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14 楽剤師−らくざいし−
- 1 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時33分00秒
- 14 楽剤師−らくざいし−
- 2 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時34分09秒
- なにげに渋谷に、しかも一人で来るなんてことははじめてだったりして。
ちょっぴりドキドキしている、わけですけれども。学校で友達とダベっている日常に
不満があるワケじゃないんだけど、最近なんだかタイクツで、
何が起こるかわからない街、渋谷にやってきた。とりあえず信号が青になっ
「とぉっっっ!!」
妙な声が聞こえてきて斜め後ろを振り向いた瞬間、誰かがあたしに思いっきり飛んできて、
衝撃の後あたしの意識が遠のいていくのが感じられた。
- 3 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時36分12秒
- 「ん…」
気が付くときらびやかな部屋の中にいた。天井からこぼれてくる光、
まるで日本を離れた様な壁、丸いベッド…丸いベッド?!
ま、まさかここは、ラブホテルってもんなんじゃないでしょうか。ってことは
つまりヤられる!!!殺られるか犯られるかはわからないけど、
今までのあたしとはおさらばだわやっぱり渋谷は怖い街でした
ごめんなさいおかあさーん!
「起きたー?」
「え?」
声の方に顔を向けるとそこにはグレーブルーのつなぎの中に黒いシャツを着込んだ
茶髪の女の人がいた。いや、女の人というよりはあたしとたいして年も変わらない
様な女の子だ。
「えへへー」
ニコニコしながらユラユラ体を左右に揺らしている。
女の人だったからって安心しちゃいけない、渋谷の街中でいきなり
ドロップキックかましてラブホテルに連れ込むなんてやっぱりおかしい!
何かあるわ。どうにかチャンスを見つけて逃げないと
「キャー!」
- 4 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時37分46秒
- あたしが逃げる事を考え始めるとその人がいきなりドアの方に向かって飛んだ。
「今逃げようと思ったでしょ?」
「うん」
「だから逆に先に逃げてみたー」
こ、この人本格的におかしい!!もうだめだあたしおしまいだ…
「まぁまぁわたくしそんなあやしいもんじゃないですって」
手をぱたとおばちゃんのように振ると、胸元から油性ペンを取り出して
部屋に置いてあるノートに書き始めた。
「わたくしこういうものでございまして」
- 5 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時39分10秒
- 「やくざいし…ってちょっと、文字間違ってますよ」
そこには薬剤師、ならぬ楽剤師と大きく書かれている。くさかんむりが足りない
と言うのはさすがのあたしにもわかる。
「よくぞ気づいてくれました!わたくしらくざいしと申しまして、
楽しさを無くした方に楽しさを調剤しているんですね」
「いや、あたしそういうの結構ですから」
「まーまーちょっと待ってくださいって」
そういって胸元からアメのレイを取り出した。
「あなたーの風邪にねらーいを決めてっと…はい、このオレンジのアメとぉ
ソーダのアメっ」
レイから二つのアメを外し、レイをしまって二つのアメのビニールを外す。
「はい、これを口に入れればあら不思議、忘れた?無くした?
