インデックス / 過去ログ倉庫
24 切
- 1 名前:24 切 投稿日:2003年11月08日(土)01時39分33秒
- 24 切
- 2 名前:24 切 投稿日:2003年11月08日(土)01時41分12秒
- 「何でも切れるハサミ?」
小川が首をかしげると、紺野は大きく頷いた。
仰々しく取り出されたそれは、少し大振りなだけで何の変哲もないハサミに見えた。
銀色の刃は蛍光灯を反射して、神妙な面持ちの紺野の顔に妖しげな光の筋を作る。
「何でも、って―――何でも?」
紺野は「イエス」と返し、テーブルの上にハサミを置くと一枚の紙を小川に差し出した。
どうやら説明書らしい。
刃が汚れたら掃除しろだの、子供の手の届かないところに置けだの、
お決まりの注意書きの一番下に、太字で『本当に何でも切れます。ご使用の際には
十分注意してください。ただし、ご利用限度は3回です』と書かれており、
ご丁寧に赤で下線まで引かれている。
怪しさ満点だったが、小川はそれ以上に素直だった。
「おおぉ」と感嘆の声を漏らすと、興味津々にハサミを眺め回す。
- 3 名前:24 切 投稿日:2003年11月08日(土)01時42分00秒
- 「何でも切れるってことは、こんなのも切れちゃうってことだよね」
小川がこぶしでコンコンとテーブルを叩くと、紺野は「当然」と鼻息を荒くした。
「テーブルどころか鉄板だって、ダイヤモンドだって余裕だよ」
その言葉に小川が目を丸くして、再度ため息を楽屋に響かせる。
それを遮るように紺野がもっともらしく口を開いた。
「せっかくなんだから、有効に使わないと」
- 4 名前:24 切 投稿日:2003年11月08日(土)01時42分22秒
- しばらくの間、2人でウンウン唸って考えてはみたものの、なかなか良い考えは浮かばない。
ああだこうだと言い合っていい加減考えるのにも疲れた頃、ふと紺野が声を上げた。
「あっ、もう行かなきゃ」
慌てて立ち上がった視線の先には壁掛け時計。
収録の時間が間近に迫っていた。中澤を待たせると、とんでもないことになる。
「ゆっくり考えようよ。期限はないみたいだし」
そう促されて、小川も席を立つ。
紺野について楽屋を出ようとしたところで踵を返し、
「持って行ったほうがいいよね」とテーブルの上のハサミを握り締めた。
そして部屋の電気を消そうと小川がスイッチに手を伸ばした瞬間。
- 5 名前:24 切 投稿日:2003年11月08日(土)01時42分45秒
- パチン。
触れてもいないのにスイッチが反転し、部屋が真っ暗になる。
驚いた小川が不思議そうにスイッチを見つめていると、
しばらく黙って考え込んでいた紺野が大きく目を見開いた。
「ああっ!」
その声に小川がビクッと肩をすくめる。
「蛍光灯のスイッチが『切れた』」
紺野の言葉をしばらく反芻していた小川だったが、
理解したのか「うわあ」とうめいてハサミを放り投げた。
「そ、そういうのもアリなんだ」
派手な音を立てて床に落ちたハサミを遠巻きに見つめる。
結局「持っているとうっかり使ってしまいそうだ」という紺野の意見により、
2人の収録が終わるまでハサミは楽屋の隅に隠されることになった。
- 6 名前:24 切 投稿日:2003年11月08日(土)01時43分12秒
- ◇
「『電話を切る』『しらを切る』『思いを断ち切る』…『息が切れる』ってのもそうだよね」
ブツブツ言いながら指折り数え廊下を進む紺野。
その後ろでは、小川がスタッフに借りた辞書を必死にめくっている。
収録の長引いた2人がスタジオを出ると、もう他の娘。達も到着しているらしく、
賑々しい雰囲気が2人の足を自然と急がせる。
その時。
「うるさい! もう絶交や!」
興奮した加護の声が廊下まで聞こえてきた。
喧嘩でもしているのか、何やら言い合う声が筒抜けだ。
ふと立ち止まった紺野の顔がみるみる青くなり、辞書をめくる小川の手が止まる。
「縁を切る!」綺麗にハモる。
顔を見合わせた紺野と小川は慌てて楽屋へ駈け戻った。
- 7 名前:24 切 投稿日:2003年11月08日(土)01時43分47秒
- 「うわあっ!」という叫び声の数秒後、2人が飛び込んだ楽屋には
床にへたり込んだ吉澤の後ろ姿があった。
「吉澤さん!」
恐る恐る覗き込んだ2人が見たものは、あのハサミ片手に言い訳する吉澤と
その足元に転がる真っ二つの携帯電話。
「違うんだよ。ちょっと削ろうとしたらサクッ、て!」
眩暈。
紺野はまだ混乱する吉澤からハサミを取り上げると
そのままへなへなと崩れ落ち、小川はがっくり肩を落として苦笑いをした。
騒ぎに驚いたのか、向かいの部屋からは涙目の辻と加護が顔を覗かせていた。
- 8 名前:24 切 投稿日:2003年11月08日(土)01時44分10秒
- ―――それは突然だった。。
いつまでもうなだれている紺野に小川が声をかけようとした途端、
紺野が吉澤の胸倉に掴みかかったのだ。
「どうしてくれるんですかっ。人のハサミ勝手に使って! しかも、携帯って!
はあ? バカじゃないですか!? 弁償してくださいよ! 弁償! 弁償!」
- 9 名前:24 切 投稿日:2003年11月08日(土)01時44分32秒
- あまりの勢いに小川はぺたんと尻もちをついた。
当の吉澤は頭を前後にグラグラ揺さぶられながら、
紺野の迫力に押され、わけがわからないまま「ごめん、ごめん」と繰り返す。
あの温和な紺野が声を荒げる様は初めて見る光景だった。
ましてや、こんなふうに我を忘れて掴みかかるなど。
ハサミがそんなに大事だったのかと呆然とその姿を眺めていた小川だったが、
不意に「ああ、なるほど」と、ポンと手を打つと、
とりあえず、手近な椅子を頭上に抱えあげる紺野を後ろから羽交い絞めにした。
- 10 名前:24 切 投稿日:2003年11月08日(土)01時44分54秒
- どうにか紺野を吉澤から引っぺがし、目を白黒させる吉澤を避難させると、
小川はようやく息をついた。
そんな小川を尻目に、床に力なく倒れこんだ紺野はハサミを見つめて、
「あと1回だけかあ…」と、ため息混じりにぼやく。
「残念だけどさ、たぶんそれ、もうおしまいだと思うよ」
幾分落ち着いたマジ切れ紺野を見下ろしながら、小川はそう呟いた。
- 11 名前:24 切 投稿日:2003年11月08日(土)01時45分08秒
- 幕
- 12 名前:24 切 投稿日:2003年11月08日(土)01時45分25秒
- 切
- 13 名前:24 切 投稿日:2003年11月08日(土)01時45分37秒
- れ
Converted by dat2html.pl 1.0