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10   3時間の箱

1 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)15時55分27秒
10 3時間の箱
2 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)15時56分54秒

「れいなぁ〜……」
絵里の弱々しい声。
背中に柔らかい感触。
「なんね?」
「ぐすん……開かない……」
きゅっと抱きしめてる手に小さな箱を持っていた。
ひょいっと受け取ってぐるぐる回しながらよく見る。
「なにこれ?」
「わかんない」
わかんないならなんでこんなもん持ってんの?
そう聞きたかったけどとりあえず絵里を宥めて手を離させた。
椅子に座ってじっと見るとますますわけが分からなくなった。
手に丁度納まるくらいの大きさ。
少し青っぽい色。
「……結婚指輪…?なわけないか」
ぽすっとあたしに絵里がのしかかる。
耳のすぐ横に息がかかってくすぐったい。
「何かわかった?」
その声はもう泣き声なんかじゃなかった。
「まったく」
お手上げっぽく手を上げると絵里はクスッと笑って
「れいな可愛い」
って言った。
照れくさくてありがとうなんて言えなくて
「あっそ」
って言って目線を箱に戻した。
背中にごろごろと猫みたいに戯れついてくる絵里を少し邪魔に感じながらそれを振り払おうとはしなかった。
ふと箱の底に注意書きを見つけた。
「絵里」
まだ戯れついている絵里に箱の底を見せると絵里はそっと読み始めた。
3 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)15時57分47秒



「使用上の注意……1、箱で人を殴らないでください」
「2、食べないで下さい」
「3、……お気をつけ下さい」
何を!?
何に気をつけんの!?


4 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)15時58分36秒
「れいな」
「ん?」
「これなに?」
「そんなのあたしが聞きたいよ、矢口さんとかに聞いてくる」
ぽすっと軽く箱で絵里を叩くとあたしは立ち上がってロビーから出た。
そのとき絵里の変化に気付かなかったことを後々かなり後悔することになる。
5 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)15時59分26秒



「えぇ!?それどうしたの!?」
やけに驚いている矢口さん。
「いや、どうしたのって絵里が持ってきたんですけど……」
「じゃ、じゃあ…亀井は?」
「え、ロビーにまだいるんじゃないですか?」
「じゃ、それで誰か殴ってないよね?ね?」
なんなんだろう、そんなに大変なことなんだろうか……。
「たぶん…」
「良かったぁー」
「え?」
安心してほっと胸を撫で下ろすと矢口さんが口をあたしの耳に寄せて小さな声で説明してくれた。
「それで殴られるとさぁー、惚れちゃうんだよね」
は?
惚れる?
「ちょ…!そんなもんどこで買ったんですかぁ!?」
「いやさ、ちょっと試しに買ってみたんだけどさ…本物なんだよ」
「ほんとですかぁ?」
「ほんとほんと!だって実際、ミカも惚れたよ!」
実験台にしたんですか…。
結構残酷な人ですね…矢口さん……。
「ととと、とりあえず絵里に報告してきます」
「あ、もうすぐ集合だし後にしたら?」
「あー…そうっすね。そうします」
6 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)16時00分15秒
『たぁぁなあかあぁぁぁ!!!』
「ぅあ!」
矢口さんと楽屋に戻ると急に皆がすがりついてきた。
「な、なんなんですか!?みんなして!」
「あれ、どうにかしてよ!」
たじたじしながら指された方を見るとなぜかべべた座りをしてすんすん泣いている絵里。
そっと近づいて恐る恐る声をかけてみた。
「…絵里?」
ぴくんって動いたかとおどおどと顔を上げてあたしを見た。
「れ、ぇなぁ?」
「そうだよ、絵里」
顔を一瞬にして綻ばせたかと思うと……。
「れぇーなぁー!!!」
「ごふっ!!」
絵里のタックル……訂正します。
抱きついてきた絵里を腹でまともに受け止めてしまい、ちょっとだけ死にかけました。
「た…田中……大丈夫?」
いまだ抱きついている絵里を抱えながら心配してくれた矢口さんに大丈夫と笑いかける。
「そのわりには……顔が引きつってるね…」
安倍さん、こういうときは無理してでも笑います。
「ねぇ、矢口……これってあの箱じゃ……」
「うん、たぶん……」
こそこそと話し合う矢口さんと安倍さん。
箱ってアレ?
あの箱?
「箱って…これですか?」
ポケットから青い小さな箱をとりだす。
「あのね?よく聞いて?」
安倍さんが必死な顔であたしに話しかける。
その内容はこういうもの。
7 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)16時00分50秒



まず第1に、わがまま化。
第2に、惚れた人と離れると幼児化(泣き出す。
第3に、恐ろしく大胆。
第4に、3時間で元に戻る。
第5に、その間の記憶はちゃんとある。



8 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)16時01分33秒
「ちょ、ちょっと待って!?」
「なんですか?矢口さん」
「田中!殴ってないって言ったよね!?」
たしか殴ってないよね……えぇっと……。



