インデックス / 過去ログ倉庫
26 S女。
- 1 名前:26 S女。 投稿日:2003年11月08日(土)04時40分30秒
- 26 S女。
- 2 名前:26 S女。 投稿日:2003年11月08日(土)04時43分07秒
材料:段ボールの板…大二枚、小二枚
ガムテープ
ビニール紐
作り方:まず、自分の身長と同じくらいの長さ、体の幅より広めの幅の段ボール板を
二枚、用意する。次に二つの板で、自分が入ることの出来るくらいの隙間を作り
その状態のままビニール紐で固定する。その後、隙間に作成者が入る。両肩の上
に小さい段ボールの板を乗せ、ガムテープで前後の段ボールに固定する。これは
段ボールの下辺が地面に擦れるのを防ぐためである。
- 3 名前:26 S女。 投稿日:2003年11月08日(土)04時43分58秒
私の名前は亀井絵里。人よりちょっとだけ隙間に興味のある、かわいらしい14歳。
先日、暇潰しにパソコンをいじってたら偶然「隙間同好会」っていうホームページを見つけた。検索エンジンで「隙間」「エクスタシー」をキーワードに調べただけなのに、世の中不思議なものだ。
そこの掲示板には、
「箪笥の裏って落ち着くよね」
「この前建物と建物の間の狭い空間に挟まってみました。凄く良かったです」
などの共感すべき意見や、
「今度押しくらまんじゅうオフやります」
などの心温まる交流が載せられていた。
で、そのホームページのコンテンツに「現代の箱男とも言うべき隙間女の作り方」ってあって、興味があったから覗いてみた。それは何と普通に生活しながら隙間に嵌り込む悦楽を継続的に味わえるという、隙間フリーク垂涎ものの情報だったわけだ。
これで明日からはモーニングのみんなの人目を忍んでこそこそと机の下に潜り込んだり、トイレに行ってくると嘘をついて掃除用具入れでまったりする必要がなくなる。私の目の前にぱっと光が挿した。ようこそ、ハッピー隙間ライフ。
さっそく材料を揃え、隙間女になってみた。しかし、私はあることに気付いてしまったのだ。
- 4 名前:26 S女。 投稿日:2003年11月08日(土)04時44分43秒
前が見えない。
どうするんだ、これじゃ街中を歩けないじゃないか。それとも移動する時はカニ歩きをしろとでも言うのだろうか。14のうら若き乙女にカニ歩きを強要するなんて異常だ、このホームページの管理人は変態だ、そう思いかけた私の脳裏に浮かぶ注意書き。
「視界を確保するため、段ボールには二つの穴をあけておくこと」
そうだった、隙間女になりたい一心ですっかりそのことを忘れていた。何だ、ちゃんと視界についても配慮してるではないか、このホームページの管理人は相当名の知れた英国紳士に違いない、そう思いかけた私の脳裏に浮かぶ大前提。
そうだ、私は隙間女である前にモーニング娘。の一員だったのだ。
一見両立し得るこの二つの事柄。こんなの両立できません、と言った日には隙間男と八百屋のおじさんを両立させている中年男性や隙間女と緑のおばさんを両立させている中年女性に申し訳が立たない。そんな人が本当にいるかどうかはわからないけど。でも、今私を悩ませているのはそういう精神的な要因ではない。
それはビジュアル的な問題。
いくら大所帯のモーニング娘。とは言え、その中に一人だけ段ボールに前後を挟まれた娘がいたらすぐにばれてしまう。歌番組でグラサンや歯茎に突っ込まれるのはまだいい。最悪、楽屋でノッポやチビに焼きを入れられるかもしれない。隙間は隙間でも人間関係の隙間に追いやられる可能性すらある。
おいおい、えりりん最大のピンチじゃん! そんなことがきっかけでグループからハブられたら、私は亀井哀に名前を変えなければならない。それだけは避けたいもんだぜらっしゃい、と思わず八百八のオヤジの真似をしてみたその時だった。
- 5 名前:26 S女。 投稿日:2003年11月08日(土)04時45分19秒
何でこんな簡単なことに気付かなかったのか。
要するにばれなければいいのだ。全ての材料が透明ならば、誰にも気付かれることはない。それはコナン君の関わる事件に毎回安直なピアノ線トリックが用いられていることからも明らかだ。
そうと決まったら材料集め。段ボール板の代わりに透明アクリル板を、ビニール紐の代わりにピアノ線を使うことにした。ガムテープの代用品は透明ビニールテープで充分だろう。
私は早速豆に電話して、ドン・キホーテへ買い出しに行かせた。こんなか弱い14歳が夜中にドキュンどもの溜まり場に赴くことなど到底不可能だ。お願いしますよ、塾長だけが頼りなんですとおだててやったら豆の野郎、喜んでパシられるではないか。「今度新垣塾の企画でもゆっくり考えようか」なんて帰り際に言っていたが、次回は魁・亀井塾にタイトル変更されることは黙っておいた。
材料も揃ったことだしと思ってドンキの袋を開けてみると、肝心のピアノ線がなかった。あんにゃろ、だからオメーのいたユニットは開店休業状態になっちまったんだよ、と毒を吐きそうになるのを堪えて次の入手先を冷静に考えた。そうだ、いつも歌のレッスンで偉そうにしているあのオカマ愛用のピアノから二、三本くすねてやろう。奪った現場に「ののたん参上れすよ、てへてへ」と書いた置き手紙でも残せばまず怪しまれることはないだろう。
