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21 愛の特効薬
- 1 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時47分31秒
- 21 愛の特効薬
- 2 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時48分23秒
- 「さゆみのバカー!!」
そう叫んでれいなはどこかへ走って行ってしまった。
痛い。左頬がジンジンする。
鏡を見ると片方の頬だけ真っ赤になっていた。別に照れてるわけじゃない。叩かれ
たんだ。
この痛みからして…本気で殴りやがったな、れいなの奴。私の可愛い顔が台無しじ
ゃない。殴るんだったらボディーブローにしてよ。
まあ、どうやら私が悪いみたいだし…仕方ない。それに真っ赤になった私の顔も…
可愛い。
あ、ついでに言うと私はバカじゃない。
- 3 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時49分13秒
- 「んで、どうしたって?」
「だから〜喧嘩した人と仲直りする方法教えてって言ってんの!」
次の日、私は男の部屋にいた。
っていうか、私の兄の部屋。
それなりに顔が良くて、それなりに異性にもてて、それなりに趣味が良くて、それ
なりにギターがひけて、それなりに妹思いで、それなりに髪が茶色い、でも、頭だ
けは飛び抜けて良い、私の別に尊敬してない兄。
「つまりだ?さゆみはあの田中れいなちゃんと喧嘩をして、仲直りしたいと思って
いるが、方法がわからない。だから俺の所にその方法を聞きに来た。ってわけだな?」
私はオーバー気味に大きく首を縦に振った。
- 4 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時49分57秒
- 「………自分で考えろよ」
「考えてもわかんないからここに来たんでしょ!何か教えてよ!」
「何かっていわれてもなあ……」
肝心なときに頼りにならない兄だ。こんなんだから、ナルシス兄貴なんて言われる
んだよ。ほんと、ナルシスト最低。
ん?私?ナルシストじゃないよ?だって本当に可愛いもん。
「あ、そうだ。さゆみの歌で気持ち伝えりゃ良いんじゃないか?さゆみ歌かなりう
まいだろ?本当は」
…ほう。ナルシスでもなかなかいい意見を出すじゃあないか。
あのオカマプロデューサーに、私がモーニング娘。に入る為に叩きつけられた条件
があった。
『歌をわざと下手に歌うこと』
なんか、私の歌をどんどん上達させて、自分の所のスタッフの優秀さを見せつける
ためのドラマらしいけど、そんなの知らない。
所詮オカマの考えることだ。ただ単に自分の趣味なのかもしれない。
- 5 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時50分27秒
- 「でも、それ以前に、近づいたら逃げて行っちゃうんだもん……。確かに歌で伝え
るのは良いと思うけど…」
何故か、私に甘いナル兄だ。こんな感じで言っておけば、もっといい意見を出すに
違いない。私とれいなの未来がかかってるんだから。
「はあ……じゃあこれ使ってみるか?」
そう言ってナルシスト兄、めんどいから略して『ナニ』は机の中から化粧瓶ほどの
サイズの小瓶を取り出した。
「…?何?それ?」
その瓶の中には、たった一粒だけ、抗生物質のような白い錠剤が入っていた。
この時の何と『ナニ』を引っかけていたなんて口が裂けても言えない。
「こいつはなあ……」
- 6 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時50分57秒
- そして次の日……。
「ねえ、れいなってば!」
「………」
やっぱりダメみたい。完全に無視を決め込まれてる。
いっつも大人っぽく振る舞ってるくせに…こんな時だけは子供なんだから…。
まあ、そんなところも含めてれいなが好きなんだけど。
「やっぱりこれに頼るしかないか…」
私は昨日兄から渡された、半分になった白い錠剤が入った小瓶をポケットから取り
出した。
- 7 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時51分57秒
- 「愛の特効薬?」
私は机に置かれた小瓶の中の錠剤をじっと見つめながら、兄に聞き返した。
「ああ、俺がそう名前をつけた。通称、愛薬だ」