いや?もしかして……。



「覚えが無い事もないです……」
「やっぱあるんじゃん!」
あれかなぁ?ロビーからでたときの……。

9 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)16時02分25秒




そしてなぜか強制送還されたあたし。
『とにかく!田中と亀井は今日は休んでよし!』
『3時間経てば治るんだからそれまで耐えるべさ!』
『頑張れよ!田中!』
飯田さん安倍さん矢口さんによりこれから地獄の3時間が始まろうとしています。
ただ今、AM9:30。
「れーな♪」
そして膝の上でのんきに座っている年上の同期。
「れーな?」
「な、なに?」
顔が引きつっているのは言うまでも無い。
しかしそれにも気付かずに首に抱きついてくる絵里。
「大好き」
「そりゃどーも」
離れると幼児化するから不容易に離れられないし仕方なくされるがまま。
経ったのは10分程度。
「ね、絵里」
「なぁに?」
年上とは思えない屈託のない笑顔で笑う絵里。
いつもなら別にいいんだけど今日はすっごく嫌。
「そろそろ……お腹空かない?」
「んーん、別に」
「そっか……」
食べ物で時間を潰そう計画失敗。
きっとあたしが絵里のファンだったりしたら凄く嬉しい場面なんだろうな。
確かに絵里のこと好きだけど、こんなの恋愛じゃない。
惚れ薬とかそんなもん使って惚れさせても一瞬の恋愛ってだけ。
ふと、絵里がじっとこっちを見つめてることに気付いた。
「なん?絵里?」
「ん、可愛いなぁって」
「あっそ」
普段も交わされる会話だ。
一瞬、戻ったかと期待しちゃった。
絵里を抱きかかえたままごろんと転がると天井を見上げた。
体の重みが無くなって少し身が軽くなった気分。
眠くなってとろんとした目をそのまま瞑る。

10 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)16時03分32秒




「れいな、寝ちゃうの?」



「寝ないでよぉ…」



「起きてよ!ねぇってば!」



「………起きないんならチューするよ?」



パチ
目を開けると目前に迫った絵里の唇。
「ぅおあ!」
ビックリして絵里を突き飛ばすとがばっと起き上がった。
あぁ……危うくファーストキスを奪われるところでした。
「れなのバカ…」
ベッドと壁の隙間で拗ね始めた絵里を横目にどうすべきか真剣に考える。

機嫌直した方がいいのかな。
いや、でもここで優しくしたらなにされるかわからんし。
えー、でも………。

とにかく突き飛ばしたのはあたしが悪かったからそっと近寄って撫でてみた。
「絵里、突き飛ばしてごめんね?痛くなかった?」
「…うん♪」
勢いよく出てきた絵里をしっかり受け止めてやった。
のどをくすぐってみると絵里はごろごろと喉を鳴らした。
「猫みたい」
「じゃ、猫になる」
ずれた返答は変わってないんだなぁ。
11 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)16時04分15秒
時計を見るとあと30秒。
良かったなんて思いながら少し後悔。
「れいな、お願いがあるんだけど」
最後のお願いくらい聞いてやるか。
「なに?」



「ちゅーして?」



「待って、あと26秒待って」
「やだ、待てない」
ぐっと顔を寄せる絵里。
「ほんとに!あと21秒だから!」
それをぐぐっと押し返すあたし。
「ねぇ、お願い!あたしのこと嫌い?」
「き、嫌いじゃなかと!」
「だったら……」
残り10秒!
ふと安倍さんの注意してくれた『恐ろしく大胆』っていう言葉が頭に浮かんだけど気にしてられない。
12 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)16時05分00秒



あと9秒。



「でも、嫌いじゃないけど今はいや!」



あと8秒。



「じゃあ、いつかはやってくれるの?」



あと7秒。



「いつかはね!」



あと6秒。



「どうせいつかやってくれるんなら今でもいいじゃん!」



5秒



「ほんとに!今だけはヤなんだって!」



4秒



「じゃあ、れいなはやっぱりあたしのこと嫌いなんだ!」







「だからなんでそうなると!?あたしは……!」







「れいなは…?」







「あたしは………。」
13 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)16時05分33秒







「絵里が好きなんだってば!!」





14 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)16時06分23秒









「あれ?あたしなにしてんの?」
時計はもう12時30分。



「助かったぁ………」
へろへろと床に倒れ込む。
あのまま押し切られてたら危なかったなぁ。
目の前には?を浮かべている絵里。
「れいな、仕事は?あれ?あたしロビーに居て……」
「やっぱりロビーからか……」
がくっと肩を落として自分の頭を抱え込む。
殴るだけじゃなくて叩くだけでもダメだったのか……。
なにがなんだかわからないって表情で?を飛ばしまくってる絵里を愛しく思ってきゅっと抱き締めた。
さっきの絵里も可愛かったけどやっぱりこっちだよね。
しばらくぼーっとしていた絵里も段々顔が緩んできてあたしの背中に手をまわした。
「ねぇれいな」
「ん?」



「あたしも大好きだよ?」



『あたし“も”』の意味がわからなくてきょとんっと顔をかしげると絵里は
「大きな声で告白してくれたじゃん」
って言った。
ああ、聞こえてたんだ。
でもなんとなく聞きたくなった。
「ほんとに好き?」
絵里はあたしを抱き締める腕に力を込めた。
「うん。大好き♪」
たぶん違うとは思うけど言ってみた。
「惚れ箱がまだ効いてるみたいだね」
絵里は一瞬頬を膨らましたと思うとまたにこって笑って



「うん、まだ効いてるみたい」



あたしはそのあとに絵里が囁いた言葉を聞き逃してしまった。




『一生……ね?』
15 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)16時07分13秒
16 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)16時07分41秒
17 名前:10 3時間の箱 投稿日:2003年11月03日(月)16時08分09秒

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