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17 vodafone

1 名前:17 vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時28分50秒
17 vodafone
2 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時29分38秒
ふと立ち寄った本屋で見つけた黒い表紙。
そのちょっと面白気なタイトルにそう言えばあの子
もうすぐ誕生日だわと思い出す。本の贈り物なんて
ありふれているかなと手に取ってぱらぱらめくると
最後のページの注意書きに目が止まった。
なるほど。
素敵だわと私はひとりくすくす笑う。こういうのを
日本語で粋って言うんじゃないかしら?
3 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時30分12秒
 ◇
4 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時31分21秒
気がつけばそこは土煙舞う荒野で、古そうなバーや
お店が並び、サボテンやほろ馬車なんかもある。
まるでマカロニウェスタン。絵本の中のテキサスね
ときょろきょろしてると倒れている人が目に入った。
じっと見ててもぴくりとも動かなくて私はおずおず
近寄り声をかけてみた。
「もしもし?」
返事はない。そっと体をゆするとおなかのあたりが
真っ赤に染まっていて、私は後ずさってしまう。
血だこれ。
「ちょっと!大丈夫ですか?」
5 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時32分51秒
やっぱり返事はなくて私はとりあえず自分の着てた
シャツの裾を散切る。傷口に当て止血しようとして
ふと気づいた。何なのこの見覚えのないブラウス?
スカートも野暮ったく、しっかり私もウェスタンの
一員になっている。もう何がどうなってるのか。
よくよく回りを見渡してみればお店の中にもバーの
中にも人、人、人。むごたらしい格好で倒れていて、
さっき助けようとした人と違って一目でわかる。
死んでます、みんな。
6 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時34分37秒
突然。
「ミカちゃん見ーっけ」
後ろから響く声にびくりと振り返る。しかしそこに
立つ見慣れた顔に私はへなへなと座り込んだ。
「アヤカちゃん」
「ミカちゃんってば上手いこと隠れてるからさ」
近寄り私に手を差し伸べるアヤカちゃんのその手の
中の物体に動けなくなった。そして気づく。
テンガロンハットにベストにスカーフ、ジーンズに
ウェスタンブーツを合わせたアヤカちゃんの格好は
西部劇の悪役そのもので、服のあちこちに血が飛び
散っていた。
7 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時35分09秒
「見つけるのに街の人みんな殺しちゃったよ」
アヤカちゃんはいつものように唇の端を釣り上げて
笑みを浮かべる。私はおでこに当てられたピストル
から目が離せない。
「冗談だよね?」
「まさか」
「じゃあ夢?」
「まさか」
「ねぇアヤカちゃん。嘘だよね?撃たないよね?」
会話はそこで終わった。アヤカちゃんはためらいも
なく引き金にかけた指を引いた。

ぱん。
8 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時35分47秒
「こら」
体がびくと震えて起きた。ぼやけてた視界がやがて
落ち着くとそこは静かな夜の街で、私の目の前には
やっぱりと言うかアヤカちゃんがいた。
「夢だったんだぁ」
「夢?」
ほっとする私にアヤカちゃんが怪訝そうな顔をして
私は今見た夢を説明しようとする。ひと通り聞いて
頷いた後でアヤカちゃんはくすくすと笑った。
「それ正夢だよきっと」
9 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時36分21秒
「へっ?」
次の瞬間。
私のおでこにはやっぱりピストルが当てられていた。
嘘でしょ?と見つめたアヤカちゃんは警察のような
制服を着ていた。その左腕の腕章に息が止まる。
「ハーケンクロイツ?」
「おやすみなさい」
「ちょっと待って。何でアヤカちゃんが?」
「待ちません」
そう言うなりアヤカちゃんはまたためらいなく私を。