なんてこっぱずしい名前をつけるんだ、このバカでナルシストな兄貴、略して『バ
ナナ』は。今時そんな名前、胡散臭い通販業者でさえ回避してる。
「で、これがなんだって?」
私はその小瓶を通し、バナナのことを蔑んだ感じの目で見ながら、カラカラとその
小瓶を揺らした。
「ああ」
そう答えた天才のはずの兄の顔が何故か異様にバカっぽく見えた。
…………何かいろいろ言ってたみたいだけど、よくわからないから聞き流してた。
わかったのは、この薬が媚薬みたいなものだということだ。
- 8 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時52分32秒
- 「ふ〜ん…」
「お前……信じてないだろ?」
当たり前じゃねえか、このキモロリコン兄貴。略して『キンキ』。
っとかって言いたかったけど、とりあえずこっちは相談を持ちかけている身なわけ
だから、言わなかった。
ああ、ロリコンってのは言葉のあやだから気にしないで。私のキャラとも合わない
し。
そんなことを思っていると、そろそろ略すのも疲れてきた兄が立ち上がり、私の手
から小瓶を奪った。
そして中に入っていた白い錠剤を取り出し、二つに割った。
「ほら、食え」
そう言って兄は、半円になった錠剤を私に差し出した。
「はあ?」
思わず態度が口に出てしまったけど、気にしていないのか、それとも気がつかない
ほど鈍感バカなのか、私の掌にそのままその錠剤が渡された。
「こっち半分は田中れいなちゃんに食べさせろ。それで、OKだ」
- 9 名前:21 投稿日:2003年11月07日(金)19時53分05秒
- あの引きこもりロリコン夢見がち兄貴、略して『ひろゆき』の言うことなんて信じ
られるはずないけど、どうやら状況は最悪っぽい。
どうしてもこの薬に頼るしかなくなった。
スポーツドリンクを七本買った。その中の一つに白い粉末を入れてよく振る。
「砕いてジュースに溶かしておけば…」
後はこれをれいなに飲ませるだけだ。今日はおとめでの仕事で幸いにも楽屋が一緒
だ。
この七本のドリンクを買ってそれぞれの名前を書いておけば、れいなは怪しむ事な
く自分の名前が書いてあるドリンクを飲むだろう。愛薬だかが入ったドリンクを。
我ながら完璧な作戦だ。
とりあえず誰もいない間に準備準備…。
- 10 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時53分47秒
- 「あれ?重さん何してんの?」
身体がビクゥ!と跳ね上がった。
「つ、つじさん…!」
私の尊敬する先輩の一人、辻さんにお声をかけていただけたというのに、驚いてし
まうなんて私は最低だ。
「あれ?ジュース?何それ?」
辻さんは私が抱えていたスポーツドリンクの山を指さした。
「あ、これは…スタッフの方からの差し入れだそうです!」
ああ…嘘をついてしまった……。神様ごめんなさい…。てか、それもこれも、こん
な面倒くさい薬を渡した兄のせいだ。あのバカ兄貴め…。
「へぇ、じゃあのんも貰っていいの?」
「あ、はい。どうぞ」
「ありがと〜♪」
- 11 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時54分25秒
- そう言って辻さんは私の腕からドリンクを一本取った。そのドリンクには『田中れ
いな』と…
「わあ!!つ、辻さん!こっちです!辻さんのはこっちです!!」
「え?なんで?いいじゃん、みんな同じでしょ?」
確かに商品名は同じです。でも成分が…
「え、えっと…よくわかんないけどこっちらしいんです!」
私の方が何言ってるかよくわかんない。
「ふ〜ん…まあ、どっちでもいいけど。じゃあこっちならいいのね?」
「は、はい!」
ああ…一瞬でも「辻さんとラブラブになるんでもいいかも」とか考えた自分が情け
ない…。私はれいな一筋だよ…。
それもこれもあのバカ兄貴の…。
- 12 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時54分55秒
- 「んでね?その時かおりんが〜」
れいながなかなか来ない。だから、さっきから辻さんの話に付き合ってる。あ、い
や、この表現はおかしいか。辻さんの話は楽しいから。
でも、今日の目的はれいなだから…
「おっはよ〜♪」
あ…飯田さん、石川さん。…と、れいな。うわ〜視線が痛いよ…。
「あ、みんなおっは〜♪」
「あ〜…のど乾いた…のん、なんかない?」
石川さんグッタイミング!
