投稿日:2003年11月09日(日)21時52分58秒
「ねえ、あいぼんは『キス』したことあるれすか?」
おいおい、いきなり突拍子もないこと訊くやつやな。
ほっぺたが知らず知らず赤くなってしまうわ。

「『キス』ちゅうと、口と口と使用して行う行為という事やな・・・。」
ののには弱いとこは見せられへんと思って、大人びた答えをしたつもりやったけども、ののには見抜かれしまったようや

「うふふ。『チキュウ』ではあいさつ代わりに『キス』するんれすよ。好きな人同士は『キス』をするのれす。あいぼんは『キス』したことないんだぁ。」
とあっさり言われてしまった。

「・・・ない。」
別に恥ずかしいことや無いやで。
だって、うちらまだ子供やん。
6 名前:31 子供はキスは禁止です。 投稿日:2003年11月09日(日)21時55分18秒
「じゃあ、ののと『ファーストキス』をしてくれますか?」
(直接的な奴ちゃなぁ。)
「ののが『ファーストキッス』の相手じゃあイヤれすか?」

(嫌じゃない。むしろ、こっちからお願いしたいくらいや。)

「心配しないで下だしゃい。ののも初めてれすから・・・」
はぁ・・・
なんだか、のの、急に色っぽくなったで。
フェロモンって言うんだっけ、うちの心の深い場所を持って行かれそうや。

「・・・ん。する。」
うちも結局はひとりの乙女なんやな。
好きな子の前では虚勢とか見栄とか、もう何も通用せんわ。

いつの間にか二人は大きな木の陰で見つめ合っていた。
うちは背中を樹に押しつけられて、ののが顔が20センチの位置に近づいてるわ。

ドキドキするなぁ。
のの、やん。小さい頃からいっつも一緒にいた、ののや。
いいとこも、悪いとこもみんな知ってる、腐れ縁の仲やんか。
今更なんで、こないドキドキするんやろか。
のの、今日は男前やな。

来た来た来た。
来るわ。
目は閉じた方がええかな。
7 名前:31 子供はキスは禁止です。 投稿日:2003年11月09日(日)21時58分32秒
くちびるとくちびるが触れた。
感覚が敏感になってるわ。自分でもびっくりするくらいに感じてしまうで。
くすぐったいような。
ジンジンするような。
不思議な気分や。

バカ、バカ。
舌を入れてくるんじゃない。
ののを押し剥がそうと抵抗したけど、ののの強い力に押し戻されてしまった。
もう、ええわ。
流れに身を任せるで。

ののの口から、うちの口の中に何かがツルンと入ってきた。
ののがさっきから舐めていたドロップやろか。
味を確かめる間もなく、喉の奥にそれは滑り込んでいってしまったわ。
そして、お腹の中でパチンと弾けた気がした。

ののと『キス』をしてから、うちは変になってしまったわ。
微熱があるように体が熱を持ってるし、なんだか吐き気もする。
8 名前:31 子供はキスは禁止です。 投稿日:2003年11月09日(日)22時00分53秒
二週間ぐらいたった頃やろか、朝起きたらごっつ腹痛を感じた。
最悪な事に強い吐き気もする。

(あちゃあ。なんぞ悪いもんでも食べたかな。食あたりやろか。)
と朝から憂鬱な気分になった。
そのうち、お腹の中から込み上げてくる吐き気が我慢できなくなりトイレに駆け込んだ。
「うえぇ。」
とえづいているうちに、突き上げている固い塊がある。
すごく痛い。
これは産みの苦しみというやつやろか。
苦労してやっと吐き出してみると桃色の卵やった。
うちの体液で粘液質の膜に覆われとるけど、桜色に光る卵はうちの中にある母性本能っていうか、守ってあげたいという気持ちを刺激する。
しかし、いままで白い卵は産んだことがあるけど、桃色は初めてや。

同居している裕ちゃんに
「あのな、気持ち悪くて吐いてしまったねん。でな、こんな物を産んでしまった。」って言って卵を見せた。
9 名前:31 子供はキスは禁止です。 投稿日:2003年11月09日(日)22時03分44秒
「ふえぇぇ。」
台所に立っていた裕ちゃんは、うちから卵を受け取るとたっぷり一分は呻いていた。
「あのな・・・」
いつもは歯に衣を着せずに物を言う裕ちゃんが、どうしてか言葉を選んでいたようやったけど、結局は
「あいぼん。あんた『キス』したな。」
と直接的に訊いてきた。

どうして分かったんやろか。
うちはどう答えていいか分からずに戸惑っていた。

「相手は誰や?辻ちゃんか?」
うちの顔色を見て、確信を得たのか
「そうなんやな。そうか・・・」
裕ちゃんは上を見たり、下を見たりしていた。
「いつかはそうなると思っていたけど、子供や子供やと思っても、もう体はおとなやったんやな。」

「裕ちゃん、どういうこと?」
絞り出すように訊いた。

「・・・なんや。知らんのかいか。呆れたわ。・・・このな。ピンクの卵の中にはあんたと辻ちゃんの子供が入っているんやで。30歳でおばあちゃんになってしまったわ。まあ、うちもあいぼんを産んだのは15の時だったからカエルの子はカエルちゅうことか・・・」

えっ。この桃色の卵の中にはののとうちの子がいるんかいな・・・
大変なことになったな・・・
ののに何て言おうか。
10 名前:31 子供はキスは禁止です。 投稿日:2003年11月09日(日)22時05分23秒
第78星雲 98番太陽系 3番惑星についての報告
      宇宙開拓省 資源開拓局 生物課 小川麻琴

(前略)この星の高等知性生物(以下、ののたん星人と略称)はHomo sapienceに外見上は極めて酷似するが、最大の相違はののたん星人が雌雄同体であることである。しかし、地球上の生物でもある種の魚は雌雄同体であることが知られており、高等生物で雌雄が分化していないという事はさして特異なことではない。

ののたん星人の性的な成熟は14星周期ほどである。(一星周期は地球時間で378日、一日はほぼ24時間である)。

ののたん星人の性行為は、顔の下部にある、地球人では口に相当する部分が交接器となって交接器どうしを接触し合うことで行われる。交接器を接触しあった時に、雄担当の個体の喉の部位に存在する造精器から精子の詰まったカプセルが雌担当の個体の口腔内に放出される。精子カプセルは体内に侵入した後で子宮につながる送精管を通り子宮に達し、酵素の働きによってカプセルが破れて精子が解放される。

ののたん星人は卵胎生であり、精子が子宮内で卵子と受精した場合は2週間ほどの間隔を経て、体外に薄い赤色の卵が排出される。体温(37℃)で保温した場合には3ヶ月ほどで卵が割れて新生児が産まれる(後略)

11 名前:31 子供はキスは禁止です。 投稿日:2003年11月09日(日)22時07分27秒
12 名前:31 子供はキスは禁止です。 投稿日:2003年11月09日(日)22時07分52秒
13 名前:31 子供はキスは禁止です。 投稿日:2003年11月09日(日)22時08分53秒
り。そしてスマソ。

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