インデックス / 過去ログ倉庫

11 サブリーダー

1 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時26分45秒
          サブリーダー
2 名前:11 投稿日:2003年11月03日(月)18時27分48秒


 こんなことになるんだったら、あそこまで叱るんじゃなかった。
真っ白な病室の中で、おいらは昏睡する2人を眺めている。
窓の外では晩秋の頼りない太陽が、アンバーがかった光線を放っていた。

「まだみたいだね。マスコミには知られてないから安心よ」

おいらの頭上から話しかけてきたのは、いつの間にか病室に入ってきたカオリだった。
なっちが娘。を卒業しちゃうと、古参のメンバーは、おいらとカオリだけになる。
いちばん背が高いカオリと、いちばん背が低いおいらが古参とは笑えるもんだ。
カオリは2人を覗きこんでみるが、まだ目をさます気配すらなかった。

「カオリ、おいらが叱りすぎたんだよね」

「そうじゃないよ。悪い偶然が重なっただけじゃん」

カオリは大人だ。おいらとは根本的にちがう。
ストレートにきついことを言うが、それはすべて理由があってのこと。
実際、カオリは裕ちゃんよりも大人っぽいところがある。
おいらはサブリーダーなんてやってるけど、いつまでたっても、
カオリや圭ちゃんに追いつくことなんてできやしない。
ついつい感情的に怒鳴ってしまって、このザマだもんね。
3 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時28分29秒
「なっちに言われたんだ。『矢口はきびしすぎる』って」

おいらがネガティブになってると、カオリは優しそうに笑った。
そう、カオリはいつも優しい。おいらみたいに後輩を怒鳴ったりしない。
いつもはヘラヘラしてて、要所だけをビシッと決めることができる。
裕ちゃんみたいな姉御肌じゃないけど、信頼できるリーダーなんだ。

「きびしい人は必要なんだよ。矢口に順番がまわってきたの」

順番? そうだ。最初はあやっぺ、圭ちゃん、そしておいら。
娘。にはメンバーを怒鳴る人が、必ず誰かしら存在してた。
おいらたちが入ったころは、あやっぺに怒鳴られたんだっけ。
あやっぺが辞めてからは、圭ちゃんがごっつぁんやよっすぃーを怒鳴った。

「あやっぺは大人だったもん。圭ちゃんは信頼されてたもん! 」

この2人とおいらとじゃ、とにかく格がちがってる。
あやっぺのきつさには、よく圭ちゃんと2人で泣いたっけ。
でも、タンポポでは、おいらのことを面倒みてくれた。
何だかんだ言っても、あやっぺは大人だった。
圭ちゃんにしても、あれほど信頼された人はいない。
おいらには2人のような包容力がないんだよね。

「別にいいじゃん。矢口は矢口なんだからさ」

カオリはおいらで満足できるの? こんなおいらで。
2人の規則的な寝息が、冷たい病室の壁に反響してる。
カオリの笑顔を見てたら、どういうわけか涙が出てきた。
4 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時29分14秒


 聞いた話によると、仲のいい梨華ちゃんとよっすぃーは、
Fテレビの控室で、例によって、まったりしてたらしいの。
Fテレビの控室は小さいから、いつも4部屋用意してくれる。
自然と旧メン、4期メン、5期メン、6期メンに分かれてた。
旧メンと4期メンの控室には、いつも食べものがおいてある。
それも、必ずお菓子なんだよ。やっぱり、なっちと辻がいるからね。

「のの、あんまり食べると、お腹こわすよ」

個性の強い4期メンのリーダー的存在なのが、やっぱり梨華ちゃんだ。
梨華ちゃんは注意したんだけど、相手は怖いもの知らずの辻でしょう?
まだ、おいらやカオリが注意すれば、ある程度は話を聞くと思う。
でも、辻は梨華ちゃんを完全にナメきってるからね。

「うっせえんだよゴルァ! 」

カオリとおいらが卒業すれば、梨華ちゃんがリーダーになるんだろうな。
あれでいて、新メンを積極的に指導したりしてる。
だけど、どうしても同期メンには甘くみられてた。
特に辻は、梨華ちゃんをイジメることすらあったっけ。

「でも、食べすぎだよ」

「てめー、ちょっと胸がでけーからって、いい気になってんじゃねーよ」

実際、辻は力が強いから、娘。のメンバーで勝てるのはカオリくらいだと思う。
あのよっすぃーですら、辻に間接きめられて、涙を流したことがあった。
辻加護なんて同じように言われるけど、2人の性格は正反対もいいところ。
加護は甘え上手の割りに、悩みを溜めこんじゃうタイプなんだよね。
でも、辻には悩みなんてもの自体が存在しない。
明るくて悪い子じゃないんだけど、まだ子供なのかな。
5 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時30分39秒
「辻、梨華ちゃんは心配してくれてんだよ。そういう言い方はないじゃん」