「あ、スタッフさんの差し入れってのがあるよ?飲む?かおりんも、田中ちゃんも」
辻さんナイスプレー!
「あ、はい。ども」
そして、愛薬入りドリンクがれいなの手にわたった。
- 13 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時55分19秒
- 飲め、飲め飲め!飲め〜…よし!
れいながドリンクに口を付けた。そして、のどが乾いていたのか、半分ほどを一気
に飲み干した。
後は…
「れいなっ!ちょっと来てっ!」
「えっ?」
私はれいなの手を引き楽屋を飛び出した。
「道重〜!収録まで後少ししかないからな〜!」
「…作戦成功かな?」
女子トイレ。なるべく人目につかないところを探したら、ここしかなかった。
あとは愛の言葉の一つでもかけてやればいい、らしい。兄が言うには。
「あのね、れいな?…れいな?」
「さゆ…昨日はごめん…殴っちゃって…」
「へ?」
あれ?もう薬効いてるの?それとも…薬なんか必要なかった?
- 14 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時56分52秒
- 「あいつはきっかけ掴むのが苦手だらな。俺は、そのきっかけを作ってやっただけだ。
ただのラムネでな。後はさゆみ、おまえがうまくやれよ?」
***
バカ兄貴。
多分今、かっこつけてそんなことを言っているんだろう。普通にむかつく。
めんどくさいことするなっての…
まあ、今回はそのバカ具合に感謝かな?
「私もごめんね?ちゃんと説明書読めばよかったんだよね?」
「そんなことないよ…さゆのせいじゃない…」
- 15 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時57分31秒
- 「染髪スプレー?」
「うん。飯田さんから貰ったの。何か、髪染める奴なんだって。そんで洗えば全部
落ちるみたい」
「へえ〜おもしろそう!ねえ、さゆみ!やって」
「うん、でも…出ないんだよね…詰まってるのかな…」
「貸して。開けて中見てみようか」
「あ!ダメッ!」
キュルキュル…スポッ、プシュウウウウウ!!
「きゃあっ!」
「さ、さゆ!大丈夫!?」
「ああ!服が!れいな!なにするのよ!!」
「ご、ごめん…」
「これ開けちゃいけないって書いてあるじゃん!使用上の注意も読めないの!?」
「…そんなに言わなくっても…」
「べとべとだよ…!ほんとれいなのバカ!」
バシッ!
「いたっ!な、なにするの!?」
「…さゆみの…」
さゆみのバカー!!
- 16 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時58分22秒
- 「あっ!昨日の服弁償するよ!」
「え?いいよいいよ、別にそんなにお気に入りでもなかったし」
「だめだめ!そうしないと私の気が収まらないから。仕事終わったら一緒に買いに行こう?
ね?」
「う、うん。ありがとうね、れいな」
「へへへ…」
「…………仲直りしたみたいだね?かおりん?」
「ふう……田中の説得きつかったよ……あいつ強情だから」
「重さんも変な味のジュース、田中ちゃんに、飲ませようとしてたし……すり替えて
置いたけど、何入れたんだろこれ?」
「さあ?単なるいたずら心でしょ?どっちもまだ子供だからね」
「わっ!かおりん、おとな〜♪」
「私のスプレーでの喧嘩だからね……責任は取らないとね」
「そうだ!このスプレー開けるとどうなるの?」
「あっ!?ダメ!のん!」
プシュウウウウウ!!
「へ?」
「………のん?」
「あはははは……大人だもんね?許してくれるよね?」
「………………………………」
「ごめんなさい〜!!」
「のん!!あんたあああああ!!!!」
- 17 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時59分23秒
- 完
- 18 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)19時59分32秒
- 了
- 19 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)20時00分24秒
- 从;´D`)ノシ
- 20 名前:21 愛の特効薬 投稿日:2003年11月07日(金)20時00分33秒
- 从;´D`)ノシ
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