業界初であろう「透明隙間女」の誕生を夢見つつ、その日は眠りについた。
- 6 名前:26 S女。 投稿日:2003年11月08日(土)04時45分58秒
いよいよその日がやって来た。
材料を揃えて隙間女になった私は、何食わぬ顔をしてダンスレッスンのスタジオに颯爽と現れた。
「あ、亀井ちゃんおはよう」
「おはようございます、加護さん」
何も知らずにズゴックが声をかけてくる。朝から笑顔を振り撒くこのプリティーエンジェルが実は透明アクリル板に挟まれているなんて、目の前の脂肪の固まりにはわかるまい。
そんな私の視界の遥か遠くでは声楽オカマが泣き叫び、八重歯チビがノッポにしばかれていた。
「ガガガ…ノンチャン! バシ、バシ!」
「ピアノを愛さない奴はモーニング娘に必要ない! 踏んづけてやる!」
「ひーん、ののは何もしてねーのれす…」
何か悪戯でもしたのだろうか。まったく困った先輩だ。
- 7 名前:26 S女。 投稿日:2003年11月08日(土)04時46分52秒
- そしてダンスレッスンが始まった。
アクリル板サンドイッチ状態にも関わらず、私のダンスは他のメンバーよりも眩い光を放ちはじめていた。常に何かに挟まれているという状態がベストコンディションを与えているのだ。いつもは滅多に褒め言葉など口にしない女装した大沢たかおまでもが「亀井、今日は調子いいじゃん」などと手放しで絶賛していた。ステップを踏むたびに隣で踊っていた黒ヤギをなぎ倒してしまったが、あまり気にならなかった。
レッスンが小休止に入ると、金髪チビが嬉しそうな顔をして無言で握手してきた。おいら亀井のこと見直したよとでも言いたげな大袈裟な笑顔だ。日頃は影で「あのクッキングパパがよお」なんて影口叩いていたのに、えらい豹変ぶりである。
まあそんなこんなで、私は隙間女になることで大いなる愉悦と爽快感を手に入れることができた。人生は薔薇色、スカッと爽やか、そんな気分が今の私を満たしていた。
だから、まったく気付かなかったのだ。背後から私を妬ましそうに見つめる、二つの鋭い光に。
- 8 名前:26 S女。 投稿日:2003年11月08日(土)04時47分32秒
次の日のことだ。
私は「それ行け!ゴロツキーズ」の収録のために都内のスタジオにやって来ていた。それにしてもゴロツキとは失礼な。本物のゴロツキは滝川の軽ヤンと博多のロンパリだけで、私などはか弱い子ウサギなのだ。
そんなことはどうでもよく、今日も挟まれ具合が絶妙、などとウキウキウォッチング気分で控え室に入るとトンコツ臭い娘が近寄って来た。
「絵里…これ」
「え、何…?」
手渡されたもの、それは一通の手紙だった。
偽隙間女へ。
大道具倉庫にて、待つ。
手紙には、たったそれだけしか書いていなかった。が、私の闘争心に火をつけるには充分な喧嘩文句だった。
「何かこれ、気持ち悪かとね…ってちょっと、絵里!」
私は無我夢中で、大道具倉庫へと駆け出していた。通路が狭いためか何人もの平民たちをなぎ倒してしまったが、栄光には常に犠牲が必要なのだ。築いた屍の数だけ強くなれるよアスファルトに咲く花のように、なのだ。
大道具倉庫の扉を、勢いよく蹴破る。今の私は人間の潜在能力の90%を引き出すことが出来る。最早隙間女の私に怖いものなど、何もないはずだった。
しかし倉庫の中には、誰もいなかった。部屋の真ん中には、モノリスのような物体が立っているだけ。しかしそのモノリスが突然、喋り始めた。
「待ってたよ…絵里…」
「その声は…さゆ!?」
声の主は明らかに、六期メンバー・道重さゆみのものだった。
それにしてもどうしてさゆが隙間女に、そう思った私の脳裏に忘れていた事実が呼び起こされる。
隙間女になる際の注意:隙間女は、隙間女を呼び寄せます。
- 9 名前:26 S女。 投稿日:2003年11月08日(土)04時48分33秒
隙間女の作り方の最後に書いてあった、注意書き。まさか、私のあまりに美しい隙間女ぶりにさゆが触発されたとでも言うのか。
「さゆ、もしかしてさゆも…」
話しかけようとする私の声を、さゆが遮った。
「…許さない」
「えっ?」
「私よりかわいいだなんて…許さない」
板によって表情を窺い知ることはできないが、明らかに彼女は怒髪天を突く状態だった。
「な、何で…確かに挟まれてる私はかわいいけど…」
「それが許せないのっ!」
倉庫中に響くような大声で叫ぶさゆ。私がもしベジータだったら、耳の横のスカウターがぼんっと音を立てて壊れていたことだろう。そして感情を直にぶつけられたせいで、ついつい私も感情的になってしまう。
「絵里のほうがかわいいもん!」
「さゆのほうがかわいい!」
「絵里の方が絶対にかわいい! ほら、こんなに挟まれてるんだもん!」
そう言いつつ、隙間を調節するピアノ線を限界まで引き絞る。アクリルと肉体はぎりぎりと音を立てる程密着し、その圧迫感が私に極限のエクスタシーを与える。見た目が押し潰されたカエルのようになっているかもしれないが、そんなことはどうでもよかった。これは、魂と魂のぶつかり合いなのだ!
