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22 お守りの中身を見ると?
- 1 名前:22 お守りの中身を見ると? 投稿日:2003年11月07日(金)21時52分04秒
- 22 お守りの中身を見ると?
- 2 名前:22 お守りの中身を見ると? 投稿日:2003年11月07日(金)21時52分38秒
「ねぇねぇ、お守りの中身ってさ。何が入ってるか知ってる?」
- 3 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)21時53分26秒
私がボーッとしていると、ののちゃんが何の前触れも無くいきなり現れて、
ニコニコとしたいつもの笑顔で、そんなことを訊いてきた。
知らないよ、そんなこと。ていうか、どうでもいい。
「あぁ、知ってる知ってる。」
私はめんどくさいなぁ、と思いつつも、笑顔で適当な返事をした。
今はまだ我慢だぞ、私。娘。に溶け込みきれるまでは、素の私を出しちゃダメなんだ。
そうすると、ののちゃんはピクッと一瞬表情を固くして更に訊いてきた。
「何が入ってるの?」
そう訊かれて、初めて、お守りの中身には何が入ってただろうか考えた。
そんなこと訊いて何になるっていうんだか、さっぱり分からないけど、
今は仕方無い、我慢だ。今は、ののちゃんに愛想良く返事をしなければ。
でも、知ってる、とは答えたものの、お守りなんか開けたことあったっけなぁ。
- 4 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)21時54分10秒
ふと、私の頭の奥底の方で『お守り』という言葉が引っかかった。
私は、うんとこどっこいしょと頭の奥底の方から、記憶を引っ張り引っ張り、
遠い昔、興味本位でお守りを開けた事があるのを思い出した。
確かそれは、小学校に入学した日に、おばあちゃんから貰った交通安全のお守りだった。
「開けて中を見ちゃダメだよ。バチが当たるからね。」と言われた私は、
なんだかワクワクして、貰ったその日に、こっそりと中身を見たんだった。
だけど、私のその変な期待とは裏腹に、中に入っていたのは、ただの白い綿と、
交通安全御守と書いてある小さくてしょぼくれた紙切れだけで、
なんだかひどくがっかりしたのを、昔のことながら、覚えている。
でも、それだけだったかな?何か、忘れてる気がする。
- 5 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)21時54分59秒
私がそのあやふやな部分を、記憶からまた、引っ張り出そうとすると、
ののちゃんが腕をつついて来て、その作業を中断させられる。
うるさいなぁ。急かさないでよ。そんなんだからいつまでたっても子供なんだよ。
心の中でそう毒づきながら、私はまた笑顔をこしらえて言った。
「あぁ。えーっとねぇ。なんちゃら御守とか書いてある紙が入ってるよね。」
「へぇへぇへぇ、3へぇです。」
ののちゃんは某番組のように、机を3回叩いてそう言うと、
エヘヘッとかわいくいたずらっぽい笑みを浮かべて、私の反応なんか見ずに、
漫画のようなドタバタという足音を立てて、どこかへ行ってしまった。
今がHEY!HEY!HEY!の待ち時間だから、それと掛けていたのだろうか?
そりゃ、今さっきのののちゃんはかわいいけど、なんだかどうにも釈然としない。
実際、私はののちゃんに小馬鹿にされてるんじゃないのか、そんな風に思った。
- 6 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)21時55分49秒
するとまた、ドタバタと足音を立ててののちゃんが私の目の前に現れた。
そして、なんだか良く分からないものを差し出した。
ののちゃんは心なしか、少し息が切れているようだった。
「美貴ちゃん美貴ちゃん。はい、これ。」
はいこれ。と言われても……。
フィルムケースをビニールテープでぐるぐる巻きにしたようなそれは、
さっきまでのののちゃんの行動とあわせ技で、とてもとてもアヤシイ物に思われ、
思わず受け取るのを躊躇した。
「何それ?」
少し地が出てしまったかもしれない。それぐらい冷たい口調で返してしまった。
ののちゃんは一瞬だけ、ちょっと困ったような、泣きそうな顔をした。
ちょとだけ、しまったと思った。今泣かれたら、非常に困ってしまう。
- 7 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)21時56分30秒
「お守り。開けたらバチがあたるよぉ?だから開けちゃダメ!大事に持っててね。」
だけど、ののちゃんは私の冷たい口調なんか無かったかのように、
元気いっぱい、かわいらしくそう言うと、ほとんど無理矢理、
その『お守り』を私の手に握らせた。
そしてまたまた、ドタバタとどこかへ行ってしまった。
やってることの意味は良く分からないけれど、ののちゃんの一生懸命なところが、
私には、なんだかとてもかわいらしく思えた。そして私は、一人でそのお守りを眺め、
思わずクスクスと笑ってしまった。
かわいいな、ほんと、ののちゃんは。
ただ単純に、そうして笑えたのは、久し振りだった。
- 8 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)21時57分01秒
◇
- 9 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)21時58分22秒
HEY!HEY!HEY!の収録は滞りなく、ものすごく快調に進み、
私は一度のポカを出すこともなく終わりを迎えた。
ここ最近で、一番充実して出来たと、感じられる仕事だった。