あなたの楽しさが戻ってくるのです」
- 6 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時40分32秒
- おかしなクスリだったらどうしようと思ってから、タイクツだとか言ってたくせに
こういうことになったら急にオロオロしてる自分に腹が立ったのでアメを
口の中に入れた。すぐに口の中でオレンジとしゅわしゅわするソーダが広っていく。
「あー!使用上の注意を守ってくれなきゃダメですよぉ」
「使用上の注意って?」
アメはひとつづつなめないといけないとでも言うんだろうか。
- 7 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時42分05秒
- 「これをなめたら楽しくなれるって心の奥から信じること。守ってないでしょぉ」
「そ、そんなの信じられるわけじゃないですか」
「私の前だと恥ずかしいんだよね、お茶目さん。くふぅ」
「私帰ります」
「あららぁ…ちょっと待って」
ベッドから立ち上がり部屋を出ていこうとする私を呼び止めると
またレイを取り出して、アメを一つ一つチェックしながら二つのアメを選び、
取り出して私の手に置いた。
「じゃぁもう一回分。いい、これをなめたら楽しくなれるって心の奥から信じて
なめるんだよ。今日中になめてくれればばっちり効果あるからね」
「…なめませんから」
ホテルの廊下には捨てるところが見つからないから、とりあえずその二つのアメを
ポケットに入れて、ホテルを後にした。
- 8 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時43分18秒
- 見慣れない道をどうにかしてまたハチ公前までやってこれた。さっきも見たはずの
ざわついた街がなんだか灰色に見える。ポケットの中に手をつっこんで
さっきの二つのアメを出してみると、淡いピンクがふたつ、
モノクロームの景色の中に浮かび上がった。
アメを眺めているとさっきの人が浮かんでくる。
『楽しさを無くした方に楽しさを調剤しているんですね』
あたし、楽しさどこに無くしちゃったんだろう…
あたしは、ビニールをはがしてアメを口に入れた。
ももといちごの味が口に広がって、なんともいえない甘い味に包まれた。
これをなめたら、楽しくなれる…
- 9 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時44分24秒
- 「あれ、れなー」
思わず閉じていた目を慌てて開くと同級生のさゆみがいた。
「さゆ、こんなところでどしたの」
「お姉ちゃんが帰ってきたんだよー。これからまた一緒に暮らせるの」
「ホント?良かったじゃん」
「これから買い物行くんだー」
「あんまりかわいいかわいいって言わないでよ」
「それは無理ー私可愛いもん」
「はいはい」
「あ、じゃぁ信号青になったから行くね。また明日」
「行ってらっしゃーい」
うきうきとした足取りでさゆとさゆのお姉さんは人の波の中に潜っていった。
- 10 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時47分59秒
- 「起こったじゃん、楽しいこと」
「うわっ!なんですかいきなり」
いつの間にかとなりにさっきの人がいた。手にした双眼鏡を胸元にしまうと
またニコっと笑う。この人のつなぎの中は一体どうなっているんだろうか。
「今あの子と会ってものすごぉく楽しそうな顔してたよ。」
- 11 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時48分55秒
- そういえば。
さゆみは学校以外で遊ぶというような仲良しじゃないし、むしろいっつも
自分の事がかわいいやら、ピンクが大好きやらうるさいのでいっつも
うっとおしいわ!って言ってたんだけど、家庭の事情でお姉さんが山口に
行ってしまってからふさぎ込んで静かになっていたのだ。
そっか、あたし、さゆが元気が無いから楽しくなかったんだ…
- 12 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時49分36秒
- 「れなちゃん、友達思いなんだね。お姉さん嬉しいよぉ」
そういって腰の青い布をハンカチ代わりにして泣きマネをしはじめた。
「そういえば、あたしが楽しさを取り戻したら、お姉さんはどうするの?」
つられて思わずお姉さんと言ってしまったが、よく見てみると
本当のお姉さんと言っても通りそうな気もする。
「れなちゃんが楽しさを取り戻したら、また次の楽しさを見失った人のもとへ行って
楽しさを調剤しに行くんだよー」
そっか、もうお別れなのか…
さゆのことがもちろん大きいけれど、お姉さん自身のおかげで楽しくなったから、
出来ればもっと一緒にいたいという気持ちになっているのに気が付いた。
- 13 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時50分35秒
- 「そいじゃーね」
そういってお姉さんは後ろを向いて歩き始めた。
早くありがとうって、言わないと…
「あっ!!」
「えっ??」
急に振り返ってこっちの方に走ってきた。
「最後にもう一つの使用上の注意を忘れてたよ」
「そ、それってまさか副作用とか?そういうのって使用する前に
言うんじゃないんですか?」
「もう一つの使用上の注意は…楽在師さんはお仕事するとお腹がぺこぺこになるので
楽しさを取り戻せた人は、お腹一杯にしなくちゃいけないって事!」
「なにそれ〜!!」
「この近くにかぼちゃ料理のお店があるから、ね、連れてって〜」
そういってあたしに抱きついてきた。
あたしは思いっきりむすっとした顔をしてから、抱きつき返した。
「…ありがと、ね」
そう言うとお姉さんは目を細めて満面の笑顔を見せた。
- 14 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時52分10秒
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- 15 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時52分54秒
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- 16 名前:14 楽剤師−らくざいし− 投稿日:2003年11月05日(水)00時53分19秒
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