よっすぃーがマジ顔になると、おいらでも少し怖くなるんだよね。
でも辻は、あの裕ちゃんに叱られても、全くこたえないからスゴイもんだ。
辻にはあやっぺくらい怖い人じゃないと、ホント太刀打ちできないよ。
今の辻が素直に言うことをきくのは、夏先生くらいじゃないかな。

「もう痩せたんだよ! グダグダ言うと、ヤキいれるぞ! 」

「まあまあ、梨華ちゃんも食べない? 」

加護になだめられて、辻は再びお菓子に夢中になったみたい。
5期メンみたいに平和な時間を過ごすなんて、こいつらにはないんだろうね。
たしかに娘。をやってると、すごくお腹がへるんだよ。
それだけ動いてるからなんだけど、節制しないとスゴイことになっちゃう。
なっちやごっつぁん、辻、加護、よっすぃー、小川も、えらく太っちゃったからね。
精神的にバランスが崩れると、過食に走っちゃうのがこの世界。
そういったことがないのに太ったのは、辻くらいじゃないかな。

「い・ら・な・い」

「気にいんねーな。その態度」

何が気にいらないのか、辻は梨華ちゃんにからんでくる。
まだ藤本くらい、きつさがあればいいんだけど、
梨華ちゃんは、どうしてもネガティブになるところがあるしね。
イジメる側は、そういったところがおもしろいらしい。
辻が梨華ちゃんをイジメて、よっすぃーが止めにはいるのは、
ホントにいつものことだった。
6 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時31分18秒


 旧メンの控室は、やっぱり大人の雰囲気なんだよね。
以前は圭ちゃんがいたから、冬なんてコタツを囲んで静かに話をしてた。
やっぱり、4人のうち1人が減ると、どうも淋しくていけないよな。
これで、今度はなっちまでいなくなっちゃうじゃん。

「それじゃあさ、娘。に未練はないってこと? 」

「淋しい気持ちはあるべさ。でも、オリメンはみんな、ソロ希望だったっしょ? 」

そうだった。おいらたちは娘。に入りたくてやってきた。
でも、オリメンの5人は、娘。というユニットを組まされたんだった。
正確に言うと、明日香やあやっぺ、裕ちゃんは『卒業』だけど、
紗耶香やごっつぁん、圭ちゃんは『脱退』なんだよね。
まあ、ホントに『卒業』ってのは、裕ちゃんとなっちくらいだけど。

「そーか。でも、淋しくなっちゃうな」

なっちとは個人的にも仲がいいから、いなくなるのは淋しいな。
つんく♂さんにしてみれば、これもハロプロ内の人事異動って感じなんだろうけどね。
まあ、アイドルなんてのは、全てが商品みたいなものだから。
おいらは氷を食べながら、なっちがいなくなったときのことを想像してみた。
7 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時31分50秒
「矢口、なっちが卒業したあとのことを考えてるでしょう? 」

「わっと! 何でわかっちゃうの? 」

いつもカオリは唐突に言ってくるから怖い。
ボーッとしてるようでも、細かく人を観察してるんだもん。
長いつきあいだけど、この人だけは、ホントわかんないな。
泣いてるのかと思えば笑ってたり、喜んでるのかと思えば怒ってたり。

「カオリは何でもお見通しだよ。―――なんちゃって」

―――つっこみたい! つっこみたいけど、カオリにはつっこめない。
カオリにつっこめる命知らずは、辻か藤本くらいのもんだよ。
ヘタにカオリを怒らせたら、鋭角度のブレンバスターが待ってる。
事実、おいらは以前に、カオリがあやっぺを投げ飛ばすところを目撃した。
8 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時32分34秒


「もうイヤあああああああああああああああー! 」

おいらたちは、梨華ちゃんの泣き声に、驚いて廊下に出てみたんだ。
そうしたら、辻が梨華ちゃんに馬乗りになって、顔に落書きしてた。
ごく普通のマジックだから、そうかんたんには落とせないだろうな。
とにかくやめさせないと、もうじき本番が始まっちゃう。

「ゴルァ! 辻! 加護! ちょっと来い! 」

加護には悪いと思うけど、どうも辻といっしょに呼んじゃう。
まだ梨華ちゃんの顔へ落書きを続ける辻の頭にゲンコツを入れ、
おいらは襟首をつかんで屋上へ連れていったんだ。
暴れる辻とは対照的に、加護は泣きそうな顔をしてついてくる。

