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18 魔法のカボチャ

1 名前:18 魔法のカボチャ 投稿日:2003年11月06日(木)02時20分26秒
――疲れた。
仕事に行くのも、仕事から帰ってくるのも、
着替えるのも、ご飯を食べるのも、息をするのも。
生きることに疲れた。
小川麻琴、16歳。
3人で編成されてる『プッチモーニン』のメンバーの1人。
オーディションに合格したときは嬉しかった。
でも、最近人気が落ちてきてる。CDだって売れ行きが怪しい。
こんなことなら、普通に女子高生やって遊んでたほうが
よかったかもしれない。

「ハァ…」

マンションの入り口に着いたときだった。
2 名前:18 魔法のカボチャ 投稿日:2003年11月06日(木)02時20分55秒
「ねぇ、笑って?」
「へ?」

女の人が立っていた。
髪が長くて、目が大きくて、背が高い。
黒いスーツを身にまとってる。
すごい美人。

「そんな顔、年頃の女の子がする顔じゃないよ」
「はぁ…?」

女の人はポケットから小ビンを取り出した。
その中には黒い種が入ってる。

「これは『魔法のカボチャ』の種」
「魔法のカボチャ?」
「そう。これを植えたら、次の日にはカボチャが出てくるの。
そしたら、そのカボチャを食べてみて?疲れなんか吹っ飛ぶから」
3 名前:18 魔法のカボチャ 投稿日:2003年11月06日(木)02時21分13秒
「カボチャ…」
「食べてると、これと同じ種が出てくるから、それをまた植えてみて。

また、出てくるから。でもね、毎日食べちゃダメ。体に悪いから。
月1回のペースで食べるんだよ?」

「はぁ…」

すると、女の人は手を振りながら、どこかへ消えてしまった。
魔法のカボチャかぁ…。
そのときは、疲れてたのもあって、あまり深く考えずに
小ビンを持ってマンションの中へ入っていった。

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4 名前:18 魔法のカボチャ 投稿日:2003年11月06日(木)02時21分40秒
次の日の夜。
部屋に入り、ドアを閉める。

「…………」

いつの間にか「ただいま」を言わなくなった。
誰もいない部屋。真っ暗な部屋。
寂しさが漂ってる。
でも、いつもと違うことが起きた。

「あ…」

視界に入ってきたのは、窓際に置いてる植木鉢。
元々植えてる花の隣に、緑色の物体がある。
――カボチャだ。
手の平サイズのカボチャ。
そういえば、昨日帰ってすぐに植えたような記憶がある。
半信半疑だったけど、まさか本当に…。
5 名前:18 魔法のカボチャ 投稿日:2003年11月06日(木)02時22分11秒
「食べれる、って言ってたよね」

どうやって食べよう。
ずっと前、生で食べたけどおいしくなかったし。
やっぱ、煮たりするのがいいのかな。
でも、小さいからそのまんまでも大丈夫かな。
…生でいきますか。
そうと決まったら、早速洗ってかじってみた。

「お、おいしー!」

柔らかくて、甘くて。すっごくおいしい。
ホッペがとろけそう。
…あ、何か体が軽くなったような気がする。
気分もいいし。すごく楽。
夢中になって食べてたら、あっという間になくなってしまった。
大きさが手の平ぐらいだし、当然かぁ。
また食べたくて、出てきた種を植える。
約束のことはスッカリ忘れてた。
6 名前:18 魔法のカボチャ 投稿日:2003年11月06日(木)02時22分26秒
それから、私は毎日カボチャを食べるようになった。
そのおかげで、仕事もつらくないし、むしろ楽しいくらい。
プッチモーニンの人気も、上がってきたみたいだし、
言うことなしっていう感じだった。

「よォ、小川〜」
「あ、吉澤さーん」
「最近さぁ、調子いいじゃん」
「えへへ、そうですか?」
「ついこの前までは暗い顔してたのにさ、今はすっげー
笑ってるよなー。なんかイイことでもあった?」

「ヒミツですよ〜」

そう、ヒミツ。
誰にも言えない。
あのカボチャは私だけの物。
誰にも渡さない。
絶対に。
7 名前:18 魔法のカボチャ 投稿日:2003年11月06日(木)02時22分46秒
最近、誰かが私のカボチャを狙ってるんじゃないかって
不安になる。家に泥棒が入ってとられちゃったら…。
だから、私はずっと家にいるようになった。
仕事はやすんでる。
そうでもしないと、かぼちゃをとられちゃう。
わたしだけのかぼちゃ。
たいせつなたいせうなかぼちゃ。
8 名前:18 魔法のカボチャ 投稿日:2003年11月06日(木)02時23分31秒
小川の様子が変だ。
近頃、ずっと仕事を休んでる。
電話をかけても出ないし…何かあったのかな?
今いるのは、小川が住んでるマンションの部屋の前。
呼び鈴を鳴らす。反応は無かった。
段々、焦ってきた。

(まさか、誘拐?それとも殺人とか…ま、まさかね)
 
ダメもとでドアノブを回してみた。
開いた。カギがかかってない。
もし、もしアタシの予想が当たってたら…。
鳥肌が立った。
9 名前:18 魔法のカボチャ 投稿日:2003年11月06日(木)02時23分43秒
「お、小川ぁぁぁぁぁぁ!」

靴も脱がずに部屋に入る。
カーテンは締め切っていて、部屋は特に以上は無い。

「小川…?」

キッチンのほうから、人の気配がした。
振り返ると、そこには笑顔の小川がいた。
生気のない笑みを浮かべて、植木鉢を抱えている。

「な、なんだよぉ、いるんだったら返事…」

植木鉢を持ってないほうの手が光る。
包丁が握られていた。
10 名前:18 魔法のカボチャ 投稿日:2003年11月06日(木)02時23分59秒
「ヨシザワさんだったんですね、ワタシのカボチャとろうとしたの」
「か、かぼちゃぁ?何言ってんだ、お前?」

小川は歩み寄る。
アタシは後ずさる。

「とぼけたってムダですよ。ゼンブおみとおしですから。フフフ」
「だ、だから何言ってんのかって…」

お腹に激痛が走った。
圧迫されるような痛み。そこが燃えるように熱い。
小川が目の前にいた。
血まみれの包丁を持って。
笑顔。植木鉢が。血。包丁。痛い。
意識はそこで途切れた。

「ダレにもワタさない…ワタシだけのかぼちゃ…」
11 名前:18 魔法のカボチャ 投稿日:2003年11月06日(木)02時24分14秒
「あーあ、月1回のペースって言ったのに」
「約束破るからあんなコトになったんれすよね、いいらさん」
「そうそう。あのカボチャは依存性が強いからねー。
でも、まぁ、魂頂けたから別にいいけどさ」
「へい」
「じゃ、次のお仕事行こっか、のんちゃん」
「へい」
12 名前:18 魔法のカボチャ 投稿日:2003年11月06日(木)02時26分54秒
13 名前:18 魔法のカボチャ 投稿日:2003年11月06日(木)02時27分23秒
14 名前:18 魔法のカボチャ 投稿日:2003年11月06日(木)02時27分31秒

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