- 10 名前:26 S女。 投稿日:2003年11月08日(土)04時49分20秒
- 「絵里のなんて、ただのアクリル板じゃん。さゆのは…これだもん!」
そう言ってさゆは横を向く。そこには信じられない光景があった。
何と、さゆの体を挟んでいる板の両内側が鏡になっていたのだ。
「ああ…挟まれてるさゆがいっぱい…かわいい」
合わせ鏡の原理によって、前後の鏡に映るのは無数の挟まれたさゆ。
「こ、この変態! 本来隙間女は圧迫される感触のみを楽しむのがルール、さゆのは反則だよ、しかも変態だよっ!」
私は恍惚の表情を浮かべるさゆに、ありったけの罵言を浴びせる。そうだ、正当な方法によって隙間に挟まっている私こそが、かわいいのだ!
「かわいいのは絵里!」
「さゆのほうが全然かわいいもん!」
「絵里!」
「さゆ!」
「絵里!」
「さゆ!」
- 11 名前:26 S女。 投稿日:2003年11月08日(土)04時49分53秒
- 「もう、絵里のわからず屋!」
しびれを切らせたさゆが、私目がけて突っ込んで来た。そして予想通り、視界が全く失われているために物に躓いてずっこけそうになった。これは相手が鏡に挟まれているという事実を知った時から予想できたこと。あとは私が身一つかわせば、必然的に相手は自滅する。変態さゆめ、隙間道を冒涜した罰を受けるがいい。
ドミノ倒しのようにゆっくり倒れてくるさゆを、軽やかなステップで避けようとした私。
だが、最後の最後で思わぬアクシデントが起きた。
アクリル板が周りの大道具に引っ掛かってしまい、身動きが取れなくなってしまったのだ。
「ちょっとさゆ、待って…」
そんなことを言っても今にも倒れ込もうとしている相手が止まるはずもなく、無残にも鈍い破壊音とともに私はアクリル板やら鏡やらさゆやらの下敷きになってしまった。さらに追い討ちをかけるように、周りに組まれていた大道具のセットが崩壊、ばらばらと私たちの上に崩れ落ちてきた。
文字通りぺしゃんこになりながらも、私はかつてない幸せに包まれていた。こんな圧迫感は…そうそう…味わ…えるも…のでは…な…い…
- 12 名前:26 S女。 投稿日:2003年11月08日(土)04時51分00秒
「はい、圭ちゃん。約束の1000円」
「サンキューなっち、もうけもうけ」
「でもさあ、本当に隙間女になるなんてカオリも想像つかなかった…はい1000円」
「そりゃああたしだって半信半疑だったさ。まさかこんなホームページでころっと騙されちゃうなんてさ」
「それにしても昨日のシゲさんの亀井を見る目つき、怖かったわあ。なっちの見たてだとあの子も隙間女になるね」
「まっさかあ。あの子は変態の方向性が違うっしょ?」
「まあ、あたしらからしたらどっちも変態だけどね」
「それにしても圭ちゃんさあ、妙にホームページにリアリティーがあるよねえ。ひょっとして圭ちゃんも隙間フェチ?」
「ちょっとやめてよ、そんなわけないでしょ! 確かにうちの家は構造上隙間が多い作りになってるけど、別に最初からそうだったし…何て目で見てんのよカオリ、だからあたしは隙間なんて嫌いなんだって…」
- 13 名前:26 S女。 投稿日:2003年11月08日(土)04時51分34秒
- 壁
- 14 名前:26 S女。 投稿日:2003年11月08日(土)04時51分55秒
- 壁 壁
- 15 名前:26 S女。 投稿日:2003年11月08日(土)04時54分31秒
- 壁`.∀´壁
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