ぱん。
10 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時37分12秒
がくんと体が揺れた。瞳を開くとそこは荒れ狂う海。
私達は小さなボートの上に居るけど叩きつけるよな
波に今にも落とされそう。必死でへりに掴まる私の
目の前にはびしょびしょに濡れたアヤカちゃん。
「ミカちゃん後ろ見れる?」
叫び声に首だけを後ろに向けた。真っ暗な夜の海で
稲妻が光る度にまっぷたつに裂けた船の影が浮かぶ。
「あのまま残ってたら絶対死んでたね」
顔に波があたり目を閉じた。私は視線を船に向けた
ままアヤカちゃんへは戻さなかった。戻したらその
先に何があるか、想像がついていたから。
11 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時37分46秒
「ミカちゃん」
波と風の音の合間を縫うように低い声が聞こえた。
「何さ?」
「もうこっち向いていいよ」
「やだ」
私は瞳を閉じたままに船のへりをしっかり掴む。
もう本当に嫌だ。
「何で嫌なの?まるで何があるか知ってるみたい」
「知ってる。私を撃つつもりなんだよね?」
12 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時38分21秒
「だってこの波だよ?」
がちゃり、と金属の音。まだこの音だ。
「ふたりも乗ってたらボート沈んじゃうもん」
そう言うアヤカちゃんはきっと、いつも通り笑みを
浮かべてためらいもしないだろう。
「助かるよ。ふたりとも助かるってば」
やっぱり返事はなくてその代わりに私の頭に何かが
押し付けられてそして。

ぱん。
13 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時38分48秒
 ◇
14 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時39分24秒
うむむと私は首をひねった。ミカちゃんはうんうん
うなり脂汗を滝のように流し、これもダメだったと
私は次のおまじないを探すべく勢い良く本を閉じた。

ぱん。

適当に開いたページのおまじないを四回目の正直と
隣で眠り続けるミカちゃんに試そうとしたところで
残念なことに起きられてしまった。
「おはよ。ミカちゃん」
「アヤカちゃん!」
と突然ミカちゃんは私の手首を掴んだ。何だぁ?
「ミカちゃんってば、寝ぼけてる?」
「ここどこ?」
「控え室。出番まではあと三十分くらいかな」
15 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時39分57秒
私がそう言うとミカちゃんはほっとしたような顔で
良かったぁとつぶやいた。
「なんかひどい夢ばっかり見ちゃった」
おでこの汗を拭きながらそう言うミカちゃん。私は
がっくりしてしまう。喜んでもらえなかったかぁ。
「がっくし」
「どうしてアヤカちゃんが落ち込むの?」
「ハッピーバースデー、ミカちゃん」
そう言って私が持っていた黒い表紙の本を渡すと、
見る見るミカちゃんの眉間に皺が寄った。
16 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時40分36秒
「夢で前世に会いましょう?」
「なんか色々なおまじないがこの本に載ってて」
「載ってて、それで?」
「試すと夢でその人の前世が見られるんだって」
私はおそるおそる口を挟んだ。あのいつも穏やかな
ミカちゃんがなんだかすごく怖いんですけど。
「言わゆる粋ってのだと思ったんだけどぉ」
「アヤカちゃん!」
「はい」
我ながら消え入りそうな返事だこと。
「せめて私の了解を取ってから試しなさい!」
17 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時41分05秒
「だってほらここに」
私は左手で自分の身をかばいながら右手でその本の
最後のページ、注意書きを指さした。
「試す相手には秘密にしないと効果ありません?」
「ねっねっ」
一向に機嫌が戻りそうにないミカちゃんに私は一生
懸命笑いかけるけど、返って来るのはじろりと言う
効果音の聞こえてきそうな視線だけ。そんな状態が
しばらく続いて後に。
ミカちゃんがくすくすと笑い出した。
18 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時41分43秒
機嫌直ったのかな?ほっとして私も一緒にくすくす
笑った。ふたりきりの控え室にかすかに響く声。
「あれが私の前世かぁ」
「どう?それっぽい夢だった?」
「それっぽかった」
頷いてそう断言するミカちゃんに私は驚いてしまう。
そんなに効果あるのかとしみじみ黒い表紙を眺めた。
「何かね、アヤカちゃんに運命を感じたよ」
「運命?私に?」
「ねぇ運命の相棒様。お願いがあるんだけど良い?」
19 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時42分16秒
背中に冷たい何かが走った。後ずさりたいけど私の
体は固まったように動かなくて、強ばってしまった
笑顔のままで答えるのがせいいっぱい。
「私で良かったら」
「一発で許してあげるから殴らせて」
えっ?と見つめた目は本気の目で私はごくりと唾を
飲み込んでしまう。ちょっ、ちょっと待って。
「ミカちゃんってばどんな夢を見たのよ?」
返事はなかった。ミカちゃんはためらう仕種もなく
上げた手を私の頬めがけて振り降ろした。

ぺちっ。
20 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時42分41秒
 ◇
21 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時42分57秒
 ◇
22 名前:vodafone 投稿日:2003年11月06日(木)00時43分16秒
 ◇

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