「うわっ、まぶしい」

屋上に出ると、雲ひとつない日本晴れ。
おいらは2人を立たせて、懇々と説教をしたんだ。
特に辻には、きびしすぎるくらい叱った。
この行動力が仕事に向かえば、辻はすばらしい人材になる。
その証拠に、ちょっと努力しただけで、
あれだけ歌がうまくなったんだもんね。

「辻! いつまでも甘えんじゃないわよ! 」

辻はホントにすまなそうな顔をするから、あまり叱ることができない。
でも、ここは心を鬼にして、辻を追いつめてゆくしかない。
抑圧された鬱積が、仕事に向かってくれればしめたもんだ。
おいらがきびしく叱ってると、加護が泣きだしてしまった。
9 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時33分12秒
「加護は帰りなさい。辻! 今日という今日は許さないからね! 」

辻がぶちキレたら、おいらは殺されるかもしれない。
それでも娘。を少しでも進歩させるためには、
危険を省みずに辻を叱るしかなかった。
10 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時33分46秒
 おいらの説教は1時間にも及んだ。
傍観してたカオリも、そろそろ頃合だというように、
おいらと辻の間に入ってきた。

「のんちゃん、石川に謝るのよ」

「―――はい」

カオリは辻の頭をなでると、背中を押して控室に帰らせた。
そして何も言わずに帰っていこうとしたので、おいらは反射的に呼び止めてた。
カオリは微笑みながら振り返る。おいらとちがって、カオリは大人の顔をしてた。

「言いすぎたかな」

「うーん、いいんじゃない? 」

カオリじゃ辻を叱れないと思って、おいらが憎まれ役になってる。
それを知ってか知らずか、カオリは否定も肯定もしなかった。
おいらが損な役回りだとは、自分でもわかってる。
それなのに他人ごとみたいなカオリに、おいらは腹がたってきた。

「カオリが叱らないから! 」

「わかってるよ! ―――ごめんね。矢口」

そうだった。リーダーは怒っちゃいけない。
これだけ大人数なんだから、どう考えても、
リーダーは各メンバーの様子を気にするだけで精一杯なはず。
きびしいことを言うのは、おいらの役目だった。
11 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時34分34秒


 カオリは裕ちゃんよりもリーダー向きの性格だった。
裕ちゃんみたいにカリスマ性を発揮したりしないけど、
各メンバーのことを、実に細かく観察してる。
いくつもちがわないのに、おいらときたら―――
普段は元気印の矢口でも、さすがに凹んでしまった。
まさか、辻と加護が、あんなものをやるとは―――

「命に別状がなくてよかったね」

辻と加護が倒れているのが見つかって、さすがのカオリも取り乱してた。
おいらなんか、足がすくんじゃって、なっちにしがみつくのが精一杯。
救急車で病院に搬送された2人は、応急処置を受けて助かった。
あのまま放置されてたらと思うと、背筋が寒くなっちゃう。

「おいらが―――」

「悪いなんて言わないでよね」

カオリは、おいらの話を先回りしちゃった。
どうしようもなくて、おいらはタイル貼りの床に視線を移す。
たしかにカオリが言うように、偶然が重なったとはいえ、
辻が暴走したのは、おいらに叱られたことが原因だった。

「サブリーダーって、こんなにつらいとは思わなかったよ」

あやっぺや圭ちゃんは、このつらさを乗り越えてきたんだな。
人に注意したり叱ったりするのは、とってもつらいことだよ。
悩んで苦しみぬくのが、サブリーダーの仕事だったんだね。
そして、ガマンできなくなったら、娘。を辞めなくちゃいけない。
12 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時35分03秒
「圭ちゃんも同じこと言ってた」

あれだけ信念を持った圭ちゃんですら、泣きごとを言ったんだ。
おいらみたいにチャランポランな人間じゃ、務まる仕事じゃないよ。
ミニモニ。じゃ、辻と加護を抑えつけてればよかったけど、
15人もいる娘。じゃ、おいらの力不足は火を見るよりあきらか。

「自信がないよ」

「なんで? これまで通りでいいじゃん」

「これまで通り? 」

「うん。だって、矢口は矢口なんだもん。圭ちゃんにはなれないでしょ? 」

そうか―――おいらはおいらだもんね。
別に意識しないまでも、責任感を持てばよかったんだ。
おいらが暴走したら、カオリが軌道修正してくれる。
どうやら、おいらは変に気負ってたみたいだな。

