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15 5番目
- 1 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時35分14秒
- 15 5番目
- 2 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時36分17秒
事務所の一室に呼び出されたのは、あたしと松浦の二人だった。
- 3 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時37分47秒
- 「突然お呼び立てして申し訳ありません。ファンクラブ限定グッズの新作ができました。
後藤さん、松浦さん、見てください」
そう言って担当者らしきお兄さんが段ボール箱から白い箱を二つ取り出した。
その中から出てきたものは、あたしたちを驚かせるには十分な代物だった。
「えっ!?」
「ぼっ…!」
しばし絶句。
「…なにこれ、そっくりじゃない!」
「……」
うん、そう、その通り。
似てる、っていうかほとんど本物。
後藤真希と松浦亜弥にそっくりの人形が、あたしたちをじっと見つめている。
- 4 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時38分38秒
- 「こ、これ…」
「お二人のペーパーフィギュアが好評だったので、今度はリアルフィギュアを作ってみま
した。どうです?見事でしょう?」
胸を張って満面の笑み、相当の自信作らしい。
たしかにね、うん。
あのペーパーフィギュアだってかなり似てると思ったのに、これはその何倍もリアル…。
まじで分身だよ、スゴイの一言。
「なんかこれ、似過ぎで怖いかも。生きてるみたい」
「うん、めっちゃリアルだよねぇ。あ、感触も柔らか〜い」
「え、ホント?あ…」
触れてまたびっくり。
ほんとに人間を触っているような感じだ。
- 5 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時39分53秒
- 「新開発の素材を使用しています」
自信満々の説明が始まった。
「人間の皮膚の感触に可能な限り近づけることに成功しました。すごいでしょう?体内に
最新のコンピューターを内臓し、言葉を発したり感情を表したりもできるようにしました」
「ええっ!喋れるんですか?」
「はい、もちろん。ちゃんと会話もできます」
「キャー、すっごぉい!」
興奮気味の松浦がさっそく自分の分身に話しかけた。
「こんにちは〜」
『こんにちは〜、松浦亜弥で〜す』
うわっ、似てる!
声だけじゃなくあの独特のイントネーションまでそっくりだ。
早速あたしもアタシに話しかけてみる。
「こんにちは〜」
『こんにちは〜、こちらごっちん、こちらごっちん』
おおっ、似てる!
すごいよぉ、これ!
- 6 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時41分12秒
- 「後藤さん、気に入りましたか?」
「はぁ、気に入ったっていうか、なんかびっくりです」
「ははは、でしょうね。実は今回、モーニング娘。さんやハロプロメンバー、それ以外も
いろいろ作ってみたんです。全部売り出すかは未定ですけどね。例えば、え〜、これな
んですが似てるでしょう?」
「わあ…」
箱の中から出てきたのは…、カオリだ。
本物同様、スタイル抜群。
身長も後藤のより高いから、ちゃんとスケールが考えられてるのがわかる。
え、じゃあもしかして…!?
- 7 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時42分09秒
- 「あの、この大きさって」
「はい、正確に縮尺しています」
「それって身長だけですよね?」
「いいえ、すべてです。体重、足のサイズ、もちろんスリーサイズも。ファンのニーズ
に応えなくてはいけませんから」
はあっ!?
そんなニーズ、応えなくていいよ…。
あたしが露骨に嫌な顔をしていると、松浦が話しに入ってきた。
「ごっちんの胸、大きいねぇ」
「まっつーもね、ってちょっと、触らないでよ」
松浦の大胆さは今に始まったことじゃないけど、そんな直に胸を…。
いくらフィギュアとはいえ恥ずかしすぎ。
- 8 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時42分59秒
- 「あの、お兄さん…、みきたんのもあるんですか?」
しばらく触って楽しんだ後、松浦が照れながら聞いた。
あたしのフィギュアにはもう飽きたらしい。
「ありますとも、もちろん」
「わ〜い!見せて、見せて!」
目をキラキラと輝かせる松浦、わかりやすいね。
「はい、どうぞ」と手渡された白い箱を受け取り、ごそごそと中身を取り出して目の前に
立たせた。
一瞬、なっち?とも思ったけど、この胸は……うん、ミキティだね。
すごいっ…やっぱりそっくりだ。
見つめる松浦の目がハートになってるのもしかたないかも。
- 9 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時43分37秒
- ふと側にあった箱に目をやると、中に二つ折りの紙。
取り出して開いてみたら、『使用する前に必ずお読みください』と書いてあった。
「ねぇ、まっつー、なんかいろいろ書いてあるよ」
って人が話しかけてるのにまったく聞いてない。
もうミキティフィギュアに夢中で、二人だけで会話を楽しんでる。
「ひさしぶりだねぇ、みきたん」
『うん、おたがい忙しいからなかなか会えないね』
「あやに会いたかった?みきたん」
『うん、あやちゃんにめちゃくちゃ会いたかった』
すごーい!
ラブラブな会話が成り立ってる。
ホントに二人がそこにいるって感じ。
- 10 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時44分23秒
- すっかりその光景に目を奪われていたら、お兄さんがあたしに声をかけてきた。
「それ使用上の注意なんです」
「へ?使用上の注意…って、電化製品とかにあるやつ?」
お兄さんが頷きながらパラパラとファイルをめくった。
「はい。共通事項と、あと各フィギュアの注意書きもあります。ちょっとそれ読んでみて
くれませんか?意見を聞いて修正したいので」
んー、あたしも別のフィギュアで遊びたかったんだけどな。
ま、しかたないか、一生懸命なお兄さんに協力しよう。
- 11 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時45分06秒
- 「はい、読めばいいんですね。んーと、1.使用する前に必ず手を洗いましょう=cはっ!?」
「これ必要ですよね?」
「はあ…」
こんなの必要かなぁ?
