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05 地震,雷,火事,家電
- 1 名前:05 地震,雷,火事,家電 投稿日:2003年11月02日(日)18時48分25秒
- 05 地震,雷,火事,家電
- 2 名前:05 地震,雷,火事,家電 投稿日:2003年11月02日(日)18時49分09秒
ウィーン、ウィーン―――――
ウィーン、ウィーン―――――
ウィーン、ウィーン―――――
「よっすぃー、タオルと着替えここに置いとくね」
梨華ちゃんは扉を少しだけ開けて、それを置いた。
ウィーン、ウィーン―――――
ウィーン、ウィーン―――――
「ありがとう」
肩までお湯に使ったまま私は答えた。
ウィーン、ウィーン―――――
ウィーン、ウィーン―――――
- 3 名前:05 地震,雷,火事,家電 投稿日:2003年11月02日(日)18時49分55秒
- 「あ、一つ忘れてた」
首だけもう一度ひょこっと出した梨華ちゃん。
「脱水が始まる前に上がってね。でないとお湯なくなっちゃうから」
「おっけー」
私の返事を聞き、梨華ちゃんは首を引っ込めた。
はぁ……
ウィーン、ウィーン―――――
ウィーン、ウィーン―――――
私のため息は機械音に消された。
どうして私はこんなことしてるんだろう……
そんな疑問も梨華ちゃんの笑顔の前ではどうにもできなかった。
- 4 名前:05 地震,雷,火事,家電 投稿日:2003年11月02日(日)18時50分43秒
「ねえ、今日家にこない?」
仕事帰りに彼女にそう誘われた。
まだ時間が早かったこともあり、すぐにオーケーした。
梨華ちゃんの家に来るのは半年振りくらいだった。
途中に雨に降られたことが、この災難の始まり。
家までの道はそう短いものでもなく、やもなく折りたたみ傘に二人で入ることになった。
「ごめんね、私の代わりに濡れちゃって」
梨華ちゃんだけは濡れないように傘を持っていたため、傘から半分以上体が出ていた私。
家につく頃には言葉どおりの水も滴るいい女でした。
- 5 名前: 05 地震,雷,火事,家電 投稿日:2003年11月02日(日)18時51分24秒
- 「お風呂使っていいよ。私、全自動のお風呂買ったんだ」
そう言われて案内された部屋。
確かに全自動だった。
嘘偽りは一つもなかった。
お風呂と言葉を除いては。
目の前にあるのはどこの家庭でもある一つの機械。
ただ違うのは、水道の代わりに給湯器につなぎ、洗剤代わりにボディーシャンプーを入れること。
そして、人間がそこに入ることだけだった。
「え……これって……洗濯機だよね?」
「本当はドラム式がよかったんだけど……」
真剣に悩んでいた梨華ちゃんに「このままでいいんじゃない?」としか言えなかった……
- 6 名前:05 地震,雷,火事,家電 投稿日:2003年11月02日(日)18時52分03秒
ジョボジョボジョボ
やばい、お湯が抜け始めた。
早く出ないと……
両側に手を掛けて体を持ち上げて洗濯槽から脱出。
持ってきてくれたタオルと着替えを借り、いそいそと出て行った。
だけど、そこで目にしたものに、私はまた言葉を失った。
- 7 名前: 05 地震,雷,火事,家電 投稿日:2003年11月02日(日)18時52分37秒
- 「あ、よっすぃーちょっと待ってね」
私の方を振り返った梨華ちゃん。
その目の前にあるのは、たぶんコタツであろうものだった。
違う、たぶんというか、それはコタツだった。
ただ、それはヒーターを赤く光らせて、壁に立てかけられていた。
布団はかけられていなかった。
代わりに足の部分に棒を引っ掛けられ、洗濯物を干されていた。
「それって……コタツだよね……」
震える指でそれを指す。
梨華ちゃんは笑って「冬はこの方が乾くのが早いのよ」と言った。
「そう……そうだね。コタツは暖かいもんね」
わけのわからないことを口走ってる私。
シャツ越しに見える赤い光をぼやーっと見ていた。
- 8 名前:05 地震,雷,火事,家電 投稿日:2003年11月02日(日)18時53分23秒
- 「あ、よっすぃーお腹減って無い?」
突然言い出す梨華ちゃん。
言われてみると、朝から昼食をとらずに昼過ぎまで仕事だったんだ。
お腹が減っていないはずは無い。
「うん、減ってるかも」
「わかった、ちょっと待っててね」
立ち上がって部屋を出て行く梨華ちゃん。
何を作ってくれるかいろいろ想像して見たけど、今まで作ってくれたものでおいしかった試しが無いのも事実だった。
期待しないで待ってよう。
そう心に決めたとき、チーンという音が響いた。
「できたよ。ご飯まだ炊けてないけど、よっすぃーはこれだけでも食べるでしょ?」
差し出されたのはお皿にのった一つの卵。
遠目でもわかる。
殻のままでもわかる。
それはゆで卵だった。
- 9 名前:05 地震,雷,火事,家電 投稿日:2003年11月02日(日)18時53分52秒
- 「ありがとう」
お皿を受け取り早速剥き始める。
私はゆで卵の何が好きって、殻を剥く瞬間が一番好きだ。
綺麗に、だけど大胆にパカッと殻を取っていく。
その技術は我ながら職人の域に達しているんじゃないかと思うときがある。
ものの数十秒で綺麗なゆで卵がお皿の上に現われた。
傷一つ無い卵。
まさしく理想のゆで卵だった。
「いただきます」
勢いよく被りつく。
その時、何かが口の中に広がった。
パスッという音と共に勢いよく広がった。
広がった……
あ、もっといい言葉を思い出した。
爆発した、だ。
- 10 名前:05 地震,雷,火事,家電 投稿日:2003年11月02日(日)18時54分30秒
- 声にならない悲鳴と共に口から卵を出す。
口の中は熱いという感覚はなかった。
痛みももうなかった。
歯医者さんで麻酔をされたときみたいに、口全体が麻痺していた。
急いで隣の部屋に駆け込む。
野菜を切る梨華ちゃんを押しのけ、水道に食いついた。
「ど、どうしたの?よっすぃー」
水が口に広がっていくと、だんだん感覚が戻ってきた。
それとともに痛みも戻ってくる。
口から漏れる血は赤かった。
私の顔を覗き込む梨華ちゃん。
その心配そうな顔の向こうに映ったのは、扉が開かれた電子レンジ。
痛みで混乱する頭にさっきのチーンという音が蘇った。
- 11 名前:05 地震,雷,火事,家電 投稿日:2003年11月02日(日)18時55分05秒
「ひひゃちゃん……」
(梨華ちゃん……)
ジンジン痛む舌を懸命に動かしたが声になってなかった。
それでも、私は言わずにはいられなかった。
「へひゅへいしょはひょくひょもうひょ……」
(説明書はよく読もうよ……)
- 12 名前:05 地震,雷,火事,家電 投稿日:2003年11月02日(日)18時55分29秒
- おしまい
- 13 名前:05 地震,雷,火事,家電 投稿日:2003年11月02日(日)18時55分47秒
- P
- 14 名前:05 地震,雷,火事,家電 投稿日:2003年11月02日(日)18時56分08秒
- L
- 15 名前:05 地震,雷,火事,家電 投稿日:2003年11月02日(日)18時56分25秒
- 法
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