「ケメ子ってか? ―――カオリ」

おいら、気がついたらカオリに抱きついてた。
カオリが大人なんで、ちょっと口惜しかったけど、
ここまで頼りがいのある人だとは思わなかったよ。
何度も『あんた生意気よ! 』なんて言われたけど、
カオリはおいらの何倍も速く大人になってる。
おいらが甘えたのは裕ちゃんくらいだけど、
これからはカオリにも甘えてみよう。
13 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時35分46秒


 おいらに叱られた辻は、控室にもどると、梨華ちゃんを脅しにかかった。
相手がよっすぃーなら手加減もするだろうが、何しろ梨華ちゃんはイジメられっ子。
辻が梨華ちゃんに気をつかうなんてことは、まずありえなかった。

「てめーのせいで、矢口さんに説教されたんだぞ。どうしてくれるんだよ」

「そんなこと言われても―――」

辻も狡猾になったもんで、よっすぃーのいないところで梨華ちゃんをイジメる。
阿吽の呼吸で、加護がよっすぃーを控室から連れ出してたみたい。
悪知恵は働くのに、どうして一般常識がおぼえられないんだろうねえ。

「てめーの持ってるもんを出しな。それでカンベンしてやらー! 」

辻は梨華ちゃんのバッグの中身を、床にまき散らしたんだ。
化粧品や替えの下着、メモ帳、MDウォークマンが散乱する。
その中で、辻は妙なものを発見したらしいの。
それは手のひらに乗るくらいの、小さなビニール袋。
その中には白っぽい粉が入ってたみたい。

「こ―――これは! てめー、こんなもん持ってていいとでも思ってんのかよ」

「そ―――それは! ―――お料理に使うのよ」

「料理に使う薬か? ざけんじゃねー! 」

料理に使う白い粉末というと、片栗粉か砂糖くらいしか思い浮かばない。
ほかにも大豆の粉などがあったけど、辻はそんなもんじゃないと直感したみたい。

「これは預かっとくからよ」

きっと、辻はこれをネタに、梨華ちゃんを強請るんだろうね。
それだけだったらいいんだけど、辻は何にでも興味がわく年ごろ。
純白の粉末じゃなかったから、きっとコカインだと思ったみたい。
14 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時36分29秒


 コカインっていうと、ポンプを使ったりしないで、鼻から直接吸いこむんだよね。
よくアメリカ映画なんかでやってる、鼻から吸引する方法がオーソドックスみたい。
ポンプで静脈に打つのは、覚醒剤かヘロインって相場がきまってた。

「もしもし、あいぼん? すげーのが手に入ったよ」

辻は携帯で加護を呼び出して、倉庫の大道具の陰に入りこんでゆく。
もちろん、手には短く切ったストローが握られてる。
どうやら辻は加護を呼んで、倉庫の中で薬をやったみたいなの。
いくら何でも、アイドルがこんなことするなっての!

「あいぼん、ストローで鼻から吸うんだよ」

「ちょっとヤバくない? 」

ヤバいも何も、薬をやろうなんて犯罪なんだよ。
まだ、こっそりタバコでも吸う方が、どれだけかわいいものか。
辻は恐る恐るパケを破って、ストローを差しこんだんだろうね。
ああ見えて、ホントは気の小さいところがあるから。

「や―――やってみるよ」

辻が呼吸を整えて鼻から吸うと、鼻腔粘膜に激しい刺激が。
異物が侵入するわけだから、きっと大きなクシャミでもしたんだろうね。
それを見てた加護も、辻に負けてなるものかと、続いた姿が目に浮かぶ。
15 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時36分59秒
「くー! 効いたー」

「つっじー1人を犯罪者にはしないよ! 」

加護が吸えば、辻は対抗意識を燃やし、また薬を吸いこむ。
こんな感じだろうから、薬はあっと言う間になくなっちゃったんだろうね。
初めてやった2人は、10グラムも吸いこんで、完全にラリッたんだと思う。

「あいぼーん、きもちいいのれす」

「えへっ、えへっ、えへっ、ほんまやなー」

初めてで、これだけ多く吸えば、一気にラリッちゃうじゃん。
気分がハイになって、もう怖いもんなんかない状態だろうね。
平衡感覚もマヒしちゃって、もう歩ける状態じゃなかったよ。たぶん。

「チビのくせに、うるせーんらよ! 」

「ほんまやね。いつかしばいたるで! 矢口! 」

きっと、おいらの悪口でも言ってたんだろうな。
おいらも、あやっぺに叱られて、圭ちゃんと悪口言ってたもん。
この2人のやることくらい、まりっぺさまにはお見通しだっての。