なんか小学校に貼ってあったポスターみたいだけど。
んー、ファンの人が汚い手であたしのフィギュアを触っている画を想像してみる………。
……うわっ、まじだ。かなり嫌かも。
汚い手で触れるのって耐えられないね、いくらフィギュアとはいえ。
「必要ないですか?」
「あ、あります!絶対書いてください」
- 12 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時46分10秒
- 「次はっと、2.フィギュアに淫らな行為をするのは控えましょう≠ネっ…なんですかこれ…」
「いや〜、男なら絶対すると思うんです、むしろそれが目当てかと。でもやられすぎると本体に
悪い影響が出るので注意しておいた方がいいと思いまして」
「はあ…」
淫らな行為ねぇ…うん、たしかに松浦の様子を見てるとわかる気がする。
ミキティ、いろんなとこ触られまくりだし。
きっと、もっとすごいことされるんだろうな…うゎ、耐えられない!
「必要ないですか?」
「あ、あります!絶対書いてください」
- 13 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時47分05秒
- 「3.虐待・放置などフィギュアを邪険に扱うとあなたの前から姿を消す可能性があり
ます。愛情を持って接しましょう=cまじっすか!?」
「脅し半分ですが」
なんだ脅しか…。
でもこのフィギュアはあたしの分身みたいなものだもんね、やさしく扱って欲しい。
家出なんて悲しいよ。
「必要ないですか?」
「あ、あります!絶対書いてください」
- 14 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時47分59秒
- 「次が最後ですね、4.会話中きついツッコミがあったり、時々目つきが怖くなったり
しますが、故障ではありません=cくくっ…」
「4がそれぞれの注意書きとなっています。個性を出すためにキャラをプログラミングし
ました」
「へぇ〜、そんなことまで…」
たしかにミキティのツッコミはきついからね。
あたしなんてつっこまれまくって、ほとんど会話にならないもん。
ごまっとうの時は疲れたよ、ホント。
この注意は書いておいたほうがいいかも、ツッコミが多くても驚かないように。
あ…、じゃあ、あたしの注意ってなんだろう。
ミキティのようにキャラが強くないからなぁ。
- 15 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時48分59秒
- 「あの、あたしの注意書きもあるんですよね?」
「後藤さんのですか、もちろんありますよ。はい、これです」
手渡された二つ折りの紙。
開いて4番目の文を読んでみる。
「4.いつでもどこでも寝てしまったり、意味不明な擬音語を発したりしますが、故障
ではありません=c…」
「どうです?ぴったりでしょう?バビョーンも最新の後藤擬音語としてプログラミングし
ました」
…微妙に失礼だよね、この注意書き。
思わず膨れっ面をお兄さんに向けたとき、松浦が「失礼しま〜す」と言いながらこそこそ
と出て行った。
- 16 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時49分31秒
- 「あれ、まっつー仕事かな?」
「そうかもしれ…あっ!」
突然お兄さんが驚声をあげ、松浦が座っていた場所に駆け寄った。
「どうかしたんですか?」
「松浦さん、自分と藤本さんのフィギュアを持ち出したみたいです。まいったなー」
顔をしかめて髪をわしゃわしゃと掻きむしる。
なんでそんなに焦ってるのかな。
後から返してもらえばすむ事なのに…。
- 17 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時50分12秒
- 「実はですね」
「は、はい」
「使用上の注意には5番目がありまして」
「へ?そうなんですか?」
「記載するかどうか協議中なんですが、けっこう重要なんです」
「なんですか、それ?」
お兄さんがファイルを開いて説明し出した。
- 18 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時51分05秒
- 「ふたつのフィギュアを近づけておくと、勝手にコミュニケーションをはかって閉塞的な
関係を作ってしまうんです」
「は?ちょっとよく意味が…」
「つまり2体が勝手に会話を重ね、その結果、友情や愛情を育んだり、逆に憎みあって殺
しあったりも」
「ええっ!?」
「しかも、こちらの言うことを全然聞かなくなって、二人だけの世界を確立してしまうんです」
「そんな…大変じゃないですか!ちゃんと5番目も書いておいたほうがいいですって」
なんか怖い。
そこまでいったらもうフィギュアじゃないよ、人間と同じじゃん。
- 19 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時51分59秒
- 「でも10万円するものを2体も買う人はいないと思うんです。だから載せなくてもいいかなと」
「10万!?」
高っ!
そりゃ2体買う人なんて絶対いないだろう。
っていうか、そんな高くて売れるんですか!?
「あ、僕、松浦さんをさがしてきます。後藤さん、すいませんがここで待っててくれませんか?」
「いいですよ、どうぞ」
あたしの返事を聞くと、頭を下げながらお兄さんがとび出して行った――。
- 20 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時52分36秒
- 急に静かになった部屋。
テーブルの上にはアタシ、少しはなれてカオリ。
「二人だけの世界か…」
あたしはカオリを箱にしまった。
そして大きな段ボール箱の中から別のヒトを探し始めた。
- 21 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時53分24秒
- 「あっ…!」
奥の方に求めていたヒトの顔が見えた。
ドキンと胸が大きく跳ねる。
ゆっくりそのヒトを取り出して、アタシの隣に立たせた。
- 22 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時54分26秒
「ほら、ごとーの大好きないちーちゃんだよ」
『いちーちゃん!』
『なんだよ、ごとー』
あたしはふたりを両手で抱えてその部屋を後にした――――。
- 23 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時54分48秒
- …
- 24 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時55分05秒
- …
- 25 名前:15 5番目 投稿日:2003年11月05日(水)21時55分23秒
- …
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