モーニング娘。として、何か新しい自分を掴めそうな、そんな手ごたえも感じられた。
私は家に向かうタクシーの中で、これもののちゃんと、この『お守り』のお陰かな、
とか思いながら、そのアヤシゲな『お守り』を窓にかざして、それを見つめた。
見つめていると、それが本当にフィルケースを、
ビニールテープでぐるぐるに巻いてあるのだと分かり、また微笑みがこぼれた。
子供っぽいこうした手作り工作の感じが、ののちゃんらしくて、ほんとにかわいらしく思えた。
ふいに、私の乗ってるタクシーの、対向車線からのライトが私の目をチカリと刺激した。
アブねーな、ライトは下向けろっての。そう思いながらも、まだ『お守り』を見つめていると、
フィルムケースのフタに当たる部分に何か書かれていることに気が付いた。
暗くてよく見えないので、携帯を開いて、液晶の光をライト代わりにして目をこらした。
そこには、特徴のある字で小さく、こう書かれていた。
- 10 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)21時58分50秒
『開けちゃダメ!バチがあたるよ!』
- 11 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)21時59分14秒
私はまた、クスクスという笑いを押し殺すことが出来なくて、
運転手さんを気にしながら、声を出来るだけ押さえて笑った。
もう、ののちゃん、かわいすぎ。
そう思いながら、私はほとんど無意識に、ぐるぐるに巻かれているビニールテープを
剥がしにかかっていた。剥がすには、手に持っている携帯が邪魔なことに気付いて、
ポケットに収めようとして折りたたむと、丁度よく携帯が鳴った。
着信を見るとののちゃんからだった。
- 12 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)22時00分00秒
「もしもし?美貴ちゃん?」
ちょっと鼻声の聴きなれた声のかわいらしさに、私はやっぱり顔がほころんだ。
「何?のんちゃん?」
私は携帯を肩と顎とで挟み、両手を『お守り』のビニールテープを剥がすのに使った。
少し辛い体制だったけれど、私の両手はやっぱり無意識にテープを剥がしていた。
「いやー、美貴ちゃんがお守りの中身見てないか、不安になってねー。電話掛けちゃった。」
テープはだいぶ厳重に巻かれているようで、なかなか剥がし終わらなかった。
「ハハハ、大丈夫大丈夫、見てないから。」
今から見るけどね。と心の中でいやらしく笑いながら、
テープを完全に剥がし終わったフィルムケースを窓にかざして見つめた。
さっきから、対向車線の車のライトがチカチカとうるさかったけど、
あまり気にはならなかった。
- 13 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)22時00分27秒
「ほんと?なんか美貴ちゃん、信用ならないからなー。」
「何よそれー。」
ののちゃんは当たってる。私は信用ならない女だ。ダメと言われたことは、
何かどうしてもやらなければ申し訳ないような、そんな気がしてしまうのだ。
私は携帯に向けてハハハと笑いながら、フィルムケースのフタを開けた。
中には、昔見たお守りの中身のような白い綿と、しょぼくれた紙切れが入っていた。
そして、それにはこう書いてあった。
- 14 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)22時00分55秒
『これからもずっと、みんな仲良くモーニング娘。でいられますように御守』
- 15 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)22時01分17秒
私は携帯に声が入らないように静かに笑った。
かわいすぎるよ。ののちゃん。お姉さん、あんたのこと本気で好きになっちゃうよ。
「ねー、美貴ちゃん。昔、お守り開いた後、何か無かった?」
「何?いきなり?まだ私のこと疑ってるの?大丈夫だって。」
「お守りってね。本当に、効果あるんだよ?」
「ねぇ、だから、何言ってるの?」
そう言った後、急に、昔お守りを開いた時のこと、
何か忘れていると思っていたことを思い出した。
- 16 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)22時01分44秒
私はあの後、交通事故に逢ったんだ。
- 17 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)22時02分08秒
私は慌てて、携帯を耳に押し当てたまま窓の外を見た。
やたら対向車線の車のライトがチカチカするのは、
パッシングだということに気がついた時には、もう遅かった。
「お守りの中身を見ちゃったら、本当にバチが当たるんだって。」
最期に私の耳に入ったののちゃんの言葉は、素の私の声よりよっぽど冷たく聴こえた。
- 18 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)22時02分34秒
−了−
- 19 名前:22 お守りの中身を見ると? 投稿日:2003年11月07日(金)22時03分21秒
- ( ´D`)
- 20 名前:22 投稿日:2003年11月07日(金)22時03分35秒
- ( ´D`)
- 21 名前:22 お守りの中身を見ると? 投稿日:2003年11月07日(金)22時04分19秒
- ( ´D`)ノシ バイバイ
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