「ふえ〜、もうダメなのれす」

「も―――もうアカン」

完全に意識をなくした2人を見つけたのは、心配して探してた紺野だった。
紺野は昏睡状態の2人を見て、泣きながら知らせにきたんだよ。
16 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時38分01秒


 応急処置で中和剤を注射されたから2人とも、
もうじき意識が回復すると思う。
そのとき、おいらは何て言ったらいいんだろう。
何も言わずに抱きしめてやるべきなのか。

「ねえ、カオリはどうするの? 」

「何が? 」

「この子たちが目を覚ましたら」

おいらが聞くと、カオリは困ったように微笑んだ。
カオリくらい大人だったら、きっと何も言わないと思う。
こんなことになって、いちばん反省してるのは、この子たちだから。

「うーん、やっぱり注意しないとねえ」

それもそうだな。いけないことはいけないんだから。
おいらでもマジで叱れば、きっと辻もわかってくれると思うし。
いや、カオリが叱るんだったら、おいらは庇ってやるべきなのかな。
17 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時38分31秒
「あううう―――」

「辻! 加護! 」

2人の意識が戻ったみたい。
辻はわけがわからなくて、大きな目をキョロキョロさせてた。
加護もムックリ起きあがって、困ったように首をかしげてる。
おいら、何かうれしくなっちゃって、気がついたら2人を抱きしめてた。
悪さばかりするヤンチャな子だけど、おいらにとっては妹なんだよね。

「もう! マジで心配したじゃんかよー! 」

ホントによかった。
救急車で運ばれたときは、マジで2人が死ぬと思った。
気がぬけたのか、悲しいわけでもないのに、
おいらは2人を抱きしめて号泣してたんだ。

「ごめんなさい! 」

「すんまへーん! 」

2人もおいらに抱きついて、声をあげて泣きだした。
どんなにうるさくても、どんなに悪さをしたとしても、
2人はおいらのかわいい妹なんだよ。
18 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時39分21秒
「―――ホントすまねーよ」

普通、こんな場面で、つっこみは入れないだろう。
でも、カオリは平気でつっこみを入れるんだから。
おいらがつっこみのつっこみをいれようとして、
振りかえってみたら、カオリの目が据わってた。

「カ―――カオリ! 」

次の瞬間、おいらは2人から引き離されてた。
そうか。ここでカオリが叱るから、おいらは庇う役目で―――

「この莫迦! 」

「ひでぶ! 」

カオリの右フックが辻のアゴに炸裂する。
あの辻が、三回転もしてタイル貼りの床に倒れた。
続いてカオリの裏拳が加護の顔面に命中する。
おいらは慌てて止めに入ったけど、軽く小脇に抱えられてしまう。
カオリが強いのは知ってたけど、まさかここまで強いとは。

「い―――痛いよう! 」

「カオリ! 暴力はだめだって! 」

おいらは暴れたけど、カオリに抱えられてるからどうしようもない。
のたうちまわる2人を立たせて、カオリは何度も殴った。
2人とも鼻血を出しながら、声をあげて泣いてる。
それでもカオリは何度も何度も、2人を殴ったんだ。
19 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時39分54秒
「あれが麻薬だったら、2人とも死んでるんだよ! 」

小脇に抱えられたおいらの顔に、カオリの涙が降ってきた。
カオリは泣きながら2人を殴ってたんだね。
こんなカオリの顔を見るのは、ホント初めてだった。

「ごめんなさーい! 」

そうか。カオリは仕事のことなんて頭にないんだ。
莫迦なことをやった2人を、本気で叱ってるんだよ。
アイドルは顔が命だけど、カオリは腫れあがるまで殴った。
カオリはホントに、2人のことが大好きなんだな。

「カオリ」

「いい? 麻薬なんてやろうとしたら、カオリが殺すからね! 」

カオリはおいらをベッドに放り投げると、血だらけの2人を抱きしめた。
やっぱり、カオリは大人だよね。おいらも精進しなくちゃなー。


※粉末酒・使用上の注意
 目や鼻に入ったときは、すみやかに水で洗い流してください。
粉末のまま食べると、粘膜を傷つける場合がありますので、
飲用するときは、必ず水に溶かしてからお使いください。
また、粘膜から吸収されますと、水に溶かして飲用したときよりも、
アルコールの血中濃度が高くなりますのでご注意ください。

―――お酒は二十歳になってから―――


〈終〉
20 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時40分40秒
21 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時41分05秒
グ
22 名前:11 サブリーダー 投稿日:2003年11月03日(月)18時41分24秒

Converted by dat2html.pl 1.0